今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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今回は、彼にもこんな頃があったんだな~(しみじみ)
という話です(笑)


右腕の思い出

 

 

 

 ――にぃちゃん!

 ベナトール!

 

 路地裏の一角の、いつもの広場で似たような年齢や幼い子供達が集まって、やって来た彼に声を掛ける。

 

 彼は今、何故か幼い頃を思い出していた。

 

 ――ねぇねぇ、今日は何して遊ぶ?

 そうだなぁ、【ランポスごっこ】しようぜっ!

 

 【ランポスごっこ】とは、誰かを【ランポス】に見立てて逃げたりハンターの真似事をして逆に狩ったりするような遊びの事である。

 いくらハンターが大勢行き交う【ドンドルマ】でも、そして日常的に【モンスター】の話が聞かれるような場所でも彼らが【ランポス】自体を見る事は無かったのだが、ハンターもしくはそれに出くわした大人達の話を頻繁に聞いている彼らには、【ランポス】がどういうものかがある程度分かっていた。

 

 なので【ランポス】役を一人にするだけでなく、時には数人に役付けしたり、【ドスランポス】役を配置したりして遊ぶのが常であった。

 【ドスランポス】役にはやはり大柄な者が抜擢され(もしくは押し付けられ)る事が多かったので、ベナトールがいれば当然のように彼にその役が回って来た。

 だがベナトール自身もその役で大袈裟に脅しては追い掛けるのが面白かったので、役が来るたびにただでさえ大きな体を更に大袈裟に動かしては追い回し、仲間達はきゃあきゃあ言いながら笑い転げて逃げ惑うのだった。 

 

 ――ほらほら、食べちゃうぞぉ~~。

 きゃあきゃあ!

 みんな逃げろっ! オレ様がやっつけてやる!

 ハンター様だ!

 あたしもいるわよっ!

 

 木切れの棒や小さな板を盾代わりにしたハンター役の子に追いかけられたが、ベナトールは「がお~」とか言いながら一人に覆い被さった。

 

 ――ハンター様が危ないっ!

 みんなでやっつけるんだっ!

 おぉ~~っ!

 

 四方八方から飛び付かれたベナトールは圧し潰され、とうとう「やられたぁ~」と死んだふりした。

 それから「剥ぎ取り」と称して全身をくすぐられたので、ゲラゲラ笑いながら涙まで流して悶えたりしていた。

 

 

 そんな中、ある日「探検に出てみよう」と言い出した子がいた。

 活動的な子達で近くの野山を駆け回るのはしょっちゅうだったので、ベナトールは彼らを率いて【街】から少し外れた森の中へ入って行った。

 街門の外、もしくは街道のすぐ脇には森が広がっているので、深入りしないという条件でなら、大人達も外へ出る事を許していた。

 そこらは人間がしょっちゅう行き交ったり定期的にハンターが見回ったりしているせいなのか、暗黙の了解のように大型【モンスター】が避けているからである。

 そして大人しい小型【モンスター】だけが数匹見られれば良い方だという具合になっていた。

 

 広い河原のある場所を見付けた子供たちは探検そっちのけで石積みや川に向かっての水切りに興じていたのだが、ある子がこんな事を言い出した。

 

 ――ねぇベナトール、そんなに大きいんだからさぞや力もあるんだろうねぇ。

 

 そこで力自慢に発展し、みんなでどれだけの大きさの石を持ち上げられるかの競争になった。

 みんなよりも大きな石を持ち上げては驚かせていたベナトールは、「お、おいらだって負けないぞぉっ!」っと無理して持ち上げた一人が石車でひっくり返り、その勢いで飛んだ石が彼の頭を直撃しそうなのを見た。

 慌てて飛び付きながら手を伸ばして彼を突き飛ばした直後、石が右腕に落ちて来た。

 

 思った以上に重かったその石は、彼の右腕を下敷きにした。

 

 落ちて来た勢いもあってか、それとも下にあった石のせいだったのか、挟まれた格好のまま動けない。

 というよりは激痛で動けず、動かそうとすると更なる痛みが走って自分一人ではどうしようもなかった。

 

 ――重いよ、痛いよおぉっ!

 

 彼は狼狽える仲間に泣きながらそう訴えていた。

 

 

 

 ……。重い……。

 

 彼は右腕の重さで目が覚めた。

 横を向くと、ハナが腕枕で寝ていた。

 いつの間にこうなったのだろうと困惑し、取り敢えず抜け出そうと、彼女の頭をそっとずらす。

 長い時間そうされていたのか右腕が痺れ、鈍痛まで起きている。

 僅かに口の端を上げながらゆっくりと曲げ伸ばしをしていると、ハナが目を覚ました。

 

「……おはよう……」

「……。いつからお前は人の寝込みを襲うようになったのだ?」

「えへっ。ベナが無防備な事ってあんまりないからさ、添い寝ついでに腕枕をね」

「……。お陰で俺は幼い頃に石で右腕を挟まれた事を夢に見てしまったわ。痛ぇは重いわで大変だったというのに」

「そんなに私の頭、重かった?」

「痺れて鈍痛が起きている。どうしてくれる?」

 

 するとハナは「ごめん~」と言いながら手を伸ばし、彼の右腕をさすった。 

 

「ついでに揉んであげる」

 

 ついでと言いながら右腕だけでなく全身を揉み始めたハナに身を委ね、気持ち良さそうにベナトールは目を閉じた。

  

 

 

 

 

 




気配すら読んで目を覚ますようなベナトールがここまで気付かなかったというのは、余程疲れてたんだな~と思います。
まあ相手がハナだったからというのもあったんでしょうけどね。

ちなみに「疲れてたんだろうな」と言うと友人には「自分の家なんだからリラックスするだろう」というような事を言われました。
でも彼はきっと、立場的に自分の家(マイハウス)ですら気を抜かない人なんだろうなと私は思います。

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