今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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リアルの時系列では間に何作品か書いているんですが、「キケンな女の子」の続きのような話になったのもあって、先にこちらを「次話投稿」いたします。


誰が【死神】に好かれたのか

 

 

 

「アレク、相談があるんだけど……」

 ある昼下がり、珍しく神妙な顔をして、カイが言った。

「なんだよ改まって? らしくねぇな」

「あのね、この前【黒巻き角】を取りに行って結局おいらだけ貰えなかったでしょ? でね、もしかしたら一頭クエより二頭クエの方で角を折った方が、貰える確率が上がるんじゃないかって思ったんだよね」

「考え方は悪くねぇが……」

「やっぱ、キツイよね……」

 

 上位【ディアブロス亜種】が二頭出る【クエスト】は、その過酷さ故に【死神】と呼ばれている。

 

 顔を曇らせるカイに対し、アレクトロも神妙に考えてから、口を開いた。

 

「ま、なんとかなんだろ」

 

「そうかなぁ……」

 そこで、再びベナトールの元へと二人で赴く。

やはりというか、ハナもいた。

 

「ふむ……」

 

 ベナトールも腕組みして考えてから、「なんとかなんだろ」と言った。

「あたしも行く!」

「てめぇ、空気読みやがれ!」 

 ハナの発言に突っ込んだのはアレクトロである。

「ハッキリ言っとくがな、おめぇは足手纏いなんだよ。今回は特に、おめぇが行く事でオッサンの負担が増える事に気付きやがれ」

「でもっ! でも一人だけ残るのはヤダもん。じゃあせめて【回復係】でもいいからっ! 行かせてお願いっ!」

「気絶させて部屋にぶち込むぞてめぇ!」

 ハナの胸倉を掴もうとするアレクトロを、無言で制するベナトール。

「オッサンも黙ってねぇで止めやがれ!」

 

「ハナよ……」

 

 ベナトールはハナに静かに語りかけた。

「ならば約束してくれ。常に安全な所にいる、と」

「それじゃあ闘えないじゃないっ」

「ハナよ。今回は前のように、一頭だけではないのだ。時にはあの手強い【ディアブロス亜種】が、二頭同時に同じ場所で入り乱れる事もあるだろう。そんな中でお前に参加されては、俺は護り切れる自信が無いし、集中して闘えん」

「オッサンよ、何で参加限定で考えてんだよ? 止めりゃあ良い話だろうが」

「【大長老】様に、『多少痛い目に合わせても構わん』と言われているのでな」

 

 ニヤリと笑うベナトール。

 

「いやいや多少どころか死ぬっつの!」

「分かった。無茶しないで大人しくしてる。それでいいんでしょ?」

 ベナトールは優しく笑って、いつものようにポンポンと彼女の頭を軽く叩いた。

「いやおめぇも諦めろよ!」

 アレクトロは抗議したが、結局みんなで行く事に決まってしまった。

 

 

 彼女を工房に連れて行ったベナトールは、元々〈広域化+1〉が付いている【リオハートシリーズ】のスキルを【装飾品】で工夫して〈広域化+2〉にし、ついでに〈耐震+1〉も付けさせた。

 

 これには彼の意図があった。

 

 スキル構成を説明して彼女に「何かあったら回復してくれ」と頼み、【調合書】やら調合用の回復系などを持てるだけ持たせて夜の【砂漠】へ。

 まず【彼女】らが最初にいる《5》へ向かい、二頭に【ペイントボール】をぶつけてから、他のエリアへ。

 それぞれが分かれて別の場所に移ったのを確認してから、アレクトロとカイ、ベナトールとハナで組んで分かれ、一頭ずつを相手にする。

 

 

 《3》に移動した一頭を担当する事になったベナトールは、まずハナを高台に上がらせた。

「そこから動くんじゃねぇぞ」

 そう念を押し、相手をわざと突進させた。

 高台に向かって真っ直ぐ突進して行った【ディアブロス亜種】は、高台の縁に角が突き刺さり、しばらく身動きが取れなくなった。

「今だハナ!」

 そう声をかけてハナに攻撃させる。

「こうすれば、少しは戦闘に参加出来るだろ」

 

 彼はこれを見越して彼女に〈耐震+1〉のスキルを付けさせたのだった。

 なぜなら壁に角が刺さった振動を、スキルが抑えるからである。

 

「ありがとベナ♪」

 彼女は戦闘に参加出来て嬉しそうだ。

「くれぐれも、そこから降りてくれるなよ?」

「分かった」

 

 

 一方、《7》に移動した一頭を担当する事になったアレクトロとカイは、【音爆弾】を駆使して地面に潜った相手を引き摺り出しつつ闘っていた。

 相手が【音爆弾】の呪縛から解けて地面から出るタイミングを見計らい、攻撃の手数を減らしたアレクトロ。

 【彼女】の前に移動すると、飛び上がった瞬間に【閃光玉】を投げた。

 即座に落ちる【彼女】。

「上手いっ!」

 カイは感心している。

「感心してねぇでおめぇもタイミング覚えやがれ!」

 アレクトロは文句を言っている。

 その内【彼女】が麻痺ったので、頭に最大溜めをかましたりしている。

 カイは麻痺って下がった尻尾に切り掛かっていた。

 

 

 【彼女】が怒り出したのを察したベナトールは、高台まで誘導するのをやめた。

 例え相手がいくら攻撃しようが高台には届かないのだが、個体の大きさによっては振り回した角や尻尾がハナに当たる可能性があったからである。

 が、《3》は狭いため、潜られると避けにくい場合があった。

「ベナ! 頑張れっ!」

 ハナは応援しながら回復させている。

 ベナトールは親指を立てて答えた。

 

 と、距離感を誤ったか、壁際まで追い詰められた。

 横に避けようとした彼に、それを読んだかのように【彼女】が踏み込んだ。

 

 ドシュッ!

 

 体を貫く音が聞こえ、ベナトールは【彼女】の片方の角に捉えられてしまった。

 

 不覚……!

 

 角は、彼の腹を貫通している。

「ゴボアァ!!」

 ベナトールは血を吐きながらも吠えると、そのまま【ハンマー】を振り回し、なんと角を叩き折った。 

 相手が悲鳴を上げて退いた隙に転がって脱出。

 が、腹を押さえつつ地面に片手を付いて呻いた。

「ベナ!!」

「来るなハナ!!!」

 言い付けを忘れて思わず駆け寄ろうとしたハナは、ビクッとなって止まった。

「……そこから降りるなと言ったろう」

「でもっ! でもっ!」

「一歩でもそこから降りてみろ、気絶させて【キャンプ】送りにするからな」

 

 ハナは泣きながら留まった。

 

 せめて少しでも回復させようと、〈広域化+2〉で回復範囲が広くなった【生命の粉塵】を投げる。

「……ありがとよ……」

 ベナトールは荒い息を吐きつつ言った。

 

 

 怒った【彼女】に翻弄されていたカイは、突進終わりに後ろから切り掛かった際、左右に振る尻尾に跳ね飛ばされてしまった。

「カイ!!」

 呼び掛けたアレクトロは、起き上がろうとしたカイが脇の下あたりを押さえて呻いているのを見る。

 

 しまった、アバラを折られたか――!?

 

駆け寄った彼だが【彼女】が潜った事による勢いで、少し怯んでしまう。

 その隙に突き上げを食らって更に吹っ飛ぶカイ。

 幸いにもというのか、角は二本とも既に折っていたため、角で刺される事はなかったようである。

 地面に仰向け状態で叩き付けられた彼は、動かなくなった。

 攻撃して注意を逸らしている間に【アイルー】たちがやって来て、カイは【猫車】で運ばれて行った。

 そのタイミングで、アレクトロ達が担当していた一頭が移動した。

 

 

 《2》に移動した事が分かったので《3》を経由しようと入ると、そこではベナトールがもう一頭と闘っていた。

 

 まず見えたのは、ベナトールの腹に、折り取られた角の一本が刺さっている事。

 刺さったまま闘っているのは抜くと大出血をするからだろうが、血を滴らせながら闘っている様は、なんとも痛々しい。

 

「おいオッサン、大丈夫かよ!?」

 

 もう少しだろうから先にこっちを討伐しようと決めたアレクトロは、ベナトールと共に闘いながら声をかけた。

「なんとか……。ちとキツイがな」

 荒い息を吐きながら答えるベナトール。

 近付いて分かったが、兜の口あたりにも結構な量の血が付いている。

 

 恐らく何度か吐血もしているのだろう。

 

 アレクトロは、自分が参戦しなければ危なかったのだと思い知った。

 とっくに気絶していてもおかしくない状態で闘えるのは、彼の精神力の強さなのか、ハナを護ろうとする意志なのか、それともただの戦闘本能なのか――。

 

 その時、【生命の粉塵】が飛んで来た。

 

「ハナはあそこか。上手い事考えやがったなオッサン」

 高台にいるハナに、感謝の合図を送りながらアレクトロは言った。

「まあな……。カイは、どうした?」

「気絶して【ベースキャンプ】まで運ばれてったよ」

「そうか……」

「死んでねぇだろうけど、あっちはあっちで心配だから、さっさとケリ付けようぜ!」

「……だな!」

 

 屈強な【剣士】が二人に増えた事で、途端に【彼女】は分が悪くなった。

 

 念のために残しておいたもう一本の角を、もう必要ないので折り取るベナトール。

 既に一度攻撃しただけでも怒り状態に入るようになっていたため、アレクトロはなるべくベナトールを動かさないように【閃光玉】を使ったり、足元を切って転ばせたりして突進や潜行を止めた。 

 彼のために調合も含めた【閃光玉】を、ここで使い切るつもりでいたアレクトロ。

 だがもうかなり【彼女】は弱っていたようで、彼が参戦して間もなく、倒れ伏して動かなくなった。

 

 それを確認するや否や、膝から崩れるベナトール。

 

「ベナ! ベナ!!」

 泣きじゃくりながら、ハナが駆け寄った。

「ハナ。回復助かったぜ……」

 彼女の頭をポンポンと叩いた後、刺さっていたままの角を掴むと、自ら一気に引き抜いた。

「うぐっ!!!」

 呻きはしたが、叫び声は上げない。

(代わりにハナが悲鳴を上げたが) 

 壮絶な痛みのはずなのに、なんて精神力だとアレクトロは思った。

 

 今まで抑えられていた分の出血が一気に噴き出したように、血飛沫が上がる。

 

「ガボッ!!!」

 何度目かの血を吐いたベナトールは、それでも自分でポーチを弄って、【秘薬】を飲み下した。

 

「……。ふ~~~っ」

 

 【秘薬】が効いてきたベナトールは、大きく息を付いた。

「本当に大丈夫かよ?」

 アレクトロは半ば呆れている。

「あぁ、もうこの通りよ!」

 ベナトールは口元の血を拭いつつ、回復系を飲んだ時のようなガッツポーズをして見せた。

 

「……良かった……」

 ハナはへなへなと座り込んだ。

 

「心配かけてすまなかったなハナ。それから、参戦してくれて助かったわアレク。ありがとよ」

「オッサンがヘマこいてるとは思わなかったがな」

「俺は完璧な人間じゃねぇぞ? ヘマもするさ」

「――に、してもすげぇ精神力だなあんた。俺ならとっくに気絶してるぜ」

「……。今まで独りで狩ってたからな。これぐらいの事で気絶しちまったら逆にやられちまう」

()()()()()()()ねぇ……」 

 

 と、その時地響きがしたと思ったら、勢いよく地面から飛び出したものがいた。

 

「こっちに来たようだな」

 アレクトロとカイが担当していた一頭である。

「丁度良いや。ここで討伐しちまおうぜオッサン!」

「おうよ!」

 二手に分かれて構えるベナトールとアレクトロ。

 ハナも一応構える素振りを見せたが、二人に睨まれて(といっても兜で表情は分からないので雰囲気を察して)高台へと走って行く。

 

 それを追うように【彼女】が突進した。

 

「ハナ!!」

 ベナトールは駆け寄ったが彼女から離れていたため、間に合わなかった。

「チイッ!」

 アレクトロの方が近かったので、切り上げて高台に放り上げる。

「恩に着るぜアレク!」

 ベナトールは礼を言ったが、アレクトロは「ケッ!」とむくれたようにして【彼女】に向かって行った。

「いった~~い!」

 高台に落ちたハナは、「ひどぉい!」と文句を言っている。

 

 その内、回復したらしいカイも戻って来たので三人で一斉に攻撃し、もう一頭も討伐した。

 

 

 【クエスト成功】して【街】に帰った一行は、まずカイの発言を待った。

 

「貰えたよ! しかも二本も♪」

 

 顔を輝かせる彼に、「良かったな。貰えてなかったらブチ殺すとこだったぜ」とアレクトロ。

「殺されなくて良かったね♪」

 違う事で喜んでいるハナに、「う、うん……」と苦笑いするカイ。

「そうだぜ? これで【黒巻き角】が無かった日にゃ、死んだオッサンも浮かばれねぇっつの」

「おいコラ、勝手に殺すな!」

 そう言いながら、アレクトロの首をわざとホールドするベナトール。

「ばっ! 痛ぇって! マジで首折れるっつの!!」

 もがくアレクトロを笑って見ながら、「でもホントに危なかったんだよ? カイ。あんたは見てないだろうけど」と、ハナはカイに説明した。

「そっかぁ……。危ない目に合わせてごめんなさい」

 シュンとなったカイを見て、「おめぇは本当に可愛い奴だなぁ!」と豪快に笑うベナトール。

 

 滅多に笑わないベナトールが大笑いしているのを見て周囲がざわつくのが面白くて、残りの三人もそれぞれの笑い方で笑った。




この時悩みがあった友人は、四人が仲良くしている様を見て元気を貰い、悩みが吹き飛んだそうな。

オッサンが死にかけたというのに、変わった奴だ(笑)

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