今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「闘技場」の話で思い付いた、「もしもの世界」第二弾。
ベナトールとアレクトロが闘ったらどうなるか見たかったんです。


もしも、ベナトールとアレクトロが闘ったら

 

 

 

 

 最近二人は、ある噂を耳にする事が多くなった。

 それは必ずヒソヒソ話の中で打ち明けられるもので、しかも、人目を忍んで行われていた。

 

 なぜそのような噂を耳に出来るかというと、二人がなぜか、そういう者に敏感に反応出来たからである。

 

 今日も人目を気にしながら路地裏に入って行く者を見付けたアレクトロは、気付かれないようにこっそり彼らの後を付いて行き、話し声が聞こえる場所に隠れて聞き耳を立てた。

「――でよ、あの【闘技場】で、なんとハンター同士を闘わせるんだとよ」

「【モンスター】じゃなくて、人間が相手だっつぅのか!?」

「そうらしい」

「そ、それってつまり――!」

「あぁ、もちろん犯罪だ。【ハンターズギルド】に見付かれば、問答無用で【死刑】だろうよ」

「そんな危険を冒してまで、なんでそんな試合が行われてんだよ?」

「燃えるからだろうぜ。ハンターほど戦闘能力の高い連中はいねぇだろ? 奴らが闘う様は、それこそ血沸き肉躍るからな」

「なら、何も人間同士で闘わせずとも――」

「大方、【モンスター】と闘わせるのに飽きた連中が始めた事なんだろうぜ。それに、禁止されている人間に堂々と(やいば)を向けられるハンター達も、逆に楽しんでるって話だ」  

 

 アレクトロは、素直にオッサンと闘ってみたいと思った。

 が、一度でも彼に闘いを挑んだら、【手合わせ】などという生温い闘い方などしてもらえないだろう。

 それに、【ハンターズギルド】に見付かれば、どっちにしても死が待っている。

 

 ならば、死を承知で挑んでみたいと思った。

 

 

「アレクよ、なぜお前はそう危ない橋ばかり渡ろうとする?」

 ベナトールの部屋で耳打ちしたアレクトロに、彼は言った。

「なぜそう死を急ぐような事ばかりするのだ。今回は特に、確実に死ぬかもしれんのだぞ?」

「燃えるからな」

 アレクトロは答えた。

「常に死と背中合わせの状態に身を置いていたいんだ。一歩間違えれば死。首の皮一枚で繋がっている。そんな世界で俺は生きていたい。そしてそんな世界で死にたい」

「なぜ生きようとせん?」

「【生】への執着はハナからねぇよ。それはオッサンも同じだろう?」

 上位【古龍】に【火事場】で挑んだりして、死に急ぐような生き方をしているのは彼も同じなのだ。

 

 そういう点では、二人共同じ世界でしか生きられない者同士と言える。

 

「死にたいのか? アレク」

「別にそういう訳でもねぇが、生きたいとも思わねぇしな」

「……。【ハンターズギルド】に見付からずとも、俺はお前を殺してしまうだろう。それでも良いのか?」

「承知の上だ。そして、その言葉をそのまま返すぜオッサン」

 厳しい顔をして無言でアレクトロを見詰めていた彼は、やがて溜息のように言葉を吐き出した。

「……良かろう。ならば俺を失望させるなよ?」

「お互いにな」

 

 二人は握手を交わした。

 

 

 【闘技場】といっても名ばかりの、隠し部屋の一角にそれはあった。

 昔は【拷問部屋】として使われていたとの事で、周りに声が漏れないようになっていた。

 集団で使われていたのか中は意外に広く、数十人ほどの観客が、金網で囲われた戦闘舞台を取り囲んでいる。

 すでに他の試合が行われており、熱狂が渦巻いている。

 

 その歓声が微かに聞こえる隣の控室に、二人はいた。

 

 二人は試合に出る他の者と同じように、革で作られ、急所を金属で補強しただけのような軽装な鎧を身に着けていた。

 兜も無く、代わりに一部が金属板で作られた鉢巻のような物を額に巻いている。

 人間同士だから【モンスター】用は禁止という事で、闘技員から宛がわれた物だった。

 そして、武器も【モンスター】用ではなく、人間用に作られた剣になっていた。

 【モンスター】用と比べるとかなり薄く、ハンターの筋力で力任せに切り結んだら折れてしまいそうな程頼りないように見える。

 盾の方はそこそこ頑丈に出来ているようだが、どちらにしても重い武器を好む二人には、あまりにも軽過ぎる武器だった。

「よぉ、なんかすっぽ抜けそうだよな」

「同感だ。これなら素手で殴り合った方がまだ闘い甲斐がありそうなもんだぜ」

「言えてる」

 もうすぐ殺し合うとは思えない程、二人は楽し気に談笑している。

 

 それは単に、二人共に【生】に執着していないからなのか、それとも、すでに死を受け入れているからなのか……。

 

「――次の者、前へ」

 少しして、声が掛かった。

 順番が回って来たという事は、誰かが死んだという事でもある。

 なぜなら例え死なずに戦闘不能に陥った者がいたとしても、その場で処刑されるからだ。

 どちらにしても一度切り結んだ者は【ハンターズギルド】に見付かれば処刑されるため、わざわざ殺人担当の【ギルドナイト】の手を煩わせずとも良い、という事なのだろう。

「いよいよだな。アレク」

「だな。オッサン」

「【闘技場】に入れば、もう容赦は出来ない。覚悟は良いな?」

「あぁ。――今まで、世話になったな」

 

 アレクトロは、彼を抱いた。

 そして、このままでいたいとさえ思った。

 

 彼の腕に力が籠って行くのを感じて、ベナトールは口元を緩めた。

 

 が、それを打ち消すように引き剥がし、「行くぞ」と言った。

 アレクトロは無言で頷くと、彼の後を付いて控室を出て行った。

 

 

 地鳴りのような歓声が、二人を包み込んだ。 

 【モンスター】と闘うための【闘技場】と違い、こちらは観客が戦闘舞台を取り囲むようになっているため、非常に観客との距離が近い。 

 中には参加者しか入れないようになっているが、興奮した客が金網をよじ登ったり金網を揺らしたりしている。

 

「――始め!」

 

 二人が離れて向き合うと、闘技員の声が掛かった。 

 二人はじりじりと間合いを取りながら、お互いの様子を見ている。

 

 最初に動いたのはアレクトロの方だった。

 

「でやっ!」 

 気合の声と共に踏み込みつつ突く。

 ベナトールは躱している。

 その動きに合わせるように横に薙いだが、それも僅かな動きで躱された。

 対峙して切り下し、直後に刃を返して切り上げるが、難無く躱されてしまう。

 非常に軽い武器なので、彼の動きも【大剣】を使っている時よりかなり速度が増しているはずなのだが、その刃は一度もベナトールを捉えられない。

「どうしたアレク。そんな動きでは俺に掠り傷一つ付けられんぞ?」

「く、くそぉ……!」

 ベナトールはガードすら使わずに、全てを躱し続けている。

 

 彼にとっては盾すら不要であるかのように。

 

「躱してばっかいやがらねぇで、闘いやがれ臆病者!」

 悔し紛れに悪態を付くと、彼は口の端を持ち上げ、踏み込んだ。

 

 ガキッ!

 

 思わずガードしてしまったアレクトロは、その速さと衝撃に驚いた。

 それからはガード一方になってしまった。

 避ける事はおろか、(やいば)を交える事すら許してもらえない。

 ただひたすらに盾をかざし、彼の攻撃を防ぐ事に集中するのが精一杯なのだ。

 

 こんな、こんなにも力の差があったとは……! 

 

 だが今更後悔しても、もう遅い。

 辛うじて盾で攻撃を跳ね返したアレクトロは、一旦離れた。

「……。『失望させるな』と、言ったはずだがな?」

「く――!」

 ブーイングを浴びながら、アレクトロは歯軋りした。

 

 恐らく次踏み込まれたら、確実に仕留められるだろう。

 ならば、ならばせめて――!

 

 アレクトロは切り下しつつ飛び込んだ。

 案の定躱したベナトールは、僅かな動きで向き直り、アレクトロの心臓を突いた。

「……すまん、アレク」

 そう言うと、手首を捻って抉った。

 アレクトロの剣を持つ右手が、ゆっくりと下がる。

 が、彼の口から意外な言葉が出た。

 

「……捕まえた」

 

「なに!?」

 そして一閃! ベナトールの喉を切り裂いた。

 ベナトールが驚愕の面持ちで血を吐く。

 それを顔に浴びながら、ニヤリと笑ってさえ見せる。

 

 彼は待っていたのだ。

 自分を仕留めるために、彼の動きが止まるその時を。

 攻撃で彼を捉えられないならば、せめて死ぬ間際に一太刀報いようと考えたのである。

 

 ……なんて……奴だ……!

 

 声の出なくなったベナトールは、心で言った。

 

 見事だ。アレクトロ。

 

 敬意を表してフルネームで呼び掛けたベナトールは破顔し、最後の力で剣を引き抜くと、そのまま仰向けに倒れて目を反転させた。

 大量の血を噴き上げながら数歩後ろによろけたアレクトロは、勝利宣言するかのように剣を突き上げ、そのまま崩れ落ちた。

 

 二人の死体に、これ以上ないほど興奮した観客の歓声が降り注ぎ、しばらく反響していた。 




書いてみて分かった事なんですが、実力差があり過ぎました。
もう少しアレクトロが頑張ってくれると思ったんですが、まったく歯が立ちませんでした。

ベナトールのGRは3ぐらいで、G級としては初期段階に等しいんですが、それでもSRのアレクトロとここまで差があるとは思いませんでした。

でも、パラレルワールドとはいえ彼らが闘っている姿が見れて書いてて楽しかったです。
結局どっちも死んでしまいましたが(笑)

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