今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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私も連続で寝かされました。


死へ至る眠り

   

 

 

 

「アレク、その羽根何の羽根? すっごく綺麗っ♪」

 たまたま【睡眠属性】の【大剣】である、【ナルコレプター改】を担いでいたアレクトロは、そうハナに言われた。

「――ん? あぁ、こりゃ【ヒプノック】の羽根だよ」

「いいなぁ~~、その羽根欲しい~~」

「【ヒプノック】の羽根って、綺麗だもんねぇ♪」

一緒にいたカイも賛同する。

「まあ装飾のための羽根を取る依頼が来るぐれぇだから、綺麗だろうな」

「ハナ、【片手剣】もあるから欲しけりゃ作ってみるか?」

 同じく同行していたベナトールにそう言われ、「うんっ! 作りたいっ!」と目を輝かせるハナ。

「今の時期はまだ繁殖には入ってねぇから、たぶん普通の羽根色だな」

「え? 違う羽根もあるの?」

「雄限定だけどな。あいつらが繁殖期に入ったら、雄の羽根色がオレンジから青っぽく変わるんだよ。興奮してっから攻撃力が高くなるけど、そっちもけっこう綺麗だぜ」

「へぇ~~! そっちの羽根も見てみたいなぁ……」

「じゃあ【ヒプノック】が繁殖期に入ったらまた行こうよハナ」

「うんっ♪」

 

 【ヒプノック】は、非常に臆病な【鳥竜種】である。

 従って、鬱蒼とした木々が生い茂る【樹海】の奥で生活している事が多い。

 だがその派手なオレンジの尾羽根は装飾品としても人気が高く、主に貴婦人や派手好きのハンターなどが、ドレスや鎧にあしらっては自慢していたりする。

 繁殖期にのみ取れる雄の尾羽は貴重なので、特に重宝されている。

 

 

 【樹海】に着いた一行は、臆病なはずの【ヒプノック】が、《5》の巨木の影で堂々と立ったまま寝ているのを見付けて呆気に取られた。

 しかも、周りで【ランポス】共がやかましく鳴き交わしているのに、である。

「【眠鳥】という別名があるとはいえ、よく寝とるなこりゃ」

「なんか起こすのが可哀想になってくるね、ここまでよく寝てると」

「欲しいのは羽根だけだし、こっそり羽根だけ抜いて帰っちゃおうか?」

「バーカ、抜いた時点で起きるっつの」

 茂みに隠れた四人がそんな事をコソコソ話していると、いきなり後ろからどつかれて浮飛ばされた。

「いったいわねぇ! いきなり何よ!?」

「【ブルファンゴ】てっめ! わざわざ隠れてるとこ狙ってんじゃねぇよ!」

 当然【ヒプノック】が目を覚ました訳だが、まだ寝惚けているのかキョロキョロと辺りを見回している。

 その隙にカイが【ペイントボール】を投げ、ベナトールが頭側に回って【ハンマー】を叩き付けた。

 

 ピイィ~~~!

 

 ビックリした様子の【ヒプノック】は、ビクッと飛び上がって鳥のような高い鳴き声を出すと、なんと大慌てでスタコラと逃げ出した。

「あ、オイ待てコラ!」

 追い掛けるも、飛んで行ってしまう。

「ほんっと、臆病な鳥なのねぇ……」

 ハナは呆れて見送っている。

「ボケっと立ってる場合か。追うぞ」

「ういす」

「了解」

 【ペイントボール】の強い匂いを頼りに追い掛けると、《4》に移動した事が分かった。

 丁度舞い降りる所だったので、ベナトールが頭側、アレクトロが翼側に陣取って、溜め攻撃。

 それが終るとほぼ同時にカイとハナが切り掛かった。

 脚を切られてこけた【ヒプノック】は、もがいている間に頭を叩かれて昏倒。

 その間に麻痺が蓄積したのか、気絶から覚めて立ち上がったかと思ったら麻痺った。

 

 ピュイィ~~~!

 

 麻痺の解けた【ヒプノック】は、特大に鳴いて口の端から白い煙のようなものを吐き出すようになった。

 【ヒプノック】は向き直るや否や、【ゲリョス】に似た動作で左右に首を振りながら、白い液体を吐き出しつつ走り回り始めた。

 

 その一つにハナが当たり、当たったと思ったらパタンと倒れて眠り始めた。

 

「あーあ、寝ちまったよ」

 アレクトロは半分面白がっている。

 臆病な【ヒプノック】は、基本は寝たものは起こさないので、そのままにして攻撃に向かおうと思ったら――。

 

「……チビ助……」

 

 そんな寝言が聞こえたもんだから、問答無用で蹴り起こした。

「痛い……?」

「オラ! 寝惚けてんじゃねぇ! さっさと起きやがれ!」

 次に切り上げで吹っ飛ばすアレクトロ。

「ひどぉい。こんな起こし方しなくてもいいでしょお」

 アレクトロは「フンッ」と言いながら攻撃に参加した。

  

 次に犠牲になったのはカイだった。

 彼の場合は少し離れた時にペッと液体を吐かれたのであるが、寝かされたと思ったら連続で吐かれて、着弾した液体の衝撃で起こされた瞬間に次の液体を吐かれてまた眠る、という事を繰り返している。

 

 それがあまりにも可笑しくてゲラゲラ笑っていたアレクトロは、自分も液体に当たって間抜けにも寝てしまった。

 お返しにハナが起こそうとしたら、怒っていた【ヒプノック】がアレクトロを見逃さずに連続蹴りをお見舞いし、彼は起きた瞬間に気絶した。

 相手はそれだけじゃ飽き足らず、鋭いクチバシで噛み付いた。

「な、なんで俺ばっか……! 馬鹿死ぬって!!」

 打たれ強いアレクトロだが、連続で食らうのは流石にダメージが大きいので、慌ててガードしたり逃げたりしている。

 他の者の攻撃は続いていたのでそんな事をしている内に相手が弱り、目立つ尾の飾り羽がペタンと下がった。

「よし弱ったぞ。捕獲するか?」

「うん。欲しいのは羽根だから。捕獲でお願い」

 二人の会話を聞いて、アレクトロがすかさず【閃光玉】を投げ、カイが罠を仕掛けた。

 

 

 後日、みんなで繁殖期の【ヒプノック】を狩りに行ったハナは、帰って来て変な踊りを始めた。

「何だそりゃ?」

 アレクトロが呆れるのも無理はない。彼女は繁殖期の雄がする、求愛ダンスを真似ていたのだ。

「わぁ、上手い上手い♪」

 苦笑いする二人を他所に、カイは無邪気に手を叩いて喜んでいる。

 その内広場にいる他のハンターの注目を集め、「ええぞねぇちゃん!」などと言われてハナは得意気になっている。

 

 男二人は首を振ったり頭を抱えたりするしかなかった。

 




いかに臆病な「ヒプノック」でも、クエスト中に敵前逃亡はいたしません。
ですが、臆病さを表すために逃げるように設定して書きました。

今現在の「フロンティアZ」では「眠り」のシステムが変わり、睡眠の状態異常になったハンターはふらふらと移動し続けてから限界が来たようにパタンと倒れて眠るようになっていますが、昔の「フロンティア」では移動せずにその場でパタンと倒れて眠っていたのです。
ので、「ヒプノックあるある」として連続で睡眠ブレスを吐かれて起きては眠るという状態に陥る事があり、特に仲間に起こしてもらえないソロではずっと寝かされ続けてイライラする事がありました。


余談ですが、私の従弟(当時高校生)が最初この「モンスター」の事を「ピプノック」と言っており、「ヒプノックだよ」と教えると、何故か「ヒプノップ」と言い始めた事がありました。
どうも従弟的には「ヒプノック」の発音が難しかったようです。

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