今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「フロンティア」の「塔クエスト」ではいつもの地図ルートで行けるものではなく、通称「秘境」と呼ばれている場所に飛び下りなければそこにいる「モンスター」が狩れない場合があります。
「彼ら」はその場所から移動しないため、「秘境」に下りる事を知らないハンターは永遠に地図ルートだけを堂々巡りしながら「モンスター」を探し求める事に成り兼ねません。

かく言う私も「2(ドス)」時代に「秘境」の存在を知らないままそこにしかいないはずの「モンスター」を探して通常ルートを彷徨い続け、ようやく下りる場所を自力で見付けた時には既に時間切れギリギリとなっていて失敗した経験がありました。

この話は、それを思い出して書いたものです。


銀色の飛竜

 

 

 

「っかしぃなぁ、【塔】にいる事は間違いないはずなんだがなぁ……」

 依頼を受けたアレクトロは、先程から【塔】のあちこちを駆けずり回って狩猟目標を探している。

 が、移動先ごとに相手が先に移動してしまっているのか、一向に見付からない。

 

 ここまで探し回っても見付からねぇなら、もう【塔】からいなくなっちまってんじゃねぇのか?

 

 そう思いつつ、《5》の細い場所を通り直していたアレクトロは、ふと遺跡の壁の一部が壊れて通れるようになっているのに気が付いた。

 

 ここはたしか、前までは壊れてなかったはず……?

 

 不審に思った彼は、その縁まで行って下を覗き込んでみた。

 高いのか、それとも単に霧が深いだけなのか、下の方がどうなっているのかは分からない。

 

 と、ふいに足元が崩れた。

 

「うわわっ!?」

 落ちてしまったが、幸いにもそれ程高くは無かったようで石畳にしこたま体をぶつけたものの、たいした怪我はせずに済んだ。

 見回すと、だだっ広い石畳が広がっているだけの場所だと分かる。

 

 少し頂上の風景に似てるな。

 

 そう思った矢先、濃い霧の中で、大きな影が佇んでいるのが見えた。

 そのシルエットは多分【リオレウス】のもの。

 背中の【大剣】に手をかけながら、油断無く身構えていると、風が霧を払って姿が見えた。

 

【挿絵表示】

 

 へぇ、綺麗だな。

 

 アレクトロは初めて見たにも関わらず、驚きよりも先にそう思った。

 

 その【リオレウス】は、銀色をしていた。

 金属質の派手な銀ではなく、沈んだような銀。

 

 依頼内容の『銀色の飛竜を見た』っつうのは本当だったんだな。

 

 そう思いつつ、こちらに気付いて威嚇して来た相手に立ち向かう。

 

 

 いぶし銀の交じる甲殻は見た感じかなり硬そうだが、〈切れ味+1〉のスキルで切れ味ゲージが伸びているので、なんとかなるだろう。

 切っている内に頭よりも翼の方が怯むのを見抜いた彼は、こいつは(少なくとも今使っている斬属性の武器では)翼の方が弱点なんだなと思った。

 が、動き回る相手をいちいち横に回り込んで切る事になるため、意外にも難しかった。

 

 このレウスの特徴は、バックブレスを多用する事のようだ。

 

【挿絵表示】

 

 だから突進直後を狙って後ろから切り掛かろうとすると、巻き込まれた。

 どうもホバリングしての攻撃も好んで使うようで、これは〈風圧無効(大)〉のスキルがねぇ奴はしょっちゅう煽られるだろうなと彼は思った。

 

 ホバリングを利用してタイミング良く溜め、下りたところに最大溜めを叩きこむ。

 

【挿絵表示】

 

 これは普通の【リオレウス】でもやる事なので、彼は溜め時間を多く確保出来るこのレウスの方が多く溜め攻撃が出来ていた。

 だが、怒った時のホバリングに時間差が出来、下り切る前に溜め切ってしまって失敗した。

 

 どうも空中で止まったまま連続ブレスを吐いた後、下りずにもう一度、今度は止まり切れずに前に進みながら二度目の連続ブレスを吐く事があるようなのである。

 いつものレウス戦のように、影下あたりで溜めつつ待ち構えていたアレクトロは、影が前に移動したのでタイミングが合わなかったのだ。

 といっても、一度の(三連続の)ブレスを吐いただけでそのまま降りる事もあるため、よく分からないままで取り敢えずいつものタイミングで溜め始め、降りずに影が移動するのを見て解除して再び溜めるという戦法を取るしかなかった。

 

 

 その内尻尾が切れ、翼爪も折れたが、頭が他の部位より硬いのか、頭の破壊が中々出来ない。

 苛ついてうっかり前に回り込み過ぎたアレクトロは、至近距離でブレスに巻き込まれた。

 

【挿絵表示】

 

 ……しまった……!

 

 火達磨になりつつ吹っ飛ばされたアレクトロ。

 ゴロゴロと転がって火を消していると、滑空しつつ鷲掴んで来た。

 

【挿絵表示】

 

 巨大な爪が鎧に食い込む。

 体重が胸に掛かり、息が出来ない。

 

 相手は彼を片足で押さえ込んだ状態のまま、しかしそれ以上は攻撃せずに、ジッと見詰めている。

 

 まるで、警告しているかのように。

 

 アレクトロは見詰め返したまま、目の前が暗転した。

 

 

 次に目を開けると、彼は【ベースキャンプ】にいた。

 どうやら【猫車】で運ばれたらしい。

 ふら付きながらどうにかベッドに辿り着き、寝る。

 目を覚ましたら動けるまでには回復していたので、少し休んで再び出発した。

 あの諭すような目を見たら心苦しくはあったのだが、依頼を引き受けた以上【クエストリタイア】を選ぶ気にはなれなかった。

 

 再び目の前に立ったアレクトロに、【銀レウス】は忌々し気に唸った。

 

「すまんな、俺はハンターなんでな」

『警告したはずだ』

「分かってる。だが、ここで引き下がる訳にはいかねぇんだよ」

『ならば、殺されても文句を言うなよ?』

「望むところだぜ!!」

 そういう会話をしたかのように声を掛けたアレクトロは、吠えた相手に向かって行った。

 

 再び死闘が繰り広げられる。

 が、相手が弱っているのは分かっているので、弱点の翼をなるべく狙いつつ、正面には回り込まないように頭を切った。

 

 切り上げた【大剣】が胸を切り裂く。

 血を吐きつつ吠えた相手は顎を開き、横ざまに頭を振って噛み付いて来た。

 しかし、それがアレクトロの頸動脈に届く前に、倒れ伏した。

 虫の息の相手の頸動脈に、逆にアレクトロが【大剣】を添わせる。

 相手の目を見詰めつつ、そのまま切り裂いた。

 【彼】から目の光が消えたのを確認し、深く息をつく。

 

 それから剥ぎ取りをし、帰って行った。  

 

【挿絵表示】

 




挿絵の「銀レウス」が鷲掴んで来るシーンは、通称「ワールドツアー」と呼ばれている突如舞い上がり、そのエリア全体を何周か旋回した後に襲って来る「リオレウス」の仲間特有の攻撃方法で襲って来た瞬間を撮ったものです。

毒蹴りでも似たような構図になるかもしれないんですが毒蹴りでは毒になった上に必ずピヨリますので、鷲掴みシーンを狙っている最中にたまたま「ワールドツアー」をしてくれたのをチャンスにしてわざと襲われました(笑)

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