今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
「――では方々、準備はよろしいか?」
アレクトロとベナトールは、他のハンター達と一緒に【控えの間】にいた。
そこから出れば、もう後戻りは出来ない。
そこにいる全員を見回すように言った闘技員の者に、二人は無言で頷いた。
それより一週間程前、二人は【大衆酒場】で面白い話を聞いた。
「――でよ、そこではオレらは【見世物】になって、金持ちの連中らを楽しませるってぇ寸法らしい」
「なんでも、派手な立ち回りや、お互いの血が飛び散るような残酷な戦闘なんかで客を喜ばせる程、報酬は弾むんだとさ」
「あんな狭い所で【モンスター】と闘えっつうんだから、余程腕が立たなきゃ追い詰められて殺されちまうだろうな」
「その追い詰められ、恐怖に慄きながら殺される様を見るのも盛り上がるんだとよ」
「――ケッ! 俺らを何だと思ってやがんだろうな? あの連中」
そんな話があちこちから聞こえて来たため、喧噪の中で聞くともなしに聞いていたアレクトロは、「よぉ、何の話だ?」と近くで話していたハンターに声を掛けた。
「おめぇ知らねぇのかよ? 【闘技場】の話だよ」
「【闘技場】、だと?」
アレクトロが口を開く前に、ベナトールが怪訝そうに言った。
「おう。なんでも【訓練場】ぐらいの広さの場所でよ、【モンスター】とハンターが闘う様子を金持ち連中に見せる場なんだと」
「要するに、ハンターが見世物になるって事か?」
アレクトロが言う。
「そうみてぇだ」
「それは、【ハンターズギルド】は公認してるのか?」
ベナトールが聞く。
「【ギルド】としては公認しかねる、という事らしいんだが、金持ち連中、つまり貴族や王族の者が退屈凌ぎに始めてくれってやたら煩かったらしくて、【ギルド】の方も押し切られたらしい」
「ふむ……」
ベナトールは腕を組み、顎に手を当てて考えている。
「よぉオッサン、一度どんなもんか参加してみねぇか?」
アレクトロは言った。
【見世物】になる、というのはいささか気に食わなかったが、自分の実力が試せるのではないかと思ったのである。
【フィールド】では【モンスター】が逃げ回るのもあって回復の機会を与えてしまい、効率良くダメージを蓄積させた狩りが出来ないと思ったのだ。
「そんな退屈凌ぎに付き合って、命を無駄にする事はない」
ベナトールは始め反対したが、彼一人で突っ走らせると本当に死にかねないため、付き合う事にした。
そんな心配をよそに、アレクトロは張り切っている。
【控えの間】にいたハンター達は、各自で組んで、それぞれに割り当てられた【闘技場】に散って行った。
二人も入り口から中へ踏み込む。
途端に歓声が沸き上がった。
「――ケッ! 暇な連中どもだぜ」
上から降って来る怒涛のような歓声を見回しながら、アレクトロはぼやいた。
【闘技場】の周りは先を尖らせた丸太で囲われており、中に入ったものは出られないようになっている。
「さあ、どうせなら存分に楽しませてやろうぜ!」
ベナトールが力強く言う。
「だな!」
相手はと見ると――!
「【ラージャン】かよ……」
「ククッ、まさに【闘技】に相応しい【モンスター】じゃねぇか? なぁアレク」
「同感だ」
その途端に突っ込んで来た【黒き獅子】を、二手に分かれて交わす。
突進終わりを追い掛けて、振り向き様に【ハンマー】を叩き付けるベナトール。
アレクトロはブレス時に溜め、横腹や尻尾などを切っている。
基本はその闘い方なのだが、相手が転んだり気絶したりすると、その隙にアレクトロは溜めたりもした。
何度目かの攻撃の後、相手が特大に吠えた。
それと同時に背中や頭の毛が逆立ち、黒一色だった体に見事な金毛が交じる。
それ故に、畏怖を込めて【金獅子】と呼ばれるようになったとか。
この状態の【ラージャン】は、もはや手が付けられないのではないかと思う程暴れ回る。
ただでさえ狭い【闘技場】で縦横無尽に暴れられるため、攻撃や回避がままならない程忙しくなった。
と、アレクトロが角に引っ掛けられて吹っ飛ばされた。
横腹を破られたようで、血飛沫が上がる。
途端に歓声が上から降って来る。
転がりながら立ち、【回復薬グレート】を飲むと、今度はブーイングが降って来た。
「人の命をなんだと思ってやがんだ、まったく……!」
アレクトロはぼやいたが、承知の上で参加しているので、ならもっと楽しませてやろうじゃねぇかと思った。
だがベナトールの方はあまりその気はないらしく、まあ上手いのもあってかヒョイヒョイと攻撃を避けてはいつものように攻撃している。
が、こちらの方を見るのも燃えるらしく、彼が間一髪で避けるたびに歓声が沸き起こっている。
ベナトールは意図せずに注目されている事に、兜の中で苦笑いしていた。
【ラージャン】は、例え角を捥がれても、尻尾を切り落とされても一向に怯まずに向かって来る。
もうすでに体は傷だらけだというのに、出血さえ厭わぬ様子。
その様は、まるで闘いしか知らぬ、戦闘のためだけに作られた獣のよう。
「もういい、休め……!」
息も絶え絶えになっているのになおも闘おうとする【ラージャン】に、アレクトロは声を掛ける。
暴れる事で出血が増し、血飛沫が辺りを覆うたびに、上から歓声が降って来る。
だんだん倒れる時間が長くなっているにも関わらず、【ラージャン】は闘うのをやめようとしない。
攻撃するのを躊躇する程痛々しいが、ベナトールはそんな感情など微塵も無いかのように、容赦なく攻撃を続けている。
「休めっつってんだろうがぁ!!」
最後の力を振り絞るようにして吠え、金毛を逆立てた【ラージャン】に、アレクトロは叫びながら上段から切り付けた。
血を吐きつつも太い腕を振り回し、彼を浮っ飛ばした相手は、その勢いのまま転がった。
そしてそのまま立ち上がる事無く、動かなくなった。
歓声とブーイングが入り混じったようなものが、頭上から降り注ぐ。
ベナトールは苦々し気にそれを仰いでから、アレクトロを助け起こした。
「帰るぞ」
声を掛けて、ふら付く彼を支えながら歩き出すベナトール。
その背中に、二人の健闘を称える拍手が降り注いだ。
わざわざ「闘技場」で挿絵用のものを撮影したにもかかわらず、「砂漠」の光景とそれ程変わらない件について(^^;)
でも「フロンティア」の「ラージャン」は、砂漠には生息してないみたいだから、いっか。