今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
(今年の話ではありませんが)
その日は、普通に【リオレウス】を狩猟して帰るはずだった。
上位とはいえ何度も狩っているので、それほど苦戦せずに(といっても誰かはブレスを食らったり毒爪キックを食らったりはしたのだが)【クエスト成功】し、やれやれ帰るぞという段階になって、アレクトロは周りの雰囲気が妙におかしいのに気が付いた。
「――オッサン、気付いてるか?」
「――あぁ、何か違う気配がするな」
「なになに!?」
「ん? 二人共身構えてどうしたの?」
「――しっ、鈍い奴は黙ってろ」
油断無く身構えて周りの気配を感じている二人に対し、対照的にまったく緊張感の無い二人は、ただ不思議そうな顔をしている。
と、それ程遠くない所で咆哮が響いた。
「い、今のなに!?」
「他の【モンスター】がいるのか!?」
今更のように慌てる二人に、「まあそういう事だ、鈍チン」とアレクトロが答える。
「あの鳴き声は……!」
「オッサン、聞いた事あんのか?」
「多分あいつだろうが、確信が持てん」
「確かめるか? まだ回復系の余裕あるし。ギルドから指定されてる【クエスト時間】もまだ充分にある」
「だが、依頼内容以外の行動になりはすまいか?」
「真面目だなぁ、異変を調べるのもハンターの仕事じゃなかったのかよ?」
そして彼にだけに聞こえるように、「特に【ギルドナイト】はそういう仕事は得意だろ?」とアレクトロは言った。
「そんなの怖いよぉ」
「ならおめぇだけ残ってろ。心配ならカイ、お前付いとけ」
そんなやり取りをしている内に、重々しい足音がこちらに向かって来るのを聞いた。
「……。どうやら、向こうから来なすったようだな」
「というよりは、目的は【こいつ】なんだろうぜ」
アレクトロは、今討伐したばかりの【リオレウス】の死体に顎をしゃくった。
同じエリアに入って来た【それ】は、今までに見て来た【モンスター】とは明らかに違う外見をしていた。
一見【ランポス】などの小型【鳥竜種】をやたらデカくしたような外見なのだが、後ろ脚が異様に発達しており、それに比べて非常に前脚は貧弱に見える。
長い尻尾には太い筋肉が付いており、馬鹿でかい頭と同じくらいの太さに見える。
その頭にあるでっかい顎下には、やたらと棘が生えている。
緑褐色の体色のその【モンスター】は、【リオレウス】の死体を見るなり突進して来て、嬉しそうにバクバクと貪り始めた。
まるで、自分達にはまったく眼中に無いかのような素振りである。
「やはり、こいつだったか……」
「な、なに? この恐ろし気な【モンスター】」
「そういえば、おいら見たよコイツ。うんと遠くからだけど」
「そなの!?」
「うん。【ユクモ村】でね」
「確か【獣竜種】って奴だよな?」
「そう。【恐暴竜イビルジョー】。【獣竜種】の一種なんだが、【ドンドルマ】指定の狩場では、今まで見掛けなかったんだが……」
「生息域を広げやがったか?」
「分からん、単にはぐれた奴がたまたま近くに来ただけかもしれん。詳しくは帰ってから調べる必要があるだろう」
「――で、そのままにしとく気はねぇよな? オッサンよ」
「まあ、大型【モンスター】を前にして、狩らずにいられるハンターは、まずいねぇわな」
当然のように、二人は武器を構えた。
「そういうとこはほんっと意気投合するのが早いよねぇ」
「ちょ、ちょっと! こんなの狩る気!? あたし見た事ないのに!?」
呆れて武器を構えるカイと、わたわたしつつも構えるハナ。
その雰囲気を察したのか、それとも食い終わって満足したのか、相手が向き直って吠えた。
咆哮と共に生臭い息と血が四人にかかる。
まず相手が行ったのは、大きく右に左にと体を振りながら前進する攻撃。
尻尾も含めて体全体に攻撃判定があるので、非常に攻撃範囲が広く、避けにくい。
四方に散った四人はそれでも巻き込まれそうになり、ある者は前転回避、ある者は緊急回避でしのいだ。
けっこうそれを繰り返されたり、体全体を使って広く体当たりをして来たりして、攻撃のタイミングが掴みづらい。
足元が比較的当たり辛いようなので足元に潜り込むと、今度は大きく片足を上げ、踏み下ろして衝撃を与えて来た。
離れると、赤黒いブレスを放って来る。
これも左右に薙ぎ払うので攻撃範囲が広く、上手く回避出来なければ大きく回り込もうとしても巻き込まれてしまう。
自身の巨体を生かした範囲の広い攻撃が多いようで、狭いエリアだと非常に避けにくい。
闘いなれていないPTなので、攻撃よりもむしろ回避に専念するしかなかった。
頼りは麻痺か、罠で束縛出来るわずかな隙を狙うか、ベナトールによるスタンの間か、もしくはこけている間か。
とにかくわずかな攻撃チャンスに少しでも多く、的確な攻撃を当てなければならない。
怒ると全身の筋肉が盛り上がる。
そのせいで体のあちこちにある古傷や、今までの攻撃によって付けられた傷が開くようで、見た目の痛々しさ同様に痛みによって怒り狂う様子。
巻き込まれて死んだ小型の【モンスター】を、戦闘中にも関わらず食らう様子からして、かなり貪欲な性質らしい。
と、その捕食対象にアレクトロが選ばれてしまった。
「うわ!? ちょっ――! ぐわあぁ~~~!!!」
片足で抑え込まれ、もがきながら餌食になるアレクトロ。
「いかん! 早く残り全員で攻撃するんだ!!」
一斉に頭に攻撃を集中するも、中々彼を放してくれない。
ようやく諦めさせる事に成功した頃には、彼はもうビクビクと痙攣していた。
「まずい! 一旦退くぞ!!」
【モドリ玉】で【ベースキャンプ】に帰った一行は、大きく肉を食い千切られたアレクトロを治療し、なんとか命を繋ぎ止めた。
意識が戻った彼は呻きつつ【秘薬】を飲み、「ひでぇ目にあったぜ!」とぼやいた。
「ねぇ、まだ続ける気? あたし食べられるのやぁよ?」
「おいらも嫌だ。てか、アレクが食べられるのを見るのももっと嫌だ!」
「大丈夫、今度はオッサンが食われるさ。多分」
「そんな問題じゃないわよっ! てか、そんな冗談言ってる場合じゃないでしょお!?」
「……。狩り慣れてないからといって、早々に【リタイア】を選ぶのは、あまり得策ではないのだが……」
「でも、このまま続けたら、また誰かが餌食にされちゃうよ?」
「まあそうかもしれんがなぁ……」
「お願いベナ。今回は【リタイア】して。今日はアレクの誕生日で、帰ったらみんなでお祝いしようって言ったじゃない。そのアレクが食べられちゃったんだよ!? あのまま胃に入ってたら、もうお祝い出来なかったんだよっ!? そんな誕生日なんて、悲し過ぎじゃない」
「誕生日に食われて死んだってのも、まあ洒落にはならんけどな」
自身が食われたにも関わらず、それでも冗談めかすアレクトロ。
「この日がずっと泣く日になるなんて、おいら嫌だからな!?」
「……。分かった。【リタイア】しよう」
「いいのか? オッサン。俺は続けたって構わねぇんだぜ?」
「あぁ構わんよ。どっちみち、ギルドへの報告も兼ねて詳しく調査する必要があるからな」
それを聞いて素直に従うアレクトロ。
どちらにしろ、始めから二人は様子見でちょっかいをかけ、相手の闘い方を見つつあわよくば捕獲もしくは討伐に持って行こうという魂胆だったのでそこまで無理強いする気は無かったのだ。
「ありがとベナ。大好きっ♪」
ベナトールは、抱き付いたハナの頭をポンポンしてから【クエストリタイア】を選択した。
依頼自体は達成していたものの、証拠のための素材を剥ぎ取る前に【イビルジョー】に食われてしまったため、成功報告が出来ないと判断したためだった。
だが後で調査に向かったギルド職員が、『ギルドに依頼のあった【リオレウス】と思われる死骸が目撃報告のあった狩場に散乱しており、食い散らかされて酷い有様だったもののハンターによる攻撃の後も見られた』という報告をしてくれ、四人は成功扱いとなって晴れて報酬素材や報奨金を手に入れた。
「♪はぁっぴばぁっすでいトゥーユー♪♪」
帰って来た夜に、【大衆酒場】でハナに歌われて照れ隠しにムスッとしていたアレクトロは、騒ぎで気付かれたついでにその場にいたハンターみんなに祝われて、真っ赤になりながら酒を飲み干した。
あとはやけくそになって、飲み食いして騒いでいる内に酔いが回り、特別に用意された料理に突っ伏して寝てしまった。
苦笑いしながらカイが起こそうとすると抱き付いて押し倒し、上に乗っかったままガーガー鼾をかきだした。
ハナが引き剥がそうとしたが、離れない。
仕方ないのでベナトールが後ろ首を掴んでぶら下げ、部屋まで放り込みに行った。
次の日、彼が二日酔いで動けなかったのは言うまでもない。
後の調査によると、【ユクモ村】などに生息していた【獣竜種】の類いがこちらに生息域を広げる際に、こちらの【モンスター】に対抗するために更に強くなって適応したもののようだと分かった。
【ドンドルマギルト】が管轄している狩場に棲息している【モンスター】には手強いものが多く、同じものでもHR100以上の【凄腕】と呼ばれているランクでしか狩れない【変種】や、SRでしか狩れない【特異個体】などがいるからである。
なので、ハンターランクでは狩れず、G級ランクの上の方でしか狩猟許可が下りなくなった。
今のところ四人の中でGRの資格を持っているのは、ベナトールのみ。
だが彼でさえも、今のランクではまだ許可が下りないとの事だった。
つまり、あのままこのメンバーで狩りを続けていたならば、確実に誰かもしくは全員が死んでいたという事なのである。
知らなかったとはいえ、かなり無謀な挑戦だったのだ。
「捕食」されるハンターってサイズ的に丸呑みされてもおかしくないはずなんですけど、例え「アカムトルム」のような馬鹿デッカイ「モンスター」でもご丁寧に押さえ付けて細かく食い千切るようにして食べてますよね(笑)
まあそれでも手足を捥がれたり内臓をごっそり持って行かれたりしてもおかしくない程なんですが、そうなるとアレクトロが引退に追い込まれて二度と狩りが出来なくなるので肉を食い千切られただけにしました。
ちなみに「フロンティアZ」では通常の「モンスター」で捕食して来るものはいないため、捕食シーンを見たいならば「辿異種(てんいしゅ)」と呼ばれているGR200以上で狩れるものを相手にしないといけないそうです。
私(ベナトール)のGRは42ぐらいなので、とてもじゃないけど無理っす。
しかもこのランク、ランク制度が変わってHR3からが「上位」扱いになり、「SR制度」が廃止になってからのランクなので、それまではGR3ぐらいでした。
なので、未だに短編の中のベナトールは「下位」扱いのままです。
私の書く短編は世界観も含め(ランクの幅を持たせるために)ランク制度の変わる前のシステムを使っていますので、今現在HR5からになった「凄腕ランク」もHR100からの扱いにし、廃止になったSRも採用しております。
従って現在のHR1(下位)→HR3(上位)→HR5(凄腕)→HR7(G級)ではなく、HR30まで(下位)→HR31(上位)→HR100(凄腕)→HR999(SR1)→SR999(GR1)という扱いになってます。
(上位に上がる前とG級になる前に昇格試験があります)
ランクを上げる、またはHRより上のランクを目指すには途方もなく遠い道程だという事にしておきたかったのです。