今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
本来のエピソードではこの後「秘密指令~白~」というクエストがあるそうなのですが、そのクエに出て来る「ウカムルバス」はこっち(フロンティア)には存在しませんので今回でこのエピソードは終わりになります。
ちなみにクエスト名には全て「外伝:」が頭に付いていたのですが、フロンティア風にしてあるというのもあって外しました。
クエスト時間の短いものはありませんでしたので、せっかくならという事で「HCアカム(特異個体)」の上位のもので挿絵を撮影しております。
「それではクエスト開始です。健闘をお祈りします」
【決戦場】と呼ばれている【火山】の奥地手前までアルバストゥルを連れて来たギルド職員は、そう言って一旦引き下がった。
安全な場所で待機して、後は彼の合図を待つ手筈になっている。
「さてと、いっちょ頑張りますかね」
【クーラードリンク】を飲み干してそう呟いたアルバストゥルは、直後に落ち付いている場合ではないと思い直して【決戦場】へと飛び出した。
固まった溶岩で出来た広い平地の所々に固まり切らない溶岩の川が流れている、といった風景が広がる【決戦場】の遠い場所で、遠目でも巨大だと分かる程の黒い塊が移動している。
まるで冷え固まった溶岩そのもの、もしくは爆発してそのまま固まったがために棘だらけの外見になっている、というような外殻を持つ【モンスター】が、特に周りを気にする様子もなくゆったりと歩いていた。
【飛竜種】であると言われてもにわかには信じられないような姿である。
翼が無く、本来翼であるはずの前脚が退化どころか逆に進化したかのように発達し、後ろ脚同様逞しい四肢として巨大な体躯を支えている。
時間が無いのもあるが何度も狩っている相手というのもあり、隠れる事もせずに堂々と駆け寄っていたアルバストゥルは早々に気が付かれ、威嚇の声を上げられた。
頭に高い周波数の入る独特な咆哮に応じて、相手の周囲に溶岩が吹き上がる。
その隙間を縫って近付いていたアルバストゥルは、大音量の咆哮が終るのを見極めて、まず挨拶とばかりに鼻先に一撃抜刀斬りを叩き込んだ。
『挨拶は最後まで聞くものだろう』
相手はそう言いたげに、頭を振って少し後退した。
「悪ぃ、急いでるもんでな!」
相手の言い分が分かっているかのような口ぶりで、更に追撃するアルバストゥル。
鬱陶しそうに冷えた溶岩諸共しゃくり上げようとするのを躱し、右側の後ろ脚付近にまで移動する。
一、二度斬ると、甲殻を赤黒く染めつつ立ち上がって吠えた。
「おらよっ!」
衝撃波を【天ノ型】の【ガード斬り】でいなし、直後に放つ強力な横切りで咆哮中ですら怯ませる。
既に【溜め】に移っていた彼は、相手が振り向く前に【嵐ノ型】の溜め切り上げを叩き込んでいた。
振り向きつつ忌々し気に唸る相手を無視し、仕返しをされる前に一撃入れて離脱。
怒り形相で追い掛けて来るのを横に逃げてやり過ごし、そのまま後を追う。
しかし突進の勢いでこけた相手の微妙な鳴き声で、連続突進して来るなと見抜いて背後から攻撃するのをやめ、納刀して連続突進を捌いてから攻撃に移った。
突進が一度で終わる時と突進終わりにすぐに振り向いて連続突進して来る時では、突進終わりにこける時の鳴き声が微妙に違うのだ。
虫けらのような矮小な生き物が何度も攻撃して来るのが鬱陶しかったのか、相手が潜ってしまったのを見て舌打ちする。
潜られては手も足も出ないため、その分時間が掛かるからである。
制限時間が短いこのクエストでは、このように時間稼ぎをされると非常にイライラしてしまう。
おまけに相手は潜ったまま遠くに移動してしまった。
だがこれは溜めチャンスになると彼は考えつつ地響きで潜行先を読んで追い掛けた。
何故ならこんな移動をする時は、必ず【ソニックブラスト】と呼ばれる音波のブレスを吐くからである。
【彼】にとっては最大級の技であり、実際にそれに巻き込まれると即死し兼ねない程のダメージを負ってしまう。
が、正面付近にさえいなければ逆に攻撃し放題になるのだ。
もちろん慣れない内や回り込む事が間に合わなかった場合に、彼も何度も食らっては死にかけていた。
だが長い潜行と長く続くブレスを知る事で横に避ける、あるいは回り込みつつ近付いて攻撃する事を学び、ブレス中に近寄れるならば溜めチャンスになる事を知ってからは、なるべく早く近付く事で最後まで溜められるようにしていた。
相手は体躯に比例してか、かなり体力の多い【モンスター】である。
一撃の攻撃力に関しては武器種一高いといわれる【大剣】の、しかも溜め攻撃を何度も食らっているにもかかわらず、中々弱った素振りを見せてくれない。
時間が、刻々と迫って来ている。
そんな中、焦ったアルバストゥルは正面で踏み込み過ぎ、下顎の大牙に引っ掛けられてしまった。
しまっ――!
脇腹を裂かれつつ吹っ飛ぶ。
そして、血飛沫と共に落ちた先で傷から白い煙が上がり始めたのを見て、更なる苦痛にのた打ち回った。
重酸の唾液を体内に取り込んでしまったのだ。
「ぐがおぉ~~~!!!」
どんなに苦しもうが一人で来ている以上助けてくれる者はいない。
なので自分がどうにかしなければ、内臓まで溶かされてしまう。
アルバストゥルは呻きつつ、ポーチから【回復薬グレート】を出して何度も呷った。
が、そんな大きな隙を相手が見逃してくれるはずが無かった。
突進して来た様子の相手がいつの間にか眼前に迫っており、彼は避ける間も無く轢かれた。
幸いまともに踏み潰される事だけはなんとか避けられたのだが、どちらにしても戦闘不能になってしまった。
【猫車】で安全な所(ここにはキャンプは無いので)で運ばれた彼は、そこでギルド職員が残り時間の合図のために打ち上げた、音付きの【打ち上げタル爆弾】の煙を見た。
「くそ……。時間がねぇ……!」
歯軋りしながら、とにかく【いにしえの秘薬】を飲んで回復を優先する。
貴重なアイテム及び劇薬なので一つしか持たせてもらえないが、体力とスタミナを同時に、しかも一気に最大値まで回復出来る丸薬である。
だが、当然劇薬なので、急激に傷が塞がっていく際の肉体的な苦痛とそれに伴う心臓の負担にも耐えなければならない。
「ぐうぅ……! はぁっはぁっ」
呻きながら悶えていたアルバストゥルは、苦痛が消えるや否や狩場に駆け出した。
改めて対峙した相手は、体中に傷を負っていた。
両前足の爪、胸部分の甲殻が破壊されており、片牙も折れていた。
焦って相手がどんな状態になっているかも分からずに攻撃していた彼は、それを見て落ち着きを取り戻した。
ここまで傷付けられたのなら、もうすぐ退治出来ると確信出来たからである。
焦るな! 大丈夫時間内に倒せる。
そう自分自身に心で言い聞かせながら、なるべく弱点の頭や腹などを中心に攻撃していく。
それでもやはり攻撃を食らってしまったが、戦闘不能になる前に無理にでも回復しながら闘った。
討伐成功の合図をした僅か後にギルド職員が制限時間終了の合図をしたのが見えて、彼はへたり込んでしまった。
それ程僅差だったのだ。
「……昔、今の貴殿と同じように、覇竜に挑んだハンターがいた。あの者は今……」
帰ると【ネコ―トさん】は、功労を称えつつ遠い目をしてそんな事を言った。
「……貴殿を見ていると、なぜかあのハンターを思い出すな。無謀で、気ままで、変わり者で……。しかし、誰よりも狩人らしかった、あの者を……」
【彼女】は懐かしむように目を細めて微笑むと、「国を救ってくれて感謝する」と去って行った。
最後の「ネコ―トさん」の言葉、きっと「ポッケ村付きハンター」として活躍していた、かつてのハンターについてなんでしょうね。
ちなみにこの言葉はクエ中に話し掛けて来る言葉らしいです。