今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
多分。
そこは【火山】の土の中。
砂礫の交ざったその中で、
かの【幼子】は待つという。
戯れ者を、待つという。
それは、アレクトロがハンターになって間もない頃。
正確には、ようやく【火山】へ行くのを許されるようになった頃だった。
ある日【村】で、「見えない【飛竜】を見た」という噂が立った。
見えないのに「見た」と言う者がいるのも不思議なのだが、なんでも「見えないのにいきなり目の前に現れた」という事だった。
狩猟と同じくらいに生態観察が好きなアレクトロは、【村長】に「調査させて下さい!」と願い出た。
その好奇心一杯のキラキラした目を見た【村長】は、半ば呆れながら次のように言った。
「アレクトロよ。探検に行くのとは違うのだぞ? 相手は【飛竜】だという。しかも見えないという噂じゃ。そのような正体も分からぬような【モンスター】に、おいそれとお主のような駆け出しを向かわせる訳にはいかん。【飛竜】の恐ろしさを知らぬお主ではあるまい?」
その頃の彼は【飛竜】というと【リオレイア】ぐらいしか狩った事がなかったのだが、それでも彼を育てた【彼女】と違って殺意剥き出しで襲って来る方の野生の【彼女】の恐ろしさは、【飛竜種】の本性を戦慄と共にその身に叩き付けるには充分過ぎる程だった。
「それは身に染みて分かってます。分かってますが【村長】、『見えない』といってもまったく見えない訳ではないみたいじゃないですか? 噂では『いきなり目の前に現れた』と。そんな面白い【飛竜】がいるなら見てみたいんですっ!」
「いきなり現れて、いきなり食われたらどうするつもりなのじゃ?」
「う……、それは困りますけど、けど【大剣】ならガード出来ますし! 前まで使ってた【片手剣】でもっ! だからお願いしますっ! 俺そいつを見てみたいんですっ!」
アレクトロは、【村長】に詰め寄らんばかりである。
「……。まあ、最終的には自己責任ではあるがのぉ……」
「ですよねっ!? なら俺行って来ますっ!」
アレクトロは、勢いよく頭を下げて踵を返し、嬉しそうに準備をするべく自分の部屋まで駆けて行った。
「元気じゃのぉ、あの子は……」
その後ろ姿を見送りながら、【村長】は呟いた。
実は彼は、その【見えない飛竜】の正体を知っていた。
なので、いくら駆け出しでもアレクトロの実力ならば、なんとかなるだろうと思っていた。
渋って見せたのはわざとで、一応危険を伴う【飛竜種】である事を、少しでも知らしめたかっただけである。
一人で行くつもりだったが案の定付いて来たカイと共に、【火山】へ。
各エリアを散々走り回ったが【イーオス】や【ランゴスタ】がうじゃうじゃいるだけで、【飛竜種】と見られる【モンスター】は、未だに見付からない。
一応別れて散策もしてみたが、それでも見付かる気配が無い。
「おいらもう疲れたよぉ」
《2》に合流した時、カイがぼやいた。
「どんだけ体力ねぇんだよお前は!」
「アレクがあり過ぎるのっ! ねぇ休もうよぉ……」
「ったくしょうがねぇなぁ。ならあの岩にでももたれてろ」
アレクトロは、手頃な岩の塊を指差した。
やれやれというふうに、カイが背中をもたせる。
と、その時その【岩の塊】が動いた。
「ええぇ!?」
素っ頓狂な声と共に、カイが弾き飛ばされる。
「なな、なんだぁ!?」
アレクトロも素っ頓狂な声を上げている。
下から砂礫を巻き上げながら現れたのは、岩の塊のような【モンスター】だった。
「もしかしてこいつかぁ!?」
よく見ると、前脚に当たる部分が小さめの翼になっている。
「今まで隠れてたって事!?」
「みたいだな。だから見付からなかったんだな」
間違いなく【飛竜種】であると判断したアレクトロは、背中の【大剣】の束に手を掛けつつ、じりじりと間合いを計り始めた。
「ちょ、ちょっと! コイツ狩る気なのか? どんな攻撃して来るかも分かんないのに!?」
「分かんねぇから狩るんじゃねぇかバーカ。ハンターなら狩りの中で、その【モンスター】との闘い方を覚えるもんだぜ」
彼の目は、好奇心と未知の【モンスター】と戦闘出来る嬉しさで、キラキラと輝いている。
「大怪我しても知らないからねっ!」
そう言いつつも【双剣】を構えたカイだが、腰は引けている。
「てか、なんかこいつちっさくねぇか?」
【飛竜種】にしては小さ目の体躯に、アレクトロはなんとなく拍子抜けしている。
「確かにね。体もなんだか丸っこいよね」
「顔もどことなく幼いような……? もしかして幼体か?」
「子供なの?」
「多分。【リオス科】の幼体に、顔の幼さ加減が似てる」
「そんなのよく分かるねぇ。おいらちっとも大人か子供か分かんないや」
「まあ身近に【幼い飛竜種】がいたからな。毎日一緒にじゃれてりゃ嫌でも観察出来る」
「ある意味恵まれた環境だったんだね」
「まあ、そうかもな」
取り敢えず、試しにぽてっとした腹に切り付けてみる。
ガキンッ!
火花が散り、【大剣】が弾かれた。
「かってぇ!?」
まるで、岩そのものを切っているような感覚である。
「こいつ本当に岩なんじゃねぇのか!?」
「これじゃ攻撃出来ないじゃんかぁ」
だが、切れ味が高い段階ならば、翼の端あたりはなんとか弾かれずに最後まで振り抜ける事が分かった。
でもそれでは本体に攻撃出来ない。
一応翼に攻撃し続ければいずれは弱るだろうが、時間がかかって仕方が無いだろう。
そんな事では時間内に間に合わないかもしれない。
「どうする? ダメ元で弾かれつつ攻撃していくか? それでも一応まったくダメージが無い訳じゃないし」
「それじゃすぐに刃が欠けちゃうよ。一応【鬼人化乱舞】すれば弾かれないのが分かったけど、すぐに刃がボロボロになっちゃったし」
「んじゃ時間切れを覚悟して、翼に攻撃し続けるしか――」
「ふっふっふっ」
カイは急に得意気に笑い出すと、「じゃ~~~んっ!」と言って、【大タル爆弾】を出した。
「うぉ、いつの間に!?」
「へっへ~~ん、密かに持って来てたんだもんね~~」
「お前、そういうのは用意いいのな。【クーラードリンク】はしっかり忘れるくせに」
「う、うるさいっ!」
「――で? それをどうやって仕掛けるわけ?」
「【落とし穴】に落とすに決まってるだろお」
「用意周到な事で」
「偉い?」
「ハイハイ、偉い偉い」
「もっと感情込めろよぉ」
「うるせぇさっさと仕掛けろよ」
カイはぶつぶつ言いながら仕掛けた。
落ちて暴れている間にカイが置いていると、まだそれ程離れていない内にアレクトロが【ペイントボール】を投げた。
当然のように【大タル爆弾】が爆発し、カイは巻き込まれて吹っ飛んだ。
「あ、悪い」
「悪いじゃないだろおぉ!?」
ブスブスと煙を上げながら、カイは思いっ切り突っ込んだ。
だが、そのおかげで腹の甲殻が剥がれたようである。
「うわっ、剥き出しになっちゃった。痛そう……」
「おっし、これで切り刻めるぜ」
「ちょっとアレク!? そんな可哀想な事すんの!?」
「あのなぁ、そのために仕掛けたんだろぉ!?」
そんな言い合いに合いの手を入れるかのように、相手がブレスを吐いて来た。
「うわっ!?」
「あぶねっ!?」
左右に避けた二人の丁度真ん中あたりに落ちたそれは、溶けた溶岩を投げ付けたかのようなものだった。
「【クック】のと同じブレス吐くのな、こいつ」
「でもこっちの方が塊大きいよ?」
「そりゃこいつの方がデッカイからな」
アレクトロは、後で【村長】に報告出来るように、頭の中でまとめながら闘った。
剥き出しになった腹の皮膚ばかりを狙われるもんだから、相手は腹の肉だけ血だらけになっている。
堪らずに少し溜めるような仕草をすると、バフンッ! と体内から紫色のガスを出した。
「う……、気持ち悪い……」
それをまともに吸い込んだカイが、ふらふらと相手から遠ざかった。
離れたために突進を誘発したようで、彼に向って相手が前傾姿勢になる。
「カイ!!」
叫んで切り上げ、代わりに自分が轢かれる。
「いってぇな!!」
叫んで起き上がると、カイは飛ばされた先でぐったりとなっている。
「まさか毒か――!?」
ガスに当たったであろう【ランゴスタ】が、断末魔の声と共に次々に死んでいくのを見て、間違いないとアレクトロは思った。
だが、あいにく【解毒薬】などの毒消しの薬は持って来ていない。
そして、【生命の粉塵】などという、特殊な調合を要する薬も持ち合わせていない。
まずいな……。
幸いにも相手は動きの緩慢な【飛竜】のようである。
だから抱えて逃げられるんじゃないかとアレクトロは考えた。
カイを抱え、背を向けて走る。
当然のように追い掛けて来るかと思いきや、相手はブレスを吐いた。
「やべっ!?」
なんとかギリギリで受けずにすんだが、危なかった。
自分の動きがのろいため、ブレスの方が早いと思ったようである。
隣のエリア(《1》)まで走ると【ベースキャンプ】に入る小道があるので、一気に駆け抜ける。
今の状況でカイを助けるには、とにかくベッドで毒が抜けるまで寝かせる事しか他にない。
恐らく命を奪う程のものではないとは思うのだが、用心に越した事はないので、アレクトロはカイをベッドに横たえて、毒が抜けるまで見守った。
しばらく経つと、苦し気なカイの顔が、少しだけ穏やかになった。
「大丈夫か?」
声を掛けると、目を閉じたまま頷いた。
もう少し休ませようと、自分も横になる。
「アレク! おい起きろアレク!!」
アレクトロは揺り動かされ、目を開けた。
どうやらいつの間にか寝てしまっていたようである。
「もう大丈夫なのか?」
起き上がって自分を揺さぶっているカイに、そう声を掛ける。
「うん。もう苦しくないよ」
カイは、彼特有の人懐こい顔で笑った。
「そか。なら良かった」
アレクトロも笑みを返す。
「ねぇアイツ、また隠れちゃったのかな?」
「だろうな」
「また見付けられるかな?」
「さあなぁ? でも、岩の形を覚えたから、多分今度は前よりかは見付けやすいと思うぞ」
「岩の形?」
「あぁ。あいつ、どうも岩に擬態してるみたいだ。背中に独特の岩の形があってな。そこだけ地面から外に出して、後は潜って隠れてるみたいなんだよ」
「へぇ、器用だね」
「『見えないのにいきなり現れた』っていうのは、岩に紛れて始めは見えてないけど、岩だと思ってたものが実は【飛竜】だったために、そいつが地面から飛び出した時にいきなり現れたように見えただけだったんだな」
「なるほどねぇ」
「という事で、いけるか?」
「うん。もう大丈夫」
「よし、なら出発だ」
「オーケー♪」
揃って走りながら、だけど残り時間は大丈夫かな? とアレクトロは思った。
次に擬態岩が地面から顔を出していたのは、《7》だった。
「おいおい、随分暑いとこでも擬態すんだな」
アレクトロは呆れている。
「お腹散々切っちゃったんだけど、熱くないのかな?」
ここは溶けた溶岩の川があったりするので、地面の中もけっこう熱いはずなのだ。
「プライドってやつじゃね?」
「それって痩せ我慢っていうんじゃないの?」
そんな事を言っていると、相手が飛び出した。
彼らの話を聞いていたのか、はたまた地面の下の熱さに耐えかねたのかは分からない。
取り敢えず【ペイントボール】を付け、再び戦闘開始。
が、今度はアレクトロが毒ガスに巻き込まれた。
やべっ、吸い込んじまった……。
肺が侵され、息が苦しくなる。
が、まったく出来ない訳ではなかったため、大きくあえぎつつも攻撃は続けられた。
肺が大きく膨らませる事を常に要求してくるようになったので、どうしても大袈裟な呼吸になる。
溶岩の熱風をも取り込んでしまって、肺の中が焼けるように熱い。
早く決着を付けないと、こっちが参ってしまうな……。
そう思いながら攻撃していると、カイが苦し気な呼吸になっているアレクトロに気付いて、「一旦戻ろうか?」と聞いた。
「……。いや、もう少しだから……」
そして、これが最後とばかりに溜めた。
ズバンッ!
最大溜めが見事に決まり、相手が崩れ落ちる。
それと同時にアレクトロも地面に崩れ、伏せたままあえいだ。
「アレク大丈夫!?」
心配げに聞くカイに、答える気力も無くなっていた。
【クエスト成功】させて帰って来た二人に、【村長】は種明しをして「実は【バサルモス】という【グラビモス】の幼体じゃよ」と言った。
「【村長】!? それはあんまりなのでは?」
「おいらたち苦しい思いをして頑張ったのにぃ」
「ふぉっふぉっふぉっ! 悪かったのぉ。じゃが、分からぬ方が面白かったじゃろう? アレクトロよ」
「俺をからかってたんですかぁ?」
「いやの、あまりにもお主の目がキラキラしておったからの」
そして少し間を作り、「どうじゃった? 【見えない飛竜】は」と聞いた。
アレクトロは、これ以上ないという程の目の輝きと笑顔を作り、「面白かったですっ!!」と答えた。
HR駆け出しの頃の話なので、「ココット村」での話になります。
なので二人共まだ十代です。
この頃のアレクトロは好奇心旺盛で元気一杯な少年でした。
(ただし「モンスター」に限る)
駆け出しの設定なので、二人共下位の最初の方で作れる武具を身に着けて撮影しています。
(「レザーシリーズ」とか「バブルシザー」とか)
製作途中という事にして、兜は着けてません。