今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
※血飛沫多めなので挿絵を見る人はグロ注意です。
「ベナ、【街】が騒がしいけど【古龍】が来たの!?」
「あぁ、【ラオシャンロン】だ。今から行って来る」
「――あたしも行く!」
決意した表情でそう言うハナに、ベナトールは諭すように言った。
「お前は残ってろ。踏まれて死にたくなければな」
だがハナは「いいえ!」と激しく首を振った。
「幼い時みたいに、ただ何も出来ずに恐怖に打ちひしがれてるだけでいるのは嫌なの! あの時の【ラオシャンロン】とは違うかもしれないけど、あたしの手で撃退させてやるんだからっ!」
「……。それが【復讐】ならばやめておけ」
「【復讐】じゃないわ。ただあたしの存在を思い知らせてやりたいの。『あたしは生きてるんだから』って」
少しの間黙ったままじっと見下ろしていたベナトールは、踵を返しながらぼそりと言った。
「……。〈風圧(大)〉だ」
「――え?」
「〈風圧(大)無効〉。そのスキルを付けとけ」
「分かった。ありがとベナ!」
既に歩き出していたその背中に、ハナはお礼の言葉を投げた。
【砦】の《1》に近付いて来た【ラオシャンロン】に、ハナはありったけの声をぶつけた。
「あ、あんたになんか、あんたになんか、もう負けないんだからっ!!」
だが【剣士】では攻撃が届かない安全な高台の上からだし、完全に腰が引けているのでまったく説得力がない。
その証拠に相手が立ち上がるや否や、傍にいたベナトールの脚にしがみ付いた。
ベナトールは兜の中で苦笑いした。
それでもベナトールが《2》に移動すると、付いて来た。
少し待ってやって来た【ラオシャンロン】の頭(正確には顎下)を叩いているベナトールと並んで、おずおずとではあるが切り付けるハナ。
「このままこいつの歩みに合わせて、移動しながら頭を攻撃してろ。嫌がって頭を振る事はあっても噛み付く事は絶対無い。俺は腹に回る」
「り、了解」
頭を攻撃し続けるのが、実は一番安全な攻撃方法なのだ。
なぜなら腹下は、攻撃が通りやすいかわりに怯んだ時に圧し潰されるからである。
陸橋に差し掛かった時にそこから背中に飛び移って【対巨龍爆弾】を置いて来たベナトールは、ついでに剥ぎ取って来た【龍薬石】をハナに渡して言った。
「前に言ったの覚えてるか? これを【回復薬】【回復薬グレート】で三種調合すれば【秘薬】になる。何かあったら使え」
「分かった。ありがとう」
彼女がポーチに仕舞うのを確認して、再びベナトールは腹下に潜った。
《3》まで攻撃を進めて行った二人だったが、そこで悲劇が起きる。
エリアの端に設けられていたバリケードを【ラオシャンロン】が体当たりして破った際、ハナが巻き込まれて体の下に入ってしまったのだ。
「おい、早く脱出しろ!」
ハナを促したベナトールは、彼女が尻尾側に逃げて行ったのを見てまずいと思った。
直ちに武器を仕舞って追い掛けるベナトール。
ベナトールはハナを掻っ攫い、尻尾の動く範囲外に放り出した。
直後に全身の骨が折れたかと思う程の衝撃が、彼に走る。
相手の体側後方に飛ばされた彼は、起き上がる前にもう一度尻尾に巻き込まれた。
逃れ切れずに何度も尻尾を食らう。
迎撃召集で参加した者が、エリアの境目で離脱に失敗してこれで殺されるのを、ベナトールは何度も見て来ている。
事故を防ぐために【モドリ玉】を調合分まで持って行くのが【剣士】としては無難なのだが、今回は使う余裕が無かったのだ。
【ラオシャンロン】が通り過ぎ、隣のエリアに消えた時、彼は俯せで倒れたままになっていた。
「ベナ! ベナ!!」
ハナは泣きそうな顔でオロオロしている。
それでも必死で先程渡された【龍薬石】を三種調合し、【秘薬】を作って彼の手に握らせた。
が、ベナトールは黙って押し返すと、ゆっくりと立ち上がった。
「……それは、何かあった時にお前が使うんだ」
「でもっ! でもっ!!」
「寝れば治る……。それより、これであいつの尻尾がどんなに危険か分かっただろう」
「う、うん。ごめんなさい……」
ベナトールはハナの頭をポンポンしてから、ゆっくりと【砦】内に設けられた簡易ベッドまで歩いて行った。
その道程は今の彼にとっては長く感じられたのだが、途中で他の【モンスター】はいないと分かっているため、回復系を飲む必要がなかったのである。
【砦】内でも地震のように、【ラオシャンロン】の歩く地響きが常に伝わって来る。
簡易ベッドにその振動を吸収出来るはずもなく、横になっても傷に響いて全身が疼いたが、目を閉じている内にいつの間にか微睡んでいた。
泣きそうな顔で見守っていたハナは、彼が少し経ってからいつものように起き上がり、そんな彼女を見付けて頭をポンポンしてくれたので、安心して泣き笑いした。
攻撃し続けても歩みが止まらない【ラオシャンロン】は、《4》でも食い止められず、とうとう最終門である《5》まで来てしまった。
「絶対に止めてみせるんだからっ!!」
ハナは門を護る【
その時、「【撃龍槍】の準備が出来たぞぉ~~!」と声が掛った。
「ハナ。お前が止めを刺してやれ」
ベナトールは、彼女の肩に手を置いて言った。
ハナは力強く頷き、「私がやるわ!」と宣言した。
だが段々と近付いて来る【ラオシャンロン】に怖気付き、馬鹿でかいスイッチの前でたじろいでいる。
「まだだハナ。早まるなよ」
恐怖のあまりに今にもスイッチを作動させそうなハナに、ベナトールは声を掛ける。
「まだだ。もう少し引き付けろ」
ハナはガクガクと震えながらも、スイッチの前から動かないでいる。
【ラオシャンロン】は立ち上がり、吠えた。
「――ひっ!」
ハナは耳を塞いでビクッとなった。
「堪えろハナ。もう少しだ」
相手は立ち上がったまま、ゆっくりゆっくり近付いて来る。
そして、とうとう密着する程にまでなった。
【ラオシャンロン】は、ハナを見下ろしている。
ハナは見竦められ、泣きそうな顔になっている。
「よし今だハナ!」
硬直していたハナはベナトールの声にハッとなり、付属の槌で思い切りスイッチをぶっ叩いた。
ガシュン!
直後に機械的な音と共に、今いる高台の下の壁から巨大な槍が数本飛び出した。
それは【ラオシャンロン】の体を貫通し、相手は悲鳴を上げて仰け反った。
やがてキリキリと音を立てて【撃龍槍】が引っ込むと、【ラオシャンロン】は滝のように大量の血を迸らせながら数歩下がったところで力尽き、大震動と共にその場に崩れ落ちた。
つまり、撃退するつもりが討伐してしまったのだ。
「よくやった! でかしたぞハナ」
周りで沸き上がる歓声を背に、ベナトールは(兜で見えなかったが)満面の笑みでしゃがみ込みつつ彼女の頭をポンポンし、右腕を回して優しく抱いた。
「こ、怖かったあぁ……」
力が抜けそうになるのを、彼に抱き付く事で支えるハナ。
そんな彼女を高い高いするように持ち上げてから、彼は肩に乗せて歓声の中に入って行くのであった。
「ハナ」と「ラオシャンロン」の因縁は、友人の書いてくれた一番最初の短編から始まっております。
ちなみに「カイ」もその時に巻き込まれているため、ハナとカイは幼児期から「ラオシャンロン」によって出会うように運命付けられたと言えるのかもしれません。
「パートナー(もしくは戦闘参加型NPC)」のAIは、どうも弱点もしくは脚を狙って転ばせるなどのようなサポートを行うために闘うように出来ているらしく、せっかくベナトールが「頭を狙うように」と教えているのに脚付近に回って攻撃し始めるので、一緒に頭を狙っているというような挿絵撮影をするのが難しかったです。
あと「尻尾で叩かれる」のが上手い具合に吹っ飛んだ格好で撮影出来ず、何度もやり直しました。
それでもどんな格好になっているのか分かりませんよね(^^;)