今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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これを読んだ時、友人は「ほのぼの師弟関係」と言ってました(笑)


暴君の虎

 

 

 

 そろそろ、ハナを本格的な狩りに連れて行く頃合いかもしれんな……。

 

 ベナトールはそう考えていた。

 が、なるべく危険な橋は渡らせたくないとも考えた。

 

 ちと過保護だろうか……?

 

 広場の椅子に座ってそんなふうに考えを巡らせていると、いきなり後ろからどつかれた。

「なにボーっとしてんのよっ」

 

 ハナである。

 

 ベナトールは苦笑いして返す。

「ねえねえ、【砂漠】の夜ってさ、月とか星とかが綺麗なんでしょ?」

「まあ昼と違って空気が澄んでるから、景色はハッキリしてるがな」

「行きたいっ!」

「お前はいつも急だな。今は昼だろうが」

「う……」

「いくら俺でも時間は進められんぞ? 夜まで我慢するこったな」

「はぁい……」

 渋々部屋に戻って行く彼女を苦笑して見送りながら、それでも途中で「おいハナよ。夜までに【ハチミツ】でも採りに行くか?」と誘って採取したりしていた。 

 

 

日が落ちる頃に出発し、夜の砂漠へ。

「綺麗~~~!」

 【ベースキャンプ】から古井戸へ飛び込み、地図でいう《5》に入った途端、ハナが感慨の声を漏らす。

 青白い月が夜空に浮かび、星々の間を時々流星が流れる様は、なんとも神秘的である。

「けど、寒いね」

 息が白くなっているのを見て、そうも言った。

「ほらよ」

 ベナトールは自分のポーチから【ホットドリンク】を出してハナに差し出した。

「ありがと」

 ハナはお礼を言って飲む。

 ハナに前もって言って置いてもどうせ忘れてしまうので、もう自然な流れになってしまっている。

 

 少し進んだ二人は、砂煙で霞んだ遠くの方に、何やら動きがあるのに気が付いた。

 その大きなシルエットは明らかに【モンスター】だと分かるものだったが、砂漠にもよく来る【リオレイア】とは形が違う。

 ゆっくりとした動作でこちらに向かって来ていた【それ】の、徐々に現れた姿を見て、ベナトールは戦慄した。

 

「――【ティガレックス】!?」

 

 黄褐色に青味がかった縞の入る、独特の体色。

 力強い筋肉が付く巨大な前脚や顎とは正反対の、貧弱そうな後ろ脚。

 頭でっかちで上半身の方が発達しているため、アンバランスに見えるその姿は、一見滑稽にも見えるのだが……。

 

「でっか~~~い!」

 

 油断なく身構えているベナトールの隣で、緊張の欠片も無い声を上げるハナ。

 その声が大きかったのもあってこちらを向いた【ティガレックス】は、飛び退りながら体勢を正面に向け、威嚇した。

 

 直後に真っ直ぐに突っ込んで来る。

 

 ガシガシと地面を掴むような突進の仕方に脅威を感じたか、そのまま凍り付くハナ。

 それを掻っ攫って横に避けるベナトール。

 相手の突進は止まらずに、途中で急激に方向転換して再び向かって来る。

 ハナを放り出したベナトールは力を溜めつつその正面に陣取ると、馬鹿でかい口が彼に到達する前に【ハンマー】を叩き付けた。

 悲鳴を上げて怯む相手に振り上げからの叩き付け。

 巨大な前脚を振りかざして吹っ飛ばそうとするのを横転して避け、向き直る。

 巨大な顎をがばりと開け、噛み付こうとした【ティガレックス】だったが、その前に下顎に【ハンマー】を叩き付けられて昏倒した。

 

 身を竦ませて見ていたハナは、ここぞとばかりに近付いて、「えいえいっ」と前足の先を切り付けている。

 

【挿絵表示】

 

 倒れたり昏倒したりする大きな隙にしか攻撃出来ていなかったが、【麻痺属性】の片手剣である【デスパライズ】の威力が発揮され、【ティガレックス】は麻痺った。

「でかした、ハナ!」

 珍しく褒められて、彼女は嬉しそうだ。

 

 ゴアアアア!!!

 

麻痺の解けた【ティガレックス】は、飛び退りつつ特大に吠えた。

 興奮して血流が上がり、足先や目元などが赤くなっている。

 近付き過ぎていたハナは、咆哮の衝撃で吹っ飛ばされた。

 

【挿絵表示】

 

 【バインドボイス】というもので、あまりにも咆哮の音圧が高いために、音自体に衝撃波が加わるのだ。

 遠くに転がって行ったハナに、【ティガレックス】は片前足をヒョイと上げ、まるで人の子がボールを投げるかのように砂の塊を放り投げた。

 

【挿絵表示】

 

 予測していたベナトールは四つん這いになって彼女を覆い、それを背中で受ける。

 ドガガガッ! と砕けた砂が背を打ったが、彼はビクともしない。

「痛くないの!?」

 驚いて聞くハナに、ベナトールは「何がだ?」と言った。

 

 起き上がって対峙した彼は、もう一度砂塊を投げられる前に【閃光玉】を投げた。

 目が見えなくなった【ティガレックス】は、その場で吠えながら闇雲に噛み付いたり体を回転させたりして暴れている。

 頭に陣取って攻撃するベナトールと、足先に陣取って切り付けるハナ。

 それぞれに部位破壊を成功させ、尚且つ昏倒、転倒、麻痺など、ベナトールだけでなくハナも意外に有利に立ち回っている。

 が、怒りが収まったと思ってもすぐにまた怒り出してしまうため、ハナは追い掛けられる度にきゃあきゃあ言いながらバタバタと逃げ回っていた。

  

 

 突進を誘発させると(ハナが)うるさいのと、怒り時はスピードが増して危険なので、ベナトールは【閃光玉】で動きを封じつつ攻撃している。

 その間にハナも攻撃機会が増え、麻痺も多くかかるようになっていた。

 やがて一度攻撃したくらいで怒り状態に入るようになったため、ベナトールは瀕死になったとみて足元に罠を掛け、【捕獲用麻酔玉】を投げた。

 大鼾をかいて眠り始めた【ティガレックス】を見て、ハナはホッとした表情をしている。

 

 そんなハナを見て、ベナトールは意外にも成長していたのだなと思った。




ハナを庇って砂塊を受けた時、痛いのに痩せ我慢してたのは内緒(笑)

「落ち込む」のアクションを使えば本文のように「四つん這いで覆う」という恰好が出来るのですが、「パートナー」にアクションを指定する事は(システム上)不可能なため、挿絵では中途半端な撮影になっております。


ちなみにタイトルの「暴君の虎」ですが、これは「ティガレックス」をそのまま日本語に訳したものです。

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