今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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読み返したら最後の方でようやくモンスターの名前が出て来るような書き方になってましたが、すぐに分かると思います。


死の抱擁

 

 

 

 夜風は、臭気を含んでいた。

 それは、ボコボコと泡立つ毒沼と、切り裂かれる肉体の、血の臭い。

 

 四人の荒い息遣いが聞こえる。

 そして、剣戟の音も。

 

 彼らは青い甲殻を持つ【甲殻種】と闘っていた。

 そして一名を除いて、三名は体のどこかに切り傷を付けられていた。

 普段畳まれている腕を伸ばした相手は、鎌状になっているそれを思うままに振り回している。

 

「くそ、好き放題やりやがって……!」

「文句言ってる暇があるなら攻撃するんだな」 

 苦戦しているアレクトロとは正反対に、余裕さえ見せているベナトール。

 だが疲れているのは隠せていない。

「意外にタフだよね……」

「ここまで手強いとは思わなかったわよぉ」

 泣き言を言うカイとハナ。

 それでも相手の体力は、かなり削られてはいるのだが……。

 

 彼らは、ハンターランクが百以上になって初めて狩猟を許される、【変種】と呼ばれる【モンスター】と闘っていた。

 【変種】は通常の【モンスター】とは肉質がまったく違い、弱点属性も大幅に変わる。

 中には部位によって違う弱点属性になるものもいて、従って「属性武器よりもむしろ無属性武器の方が有利かもしれない」と言われている程である。

 【変種】用に開発された【SP武具】というものもあり、それらは通常の武具より防御や攻撃力が(特に【変種】に対峙する時は)高くなっていたりする。

 だが有利に立ち回れるはずのSP武具を持っているのはベナトールとアレクトロの二名だけだし、ベナトールに至ってはどの【モンスター】に対してもスキル関係なく立ち回るので、SPではなく好みのゴツイ武具で固めているに過ぎなかったりする。

 

 だから完全に対【変種】用の武具で挑んでいるのはアレクトロぐらいだった。

   

 

 殻を壊そうとして振り被ったアレクトロは、相手が背後を狙って一回転したのを、分かっていて避けられなかった。

 

 直後に彼の体から血が噴き出る。

 彼は胸を一文字に切り裂かれていた。

 

「ぐあっ!!」

 胸を押さえ、倒れそうになるのを堪える。

 SP防具でなければ両断されていただろう。

 避けつつ隙を見て回復し、向き直ると、相手が両腕を目一杯広げたのが見えた。

「まずい!」

 そのまま突進していく先にカイとハナがいたが、カイを切り上げて軌道を逸らせるのが精一杯だった。

 相手はハナに向けて突進して行き、まるで愛おしい者を抱き締めるかのように、両腕の鎌を交差させつつ彼女の背中に振り下ろした。

 

 ハンター達が【死の抱擁】と呼ぶ攻撃である。

 

 アレクトロは、ハナが串刺しになる事を覚悟した。

 が、その直前にベナトールが体当たりして彼女を突き飛ばした。

 

 ドシュドシュッ!

 

 二連続の突き立て音。だが貫通はしていない。

 この日初めて傷を負ったのがハナを庇った事によるものというのが、彼らしいといえば彼らしい。

「今だお前ら、ダウンさせろ!!」

 泣きそうな顔で彼を見るハナには構わず、まるでその身で鎌を封印したかのように、ベナトールが叫ぶ。

 

 体を硬くして抜けないようにしているらしく、明らかに相手が困惑しているのが分かる。

 

 三人は一斉に脚を狙ってこかせた。

 その間にベナトールは【ハンマー】を振り回し、鎌を折り取った。

 だが鎌が破壊されると、その怒りで我を忘れるのか常時怒り状態になってしまう。

 もう誰も切り裂かれる事はなくなったが、危険な事には変わりはない。

 

 それでも相手の方が身の危険を感じたのか、潜って逃げた。

 

「追うぞ!」

「その前に背中の鎌をどうにかしろ」

 アレクトロは苦笑して言った。

「抜いてあげようか?」

「あぁ……。頼む」

 だが深く食い込んでいるせいか、ハナの力では抜けない。

「ったく、しゃあねぇなぁ」

 アレクトロは背中の鎌に手を掛けた。

 が、そのままでは抜けず、結局カイの力も借りて、一本ずつ背中を踏みながら抜くしかなかった。

 

 噛み殺しているのか、呻き声すら立てない。

 彼は平然としている(ように見える)が、出血が重症であると物語っている。

 

 ハナが慌てて【生命の粉塵】を掛けた。

「すまんな」

 一応礼を言うベナトール。

 こういう精神力の強さには尊敬の念すら覚えるアレクトロだが、そこまで我慢する必要もないのにとも思ってしまう。

 兜で見えないのを利用して表情を隠しているようだが、少しは苦痛で歪めたりしているのだろうか?

 

 

 逃げた相手は《7》にいた。

 弱った体力を回復しようとしているのか、食事をしている。

 こっそり背後から近付いて最大溜めをお見舞いしたアレクトロは、殻破壊をする事に成功した。

 

 慌てた相手は一旦潜り、再び別の場所に移動して新しい殻を被った。

 

 この殻の破壊も成功。もう殻を被る事はなくなるので、剥き出しの体に攻撃を続ける。

 殻を被っている時よりダメージが通るので、アレクトロは回復よりも攻撃を優先している。

 それを見かねて、カイが【生命の粉塵】を投げたりしている。

 こかせた時にベナトールの溜めスタンプが決まり、それが止めになったのか、相手はとうとう動かなくなった。

 

 

「ふえぇ~~、意外ときつかったな」

 大きく息を吐きつつ言うアレクトロ。

「まあ【変種】だし、【ショウグンギザミ】だしねぇ……」

「もう二度と【変種】なんて行かないっ!」

「なんだよ、『ハンターランク百になったから【変種】に行きたい』っつったのおめぇだろうよ」

 言い出しっぺのハナの文句に呆れて答えるアレクトロ。

「……。まあ、行かねぇよりは勉強になっただろうよ」

「オッサンよ。そんなんで良いのか?」

「何がだ?」

「ちと甘やかせ過ぎじゃねぇのか?」

「……。そう、かもな」

 

 アレクトロは、彼が少し遠くを見るような表情になったのを、雰囲気で感じた。

 

  




ベナトールはハナの事になると、少々過保護になるのかもしれません。
ただの「教官」じゃなく、もしかしたら「親父」の気分なのかもしれませんね。


話の中に出て来る「SP防具」にはスキルポイントが一切無く、「SP装飾品」と呼ばれる一つでスキルが完成する特別な装飾品をハメ込む事でスキルを決められるという、他の防具とは違う特徴があります。
なので、工夫すれば五ヶ所で一つずつの合計五つのスキルが付けられるわけです。
(ただしどちらも「変種」の素材を何種類か使うため、手強いからといって一種類だけ狩って他のものを謙遜していては何も作れなくなるのですが)

そしてもう一つの特徴として、「凄腕」と呼ばれるHR100で行ける狩場でしか採れない「センショク草」と呼ばれるアイテムを使って既定の防具とは違う色に染められる。という特徴があります。
自分の好きな色には染められず、予め決められている何通りかの決まった色の中でしか選べませんが、既定の防具と同じ形のもの(例えば「シルバーソルシリーズ」とか)を違う色に染めたり出来るため、いつもの防具を違う気分で着る事が出来て面白いです。

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