今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「湯けむり繁盛記(猫の手も借りたい配達編)」の続き、「湯けむり繁盛記(飛んで網に入る雷の虫編)」編です。
実際の(MH4Gの)クエストでは「原生林」が舞台になっているようですが、こちら(フロンティア)では「ジンオウガ」は「樹海」にしかいないため、狩場及び挿絵もそこで撮影しています。


湯けむり繁盛記(飛んで網に入る雷の虫編)

 

 

 

 狩場が【樹海】になっていたので、今回はアルバストゥルも誘って三人で来ている。

 何故かと言うと――。

 

【挿絵表示】

 

「お、いたいた。久しぶりだなワン公!」

「確かに犬型だけどさぁ、【ワン公】みたいな可愛いものじゃ絶対ないだろコイツ」

「綺麗な色のワンちゃんね。ペット化してしつけたら『お手』とか覚えてくれるのかな?」

「いや素でもやんぜこいつ。『お手』」

「そうなの? 楽しみ♪」

 

 地図で言う《4》で闊歩していた相手にそれぞれで好きな事を囁いてたら、見付かって吠えられた。

 途端に軽快なステップで駆け寄って来た相手は、直前で止まるや片前足を上げ、上から叩き付けるようにして圧し潰そうとして来た。

 

【挿絵表示】

 

 そう。まるで『お手』をするかのように。

 

「な? するだろ『お手』」

「こんなダイナミックな『お手』されたら潰れちゃうでしょっ!」

 

 二度ほど続けられた『お手』を慌てて回避しながら、ハナは兜の中でニヤニヤ笑っているであろうアルバストゥルに突っ込んだ。

 

 【牙竜種】という新しい種枠に入れられた青緑色の綺麗な体色の【モンスター】は、本来ならば【ユクモ村】辺りに棲息している種類であるはずだった。

 それが何故か生息域を広げて【ドンドルマギルド】が管轄している狩場にも出現するようになったのだ。

 

 他にも棲息報告が少ない種類であった【獣竜種】の仲間が多く出現し始めたり、【飛竜種】の中で他の地域では見慣れた種類でも管轄内にはいなかった種類が頻繁に見掛けられるようになったため、【ドンドルマギルド】では『渡って来た個体』として【遷悠種(せんゆうしゅ)】というカテゴリーに入れる事になった。

 

 しかし【ドンドルマギルド】の管轄内では他の地域よりも強力な個体が数多く生息しているせいなのか、必要以上に厳しい生存競争を打ち勝った【遷悠種】達は他の地域にいた頃よりも手強くなっており、攻撃方法も一部変わっていたりしてとてもじゃないが上位の者すらも太刀打ち出来なくなっていた。

 なので狩猟許可が下りるのは【凄腕】ランクからという事になっているのだが、彼らを以てしても苦戦するような手強さなのだという。

 

 

 さてそんな【遷悠種(の中の牙竜種)】を前にして「ワン公」呼ばわりしているアルバストゥルは、【ユクモ村】でも【彼ら】には何度も遇っていた。

 だからこそカイは彼を誘ったのではあるのだが、それでも少し後ろめたい気持ちになっていた。

 

 何故なら今回の目的は【彼】を狩る事ではなく、【彼】に常に纏わりついては共生し、時には(生存本能故なのか)【彼】の攻撃を手助けするように動いて来る【超電雷光虫】の捕獲だからである。

 

 つまりは、【遷悠種】を狩る仕事ではないのだ。

 

「アレク、分かってると思うけど――」

「分かってるっつの。【ワン公】は狩るなっつうんだろ?」

 

 一応注意を促そうとしたカイの言葉を途中で遮って、しつこいとばかりにアルバストゥルは答えた。

 その証拠を見せ付けるかのように、彼は他の部位を無視して後ろ脚に攻撃を集中させていた。

 【超電雷光虫】を捕獲するには【彼】を横倒しにしないといけないからである。

 だが素早い相手に攻撃する事に向いていない【大剣】は、時に空を切り裂いては彼を苛つかせていた。

 

 反面見た目は大振りで長い刀身だが軽く、素早く斬る事が出来る【太刀】を使っているカイは、しかしそれでも後ろ脚に攻撃を集中させるという事が難しいのかてこずっていた。

 

 対してハナは何故か【彼】に『気に入られ』、先程から『お手』を連発されてはきゃあきゃあ言いながら逃げ惑っている。

 アルバストゥルはそれを可笑しがってはゲラゲラ笑いながら、その分後ろ脚に攻撃出来るぜと利用していた。

 

 が、尻尾で叩き付けられ、地面にめり込む程に沈んだ。

 どうもあまりにしつこく後ろに張り付いているアルバストゥルが鬱陶しかったらしい。

 

「わははは! 尻尾で『お手』されてやんの」

「ぐ……。こんのクソ犬ぅ!!」

 

 キレたアルバストゥルは泥だらけで起き上がりながら【大剣】を薙いだが、時すでに遅くその頃には【彼】は再びじゃれ付く様にしてハナを追い回していた。

 

「待てコラァ!!」

 

 追い掛けようとしたアルバストゥルは、直後に血の気が引いた。

 背後にジャンプした【彼】が回転しつつ背中から落ちて来たからである。

 

「でえぇっ!?」

 

 まるで『帰って来たよ』とでも言いたげに仰向けで落ちた【彼】を、変な声を上げながら緊急回避する。

 

「お、お帰り」

「お帰りじゃねぇっ!」

 たじろぎつつもそう言ったカイに突っ込みつつ、それでも彼は後ろに回り込んだ。

 

【挿絵表示】

 

 

 そんな事を繰り返していたら、【彼】が【雷光虫】を集めつつ遠吠えを始めた。

 

「まずい。やめさせんぞ!」

「了解!」

 

 緊迫した声を掛けたアルバストゥルに対してカイはすぐに返事を返して攻撃し始めたが、【遷悠種】自体をよく知らないハナは「どう言う事?」と遅れた。    

それがいけなかったのか、吠える【彼】に呼応するように【雷光虫】はますます集まり始め――。

 

 ガオオォ~~~ン!!!

 

【挿絵表示】

 

 大咆哮と共に【彼】の周囲から電撃が放たれ、三人は吹っ飛ばされた。

 一番最初に立ち直ったのはアルバストゥルだった。

 それを見てすぐさま向かって行く青緑色の影。

 【それ】は雷を纏い、更に光り輝いていた。

 

「ほい『お手』! もういっちょ! もういっちょ!」

 

【挿絵表示】

 

 雷纏いの【彼】は手に負えない程に暴れ回る。

 にもかかわらず、アルバストゥルは放電しながら三連続で叩き付けて来る『お手』を見切って避けている。

 そうしながら二人の状態を見、彼らの方へ行かないように誘いながら攻撃した。

 二人が立ち直っても彼は自分だけに注意を引き付け続けた。

 それ程この状態が危険なのを知っているし、自分にヘイトが向いていた方が対処がしやすいからである。

 

 が、【彼】が一瞬離れて身を捻り、背中に集めて【超電雷光虫】と化したものを解き放った事で事態が一変する。

 追尾性のある【それ】が二人に向かって行ったからである。

 

【挿絵表示】

 

「チィッ!」

 

 それを見るや彼は舌打ちしつつ飛び込んだ。

 一見緊急回避かに見えたが追尾していた【超電雷光虫】の軌道上に体を投げ出し、自分で受けた。

 

「アレク!?」

「きゃあっ!」

 

 避けたと思っていたアルバストゥルが逆に食らった事で悲痛な声になる二人。

 だが『分かって食らっている』彼は、飛ばされた直後に跳ねるように起き上がり、そのまま【彼】の元へ駆け寄った。

 

 ダメージが無い訳がない。

 いや逆に雷耐性が低い防具だったため、ダメージは大きかったはずである。

 しかし、彼はそんな事は二人には微塵も見せないようにして【彼】と対峙し続けた。

 

 ハラハラしていた二人だったが気を持ち直して再び後ろ脚を狙う。

 今度はアルバストゥルが引き付けているので、雷纏い状態でも集中攻撃しやすかった。

 そうして横倒しになった隙に背中に回り、【ボロ虫あみ】を振るう。

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 【ドリンク屋】が支給してくれたのが【ボロ虫あみ】だけだったのですぐに壊れたが、どうにか三匹採れたのを機に隙を見て支給品だった【モドリ玉】を使い、キャンプへ。

 帰るとアルバストゥルはふらふらと【納品ボックス】に向かって行こうとし、途中で膝を付いて蹲ってしまった。

 

「アレク大丈夫!?」

「――ん? あぁ。力が抜けちまった」

 

 兜の中で苦笑いする声が微かに聞こえる。

 

「やっぱりきつかったんじゃないか! なのに自分一人で引き付けようとしてたのか!?」

「……あの状態がどんなに危険か、おめぇも知ってんだろが」

「だからって自分でわざと食らってんじゃないよっ!」

「至近距離で叫ぶな耳痛ぇ。俺だって耐えられると分かってなかったら食らわねぇよ」

「耐えられてもわざと食らわないでよね!」

「うっせぇな。俺が引き付けなかったらいつまで経ってもこかせられなかっただろうがよ。変に『懐かれて』んじゃねぇよ」

「知らないわよぉっ」

「やっぱり可愛い子は【彼】も尻尾を振りたくなるのかな?」

「んなわきゃねぇだろ。単に大声出して騒ぎながら逃げ回ってたからだろ」

「だって追い掛けて来るんだもん」

「そりゃ背中見せて逃げたら追い掛けるっつの。犬コロに泣きべそかきながら追い回されるちっせぇガキかてめぇは。……まぁその分こっちの手数が増えたけども」

「人を囮にしないでくれる!?」

「危ねぇ時には俺が囮になってやったろが。良いからサッサと納品して帰るぞ」

 

 話している間に立てるようになったらしいアルバストゥルは、自分で採った分を【納品ボックス】に納めて振り向きもせずに待機していた竜車の方へ歩き出した。

 

「あぁん、待ってよもぉっ!」

「待てよぉっ!」

 

 慌てて納品した二人は、竜車を出発させて置いて行こうとまでしていたアルバストゥルに文句を言いつつ一緒に乗って帰還したのだった。

 

 

 

 帰ると【コノハ】が待っていた。

 彼女は【ユクモ村】の受付嬢なのであるが、納品した【超電雷光虫】(三人が帰るより先に到着したようだ)を持って帰った【ドリンク屋】と入れ替わりにここまで訪ねて来たらしい。

 それというのもその【ドリンク屋】と【ニャン次郎】から紹介されたのだそうな。

 

「おめぇよぉ、いくら俺らが一時期【ユクモ村】で狩猟してたからっつって、もうちっと村付きのハンターを頼ってやった方が良いんじゃねぇのかぁ?」

 

 呆れて言ったアルバストゥルに神妙な顔を向けた【コノハ】は、「そういう訳にはいかないんですぅ」と泣きそうな顔になってこんな説明を始めた。

 

「『超ユクモ的』に増え続けるユクモ村への観光客に対応するため、さらに物資を寄越してもらおうと輸送船をチャーターしたんですよぉ、そうしたらその航路上にセルレギオスが出没するようになったんですぅ」    

 

「また【遷悠種】かよぉ……」

 アルバストゥルはぼやいた。

  

 

 

 

 

 




クエスト内容の都合上、話の中では「こかせて虫あみで超電雷光虫を捕獲する」という事になっておりますが、「フロンティア」ではこの採取方法では採取出来ません。
「こかせる」事は同じなのですが、その時に落とす「落とし物」でしか採れないようになってます。
しかも確実に採れる訳では無く、「雷狼竜の堅殻」になる場合もあるため、落とさなかったり堅殻だったりする場合はリタマラソンをするしかない事もあります。
つまり、他のシリーズよりやや「超電雷光虫」が採れる難易度が高いです。

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