今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

49 / 262
「2(ドス)」時代に「森丘」に行くには「キングチャチャブー」が持っているという「始まりの唄(剥ぎ取り率12%)」を取り、「アリーナ」にいる「歌姫」に歌ってもらうしかありませんでした。
「2(ドス)」ベースの「フロンティア」にもそれは受け継がれており、「ドンドルマ」の中に「メゼポルタ広場」がある時代にはこの方法で「始まりの唄」を取り、「歌姫」に歌ってもらう事で初めて「森丘」への道が開ける仕組みになっておりました。

「キングチャチャブー」の出現条件は季節やフィールドごとに違っており、今回の話では「寒冷期」の「密林」での「無限湧き」出現方法で書いています。
ゲームシステムでの方法を用いておりますので、ただでさえ現実味の無い私の小説なのに更に現実では有り得ない話になっております。



【始まりの唄】を求めて

 

 

 

 【歌姫】。それは歌を歌う事にその身と生活を全て捧げ、歌と共に生きるという、希少民族の末裔。

 【彼女】の歌には魂を鼓舞する力があり、魂を癒す力がある。

 それは夜ごとに行われる、祈りにも似た神聖な儀式のようにも思えた。

 

 ――生命は生まれ、生命は尽きる

 生命は芽生え、生命は枯れる

 陽は昇り、陽は沈む

 潮は満ち、潮は引く

 生きるという事が、死ぬという事

 死ぬという事が、生きるという事

 死の意味を知り、生の意味を知る

 食うモノと食われるモノ

 火と水、空と大地

 世界の広がりは、己の意志の中に

 全てに意味があり、全てに意味はない

 世界は廻り、世界に還る

 全てに宿る、大いなる意志へ――

 

「素敵よねぇ……」

 ハナは歌姫の歌う〈魂を宿す歌〉を聞きながら、うっとりと息を吐いた。

「だよなぁ……。俺【彼女】の歌を聞くとさ、ハンターで良かったって思えるんだよな」

「あら珍しい。あんたがしんみり聞くなんて」

「俺だってたまにゃこういう事もあるさ」

「まあ【歌姫】の歌には特別な力があるからねぇ」

 

そんな事を三人で話していると、いきなり背後から声がした。

「――その【歌姫】の歌だが……」

「オッサンいたのかよ!?」

「いい、いきなり後ろから話しかけないでよね!?」

「び、びっくりしたぁ!」  

「気配殺すのやめろよなぁ、少なくとも【今】は」

「いやすまん」

「――で? 歌がどうしたって?」

「あぁ、その歌なんだがな。【始まりの地】と言われる【森丘】への道を開く歌があるそうな」

「へぇ、どんな歌なんだろ?」

「その歌をな、なんと【キングチャチャブー】が持っているんだと」

「マジか!?」

「【キング】かぁ……」

 

 話を聞いて途端に浮かない顔をする男二人を見て、「なに? どしたの!?」と少々驚くハナ。

 

「歌聞きたいけど、【キング】じゃなぁ……」

「そんなに手強いの?」

「手強いのはもちろんなんだが、出現条件がやっかいなんだよなぁ」

「その条件満たしても、出ない時あるしねぇ」

「【無限湧き】に期待するっきゃねぇか……」

「なによ? ちゃんと分かるように説明してよ」

「どうせ説明しても分かんねぇよ」

 一応ベナトールが説明してみせたが、やはりイマイチ分かってなさそうだった。

 

 

 とにかくも、一番【無限湧き】が期待出来そうな【密林】で試す事に。

 まず地図で言う《1》で、キノコに擬態している【チャチャブー】を探す。

 いない場合があるので出て来るまで一旦【キャンプ】に引き返しては入る、を繰り返して、出たら一匹倒す。

 終ったら《9》に行き、そこで擬態している【チャチャブー】を倒す。

 これもいない場合は出るまでエリア移動を繰り返す。

 その後《7》に行き、そこで擬態している【チャチャブー】を出るまでエリアの出入りを繰り返して倒す。

 

 倒したら一旦そこを出、再び入ると――。

 

「な、なんか頭に【肉焼き機】を乗っけた【チャチャブー】がいるんですけどぉ!?」

「あれが【キングチャチャブー】だ。条件が満たせたようだな」

「うし、さっさと倒して歌取るぜ!」

「了解!」

「了解!」

 

 数分後――。

「【ホピ酒】かよ……。お前ら何だった?」

「おいらも【ホピ酒】」

「こっちは【黄金芋酒】だな」

「おなじくぅ」

「――しゃあねぇ、入り直すぞ」

 

 だが、そこには何もいなかった。

 

「【無限湧き】じゃなかったみたいだね」

「……チッ! リタだな」

 【クエストリタイア】してやり直す。

 今度は【キングチャチャブー】を倒した後、入り直した時に二匹目の【キングチャチャブー】が出現していた。

「【無限湧き】達成か?」

「分からん、数回で枯れる場合もあるからな」

「まあとにかく【始まりの唄】が出るまで続けるしかねぇな」

 

 数分後――。

「また【ホピ酒】かよ……」

「こっちも【ホピ酒】だな」

「おいらも」

「あたしもぉ」

「この酔っ払いがぁ!!」

「【肉焼き機】を蹴っ飛ばさないでくれる?  火事になったらどうすんのよ」

「知るかよっ!」

 

 更に数分後――。

「……。出た! 出たよっ! 【始まりの唄】♪」

「ホントぉ!?」

「うんっ♪ これでしょ?」

「おぉ、間違いねぇ!」

「はぁ、これでようやく酒浸りから解放されるぜ……」

「アレク、もしかして今まで取ったお酒、全部飲んでたのか!?」

「んな訳ねぇだろぉ? だいたいなぁ? 【きんぐちゃちゃぶー】が酒ばっか持ってんのが悪いんだからなぁ!?」

「うわっ! 酒くさっ!? 絡まないでよもぉっ」

「オラおめぇも飲め!」

「――ばっ!?  やめゴクゴクッ」

「ちょ、ちょっと! カイにまで飲ませないでよぉっ」

 

「…………」

「――カイ? 大丈夫?」

 

「こるぁアレク!! オレに酒なんか飲ますんじゃねぇっ!!」

「――あ? なんだとコルァ、それが俺様に対する態度かぁ!?」

「うるっせぇぞこのチビ助、いつまでも【金魚のフン】呼ばわりしやがってからにぃ」

「なんだとてめぇ? 【きんぎょのふん】は【きんぎょのふん】だろぉがぁ!?」

「あ~もぉっ! 二人で酔っ払わないでよぉ」

 

「……。カイを飲ませると態度が変わるのは面白いな」

「ベナぁ、面白がってないでなんとかしてよぉっ」

「取り敢えず、二人共気絶させるか……」

「ち、ちょっと【ハンマー】構えるのやめて、勢い余って死んじゃったらどうすんの!?」

「な~に、ちっとばかし【あの世】に行くだけの事だ」

「恐ろしい事を言わないでよおっ!」

 

 そんなこんなで、どうにか【街】に帰って来た一行だったが、酔っ払い二人が大鼾をかきながらが寝てしまったので、歌を聞くのは明日にする事にした。

  

 

 次の日。

「頭痛ぇ……」

「仕方ありませんにゃ、夕べ酔っ払って帰って来て、すぐに寝てしまわれましたからにゃ」

「フィリップ、酔い覚ましの薬って、あるんかな……?」

「さあどうでしょうにゃ? 毒消しという意味では【解毒薬】あたりではいかがですかにゃ?」

「じゃあ、それ頼む……」

「かしこまりましたにゃ」

 

「カイ、大丈夫?」

「……気持ち悪い……」

「【解毒薬】でも飲んどく?」

「何もいら――おえぇっ!!」

「もおっ、アレクのバカっ」

 

 

 二人共がそれぞれで二日酔いの苦しみを味わった後、夜になってだいぶ治まったので、【歌姫】のいる【アリーナ】に集まった。

 【お世話猫】に昨日取った【始まりの唄】を渡し、【歌姫】にリクエストする。

 【歌姫】は、まるで幼子に聞かせる子守歌のように、優しく、語り掛けるように【始まりの唄】を歌った。

 

 ――大地の鼓動、大地の恵み

 土に根を下ろし、世界の調和を知る

 生命の息吹、たましいの風

 吹き抜ける風の匂いが美を創り出す

 我は大地の一部

 我は空の一部

 世界は己と共にあり、世界は己の中にある

 我から意志は発ち、意志は我に還る

 天の怒り、天の恵み

 大いなる意志が世界の均衡を保つ

 我は大地の一部

 我は空の一部

 世界は己と共にあり、世界は己の中にある

 我から意志は発ち、意志は我に還る――

 

 苦労して取ったからなのか、それとも故郷へ帰るかのような懐かしい響きをこの歌が持っているからなのか、図らずも泣きそうになったアレクトロ。

 誤魔化そうと見回すと、聞いているハンター連中が皆、目頭を押さえたり口元を押さえて嗚咽を堪えたりしているのであった。




「今まで取った酒を全部飲んでいるのか」と聞かれたアレクトロが急に酔っ払い始めたのが、ちとわざとらしいかなと思ったり(^^;)

「歌姫」の歌う歌は、全部公式で発表されている歌詞です。
苦労して「キングチャチャブー」を倒して「始まりの唄」を取り、初めて「歌姫」に歌ってもらった時は、私はリアルで泣きそうになりました。
言葉は分かりませんでしたが、しみじみと心に響く懐かしさを感じる歌でした。

アレクトロが「今は気配を殺すな」と言うシーンがありますが、彼だけがベナトールが「ギルドナイト」であると知っており、暗殺のために気配を殺し、処刑対象に背後から近付くなどという行為を得意としているという事を分かっているために、「今は」という言葉を掛けたのです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。