今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
ちなみに冒頭の部分はパソコン用の「ベンチマークソフト」として配布されていたものを基にしております。
※挿絵の一枚がグロ注意です。
始めに発見の報告があったのは、確か【峡谷】だった。
それは【ベルキュロス】を狩りに来ていたハンターの一人が、その相手と【ベルキュロス】が縄張り争いか何かで組んず解れつの闘いを繰り広げているのに出くわし、挙句の果てに【峡谷】の主とも言える【ベルキュロス】の方が敗れてふら付きながら逃げて行くのを見た、という事だった。
その姿は【飛竜種】とは思われたが飛竜種然とした【ベルキュロス】と違って翼は発達していず、むしろ地を駆け回る方に重点を置いた、【ティガレックス】に似たつくりをしていたという。
見付かった彼は一応戦闘を試みたものの、ブレスに巻き込まれて瀕死になり、気が付いたら【医務室】の中で温浴療法を受けていたのだとか。
というのも、どうやら彼は全身が凍えており、体温が極端に低下し、末端など体の一部が凍傷になった酷い有様だと分かったからなのだとか。
「――っつう事は、冷気を操る【飛竜】なんだろか?」
「……。【峡谷】は、昼には眩しい程の太陽が降り注ぐような暑い所だ。いかに崖の高い所に登ろうとも、冷気が降りるような事にはならんはず」
「夜は?」
「夜なら多少は気温が下がるだろうな。だがそいつがやられたのは昼間だ。つまり暑い時間に凍傷になる程凍えさせられたわけだ」
「すげぇ温度差に遇ったのな」
アルバストゥルは苦笑した。
「――で、調査の依頼が来た訳だが……」
「もちろん、観察だけで済ませる気はねぇよな? オッサン」
「……。まぁ、あの手強い【ベルキュロス】を御する程の狂暴な存在ならば、見付かればただでは済まされんだろうが――」
「捕獲は出来るんだろうか」
「どうだろな? 【飛竜種】のカテゴリーに入ってるのなら罠が効くはずなんだが」
「んじゃ一応持ってくか。冷気を操るんなら【ホットドリンク】もいるかもな」
「凍傷になるぐらいだから、それで治まるかどうか怪しいもんだがな」
「気持ちの問題じゃね?」
「気合とも言うがな」
【峡谷】は、相変わらず眩しい日差しが降り注いでいた。
一応【支給ボックス】を覗いてみると、そこには【応急薬】や【携帯食料】などの他に【ホットドリンク】が入っていた。
やはりギルド側も同じような考えだったらしい。
【ベルキュロス】の気配にも気を付けつつエリアを巡る。
だが、痕跡はあっても姿は見えなかった。
「縄張りを追い出されたんかな?」
「可能性は、あるな」
そんな事を話しつつ地図で言う《3》に差し掛かった時、【それ】はいた。
洞窟の奥の暗がりの、青い光に溶け込む様な青っぽい体色をしている。
だが青一色というよりは緑が入り、空色と緑が合わさったような、だが爪や、目の上を縁取る飾り鱗がそのまま後方に伸びて角になっている部分など、末端が橙色なので一部棘のある植物がそのまま【飛竜】の形になったようにも見えなくは無かった。
顔をこちらに向けた時に思ったのは、イヌ科を彷彿とさせる顔だなという事。
細い口先や長い耳に見える角、膨らんで先端が窄まった尻尾などを合わせたら、犬というよりゃ狐だなとアルバストゥルは思った。
顔を向いた途端こちらに気付いた相手は、体を捻って構え、歯を剥き出して唸った。
仕草も犬に似てんだなと思ったら、ブレスを吐いて来たので咄嗟に避ける。
吐き出す息がそのまま凍ったようなものが直線状に襲って来――。
「ぐぉわっ!?」
避けたと思ったのに吹っ飛ばされた。
一方向だけでなく、斜めの方向に向かって来るものもあったのだ。
「おい大丈夫かぁ?」
遠くに転がって行ったアルバストゥルを見て声を上げるベナトール。
だが助けに来ようとしないのは、耐えられると分かっていたからなのだろう。
「さっびいぃ!」
アルバストゥルは、あまりの寒さにガチガチと歯を鳴らした。
一瞬にして体中が凍り付いてしまったかと思うような寒さである。
というよりも本当に凍死しそうだと思ったので、慌てて【ホットドリンク】を飲む。
それでも凍えは治まらなかったが、凍死は免れる程度にはなった。
なので無理矢理にでも体を動かして戦闘に参加する。
とにかく動きたかった。
じっとしていればどんどん体温が下がって行くと思った。
「スタミナ減ってんじゃねぇのか?」
動きが緩慢になっているのを見てそう声を掛けるベナトール。
「とにかく、動かねぇと寒くてかなわねぇ」
「【ホットドリンク】は飲んでるんだよな?」
「あぁ……」
「それでスタミナまで削られるとなると……」
ベナトールは少し考えてからポーチから【狂走薬グレート】を出し、「取り敢えずこれでも飲んどけ」とアルバストゥルに渡した。
「良いのか?」
「俺はお前より当たらんだろうから少しぐらい減っても事足りる」
嫌味に聞こえるが、事実なので素直に貰って飲んだ。
ブレスだけでなく、腕をしならせるようにして繰り出す竜巻にも氷の粒が交じっており、巻き込まれて噴き上げられるとこちらも凍える。
どちらも食らうと凍傷になってしまうようなので、【ホットドリンク】や【ホットミート】などの体を温めるアイテム、もしくはスタミナを確保する【狂走薬】または【狂走薬グレート】は必需品と見えた。
相手は【飛竜種】でも地上戦に特化した体形をしている【モンスター】である。
なので肉弾戦が得意らしく、体全体を使って回転攻撃をするなど、ダイナミックな攻撃を多発して来る。
体だけでなく長い尾も勢いを付けて振り回して来るので攻撃範囲が思ったよりも広く、体の回転を避けられたと思っても遅れて来る尻尾にしたたかに打ち据えられたりして、非常に避け辛かった。
しかし大技が多い分予備動作が見極めやすく、特に攻撃終りには大きな隙が出来るのでこちらも攻撃力の高いものを叩き込めたり出来た。
最大の大技は大きく回転しながら体全体で二回攻撃して来るもので、これは相手も体力を消耗するのか攻撃終りに必ず息切れを起こしていた。
GR、SRのスキルと武器だったのもあってか少し攻撃したくらいで早々に怒った。
『怒った』と書いたのは身構えつつ大咆哮した時に衝撃波が生まれ、アルバストゥルが吹っ飛ばされたからである。
その姿は今までの暗めの体色とは対照的で、全体、特に末端部分が白く変化するものだった。
そしてそれは、なんと体色が変わったのではなく『白くなった部分は全て凍り付いている』という事が分かった。
通常怒りで興奮状態になった【モンスター】は血流が上がり、先端など各部位が赤く見えるようになるものである。
なのにこの【飛竜】はその逆で、興奮すると空気中の水分が凍って体に纏いつく程体温が下がるらしいのだ。
ブレスが凍る事といい、恐らく体内は常に氷点下なのだろう。
流石は冷気を操ってるだけあるぜ。
その事実に驚きながら、アルバストゥルはそう思った。
怒った相手は例に漏れず素早さ、攻撃力が増し、その分あらゆる攻撃が脅威になった。
遠のく者がいると誘発する突進の追尾性がさらに増し、なので中距離での闘いが一番安全なのではと思われた。
何故なら近距離だと肉弾戦に巻き込まれる頻度が高くなるからである。
怒ると尻尾の先端に付いている棘が開く事が分かったが、それを飛ばして武器にするという事はなさそうだった。
「邪魔っ気なんだよ!」
長い尻尾で打ち据えられるのに腹を立てて何度も斬り付けていたアルバストゥルだったのだが、一向に斬れる気配は無い。
棘状のもの以外は全体が滑らかな鱗に覆われており、頑丈なのと武器が滑るのとで衝撃を逃がしているらしい。
そのために体全体がつやつやと光っているのだ。
それでも頑張っていた彼は、先端にある棘だけは壊す事に成功した。
一方ベナトールはいつものように頭付近に張り付いて攻撃していたので、狐の耳に見えるような角を折る事に成功していた。
だがこちらも硬かったようで、怒った時にようやく折れたようだった。
それはたまたまだったのか、それとも怒った時に脆くなるのかは分からなかったのだが、爪も怒った時に折れたのを考えると、どうやら怒った時に部位破壊をしやすいのではと思われた。
闘っている内に怒りに移る感覚が短くなって来、なので【ティガレックス】や【ディアブロス】のように弱って来ると怒りやすくなるのではと思えた。
そこで【落とし穴】を掛けてみる。
突進を誘発させようとわざと離れて仕掛けたアルバストゥルだったのだが、こんな時に限ってブレスを連発させ、突進してくれない。
ブレスは直線なので(斜めに向かって来るものさえ気を付ければ)避けやすくはあるのだが、何分遠くまで届くので罠の前でずっと待機は出来なかった。
痺れを切らせて攻撃に移ると飛び掛かった時に偶然着地点が【落とし穴】になり、自分から飛び込んでくれた。
それを見て慌てて追いかけ、【捕獲用麻酔玉】を投げる。
が、抜けだす時間が異様に早く、二発目が間に合わなかった。
焦って今度は【シビレ罠】を仕掛けようとすると、飛び掛かって来たのを辛うじて避けた際、異様な眠気に襲われ――。
「おい! 何してる!」
ベナトールに蹴り起こされて気が付いた。
どうやら怒り時には体の周囲に睡眠ガスを出しており、飛び掛かられるとそれを避けてもガスを吸うと眠らさられるらしい。
結局捕獲を諦めて討伐して帰り、証拠の【鱗】や【甲殻】などを提出する。
【ハンターズギルド】は綿密な調査の上で狐に似た外見と氷を操るという特徴から【氷弧竜デュラガウア】と名付け、【峡谷】だけでなく【高地】や【塔】にも出現し始めた報告を聞いて生息地を広げたものと考え、狩猟を解禁させた。
初登場時の話ですので「峡谷」が舞台になっていますが、今はもうそこには棲んでいず、「塔(秘境)」にしかいない様子ですので挿絵はそこで撮影しております。
話の中では「斜めにもブレスが来る」「怒り咆哮時に吹っ飛ばされる」となっていますが、これは「特異個体」に見られる現象です。
「通常種」のブレスは直線のみで、怒り咆哮に吹っ飛ばし効果はありません。