今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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これはかなり前(‎2017‎年‎4‎月‎24‎日)に書いて、二人がGRになったら投稿しようとずっと出さずに置いたものなんですよ。
ですが、話の中ではどうやら二人がG級に上がる事は無さそうだと判断し、「未来編」として出して置く事にしました。

当時は「アルバストゥル」という本名がありませんでした(いくつかの話を書いて行く内に話の流れの中でそうなっていった)ので、「アレクトロ」表記になっております。
それからカイも自称を「おいら」と言っています。
これも友人に聞くまでは、彼はずっと「おいら」と言うものだと私自身が思っていたためです。


一万字近くになりましたので、かなり長いです。


【針の筵】を狩る(未来編)

   

 

 

   

これは二人がG級ランク(GR)に上がったばかりの頃の話。

【高地】での依頼を受けた二人は、まだ見ぬ【G級モンスター】に思いを馳せながら、薄い酸素の中を駆けていた。

 

 今回の狩猟目標は【ヒュジキキ】。

 

 この舌を噛みそうな名前の【飛竜種】は、GR1からでも狩れはするものの、★3と難し目なクエストの中に入っており、先輩のG級ハンターから聞いたところによれば、「初心者殺しというか、★1のG級モンスターのようにはとてもいかない」そうだ。

 実はアレクトロは一度だけ調査隊の資料を見せてもらった事があるのだが、(従って前記した『まだ見ぬ』というのは間違いともいえるのだが)その中に描かれていた絵を見た彼は、なんだか棘だらけの狐みてぇだなと思っていた。

 そう思ったのも無理はなく、別名【針纏竜(しんてんりゅう)】の名の通り、全身針だらけの姿をしているのだ。

 その針は体毛が体内から分泌される油脂によって固まったものらしく、その油は発火性が強いがために、火属性に弱いのだとか。

 

 それを知って始めは火属性の【大剣】を装備するつもりだったアレクトロ。

 が、初めて対峙するG級モンスターに対してなんとなく恐怖を感じて、火属性ではなかったが、今手元にある長リーチの中で一番攻撃力の高い大剣を背負う事にした。

 要するに少しでも遠くから攻撃を当てよう(もしくは普通リーチでは届かない攻撃でも当たるように)という魂胆である。

 

 

 高地に棲む山羊のようなモンスター【エルペ】に癒されつつ(このモンスターは好奇心が強くてハンターのアクションに反応するため。【寝る】と添い寝までしてくれる)、更なる高みまで登っていくと、地図でいう《6》に【それ】はいた。

 

【挿絵表示】

 

 黄褐色の体色だが、油脂で固めてあるからか、黒く見える全身の針。

 取り分け頭、背中、尻先辺りの針は発達して長い棘状になっており、それが大きいために、棘というよりは数本の角が生えているようにも見える。

 頭部に発達した針は両端二本が目立つように立っていて、それが耳のように見えたため、つんと尖った細い顔も相まって、アレクトロは狐みてぇだと思ったのであった。

 

「なんか可愛いね」

 犬好きのカイは顔を見て、呑気にそんな事を言っている。

 

「油断すんな。こう見えて舐めたらかなり怖ぇらしいぞ」

 アレクトロは注意を促した。 

 

 こちらに気付いた【ヒュジキキ】は、威嚇の声を発するや否や、いきなり飛び掛かって来た。

 

「うわわっ!?」

 

 二人同時にそんな声を出しながら、辛うじて避ける。

 が、避けたと思ったのも束の間、真後ろから飛んで来た。

 

「うぎゃっ!?」

 

 これもまた二人でそんな声を出しながら、今度は間に合わずに吹っ飛ばされる。

 どうやらかなり素早い相手のようだ。

 

「いてて……!」

「いって~~! 大丈夫かカイ?」

「う、うん。なんとか……」

 

 まだ余裕がありはするものの、G級になると今までのランク帯(ハンターランク、スキルランク)の防具は全部防御率が下がってしまうため、けっこう食らう。

 立ち直って対峙すると、いきなり尻尾の針を飛ばして来た。

 直線攻撃だったようなので横に走るだけで避けられたが、着地点に細かい針が刺さり、そのまま消えずに残っている。

 その他もボディープレス、回転タックルなど、とにかく攻撃するたびに地面に中々消えない針が残るようで、二人はどうしても行動範囲が狭まってくる。

 なにせ、その針に当たったらダメージと同時に怯むのだから。

 

 そういや資料に『針を使って獲物を追い詰め、狩る』って書いてあったっけ。

 アレクトロはそんな事を思い出しつつ攻撃していた。

 

【挿絵表示】

 

 

 狩猟開始からそれ程時間が経ってない頃である。

 ふいに上空に飛び上がった【ヒュジキキ】が、今までの飛竜種には無い行動をした。

 上空を移動するかと思いきや、その場でホバリングしながら短く鳴き、なんと周りに針をばら撒いたのだ。

 

 それは丁度自分を中心にぐるりと周りを取り囲むようにばら撒かれ、まるで近くにいるもの全てを逃がさない針の囲いのよう。

 幸い離れていなければ食らわない攻撃ではあったが、中にいるものは針が消えるまで出られないようだ。

 続いてその場に降り立った【ヒュジキキ】は、今度はまるで猫が丸まって眠るように体を丸めると、一瞬遅れて放射状に針を飛ばした。

 

【挿絵表示】

 

 大剣の腹で慌ててガードしたアレクトロは、それが一回で済まずに多段ヒットになる事を知る。

 地面がまるで針の筵のように針だらけになる事といえ、その針の中にうっかり踏み込んでしまい、出ようとすると蓄積されるダメージとともに何度も怯まされる事といえ、どうも多段ヒットになる攻撃が多いG級モンスターのようだ。

 

 が、【古龍種】と違って罠や【閃光玉】などが効くようだし、麻痺属性の太刀を使っているカイが麻痺らせると割と長めに麻痺ってくれたところを見ると、それらを駆使して針攻撃を防ぎつつ攻撃を加える事も、工夫すれば出来そうではある。

 発達した背中の針を利用する事をやはり相手も知っているようで、背中を打ち付けてボディープレスを行い、その勢いで針をばら撒くという芸当もする。

 しかもやっかいな事に、そういう体を使って地面に打ち付ける攻撃のたびに地面が振動し、近くにいるものはグラグラと揺れるようだ。

 ブレスは圧縮した空気を吐き出す竜巻状で――!?

 

 そうやって観察しながら攻撃していたアレクトロは、相手が回転しつつ四方に分散していく自ら吐いた竜巻に向かって、針を当てるように飛ばした事に気が付いた。

 当然竜巻に煽られた針が、四方八方から降り注ぐ。

 前方から来た針をなんとか避けたアレクトロは、カイの背後から風が来るのを感じてハッとなった。

 

「避けろカイ!!」

「――え!?」

 

 カイの返事を聞く前に、体が勝手に動く。

 案の定丁度カイの背中を狙うように、針が数本迫って来る。

 カイの背後に回ったアレクトロは、ガードが間に合わないと知るや自分の体を固くし、盾にした。 

 その直後、針の一本が彼の胸に食い込んだ。

 

「――ぐうっ!!」

 

 呻き声を上げながらも踏ん張ったアレクトロ。

 他の針は反れたり掠り傷を付けた程度で済んだようだが、激痛に耐えかねて針の旋風が止むと同時にがくりと膝を付き、その場に蹲った。

 

 ……クソ……。やっぱキツイぜ……!

 

 こうなる事を知って自らを犠牲にしたアレクトロではあったが、少し後悔した。

 なんせ【針】といっても短剣ぐらいの長さと太さはあるのだから。

 

「アレク!?」

 

助け起こそうとしたカイは、彼の胸に刺さっている針を見てハッとなった。

 

「アレク……? まさか、おいらを護るために……!?」

 

 愕然としたように言うカイに、「……怪我、ねぇか?」と絶え絶えに聞く。

 

「う……、うん。大丈夫……」

 

 答えると、「……ならいいや……」とよろよろと立ち上がった彼は、なんとふら付く体で大剣を構えた。

 

「バ、バカ! 自分がどういう状態になってるか分かってるのか!?」 

「……いいから前見ろ」

 

 そう。まだ戦闘の途中なのだ。

 

 アレクトロの状態を見た【ヒュジキキ】は、まるで楽しむようかのに唇を持ち上げた。

 

「うがあ!!!」

 

 呻き声を吠え声に変え、ずらりと並んだ牙を見せ付けるかのようにして唸っている相手に、大上段から切り下す。

 だが一応食い込んだ刃は浅く、簡単に跳ね飛ばされてしまう。

 

「ぐふっ!」 

 

 仰向け状態で地面に叩き付けられたアレクトロは、胸に手をやりながら悶えた。

 顔は兜で見えないが、きっと苦痛で歪んでいる事だろう。

 

「無茶だ!!」 

 

 攻撃する事で自分に注意を向けながら、カイは悲痛な声で叫んだ。

 なおも起き上がろうとしたアレクトロの視界が、ふいに真っ白になる。

 カイが【閃光玉】を投げたからである。

 

「今の内に逃げるよ!」 

 

 急に視界を奪われて叫びながら暴れている相手を気にしつつ、アレクトロの脇に自分の肩を差し入れたカイは、半ば引きずるようにして隣のエリアに逃げた。

 モンスターは、例えどんなに怒り状態であったとしても、自分のいるエリアに敵がいなくなったと分かるとその場に留まって怒り及び発覚を鎮め、隣のエリアまでは追撃をしないという性質がある。

 それはボスクラスのモンスターだけでなく、どんな【雑魚】と呼ばれるようなものでもそうなのだ。

 それ故になんとか隣まで逃げ切れれば、取り敢えずは助かる訳だが――。

 

 これは一旦【ベースキャンプ】に戻る必要があるな……。

 

 アレクトロの状態を見たカイは、そう判断した。

 彼は、もはや立つのも辛いとでもいうようにカイにもたれ掛かり、胸を手で押さえて頭を下げたまま、苦し気にあえいでいたからだ。

 

「アレク。このまま【キャンプ】に行くからね」

 声をかけると、アレクトロは黙って頷いた。

 

 

 何度も膝から下が崩れるアレクトロを支えつつ、その度に励ましながら、【ベースキャンプ】までのエリアを進む。 

 幸いここは【エルペ】の生息地域だし、そこを越えれば【ベースキャンプ】なので、ゆっくり進んでも脅威じゃない。

 ようやくテントの前に着いたカイは、やれやれというふうにゆっくりアレクトロを下ろすと、支えたまま座らせた。

 重装備のアレクトロが重かったというのもあったのだが、彼とて戦闘中に無傷でいられたわけがなく、体中のあちこちが傷だらけになっていたからである。

 

 しかし、この程度の傷なんかアレクより何倍もマシだと思っていた。

 

 ポーチから【回復薬グレート】を出してあおり、一息ついたカイは、アレクをベッドに寝かせる前に、まだ刺さったままの針を抜かないといけないと考えた。

 

 でも、かなり深く刺さっているみたいだから、もしかしたら動脈や肺、もしくは心臓にまで達しているかもしれない。

 もしそうなら、抜いた途端に出血多量で即死しかねない。

 今まで無理やりにでも歩けたのは、たぶん刺さった針が大量出血を抑えていたからなんだろうし。

 でも、抜かないと治療は出来ない……。

 

 どうしようか考えあぐねたカイは、いっその事このまま【クエストリタイア】して医療専門のギルド職員に委ねようかと、その旨を話そうとした。

 が、声をかける前に、アレクトロが胸に手を持っていき、刺さったままの針を掴んで自ら一気に引き抜いてしまった。

 カイが懸念した通り、途端に鎧の隙間から大量の血が吹き上がる。

 

「バ、バカ! 何やって――!!」

「……やるよ。これ」

 

 慌てて鎧の上から傷口を押さえたカイの顔を見ながらそう言って、今引き抜いたばかりの針を差し出すアレクトロ。

 戸惑いつつも彼が受け取ったのを見届けると、直後に全身の力を抜き、支え直す間も無くどたりと地面に転がった。

 

「アレク! おいアレク!!」

 

 慌てて抱き起そうとしたカイ。

 だが、ピクリとも動かない。

 

 大丈夫だ。まだ生きてる……。

 

 頸動脈を触って微かに脈打っているのを確認した彼は、大丈夫だ。死なせない! と何度も自分の心に言い聞かせながら、その場で胴鎧を脱がせ、止血して布でぐるぐる巻きにした。

 そうしておいてからベッドまで(抱えられないので引きずって)運び、アレクトロの同意を得ずに【クエストリタイア】した。

 

 

「う~~む。もうちっと対策を考えねぇとな……」

 

 医務室のベッドに放り込まれたアレクトロは、傷がまだ完全に癒えぬ内に、もう一度かの【針纏竜(しんてんりゅう)】事ヒュジキキめを、どうにか狩猟する事を考えていた。

 

「懲りないヤツだなぁ。おいらが助けなきゃ【ヒュジキキ】の目の前で死んでたかもしれないってのに」

 見舞いに来ていたカイは、呆れてしまう。

 

「おう助かったわ。あの時おめぇが【閃光玉】を投げてくんなきゃ追撃されてたもんよ」

 つまり死ぬか生きるかの瀬戸際だったわけだ。

 

「ごめん。そんな危険を冒してまで庇ってくれて……」

 

 しおらしく言うカイに、アレクトロは意外な事を言ってニッと笑った。

 

「貫通しねぇの分かってたからな」

「――え!?」

 

 驚愕するカイに対して、「ガードが間に合わなかったっつうのもあったけど、俺の筋肉量なら貫通しねぇ自信があったからな」と、胸筋を誇示しながら自慢気に言う。

 

「そんな自慢いらないよっ!」

 

 カイは突っ込みつつ、「じゃあ、もしかして貫通すると分かってたら庇ってくれなかったってこと?」と聞いた。

 

「当たり前ぇだろ? 共倒れの危険を冒してまでわざわざ痛い目にあえるかよ」

 事も無げに言い放つアレクトロ。

 

「じゃあそうなったら見捨てるつもりだったのかよ」

 

 すねたように言うと、「ん~~」と顎に手を当てて考えた後、「やっぱ、庇うかな」とニカッと笑った。

 

「流石アレク。そういうとこ好きだよっ♪」 

 抱き付こうとしたカイは、「やめろ気持ち悪ぃ」と即座に引っぺがされた。

 

 

 

 回復したアレクトロは【ヒュジキキ】の狩猟に行く前に、必要だと思うスキルを持つ防具を作るため、他の狩猟に行ったり【装飾品】などを揃えたりしていた。

 あのダメージからいうとカイは耐えられないだろうと思ったので、少しでも有利に立ち回って攻撃し、注意を自分に向け続けようと考えたからである。

 

 今のところ有利と思われるスキルは、〈高級耳栓〉〈耐震+2〉〈回避+2〉ぐらいか?

 先輩G級ハンター曰く、「体力が少なくなってくると【覚醒】して、状態異常を起こす針を設置し始めるようだ」との事だったから、〈状態異常無効〉もあった方がいいな。

 てか、あの針の筵状態な上に、更に状態異常が加わるのかよ。とんでもねぇなおい!

 それに【覚醒】ってのはなんだよ!?

 

 まあいいや。

 

 ――ええと、それから正常時でもけっこう素早かったから、怒り時なんかに回復が間に合わねぇと困るし、〈早食い〉とか〈砥石高速化〉とかもいるだろか。

 あぁ多段ヒットする事を考えると、〈気絶無効〉もいるかもな。

 もうこうなったら攻撃に有利な〈攻撃力〉を増大させるスキルとか、〈切れ味+〉〈会心率〉なんかの攻撃系はこの際諦めるっきゃねぇな。そういうスキルを組み込む余裕なんてねぇし、俺の腕では〈火事場〉とか〈飢狼〉とかとんでもねぇ話だし。

 

 色々考えて組み込めるスキル、スキルポイントが足りなくて諦めたスキルなどをとっかえひっかえして組み合わせた結果、てんでんバラバラな防具になった。

 

 

「変な恰好!」

 

 広場のクエスト受付カウンターで落ち合ったカイには散々笑われたし、G級受付嬢にも「それどうにかならないの?」と呆れられたが、見た目を気にしない(というよりはファッションにはまったく頓着しない)彼は、周りでジロジロと見ている視線にすら平然としていた。

 中にはスキル構成を見て「うわ、攻撃スキル系が全然無いじゃないか。あんな奴とクエに行きたくねぇな」などと陰口を叩く輩もいたが、他の者を募集せず、最初からカイと二人だけで行くつもりだったので、いわゆる【地雷】と呼ばれるスキル構成でも平気だった。

 

 

 あの時と同じ【クエスト】を受けて再び【高地】に降り立ち、【ヒュジキキ】の前に立った二人。

 当然威嚇の声を上げた相手だったが、カイもそれなりに考えて来たらしく、前より接近していたがために耳を塞ぐような距離でも平然と切り掛かっているところを見ると、少しは有利なスキルを組み込み直したようである。

 

 もっとも、アレクトロが前もって教えたスキルがほとんどのようだったが……。

 

 が、いかに前よりは有利なスキルといえども苦戦は免れず、二人ともに当然のように傷だらけにされてしまう。

 それでも前に比べれば(あくまでも前に比べれば、の話ではあるが)どうにか素早い動きに付いていけるようにはなっていた。

 先輩G級ハンターに教わった【溜め】のタイミングが合ったアレクトロは、尻先を切断する事に成功した。

 

「やったねアレク♪」

 

 嬉しそうに声を掛けたカイに、親指を立てて答える。

 が、踏み込んだ直後に大きく尻尾を振られて思い切り浮っ飛ばされた。

 

 半分笑って見ていたカイだったが、うっかりばら撒かれていた針の中に入り込んでアワアワとなりつつ気絶し、目の前にピヨピヨと星マークを出した。

 

 

 苦戦しつつも攻撃を続け、どれくらい時間が経っただろうか。

 消耗戦になるかと思った頃、突然相手が大きく吠え、妙なオーラを纏った。

 

【挿絵表示】

 

 それはまるで、状態異常全てを具現化したかのような、禍々しいものだった。

 それを合図にするかのように、怒り時より更に素早く、凶暴化した。

 

 まさか、これが噂に聞く【覚醒】ってやつか!?

 

アレクトロがそう思った通り、全ての攻撃でばら撒かれる針に、なんと全ての状態異常(睡眠、麻痺、毒)が掛かるようになったのである!

 前もって聞いていたのに、これには流石に驚いた。

 

 しかもそれだけではなく、尾先の切り口から竜巻のように常時風(体内で圧縮された空気?)が吹き出すようになり、それを利用して尾による攻撃範囲を広めたり、敵を打ち上げたりする事が分かった。

 針攻撃も凶悪さを増し、その全状態異常付のものを背中から垂直に飛ばしたり(その針は時間差で広範囲に着弾し、地面に残る)、飛び上がりつつ囲むように周囲に針をばら撒く動作をした上で、自分に竜巻を纏わせて回転しながら降り立つ攻撃が加わった。

 しかもそっちの方を好んで使うようになった。

 その様子を見ると、そちらの方がただの針攻撃よりダメージが高いのを知っているようだ。

 

 周囲に撒く針に対してはそのまま近くにいる方が安全なのに対し、竜巻を伴う方は逆に攻撃範囲内から外に離れる方が安全なようである。 

 かといって早々に見分けが付くはずもなく、二人の内どちらかが巻き込まれたりしていた。

 

 

 【回復薬グレート】の調合が間に合わないと思い始めた時、その攻撃が来た。

 

 前方へ飛び掛かって来たので避けつつ後方からの飛び掛かりに備えようとしたアレクトロだったが、そうではなかった事を身を持って知る。

 なぜなら彼が見たものは、自分の背後を狙うべく身構えた【ヒュジキキ】の姿ではなく、後方に刺さりつつまっすぐ飛んで来た、(もちろん全状態異常付の)針の筵だったからである。

 

 しかも、攻撃は【それ】だけでは終らなかった。

 いやむしろ、【それ】で済んだ方が()()()()()()といってしまってもいい。

 

 針を飛ばしたと思うや否や百八十度体を回転させた相手は、まるで今まで溜めていた竜巻を解放するかのようにして、今飛ばした針の筵を巻き込ませながら広範囲に針を吹き散らせたのだ!

 そして、その針を含んだ竜巻は、弾幕のようになってアレクトロに襲い掛かって来た。

 

【挿絵表示】

 

 

 今度こそ死を覚悟したアレクトロだったのだが、気が付くとなぜか【キャンプ】にいた。

 またカイに連れて来られたのかと思いきや、ふと見るとカイも隣で転がって、呻いている。

 何が起こったか分からずに混乱したが、どうやら力尽きて気を失い、【猫車】に二人して運ばれたようなのだ。

 

 なんで俺、生きてんだよ?

 アレクトロはなおも混乱していた。

 

 カイが巻き込まれて運ばれたのは分かる。かなり広範囲の攻撃だったからな。

 だがまともに食らったはずの俺がなぜ生きてる? あの状況では全身が針で串刺しにされててもおかしくなかったというのに。

 なのに、針は全部反れるか掠った程度に見える。

 

「――まさか……!」

 

 考えつつカイを見たアレクトロは、思わず声を出した。

 

「まさか、こいつが死ぬ覚悟で飛び付いたってのか――?」

 

 慌ててカイの状態を見ると、やはり何本かの針が貫通して、体に穴が開いている様子。

 だが自分より深手ではあるものの、命には別状が無いと分かった。

 

「無茶しやがって……!」 

 

 安堵の溜息とともに力が抜けてへたり込みそうになった彼だが、「んな事してる場合じゃねぇ!」と乱暴にカイの兜を剥ぎ取ると、ポーチから【秘薬】を出してカイを助け起こし、その口に含ませた。

 

「ん……っ」

 なんとか飲み込む事に成功した彼は、「……ありがと……」と擦れた声で言った。

 

「特別だからな!」

 半ば言い聞かせるように言うアレクトロ。

 【秘薬】はその貴重さ故に、【クエスト】には二個までしか持たせてもらえないのだ。 

 

 憮然とした表情のまま、まだ動けないカイを担ぎ上げ、テントの中に入る。

 怒りを表すかのようにやや乱暴にベッドにカイを横たえたアレクトロは、自分もついでに隣に横になった。

 【キャンプ】の簡易ベッドは四人分の広さがあるので、余裕で寝れるからである。

 

 【秘薬】が効くまでの間待ってやり、「まだやれるか?」と聞いてみる。

 

「うん。やれるよ!」

 

 力強く答えたカイに対し、「なんならお前だけ残ってても良いんだぞ?」と更に聞く。

 

「あんな化け物をアレクだけに任せられるとでも?」

 

 カイは半ば笑ったが、アレクトロはそれでも「次にどっちかが気絶して、【猫車】に運ばれるような事になったら【クエスト失敗】扱いになるんだぞ?」と畳みかける。

 

「分かってるよ!」

 

 しつこいぞと言わんばかりのカイは、「だからこそ、もし【失敗】しても、どうせなら二人で運ばれようよ」と言った。

 

「次は気絶どころか死ぬかもしれんのだぜ? ――本当に、覚悟は出来てんだろうな?」

「あのねぇ、どれだけおいらがアレクの相棒やってると思ってんだ? ()()()()()、君が【クエスト】に行くと決めた時からとっくに出来てるよ」

「あぁそだな。こんな無茶をやらかしたぐれぇだもんな!」

「もしかして怒ってんの?」

「ったりめぇだろ馬鹿! おめぇまで全身サボテンみてぇになりたかったのかよ!」

「でも、死ななかっただろ?」

 

 笑いかけるカイに、「……あぁ。助かったよ。ありがとな」と、照れ隠しにそっぽを向いて、アレクトロは答えた。

 兜の下から聞こえて来たブスッとした声に、カイはくすぐったそうな顔をした。

 

 

休憩を兼ねて準備を整え、再び【ヒュジキキ】の前へ。

 少し怒りが治まったかに思えた相手だが、やはり発覚と同時に禍々しいオーラが強まった。

 

 でも先輩G級ハンターから「【覚醒】しているのは体力が少なくなった証拠」だと聞いているので、たぶんもう少しで決着が付くのだろう。

 こちらが【猫車】で運ばれなければ、の話だが。

 

 とにかく少しでもやっかいな針攻撃を防ごうと、今まで温存していた【罠】を使う事にしたアレクトロ。

 が、動きが素早すぎて仕掛けている間にも攻撃を食らってしまい、中々うまくいかない。

 足元に仕掛けようとする事自体が馬鹿だったと思い直した彼は、隙を見ながら予め他の場所に仕掛けた。

 いつまで経っても踏んでくれずにそのまま移動される可能性もあったが、もうこの際無駄になる事も仕方ないと考えたのだ。

 

 一応誘うようにわざと罠の近くで立ち回ったおかげなのか、運よく掛かってくれたものの、【覚醒】状態であるからなのか、抜けられるのが異常に早い。

 

 これじゃ苦労して仕掛ける意味ねぇな。

 アレクトロは思い直して【罠】を諦めた。

 

 が、それを見たカイが何かを思い付いたように【シビレ罠】を仕掛け、そのまま攻撃を続けた事で好機が訪れる。

 なんと罠から抜けた直後に麻痺ってくれたのだ。

 

 麻痺時間が長めなのは一度目の【クエスト】で知っていたため、この機を逃すまいと無我夢中で攻撃を畳みかける。 

 と、痺れが取れた相手が悲し気な声を上げ、その場に倒れ伏した。

 

「……やった。のか?」 

「やった。みたい……」

 

 二人は肩で息をしながら今まで闘っていた相手を見つめていたが、もう動かないと知るや、その場にへたり込んだ。

 

【挿絵表示】

 

「やったね……!」

「あぁ、やったな……!」

「【クエスト成功】だね……!」

「あぁ。成功だ……!」

「【クエスト失敗】しなかったね……!」

「あぁ。……だが、もう動けねぇ……」

「おいらも……」

 

 二人は見つめ合いながらそう言葉を交わしたが、【クエスト成功】した喜びよりも、疲労の方が大きかった。

 でもそんな状態でも四つん這いで這って行って、ちゃっかり【剥ぎ取り】をするあたりは、流石に【ハンター】といえる。 

 

 

 【クエスト】を終えたアレクトロは「もう二度と行きたくねぇ」と苦笑いをしていたが、その舌の根も乾かぬうちに、今度はなんとたった一人で【ヒュジキキ】に挑んで行った。

 一対一での命のやり取りの方が、本当の勝負をしているようで好きだからである。

 

 もちろん何度も力尽きては【猫車】で運ばれたり、調合込みの回復系を全て使い果たして精も根も尽き果て、泣く泣く【クエストリタイア】を選ぶ事もあった。

 しかしそれでも先輩G級ハンターに教わったり、自分でも立ち回りを研究したりしている内に何度も最大溜めの攻撃が決まったりして、思ったよりもずっと早くソロでの【討伐】を成し遂げた。

 

【挿絵表示】

 

 成功するまで内緒にしていたカイに話して、彼の開いた口がしばらく塞がらなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 




当時これを読んだ友人は、カイが活躍しているのを見て喜んでおりました(笑)
「カイって、抱き付くんだ」とも言われましたが、友人自身にも言われたように、「アレク」と「カイ」は出会った頃からずっと兄弟のように過ごして来た仲ですので、幼い頃からアレクとはしょっちゅうこんなふうにしてじゃれ合ってました。
(というよりは、カイが一方的に甘えてはウザがられてました)
なのでアレクよりもテンションの高いカイは、成人した今でも嬉しいと抱き付きます。

あ、話の中では「てんでんバラバラな防具を着ている」事になっていますが、挿絵では「レウスシリーズ」の「外装」を着ています。
彼のイメージ防具という事もあるのですが、たまたまその「外装(MHWでいう所の【重ね着】)」が作れたので。
なので中身はスキル重視のG級防具です。

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