今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
ですが普段は大変穏やかな性質なんだそうです。
【高地】に赴いていたアルバストゥルは、【エルペ】に囲まれて相好を崩していた。
この【高地】固有の草食獣はハンターの間でも「癒し系」と呼ばれる程可愛げのある存在で、なので「【エルペ】だけは狩るな」と愛玩者に懇願される程。
といっても【エルペ】の素材を必要とする武具もあるため、そういう場合は皆涙を飲んで狩るようである。
「ちょ、お前らキツイって!」
好奇心旺盛の【彼ら】が集団で押し合いへし合い近寄ろうとするものだから、彼はおしくらまんじゅうの中心にいるかのようになってしまった。
それでもにやけ顔でぼやきながら成すが儘になっていると、ふとその内の一匹が空を見上げた。
それをきっかけにして一斉に首を上げた【彼ら】に従って自分もそうしたアルバストゥルは、頭上から大きな青い影が降りて来たのを見た。
が、着地しようとした相手がぐきりと足を捻らせ、無様にすっころんだのを見て大笑いする。
「おめぇ、相変わらず着地下手だなぁ」
慌てて起き上がって誤魔化すように威嚇した相手に、アルバストゥルは笑いながら声を掛けた。
不満そうに唸っている相手、それは【グレンゼブル】と呼ばれている【飛竜種】だった。
【高地】の生態系において頂点とも言われている【モンスター】ながら、穏やかな性質なので【エルペ】も逃げない。
それどころか【エルペ】を放牧して養っている牧場主なのではないかと揶揄する輩もいる程。
が、その相手を狩猟する依頼を受けていたアルバストゥルは、「悪いが、今回は遊びでおめぇに会いに来た訳じゃねぇんだ」と【大剣】を構えた。
途端に穏やかだったその場の雰囲気が緊迫する。
今の今までじゃれ付いたり擦り寄ったりして押し合いへし合いやっていた【エルペ】達が蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、【グレンゼブル】は群青色の背面と白い腹面のその巨体を震わせ、大咆哮した。
人間の髪型であるリーゼントを思わせるような一本角を振りかざし、愚直に突進して来るのを避ける。
が、【彼】はただ突っ込んで来るだけでなく、突進終わりに体を捻って体全体で勢いを殺しながらどうにか止まろうとする。
その行動自体が人間側にとっては驚異的なダメージになり、尚且つ長い尾が体の回転から遅れて来るので思ったよりも範囲が広い。
「……っ! あっぶねぇ」
薙ぎ払うように動く尾を辛うじてガードしたアルバストゥルは、直後に横に斬った。
【ガード斬り】で溜め攻撃に相当するダメージを叩き込まれた相手が短い悲鳴と共に怯む。
だが振り向き様に角を地面に叩き付けた。
岩場の地面に穴が開く程の勢いである。
それを何度も繰り返す。
自分を追うように角度を変えながら向かって来るそれを躱しつつ側面に回り込む。
翼を狙って斬り付けたが、それを嫌って地面に叩き付けられた風圧と飛び散った石くれで彼の方が怯まされた。
それを見越したかのように噛み付いて来る。
横様に振られた顎(あぎと)に捕まりそうになりつつギリギリで躱し、お返しとばかりにその角に一撃入れる。
側面が少しだけ欠けたが、折るにはまだダメージを蓄積させなければならない。
近接していたためか大きく身体を回転させて回転尻尾攻撃に移った。
それをガードでしのぎ、回転終わりの僅かな隙に斬り込む。
そうやって闘っていると、今まで上天気だったものが急激に悪化して雷雨になった。
天候が変わった事に気付いたのか、動きを止めた相手が不審な様子で辺りをゆっくりと見回した。
そしてそれが気に食わないとでも言うように大咆哮した。
「いや俺のせいじゃねぇって!」
まるで天候の悪化はお前のせいだと言わんばかりに怒り形相で襲って来た相手に文句を言う。
そんな興奮して赤みがさした姿で向かって来られても、自分に天候を操る力なんて無いと彼は言いたかった。
【彼】の攻撃は愚直であり、地形破壊を伴う程太い角を突き刺したり、身体全体を使ったりするような荒々しいものが多い。
ブレスは【ガノトトス】を思わせるような水を吐き出すもので、しかしそれよりも規模の大きい直線のもの。
それを真っ直ぐに吐いたり薙ぎ払ったり、あるいは巨大な塊として吐き出す事もある。
吐き出された水の塊はそれ程勢いがあるのか跳ねながら広がり、なので着弾を避ける事が出来ても油断が出来ない。
そんな攻撃が怒り時にはますます激しく、速くなる。
「普段はあれだけ穏やかだってのになぁっ!」
アルバストゥルは闘いながらもそう言った。
流石に縄張りに入ってしまうと怒られるが、遠くで見ていたり危害を加えなかったりする分にはのんびりとさえ思える程の雰囲気がある【モンスター】だけに、この変貌ぶりには分かっていても戸惑ってしまう。
この荒々しさ、力強さを鑑みて、【ハンターズギルド】では【蛮竜(ばんりゅう)】という別名を付けている程なのだ。
荒々しく、無尽蔵に思える程の攻撃をしのぎ切り、隙を見ては翼、角、尾などに斬撃を加えていく。
翼の先端が欠け、角も根元を残して折れた。
後は尻尾だけだと攻撃していくが、切れるのは先端だけなので激しく動き回るそれに大振りな攻撃しか出来ない【大剣】で当てるのは非常に難しい。
一応両端に付いている棘は壊せたのだが――。
「やっぱ、間に合わねぇか……」
足を引き摺り出し、逃げた相手を見て彼は悔し気に言った。
いつも寝床にしているらしいエリア《3》には【アイルー】と【メラルー】がいた。
こんな大型の竜が一番落ち着く場所である寝場所に違う、しかも矮小な【モンスター】を住まわせるのだから、普段がどれだけ穏やかな性格なのかが分かるというものである。
しかも【彼ら】はいつも賑やかな連中である。
そんなものがうじゃうじゃいて寝られるのだろうかと思ったが、【彼】は気が散る様子もなく気持ち良さそうな寝息を立てていた。
自分を見て更に騒ぎ出す【彼ら】に煩わしさを覚えながらそうっと近付き、尻尾辺りで溜める。
が、溜めを完了する前に盗みを企てようと突進して来た【メラルー】が勢い余って彼ではなく【グレンゼブル】の方に突っ込み、最大溜めの攻撃が決まる前に起きてしまった。
あぁ畜生っ!
舌打ちして咆哮する【彼】に向き直る。
怒り心頭の相手はもはや周りが見えない様子で、にゃあにゃあ大騒ぎしながら逃げ回っている【彼ら】さえ巻き込んで大暴れをし始めた。
狭いエリアなので岩壁に挟まれたりタックルや尻尾が当たったりして結構キツイ。
だが闘いにくいのは向こうも同じなようで、勢い余って岩壁に激突したり尻尾が当たったりしている。
弱っているのに大暴れしたせいで肩で大きく息をし始めた相手を見て、アルバストゥルは不敵に言った。
「そろそろ終わりにしようぜ」
しかしそう言葉では言いつつも討伐にはせずに、捕獲にした彼であった。
この「モンスター」にだけ、何故か「稀に着地を失敗する」という動作があります。
滅多に見れないので、残念ながら今回挿絵撮影のために狩猟した時は見れませんでした。
ですが失敗してこけ、慌てて起き上がって誤魔化すように唸る仕草はとても可愛いです。
今回挿絵撮影で狩猟したのは「剛種特異個体」でしたが、下位のものも通常種のものも着地は失敗します。
あ、話の中では角を折った事になってますが、挿絵(寝ている場面)では角破壊出来ていません。