今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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これは、「キャラがどう生まれ育ったか知りたい」という友人の要望に応えたものです。

ですが私の中には「ベナトール」と「アレクトロ」しか人格がいませんので、友人の人格である「カイ」と「ハナ」の話は書けません。
二人の話は友人頼みという事になるのですが、友人は物書きには興味が無く、散々せっついてようやく重い腰を上げる程に無理矢理書かせないといけない人物なので、第一話が奇跡と言っても過言ではないのです。

話自体は面白いものを書くので、私は好きなんですがねぇ。残念です。


という訳で、今回は「ベナトール編」になります。
(少し長いかも)


ベナトール物語

 

 

 あるハンター一家の家に、褐色の肌を持つ元気な男の子が生まれた。

「でかしたシャサール! この子には【ベナトール】という名を与えよう!」

「ベナトール……。【ハンター】という意味ね? カサドール」

「そうだ。うちは代々ハンターの家系だからな。これ程相応しい名は無いだろう?」

「本当に良い名だこと。立派なハンターになると良いわね」

「もちろん、俺がそうなるように鍛えてみせるさ」

 

 ベナトールは幼子になるまで、【竜骨】やら【カラ骨】やらを玩具に育った。

 中でも一番のお気に入りは、【カラ骨(大)】の中に【石ころ】を入れて作ったガラガラだったという。

 

 歩き始めたベナトールは、両親(取り分け父親であるカサドール)に見守られながら、【密林】で【アプトノス】を相手に遊ぶようになった。

 子供の【アプトノス】と相撲を取るのが好きで、そのために時々親に尻尾で叩かれたりしていたが、それによって自然とこの【モンスター】がどうやったら怒るかとか、その際にはどうやったら避けられるかなどを覚えていったようである。

 好奇心のままに【ケルビ】にちょっかいを出して角でどつかれて大泣きしたり、殻の中で丸まった【ヤオザミ】を抱えて遊んでいて、殻から出た【ヤオザミ】に挟まれたりしていたが、こちらも遊んでいる内に(特に【ヤオザミ】の)避け方を学んだようだ。

 

 成長していくに従って当然行動範囲も広くなり、カサドールが与えた小さなナイフで木の実を採ってみたり、【ヤオザミ】から【ザザミソ】を取り出して食べてみたりするようになった。

 その頃からすでに他の子供より大きく、力もあったので、野山を駆け回る際にはガキ大将として頼りにされていたようだ。

 

 初めて【ハンターナイフ】を与えられたのは十二ぐらいの頃。

 それでいきなり【コンガ】に挑んでその爪を叩き折ったのには、流石の両親も驚かされた。

 (まあその直後に飛び掛かられて泣きながら帰って来たのだが)

 【ランポス】に挑んだ時は【ハンターナイフ】を使うよりも力比べをした方が早いと考えたらしく、噛み付かれる前に組み付いて、締め上げつつ放り投げたりしていた。

 そこでこんなに力があるのならと【ハンマー】を与えてみると、気に入ったらしくてそれ以降は主に【ハンマー】ばかりを使うようになった。

 まだ小型【モンスター】しか狩らせてもらえなかったが、相手が気絶するのが面白くてたまらないらしく、特に【ブルファンゴ】の突進を溜めスタンプで止めつつ気絶させるのが得意になっていた。

 そうやって【ハンマー】独自の溜めを使いこなしている内に、自然と筋肉も付いていったようである。

(余談だが【ランス使い】として有名だった父親カサドールが【ランス】の訓練もさせてみたものの、こちらの方はものにならず、練習段階ですぐに諦めてしまった)

 

 

 十五歳になった頃、そろそろ大型【モンスター】にも挑ませてみようと両親が話し合い、【ドスランポス】を狩らせてみる事にした。

 それまでにハンターとしての基礎知識は教えたり遊びの中で知ったりして身に付いていたため、【アイテム】なども自分で選んで持って行っていた。

 ただ【閃光玉】だけは、使い方と調合を教えてカサドールが持たせてやった。

 【密林】の《7》で【ランポス】が群れているのを見付けた彼は、【ドスランポス】の探索そっちのけで【ランポス】共を気絶させる事に興じ始めた。

 カサドールが叱ろうとすると、《5》に通じる道の辺りから、ひと際大きな個体が入って来たのが見えた。

 

 オウッオウッ!

 

 ドスの効いた低い声で気が付いたベナトールは、【ランポス】よりも二回りほど大きく、目立つ鶏冠や赤く染まった爪などを持つその個体に少し驚いたものの、【ハンマー】を構え直してすぐに向かって行った。

 が、【ドスランポス】が来た事により【ランポス】共が連携攻撃を始め、振り被っても叩き付ける前に横から飛び蹴りされて吹っ飛んだりして、思うように攻撃が出来なくなった。

 

 苛ついた彼に、カサドールから「馬鹿者【閃光玉】を使わんか!」と声が飛ぶ。

 

 そこでポーチを弄るものの、【ランポス】に邪魔されて投げる事も出来ていない。

 ようやく投げられたと思っても、目の前で炸裂させられずに失敗し、とうとう【ドスランポス】に逃げられてしまった。

「くそぉ! この邪魔者らがぁ!!」

 ベナトールは怒りを【ランポス】の群れに向けたのだが、「それよりさっさと追わんか馬鹿者がぁ!!」とカサドールに叱り付けられて、舌打ちしながら追い掛けた。

 

 《5》に移動したのを追い掛けたら、そこには【ブルファンゴ】の群れがいた。

 

 一匹ずつなら突進中ですら簡単に気絶させられる自信があるこの【モンスター】だったが、群れでいるがためにあちこちから突進を受けては吹っ飛ばされた。

 ましてや【ドスランポス】もいるため、攻撃に集中出来なかった。

 どちらを先に片付けようかと迷った彼は、とにかく突進がやっかいな【ブルファンゴ】から片付ける事に決めた。

 翻弄されつつも一匹ずつ仕留めていると、突然背後から飛び掛かられた。

 【ブルファンゴ】に集中しすぎて【ドスランポス】の様子を見るのが疎かになっていたのだ。

 

 彼はうつ伏せ状態で倒され、呻いた。

 【ドスランポス】は彼に圧し掛かっている。

 【ランポス】よりも発達した足の鉤爪を背中に突き立て、まるで勝利宣言をするかのように、天を向いて吠えた。

 

「しまった! まだ早かったか!?」

 カサドールは慌てて助太刀しようとした。

「……。調子に、乗ってんじゃ、ねぇ……っ!」

 父親が走り寄る前に、そう言いつつがばりと起き上がった彼は、その勢いでひっくり返った【ドスランポス】目掛けて【ハンマー】を思い切り叩き付けた。 

 見事に頭を捉え、気絶させる事に成功する。

「いってぇんだよこの野郎!!」

 怒りのままに何度も叩き付けている。その勢いがあまりにも凄まじいので、まだ生き残っていた【ブルファンゴ】までが突進中に巻き込まれて絶命した。

 カサドールは、初めて息子が大型【モンスター】を討伐した事の喜びよりも、その怒りの凄まじさに圧倒され、恐ろしささえ感じていた。

 

 それから何度か大型【モンスター】を狩らせてみたのだが、どうも我が息子は怒りに火が付くととんでもない【殺気】を秘めるようだと感じた父親は、その怒りをコントール出来るようにと【訓練場】に通わせる事にした。

 【教官】に付いて一通りの武器をマスターしたベナトールだったが、怒りのコントロールは出来ても【殺気】を抑える事は出来かねていた。

 

 

 そんな中、【街】に【古龍】が襲って来た。

 直ちに【迎撃召集】がかけられ、上位ハンターであるカサドールは出掛けて行った。

 母親と家を守るべく帰って来ていたベナトールは、母親であるシャサールからこんな話を聞く。

 

「今回の【古龍迎撃】はねベナトール。【砦】を護るものじゃないんだよ」

 

「どういう事だ?」

「相手は定期的に【砦】に巡回して来る【ラオシャンロン】や【シェンガオレン】じゃないのさ。――ほら聞こえないかい? 【街】のすぐ傍で戦闘が始まっているのが」

 耳を澄ませると、【街】の外、門や外壁の辺りで戦闘の音が響いているのが分かった。

「直接【街】に来ているって事か!?」

「どうもそうみたいだね。だから門や外壁が破られれば、直接【街】の中に【古龍】が入って来るよ」

「母さん、俺も参加して来る!」

「おやめ! とてもお前が歯が立つ相手じゃないよ。第一、まだ上位にすらなってないじゃないか。参加資格は上位ハンターだけなんだよ?」

「う……。くそぉ!」

「父さんに言われた事を忘れたのかい? 『家と母さんを頼む』と言い残して出掛けたんだよあの人は。だからここがお前の【持ち場】なんだ」

「――分かった!」

「良い子だベナトール。頼んだよ?」

 サシャールは、出掛けにカサドールが彼にしてくれたように、優しく笑って頭をポンポンとしてくれた。

 

 

 それから間もなく、「門が破られたぞぉ!!」と言う声を聞く。

「父さん!!」 

 母親の制止を振り払い、門まで駆けて行ったベナトールは、破壊された門の前で身構える【古龍】の姿を見た。

 

 それは、全身がまるで錆びたかのように赤茶けた、【クシャルダオラ】だった。

 

【挿絵表示】

 

 上位ハンターや【守護兵団(ガーディアンズ)】らが一丸となって攻撃しているのが見える。

 と、相手は前方付近にいた者らに対して反動を付けつつ半回転しながら、前足で引っ掻くような動作をした。

 たったそれだけで数名が吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられた者は皆、深く抉れた裂傷を負っていた。

 【クシャルダオラ】の周囲には風が生まれ、それを鎧のように纏う事によって容易に近付けないようになっている。

 

 【龍風圧】と呼ばれるものである。

 

 この状態では〈龍風圧無効〉のスキルが無い者は煽られ、【弾】や【矢】も弾き返されるため、まずその風の鎧を無くさなければならない。

 この鎧は一時的だが毒によって消せる。それを知っている上位ハンター達は【毒弾】や【毒矢】を使っているようなのだが、【街】の中に入り込んでしまった相手を極力【街】の被害を抑えるように立ち回っているせいなのか、中々成果が挙げられていない様子。

 

 それでも角を折った者がいて、風の鎧が消えた。

 

「今だ!!」

 一斉に掛かって行った戦闘員は、舞い上がった【クシャルダオラ】の風に煽られた。

 その隙に風のブレスを吐かれ、また数名が吹っ飛ばされた。

 このブレスはかなり強力なものなので、まともに当たった者らが飛んで行った先の地面に叩き付けられる前に絶命した。

 脇を掠めた者らも煽られるか吹き飛ばされたりしている。

 

 【クシャルダオラ】が羽搏く度に、キシキシと金属同士を擦り合わせるような耳障りな音がしている。

 

「父さん!!」

 そんな中、父親を見付けたベナトールは、叫びつつ駆け寄ろうとした。

「来るんじゃない!!!」

 彼は脇腹辺りを切り裂かれている。そのせいか滑空して来た【クシャルダオラ】を避けるのが少し遅れた。

 【クシャルダオラ】は父親の眼前で空中停止すると、息を吸い込んだ。

 が、ブレスを吐く直前に【閃光玉】を投げられて落ち、もがいた。

 

【挿絵表示】

 

「父さん、今の内に回復を!」

「でかした息子よ!」

 カサドールが回復している間に頭に陣取り、【ハンマー】を叩き付ける。

 が、もがいて頭を振るために、上手く頭に当たらない。

 起き上がった【クシャルダオラ】は闇雲に前足を振り回し、ベナトールはそれに引っ掛けられた。

「ぐはっ!!」

 仰向け状態で地面に叩き付けられ、それでもすぐに起き上がったものの、脇から胸辺りに掛けて裂傷が出来ている。

 

 そこに吐かれたブレスが偶然直撃した。

 

【挿絵表示】

 

 防御の低い下位ハンターの防具では耐えられるはずもなく、彼は即死するはずだった。

 が、そうはならなかった。

 カサドールが盾で防いだからである。

 彼は得意武器である【ランス】を使っていた。

 そのおかげで彼は護られたのだ。

 

 だが、受けたカサドールはかなりのダメージを負っていた。

 なのにお互いに回復する暇もなく、閃光から覚めた相手が追撃するかのように、今度は正確にブレスを吐いて来た。

 耐えられなくなったカサドールがガードを捲られつつ吹き飛ばされ、煽りを食ってベナトールも吹き飛ばされた。

 父親が前に立ちはだかっていたおかげでまともにブレスが当たらず、彼は吹き飛ばされただけで死なずに済んだ。

 しかし飛ばされた先で壁に叩き付けられ、気絶した。

 

 

 

 それからどれぐらい経ったのか、目を開けたベナトールは【クシャルダオラ】がいないのに気が付いた。

 周りを見回すと、瓦礫と共にあちこちに戦闘員の死体が転がっているのが見えた。

「……。父さん?」

 今まで護ってくれていた父親がいないのに気が付いた彼は、呻きながら起き上がって、ふら付きながら辺りを歩いてみた。

 

 少し離れた場所で、彼は父親を見付けた。

 【ランス】の盾が粉々に砕かれ、それどころか上位素材の頑丈な鎧さえも、引き千切られたように吹き飛ばされている。

 彼の息は、既に無かった。  

 

「……さん、父さん、父さん!!」

 彼は跪き、何度も呼んだ。

 それが無駄だと分かっていても、止められなかった。

「父さん、父さん……っ! わあぁ~~~!!」

 

 彼が泣き叫んだその時、【街】の中で破壊音がした。

「うおぉ~~~!!!」

 その場所をキッと睨み、怒りのままに走って行く。

 今まさにブレスを吐こうとした【クシャルダオラ】の頭を、そのままの勢いで横から武器出し攻撃で叩き上げた。

 不意を突かれた相手がもんどり打って倒れる。

 その頭を目掛けて何度も叩き付ける。

 

【挿絵表示】

 

 昏倒した相手に他の戦闘員も加わって、一斉に攻撃する。

 が、それでも討伐には至らない。

 

「ベナトール!」

 呼ばれた声で振り向いた彼は、そこに母親が立っているのを見た。

「母さん!!」

 そして、そこに尻尾が唸りを上げて迫って行くのを見る。

「危ないっ!!」

 飛び付いて抱きかかえた直後、鞭のようにしなった尻尾に打ち据えられ、二人は吹っ飛んだ。

 瓦礫に叩き付けられ、ゴロゴロと転がって止まる。

 呻いて目を開けた彼は彼女が驚愕の表情のまま、固まっているのを見た。

 

 間に合わなかったのだ。

 

「そ……んな……っ! かあさ……!」

 彼も重傷を負っている。

 そして、その光景を見たのを最後に目の前が暗転し、何も分からなくなった。

 【クシャルダオラ】はその時点でかなり傷付いていたため、悔しそうに一声吠えると舞い上がり、ふらふらと飛び去って行った。

 

 

 

 次に目を開けた時、彼は見慣れぬ部屋に寝かされていた。

 

 ――。()()()()()()、のか……?

 

 瞬きしつつ目だけで見回していると、自分を覗く皺くちゃな竜人族が目に入った。

「目が、覚めたようじゃな?」

「……【ギルドマスター】。俺は、生きているのですか……?」

「そうじゃ。運が良かったの」

「……母さんは、やはり……?」

「うむ。残念ながら、助からんかった」

「そう、ですか……」

 

 彼は片手で顔半分を覆うと、声を殺して泣いた。

 

「ベナトールよ。その悔しさを、【ギルドナイト】として【モンスター】にぶつけてみる気はないか?」

「…………」

「お主はまだ下位ハンターながら、上位【古龍】と渡り合いおった。しかも【鋼龍(こうりゅう)】という別名を持つ程の、かの(はがね)のような硬い堅殻をものともせずに叩き付けるその力は、既に上位ハンター並み、いやそれ以上じゃと儂は思うておる」

「……。上位ハンターである父に護られたあげく、その父を見殺しにした俺に、その力があるとでも……?」

「あれは当然の行為じゃろうが。親子関係なく、下位ハンターを護るのは上位の努めじゃ。それで死んだからといって、誰にも責める謂れはない。むしろカサドールは、息子を護れて満足して死んだであろうよ」

「…………」

「ベナトールよ。その悲しさ、悔しさは自分で乗り越えるしかないのじゃぞ? 今は無理かもしれんがな」

「……。少し、考えさせて下さい……」

 

 

 その後、彼は上位ハンターの試験を受け、【ギルドナイト】の任務を正式に受諾した。

 腕を上げていった彼はしかし、ハンターとしての仕事でさえも、PTでは行きたがらなかった。

 それは、もう二度と目の前で人が死ぬのを見たくないという理由と、仲間内でさえも恐れる【殺気】のせいだった。

 

 ある仲間はこう証言した。

「彼の【殺気】は上位【古龍】、いや【黒龍】以上に恐ろしい」

 

 怒りによる【殺気】を向けられたものは、それが例え百戦錬磨の死線を駆け抜けた【ギルドナイト】であっても凍り付く程のものだったのだ。

 更に元々無口な性格な上に、心の傷が深いせいなのか感情を表に出す事もなくなったために、大男なのも相まって、ますます近寄りがたい雰囲気を纏うようになった。

 必然として独りで任務や【クエスト】をこなす事になるため、彼の体には更に筋肉が付いていき、褐色の肌色をしているので、まるで鋼の鎧のように見えていた。

 それで陰では「【鋼龍クシャルダオラ】と同等なのではないか?」とまで囁く輩もいたそうな。

 

 長年【ギルドナイト】を務めるようになった彼は、自分の個人的な感情抜きでどんな命令にも忠実に従う程になっていき、ある日とうとう【殺人命令】が下された。

 

 

 それは、月明かりの美しい夜だった。

 

 気配を消して、建物の影から影へと渡り歩きながら処刑対象を探していた彼は、ある路地裏で十代半ばぐらいの少女を見掛ける。

 彼女は貴族の子供らしく、今いる場所にはそぐわないような立派な服装をしていた。

 

 なぜこんな所に、しかも夜中に一人で?  

 

 訝しんだ彼は、気付かれないようにしながら彼女の後を付いて行った。

 彼女はやがて建物の一角の少し開けた場所で立ち止まり、周りを気にし始めた。

 

 そこへ、処刑対象の男がやって来た。

 

 彼女は男と何やら密談すると、男から何か渡された。

「わあっ、綺麗っ♪ これが【雌火竜の紅玉】なのね……!」

 感動した様子で月明かりに、その素材を透かして見る少女。

「そうだろう? かなりの上物だぜ。それ取るまでに何十頭も上位【リオレイア】を狩ったがな」

 男も嬉しそうにしている。

 

「……ほぉ、無許可で【リオレイア】を狩り続けていたのはそのためか?」

 

「だ、誰だ!?」

 狼狽える二人。 

 ベナトールは男の背後から近付き、【サーベル】を突き付けつつ「動くな」と言った。

「黙って消すつもりだったが、相手がいたとはな。――嬢ちゃん、その素材は貴重でな。【ハンターズギルド】管轄の素材なのだ。悪いが渡してもらおうか」

「い……嫌よ!」

 少女は後退っている。

「逆らえば嬢ちゃんまで消さねばならなくなる。その歳で死にたくはあるまい?」

「に、逃げろハナ!!」

 彼女はそう言われてビクッとなったが、逡巡している。

「オレは殺されてもいい。だが君だけはせめて……!」

「そんなの嫌っ!」

 少女はなんと、短剣を抜いて向かって来た。

 そしてベナトールの首に突き付ける。

「彼を放しなさい! でないと――!」

「やってみろ嬢ちゃん、それが出来るならな」

 

 次の瞬間ベナトールは、まず男の方をそのまま背後から串刺しにし、【サーベル】を抜いた。

 血飛沫と共に崩れ落ちる彼を見て悲鳴を上げる少女に向き直り、正確に心臓を突く。

 二人の返り血を浴びたまま、彼女の死体から【雌火竜の紅玉】を取り、黙って去って行った。

 

 初めての殺人任務だったにもかかわらず、あまりにも鮮やかな手口だったため、以降彼は殺人専門、つまり【黒のギルドナイト】として暗躍する事を求められた。

 彼は命令通りに平然と殺人を繰り返しているように見えた。

 が、寝る時には時折初めての殺人光景を夢に見てはうなされていた。

 そして表には一切出さなかったが少女を殺してしまった事を、彼はいつまでも後悔していた。

 

 

 

 そんな折、【大長老】から「孫娘の【教官】に就いて欲しい」と頼まれた。

 断るつもりだった彼だが、どんな命令でも忠実に任務をこなすような妙に真面目な部分があったため、「多少痛い目に合わせても良い」という事であるならと受諾した。

 そして、あの時殺した同じ【ハナ】という名前の、しかも貴族の少女に付く事になる。

 だから彼は、償いの代わりにこの子だけは命に代えても死なせまいと思っている。

 

 この子だけは、最期の瞬間まで護ろうと。

 




これを書いた時、「彼がハナに拘る理由はこれだったんだ!」とようやく得心いたしました。
と言いますのも私は話を作る時に大まかな流れを考えるだけで、後は登場人物に任せて書き進むやり方をしているからです。
(まぁあまりに自由行動し過ぎて流れから外れてしまうような時は、「ちょっと待てお前らそっちじゃない」と慌てて流れに戻したりはしてますけども)
なので実際に書いてみないとどうなるか分からず、どんな終り方をするかも作者である私自身が分からないのです。
(なので「これ今の流れで終わるのか?」とか思う事もあります。無理矢理その流れになるようにして終わらせてますけど)

この時は処刑対象者が「ハナ!」と呼んだのを(脳内で)聞いて「え、ハナ!?」とビックリしたぐらいです(笑)

ちなみに両親の名前「カサドール」も「サシャール」も、どちらもベナトールと同じく「ハンター(狩人)」という意味を持っています。
ハンター一家の家系という事なので、名前の意味にも拘ってみました。


挿絵は「パートナー」を外し、ベナトールが一人で「錆びクシャ」に向かっているつもりの演技で撮影いたしました。
この頃は下位ハンターなので、下位武具を適当に選んで装備しております。

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