今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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区別を付ける目的で便宜上「亜種」となっているだけで、実は雌なんだそうです。
なんでも卵を持っている時期だけに色を変える「婚姻色」、または気が立っている事を相手に知らせる「警戒色」の役割があるのだとか。

これは「グラビモス亜種」でも同じなんだそうです。


こういう「生物らしい設定」も、私が「モンスターハンター」というゲームを好きな理由だったりします。


キケンな女の子

 

 

 

「アレク、この素材って、【ディアブロス】のだよね?」

 【武具工房】で必要素材をメモって来たらしいカイが、広場にいたアレクトロに聞いた。

「あぁ、【ディア】だな」

 

「でも【黒巻き角】って……」

 

「【黒ディア】のやつだな」

「【黒ディア】って、要は【ディアブロス亜種】の事だよね?」

「だな」

「その角がいるらしいんだけど……」

 

「頑張れ」

 ニカッと笑うアレクトロ。

 

「いやいや手伝ってよ! 【黒ディア】がいかに手強いか知ってるだろぉ!?」

 アレクトロの両肩を掴んで揺するカイ。

「ったくしょうがねぇなぁ! おめぇもやっかいな素材が必要になったもんだな」

「そんな事言ったって、必要になったもんは仕方ないだろぉ」

 

「けど、ちと二人じゃ心許ねぇな……」

 

 そう呟いたアレクトロは、「オッサンも誘うか」と言った。

 

 

 二人でベナトールを見付けたら、そこにハナもいた。

 彼に事情を話すと快諾してくれたものの、「物は相談なんだが……」と持ち掛けられる。

 

「断る」

 アレクトロは、話も聞かずに答えた。

 

「アレク、断るの早すぎぃ」

「そうだよ。話ぐらいは聞こうよ」

 カイとハナの抗議を聞きながら、「どうせ『ハナも連れて行け』とか、そんなようなこったろ」とアレクトロは言った。

「よく分かったな」

「バレバレだっつの」

 そこでアレクトロは、「でもよ」とハナに背を向け、ベナトールの肩を抱いてこちらもハナに背を向けさせると、「あんな手強いのに連れてって大丈夫かよ?」とヒソヒソ声で言った。

 

「そこなんだが……」

 

 ベナトールもヒソヒソ声になると、「この前二人で【ティガレックス】に挑んだんだがよ、意外にも割と良い動きをしてたんだわ」と言う。

「へぇ……」

「だからよ、今回も体験させる良い機会だと思うんだよな。お前らも行くんなら俺だけだと護り切れんという事はねぇだろうし」

「連れてくのは構わねぇが、万が一護れなくても、俺は責任取らんからな」

「そこまでお前に責任押し付ける気はねぇよ」

 

 二人が自分に背中を向けて、何やらヒソヒソと話し合っているのが気に入らないハナは、「ちょっと、のけ者にしないでくれるぅ?」とすねている。

 

「いやなに、こっちの話だよ」

 誤魔化し笑いをしたベナトールは、「ハナよ、今日は【音爆弾】の使い方を教えてやろう」と切り出した。

「【音爆弾】? なにそれ?」

 

「投げると大きな音が出る爆弾? でいいのかな?」

 いまいち自信が無さそうなカイ。

 

「しかもな、相手は雌の【モンスター】だ」

「女の子なの?」

「だな。しかも()()()()()()()()()()やつだぜ?」

 アレクトロがニヤニヤ笑いながら言う。

「へぇ~~、楽しみっ♪」

 喜ぶハナを見て、カイは苦笑いした。

 

 

 一行が【砂漠】に着いたのは、夜だった。

 【ベースキャンプ】から古井戸に飛び下り、地図でいう《7》へ。

 【ディアブロス亜種】は必ず最初にここにいるはずなので、急いで行くと間に合うはずなのだが――。

「おいらが投げるよ」

 そう宣言し、最初に【音爆弾】を投げたのはカイだった。

 

 キィン!

 

 甲高い金属音のような音が辺りに響き渡る。

 【ガレオス】【ドスガレオス】【(亜種も含めた)ディアブロス】【(亜種も含めた)モノブロス】などの砂地に潜る習性のある【モンスター】にとって、この音程耳障りなものは無いようで、これを投げると一発でたまらずに飛び出て来るのだ。

 

 だが、そのはずなのに、シーンと静まり返った。

 

「……オイ」

「えっと……」

「もしかして、失敗した?」

「ちいっとばかし、遅く着いちまったようだな」

 カイは「あは、あははは……」と引き攣った笑い方をした。

 

 次に移動する場所は分かっているので、追い掛けて《5》へ。

 広い砂漠地帯に移動してしまったため、【音爆弾】を投げる前に見付かってしまった。

「まっくろ……」

 ハナは【ディアブロス亜種】を見てそう言っている。

 

 恐らく、もっと可愛らしい姿を想像していたのだろう。

 

「な、魅力的だろ?」

 アレクトロがニヤニヤした。 

 相手は頭を低くして構えると、そんなハナを見透かすように真っ直ぐ向かって行った。

 案の定きゃあきゃあ言っている彼女を、ごく自然な流れで掻っ攫って避けるベナトール。

「うるせぇよおめぇは!」

 ハナに対して叫びながら、【ディアブロス亜種】に切り付けるアレクトロ。

 潜った相手に対し、今度こそ【音爆弾】を投げつけるカイ。

 

 【ディアブロス亜種】がたまらずに上半身だけ出したところを一斉に攻撃すると、麻痺った。

 

「でかしたハナ!」

「いやカイも麻痺太刀だし」

 皮肉めいた笑いで突っ込むアレクトロ。

 頭を叩いていたベナトールは、まずは一本目の角を折り取った。

 麻痺から覚めた【ディアブロス亜種】は、直後に昏倒した。

 ここまでは順調な流れで優位な攻撃を続けられている。

 

 が、砂から飛び出した相手が唸り、口から黒々とした煙を吐くようになってからは戦況が悪化した。

 

 即座に潜った【ディアブロス亜種】の、あまりの速さに【音爆弾】が間に合わない。

 そもそも怒り時は【音爆弾】が効かなくなるので投げても無駄である。

 

 そしてとうとう、ハナが突き上げを食らって遠くに飛ばされた。

 

「ハナ!?」

「ハナ!!」

 カイとベナトールが同時に叫ぶ。

 砂から出た【ディアブロス亜種】は、まだ起き上がれないでいるハナに真っ直ぐに向かって行く。

 ベナトールは彼女の前に立ちはだかり、体を硬くした。

 顔を上げたハナは、彼がまだ残っていた角の一本で串刺しにされる姿を想像してギュッと目を閉じた。

 

 ガキィン!!

 

だが聞こえて来たのは体を貫く音ではなく、硬い物同士がぶつかり合うような音だった。

 

「馬鹿かてめぇは?」

 

 アレクトロがベナトールの前にいる。

 ガード姿勢で角を防いでいる。

 

 彼はギチギチと音を立てて相手と力比べをしながら、「ガード出来ねぇ武器だからって、てめぇを犠牲にしてどうすんだっつの」と言った。

「いくらてめぇの防具が頑丈だからってなぁ、コイツの突進受けりゃ貫通するっつの。自分を犠牲にしてまで護りたいってのは見上げた根性だが、そのためにてめぇが死んだら、次誰がソイツを護んだよ? 言っとくが俺は願い下げだぜ」

 力比べに負けて一旦退いた【ディアブロス亜種】は、悔し気に吠えた。

 

 ギオォオオ~~~ン!!

 

巨体の割にはやたらと甲高い声である。

 この大音量のために鼓膜を破られたハンターもいるという噂だが、アレクトロは意に介さずに真っ直ぐに立ち向かって行った。

 その後ろ姿を見ながらハナを回復させたベナトールは、心の中だけで感謝の意を示した。

 カイははらはらしながらアレクトロの言動を気にしていたが、無事に闘いに戻ったのを見てホッと息を吐いた。

 

 

 二本とも角を折り取る事に成功し、尻尾も切るなど全部位破壊を成立した四人。

 【ディアブロス亜種】の素材は貴重なので、ついでに討伐して剥げるだけ剥ぎ、【街】に戻って行った。

 

 が、カイが落ち込んでいるので何事かと思ったら――。

 

「……報酬でね、【上質なねじれた角】しか貰えなかった」

「……ドンマイ」

 ニヤニヤ笑いながら肩を叩くアレクトロ。

 

 実は彼には貰えていたのだ。

 

「また手伝ってやるからそう落ち込むなカイよ。俺はもう【黒巻き角】はいらんがな」

 ベナトールも貰えている様子。

 

「私は【上等なねじれた角】の方が欲しかったなぁ……」

 よく分りもしないのに、【上等な】という言葉の響きだけで羨ましがるハナ。 

 

「もしかして貰えてないのおいらだけかよ!?」

「【物欲センサー】って奴か?」

「みてぇだな」

 

 ハナにまで「ドンマイ」と言われたカイは、「みんなしてなんだよぉ!」と叫んで余計に笑いを買っていた。    




「物欲センサー」って、やっかいですよね(笑)
私も随分これに悩まされました。

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