今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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これは数ある「依頼書」を眺めていて、「これは小説になるかも」と思い付いて書いたものです。
なので冒頭の部分(依頼主のセリフなど)は、その依頼文が基になっております。


朱に染まりし溶岩の

 

 

 

 その日【大衆酒場】にいたアルバストゥルは、急に騒ぎが大きくなったと思ったら【クエスト出発口】から手負いのハンターが運ばれて来たのを見た。

 いつもの事なので別段驚きもしなかったが、医務室に向かう担架に乗せられていた者が一緒に組んでクエストに行った事のある者だったため、少し気になって見に行った。

 

 大慌てで治療されている彼は、酷い火傷を負っていた。

 

 それだけじゃない。どうも内臓が圧迫されたのではないかと思えるような傷もあった。

 脇の下あたりもひしゃげている。

 あの様子では恐らく肋骨が粉々になっているだろう。

 

 

「何があった?」

 

 治療が終わり、落ち着いた頃を見計らってベッドに近付いたアルバストゥルは、まだ苦し気に呻いている男にそう声をかけた。

 薄目を開けて彼を確認した男は、悔しそうにこう答えた。

 

「なんとなく昼間に【ヴォルガノス】の棲み処を覗いてみたら、見た事もない色の【ヴォルガノス】がいやがった!」

「ほぉ、それは興味深ぇな」

「一応挑んではみたんだがよ、結果はこの通り。案の定返り討ちさ……」

 

 相手が手強いのかそれともこいつが間抜けなのかと思っていると、「やつを狩ってくれたら礼をするぜ……」と言われた。

 

「礼は別にいらんが、そいつには興味があるから見に行くだけ行ってみるわ」

「頼む……。だが、通常種とは少し攻撃が違ってたから気を付けてくれよな」

「おう」

 

 

 【火山】の一角、大きな溶岩溜まりのある辺りに、【ヴォルガノス】の棲み処がある。

 その場所は《2》から入れる場合が多いのだが、落石があって通れず、狩猟自体を諦めねばならない事もしばしばあった。

 が、今回は通れそうだったため、予め【クーラードリンク】を飲んでからその場所《10》へ踏み込む。

 溶岩溜まりがあるからなのか、【クーラードリンク】のいらない《2》から入ると余計に暑く感じる。

 

 入り口付近でしゃがみ、溶岩溜まりを観察して見ると、やはり特徴のある形の背ビレが見え隠れしていた。

 

 【彼ら】は普段溶岩の中で泳いでいて、縄張りを侵すものがいない限りは地上には出て来ないため『わざと見付かる』必要がある。

 なぜならハンターつまり人間は、溶岩の中では闘えないからだ。

 なのでアルバストゥルはわざと足音を立てながら溶岩溜まりの方へ走って行った。

 途端に背ビレが激しく右往左往し始める。

 

【挿絵表示】

 

 それを確認して固まった溶岩の壁側に離れて行った彼に、相手は頭を上げて確認直後にいきなり這いずりながら飛び掛かって来た。

 

「うおっ、直接かよ!?」

 これには度肝を抜いた。

 

 通常種では決してこんな事はしない。

 縄張り意識は強いものの警戒心も強いため、必ず溶岩溜まりから頭だけ出し、幾度かキョロキョロして確かめてから飛び出して来るからである。

 しかも出て来た個体は鮮やかな朱色をしていた。

 始め彼は溶けた溶岩をそのまま体に纏わりつかせて飛び出して来たのかと思ったのだが、どうもそうではなくて体色がそうなっているのだとすぐに気が付いた。

 【ヴォルガノス】という【魚竜】は常に固まった溶岩を体に張り付かせている事が多いため直に体色を見る事は出来ないので、これが元々の色なのかどうかは分からない。

 が、攻撃方法が違う事もあって、もしかしたら亜種なのかもしれないと思った。

 

【挿絵表示】

 

 とにかくジャンププレスがやたらと多い。

 なので〈耐震+1〉のスキルが無いとその度にグラグラさせられて、まともに闘えねぇんだろうなと思いながら闘った。

 彼の場合は抜かりが無く、【モンスター】の特徴ごとに備えたスキル防具で来ているので逆に溜め攻撃の余裕があるくらいである。

 このジャンププレスは落ちる時の『癖』のようなものがあるらしく、左の足元側面(踵付近)にいると小規模地震が起きるだけで済むが右側面だと落ちる体に直に当たって大ダメージになってしまう。

 それを知らないと文字通り『潰され』て、場合によっては即死しかねない。

 

 手負いになった者の体がひしゃげたようになっていたのは、恐らくこれを受けたのだろう。

 

 当然いつまでも同じ体勢でいる訳はなく、側面にい続ける彼を攻撃しようと向き直ったり、タックルしたりして来るのでそれに合わせて自分も移動する。

 その際に頭に回り込むと、ブレスが襲って来た。

 

【挿絵表示】

 

「ちょ、三連かよ!」

 

 溶岩の塊のようなブレスが一発ではなく、角度を変えて三発連続で襲って来たので焦った。

 慌てた事で少し距離が離れ、それを見た相手は這いずって来た。

 この這いずりは通常種でもホーミング性能が非常に高く、這いずる前の構えを見ただけでも恐怖のどん底に落とされる。

 

【挿絵表示】

 

 ガードしても即捲られてそのまま轢かれるので、逃げるよりもむしろ這いずりに向かって飛び込むぐらいの気持ちで避けなければ危ない。

 避けつつ追い掛けたアルバストゥルは、突進終わりに攻撃しようとして尻尾に叩かれた。

 

「ぐぉ! 忘れてた……」

 

 突進直後に左右に尾を振る事があるのだ。

 

 吹っ飛ばされるとまた距離が離れ、這いずって来る。

 這いずりを繰り返されると避けるのがやっかいだし、這いずりによって離れた事によりまた這いずりを誘発させる事になるため、なるべく体側に張り付く事を意識せねばならない。

 

 それを嫌がってか慌てて溶岩溜まりに帰って行く事もあるのだが、仕切り直しとばかりに再び飛び出して来ても、結局通常種のように冷えて黒く固まる様な溶岩の鎧を纏う事は無い様だった。

 もしかしたら通常種よりも体温が高いのかもしれない。

 

 

 体力(もしくは耐久力)の高いこの種に独りで挑むのはやたらと時間がかかり、集中力の消耗も激しい。

 なので通称『お肌の曲がり角』と呼んでいる弱ったサイン。すなわち溶けた溶岩が張り付いている部分の流れが滞ったのを確認して、アルバストゥルはようやく一息付いた。

 

 討伐しようかとも思ったが、その依頼ではなかったので捕獲する。

 帰って報告すると「討伐してくれりゃ良かったのに……」と不満げに言われたが、報酬で貰った【紅溶岩竜の堅殻】を渡すと納得した。

 

 一応「礼はすると言ったんだからそいつは取っておけよ」と言われたが、「元々あんたが狩る予定だったんだから」と押し返す。

 亜種の素材は甲殻や牙などでも珍しがられるものなのだが、アルバストゥルにとっては必要なものではなかったので最低限の報酬だけ貰う事にした。

 

 

 

 

 




「ヴォルガノス亜種」の直接這いずり攻撃は、初見では本当に度肝を抜かされました。
(ただし特異個体ではしなくなっており、それよりもやっかいな攻撃が増えてました)

「三連ブレス」や「連続ジャンププレス」は通常種でも怒るとやるにはやるんですが、亜種の方が頻度が多いような気がします。
特にジャンププレスは「耐震スキル」の無い時に多用されるとガードしてもグラグラしますので、「ずっと俺のターン(ヴォル、紅ヴォル)」状態になり、かなり苛つかされます。
ですがこのスキルがあると逆にこちらが「ずっと俺のターン」でいられます(笑)
安全地帯(左側面足元後方)にいないとかなり危険なんですが、耐震スキル付きの「ランス」で挑むとガードしながら攻撃出来ますので、危険地帯の右側面やプレスの当たる左側面頭付近でも闘う事が出来ます。

「ヴォルガノス」は携帯機シリーズの他「ワールド」の方でも登場しているようですが、それらの世界で棲息しているものとは違うものとお考え下さい。
あくまでも「フロンティア」でのものとして書いておりますので。

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