今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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HR100(現在ではHR5)以上の【凄腕】と呼ばれるランクになって初めて狩る事を許される【変種】と呼ばれる【モンスター】は、科が違うにもかかわらず【飛竜種】【魚竜種】などで括られた種類全体で定義された【汎用素材】と呼ばれる素材に変わります。

それは今までの【モンスター】で剥げていた、その科だけしか剥げない【火竜の〇×】【雌火竜の〇×】などのような細かく分けられた素材ではなく、【飛竜種の〇×】【魚竜種の〇×】のような種類別だけの名前別けがされています。
恐らくこれは【変種】として区分けされた【モンスター】全体の肉質に関係しているものと思われるのですが、よく分かっておりません。

ですが素材名が変わったり、【モンスター】の肉質が変わる事によって武器の持つ属性にあまり意味が無くなったり、狩場で採取出来るものにも今までのものとは違うものが採れたりするようになるため、ハンターの間では「【凄腕】になると世界が変わる」と言われています。


哀しい親子反応

 

 

 

「ねぇアレク、汎用素材の【飛竜種の翼】ってさ、【飛竜種】の【変種】だったらどれでも良いんでしょ?」

「そうでもねぇぞ。同じ翼を持つ連中でも【ディアブロス変種】なんかの【ブロス科】は出ねぇし、同じ【グラビモス科】でも幼体の【バサルモス変種】には出るが成体の【グラビモス変種】には出なかったりするし」

「ふぅん……」

「狩りやすさで言えば【リオス科】か【バサルモス】あたりじゃねぇの。……って、何で俺に聞くよ?」

「何となく。カイだと生態に詳しくなさそうだし」

「いやオッサンの方が詳しいだろうがよ」

「だって部屋にいなかったんだもん」

「仕事か?」

「分かんない。でもあたし、知りたい時にすぐに聞かないと気が済まないから」

「まあ分からんでもねぇがなぁ……」

 

 その時ノックの音がしたので返事をすると、「ハナはここにいるか?」と聞かれた。

 

「ほれガードが心配してるぜ、さっさと行ってやれよ」

「うんありがとアレク。【リオレイア】の【変種】にする。カイにもそう言っといて」

 

「【リオレイア変種】か……」

 

 出て行く彼女を目だけで見送りながら、アレクトロは呟いた。

 その言葉には、なぜか寂しげな響きが混じっているように思われた。

 

 

 いつものように四人で集結し、【密林】へ。

 それぞれが別の所に到着したのを利用してバラバラで散策し、見付けた者が【ペイントボール】を投げて合図した。

 他の者は、匂いを頼りに急いでその場に駆け付ける。

 一番先に遭遇する事になったのはカイだった。

 着いた者から先に攻撃を仕掛け、全員が揃う頃に一回目の麻痺を達成。

 そこでアレクトロは尻尾に回り込み、溜めた。

 

 ズバンッ!

 

 気持ちの良い音がして、尻尾が飛ぶ。

 相手は勢い余って一回転し、痛そうに吠えた。

 ベナトールが構わずに頭を攻撃し続け、昏倒させる。

 アレクトロは、今度は横に回り込んで溜めた。

 起き上がる前にもう一度溜め、相手が次の行動に移る直前に、翼に一撃。

 怯んだのでもう一太刀加え、離脱。

 ハナは主に足元で、カイは体の側面で切り付けている。

 

 ギャオォ~~~!!!

 

 怒りに移る特大の吠え声に、ハナは「きゃっ!」と言って耳を塞いだ。

「おいおい、〈耳栓〉ぐらいは付けろよなぁ」

 アレクトロは呆れている。

 硬直が解けない内に回転尻尾が来たが、その尻尾が彼女に届く前に、ベナトールが掻っ攫った。

 彼女にそのスキルが無いのが当然であるかのような、ごく自然な動作だった。

 

 【リオレイア変種】が次に狙いを定めたのは、アレクトロだった。

 

 回転尻尾を避けるために少し離れていたのが災いしてか、突進して来る。

 避けて追い掛けたがすぐに体を反転させ、連続で突進。

 二度目の突進を避けた彼は、相手が勢い余ってつんのめったのを見て、その背後で溜めた。

 が、溜めが完了する前に相手が振り向いた。

 そして、彼が切り下す寸前に踏み込んだ。

 

「アレク~~~!!!」

 悲鳴に近いカイとハナの叫び声。

 

 アレクトロは振り被った姿勢のまま動きを止め、手から【大剣】を滑り落した。

 雌の火竜特有の、発達した下顎の突起に、彼は串刺しにされていた。

 

 ……クソ……、やっちまったぜ……。

 

 アレクトロは歯を食い縛りつつそう思った。

 突起は彼の、胸の中央付近を刺し貫いている。

 卵から生まれた幼体に、ドロドロになったミルク状のものや消化途中の肉などを吐き戻して与えるために発達したものなのだが、人間と違って乳房のように柔らかくはなく、棘のように硬いものであるため、いくら頑丈な防具といえども通り抜けてしまったのだ。

 

 急激に血圧が下がっていくのを、アレクトロは感じた。

 徐々に目が霞んでいく。

 意識が朦朧となった中で、彼は無意識に次のように言った。

 

「……母さん……」

 

「――何!?」

「今、今なんて――!?」

 ベナトールとハナが驚愕したように聞き返す。

 アレクトロは【彼女】の顎を抱きかかえるようにすると、そのままぐったりとなった。

 危険な状態であると判断したベナトールが、直ちに引き剥がそうとアレクトロの体に手を掛けると、【彼女】はなぜか唸った。

 

 まるで、我が子に抱き付かれた母親であるかのように。

 

 そのままじっとしているところを見ると、もしかしたら本当に母性を感じているのかもしれない。

 だが、このままにしておくとアレクトロは死んでしまうかもしれないのだ。

 

 そこで、ベナトールは【彼女】に交渉した。

 

「レイアよ、よく聞け。このままではアレクは死ぬかもしれんのだ」

 分かるはずもないと思いつつも、彼は諭すように言葉を続けた。

「我が子を引き剥がされるのは辛かろうが、このままにしておく訳にはいかんのだ。分かってくれ」

 

 【彼女】は黙って聞いているように思えた。

 

 その間にもどんどん血が流れ、《4》の白い砂浜にボタボタと落ちて赤い染みを作っている。

 地面に落ちていた【大剣】を拾い、もう一度アレクトロの体に手を掛ける。

 

 【彼女】は、今度は大人しくしている。

 

 突起から彼の体を引き抜いた途端、大量の血が迸った。

 【彼女】に掛かってぴくりと反応したが、それでも大人しくしてくれている。

 

「ありがとな……」

 礼を言ったベナトールは、ポーチから【モドリ玉】を出して地面に叩き付けた。

 他の者も急いで続く。

 

 

 【ベースキャンプ】のベッドにアレクトロを横たえ、胴鎧を剥がす。

 穴の開いた胸から吹き出し続けている血を止め、布できつく巻いた。

 彼は意識の無いまま不規則な呼吸を続けていたが、血が止まった事で血圧が多少なりとも元に戻りつつあるのか、兜の中で薄らと目を開けた。

 

「……母さんは……?」

 不安げに目を彷徨わせ、彼はそう言った。

 まだ朦朧としているのだろうか?

 

「――アレク? 何言ってるの?」

 ハナは狼狽して聞いた。

「どうしたんだアレク!? しっかりしてくれ!」

 泣きそうなカイの声に気が付いたようになり、彼は「そうか……。もういないんだ……」と寂しげに言った。

 

 それから再び目を閉じると、すうすうと寝始めた。

 衰弱して疲れていたのだろう。

 

 その寝息を聞いて、三人は揃って安堵の息を吐いた。 

 

 

 少し経って目を覚ましたアレクトロは、もう起き上がれるようになっていた。

「すまんみんな。しくじっちまった」

 バツが悪そうに頭を掻く。

 

 きっと、兜の中では苦笑いをしている事だろう。

 

「どういう事か、説明してくれない?」

 そんな彼に、ハナは言った。

「何をよ?」

「覚えてないの? あんた【リオレイア変種】に向かって『母さん』って言ったのよ?」

「俺、そんな事口走っちまったのか……」

 

 寂しそうに笑うアレクトロ。三人は少し彼が俯いた事で、兜で見えない表情を察した。

 

「アレク、もしかして小さい頃の記憶が、あのレイアと重なったのか?」

「そうなのかも、な」

「ちゃんと説明して。どういう事なの?」

「……。過去の事だ。もう母さんはいねぇ」

「それじゃ分かんないでしょお」

「……。ハナよ。話したがらん事を無理に聞くもんじゃねぇぞ」

 

「良いさ、別に隠すつもりもねぇし」

 そう前置きして、アレクトロは「母さん」と呼んでいた【リオレイア】が殺されるまで、【彼女】に育てられていた事を説明した。

 

「えぇ!? そんな過去があったのぉ!?」

 ハナは素っ頓狂な声を上げた。

「……成程。それで合点がいったわ」

 ベナトールは、先程の【リオレイア変種】の、まるで我が子を護るかのような行動をアレクトロに話した。

 

「あいつ、俺にそんな事をしてくれたのか……!」

 心成しか、アレクトロは感動しているようである。

 

「そうかぁ、だから大人しかったのか。【彼女】」

「カイは知ってたの?」

「うん。過去に話してくれた事があったからね」

「けど、アレクの母さんはとっくの昔に殺されたんでしょう? それなのにまったく別の個体がアレクを護ろうとするなんて、不思議よねぇ」

「恐らく、過去に伝えられたのだろうな」

「アレクのエピソードを、って事?」

 ハナにそう聞かれて、ベナトールは頷きながら続けた。

「確信は持てん。が、テレパシーのようなもので過去に伝わっていたその記憶が、火竜の雌だけに連綿と受け継がれて来たとしても不思議はない」

「じゃあなんで、今まで攻撃されてたの? 今までに狩って来たどの【リオレイア】も、アレクを護ろうとはしなかったよ?」

「血の記憶、ってやつかもな」

 アレクトロが割り込み、引き継いだ。

「チノキオク? 何それ?」

「あいつにまともに掛かった俺の血の、その匂いが過去の記憶を呼び覚まさせたのかもしれん」

「アレク、【彼女】を抱き締めてたもんな。だから余計に護ろうと思ったのかもな」

「俺無意識にそんな事までやってたんかよ!?」

 

「……。さて――」

 ベナトールは頃合だとばかりに話を切った。

 

「過去にどんな事があろうが、依頼は達成せねばならん。分かるな?」

「んなこた(はな)から分かってるよ。それに、多分もうあいつは俺を護っちゃくれねぇだろうぜ。――てか、例えまた護ろうとしてくれたとしても、容赦なんぞするつもりはねぇよ」

 

 アレクトロはそう言って胴鎧を着こみ、ベッドの傍らに立て掛けてあった【大剣】を背に負った。

 

「なんか可哀想ねぇ……」

「あのなぁ、【リオレイア変種】にするっつったのおめぇだろうが」

「だって、アレクの過去知らなかったんだもんっ」

「だからっつって、【リタイア】するなんぞ抜かすなよ?」

「うんしない。これはこれだし」

「上等だ。なら行くぜおめぇら!」

「了解っ!」

 二人が声を揃えたのを背中で聞きながら、アレクトロはもう駆けている。

 ベナトールは兜の中でフッと笑って付いて行った。

 

 

 再び目の前に立ったアレクトロに、【彼女】は吠えた。

 その響きが心成しか嬉しそうに聞こえるのは、アレクの過去を知った者らの気持ちが変わったせいだろう。

 そして彼に向って真っ直ぐに突進して来たのも、けして嬉しかった訳ではないはず。

 

 が、それが分かっているかのように、アレクトロは受け止めた。

 ただし、まともに受けると先程の二の舞になるので、【大剣】をかざしたのであるが。

 

 突進が止められたと知るや、【彼女】はがばりと口を開け、横様に首を振った。

 巨大な牙が頸動脈に届く前に、近付いていたベナトールがアレクトロを打ち上げる。

 

 そしてそのまま打ち下ろした。

 

 悲鳴を上げて怯んだのを見越して、もう一発。

 ベナトールに狙いを変えて再び噛み付こうとしたが、彼は寸での所で躱している。

 僅かな動作で近付き、縦二発。

 鬱陶しそうに体を回転させようとしたが、その前にハナに脚を切り付けられて、堪らずにこけた。

 

 戻って来たアレクトロが溜めている間に麻痺組が切り刻み、溜め攻撃が完了した直後に麻痺らせる。

 頭を叩き続けているベナトールによって、麻痺が解けた直後に【彼女】は昏倒した。

 アレクトロが溜め切りをお見舞いする。

 起き上がったタイミングに合わせ、ハナがすかさず【閃光玉】を投げる。

 

 【彼女】が視界を奪われている間に一斉攻撃すると、脚を引きずり始めた。

 

「よし畳みかけるぞ!」

「おうっ!」

 が、逃げる【モンスター】は弱っているにもかかわらず意外にも速いので、止めを刺す前に逃げられてしまった。

「惜しいな。もうちょいだったんだがな」

「行先は分かっている。《7》で寝るつもりなのだろう」  

「んじゃま、ゆっくり行きますか」

「あんまりゆっくり行ってたら、回復しちゃうんじゃないのぉ?」

「それどんだけゆっくり行く気だよ!?」

 突っ込みながら走るアレクトロ。

 

 案の定《7》で寝ていた【リオレイア変種】に近接し、二人は溜めた。

 が、溜めている間に相手が【罠】にはまり、攻撃が完了する直前に捕獲された。

 

 犯人はハナである。

 

 討伐する気満々だったアレクトロだったが、兜の中でまあいっかという顔をした。

 そして、少しだけ嬉しそうに、「命拾いしたな、()()()」と言った。

 

 




アレクトロのエピソードは「アレクトロ物語(第41話)」を参照してください。
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