今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
「ねぇねぇ、アレクがね、【リオレイア】に育てられてた時、【兄妹】はいたの?」
「【兄妹】?」
「うん。子供の【リオレウス】とか」
「あぁそういう事か。おう、いたぜ」
「どんなだったの?」
「どんなだったと言われてもなぁ……。まあ可愛かったよ」
「その可愛さが分かんないでしょ。てか、どんなふうに成長していくの?」
「説明しろってのか?」
「うん」
「面倒臭ぇなぁ……」
「あ、それおいらも知りたい!」
「あれ、お前に説明した事なかったっけか?」
「詳しくは聞いてなかったような……?」
「そだっけか? まぁいいや」
そう言うと、アレクトロは少々長い説明を始めた。
「成体と違って甲殻の棘があんま無くってな、うんとちっせぇ時はその棘もほぼ無くてかなり柔らけぇらしいんだが、卵から生まれたばっかの時は、俺もまだギャーギャー泣いてた頃だから分かんねぇ。覚えてんのは一緒にじゃれ始めた頃からだし。――で、その時期はまだ雄雌の区別が付かなくて、色も紫がかった茶色みてぇな感じで分かれてない。今思えば少しずつ雌雄の色が出始めたのはそれから数ヶ月しか経ってなかったんじゃねぇかと思うから、成長は人間より早かったはずだ。んで、それにつれて甲殻も硬く頑丈になってくるんだよ。だが雌に特徴的な、乳をやるための顎の突起は成長し切ってから発達するらしくて、俺といた頃はどっちも同じで突起がほぼ無かったな。顔はそんなに変わらなくって、成体みてぇな精悍な顔付きになるにはまだまだ先みてぇな感じだった。だから、青い光彩に囲まれた特徴的な縦長の瞳がいつまでも大きくて、それが常に間近で見れたのは恵まれてるなと思ったよ。すげぇ綺麗なんだもんよ」
「へぇ、よくそんなに覚えてるね~~!」
二人は感心している。
「まあ記憶力は良い方なんでな」
「あんたが【モンスター】の生態に詳しいのは、その影響なのかな?」
「そうかもな。俺今でも生き物好きだし」
「いっその事、【王立生態観測隊】とか【古龍観測隊】とかに転職した方が良いんじゃないの?」
「ハンターを引退したらそれも悪くねぇかと思ってるよ」
「なんで今じゃないの?」
「お前知らねぇのかよ。あそこってな、かなり【モンスター】や【古龍】の生態に詳しくねぇと入れねんだぜ?」
「そなの?」
「あぁ。だからハンターの中なら余程生態観察の得意な者じゃねぇと選ばれねぇ。そういう意味で、主に引退者が就く者が多いんだ。もしくは端からそういう研究してる奴とかな」
「へぇ~~、意外にも狭き門だったのねぇ」
「なんでまた急に【モンスター】の幼体なんぞに興味持ったんだ?」
「え? ――ああ、幼体を扱う依頼って、無いじゃない? だから幼体見た事ないな~~って」
「……幼体の依頼なら、一つだけあるぞ」
急に背後から声が聞こえ、三人は同時にビクッとなった。
「オッサンよぉ、ビビるから気配殺すのやめろっつってるだろぉ」
「嘘つけ、けっこう前から薄々気付いとったろうが」
「気付いてても、後ろからいきなり声掛けられりゃ誰でもビビるんだっつの! 正面から来い正面から」
「正面からだと気配殺す必要ねぇだろが」
「いや端から気配殺す必要ねぇだろが。もしかして俺らがビビるの楽しんでねぇか?」
三人は、ベナトールが僅かに口の端を持ち上げたのを見逃さなかった。
「あ、絶対そうだ!」
「ベナひどぉい、それやられるたんびに心臓止まるかと思うんだからねっ!?」
「いやすまん、ついな」
「ぜんっぜん反省してないよね!?」
「罰として、今晩の飯オッサンの奢りな。しかも一番高いやつで」
「お、いいねそれ♪ よしっ、一杯頼んじゃうぞ~~♪」
「カイ、頼むのは良いけど食材全部無くなるまで食べないでね?」
「……。金足りるだろか……?」
「てめぇが言うなてめぇが! 俺よりずっと持ってるだろうが!」
「ほんっとベナって、必要以上のものに対しては急にケチ臭くなるわよねぇ」
図星を突かれて苦笑いするベナトール。
「まぁでもハンターってそんなもんじゃねぇの? 武具代って馬鹿にならんし、上のランクに行けば行くほど作製、強化に膨大な金がかかるし。オッサンが特別なだけで、大抵の奴はカツカツなはずだぜ」
「おいらなんか、依頼受けるお金も無かったりする事あるよ」
カイはさもそうなる事が当たり前であるかのように言った。
「おめぇは単に、クエ行かなさすぎなんだっつの」
「アレクが行きすぎなだけだろぉ」
「馬鹿かおめぇは? ハンターはクエ受けてなんぼだろうが」
そう言われて思い出したように、「そういやさ、さっきベナ、『幼体の依頼が一つだけある』って言ってたよね?」とハナが言った。
「あぁそれか、それはな――」
「【バサルモス】だろ」
ベナトールに最後まで言わせずに、答えを言うアレクトロ。
「よく分かるわね~~!」
「今んとこ幼体で依頼が来るっつったら【バサルモス】以外ねぇからな」
「でもそれって、何でなんだろうね?」
カイが疑問をぶつける。
「そういやそうよね。【モンスター】の幼体なら他にもいるでしょうに」
「単にデカいからじゃねぇの?」
「でっかいと、何で依頼が来るようになるのよ?」
「あいつ岩に化けてっだろ? だからよく変なとこで擬態しては【火山】に採掘に行く一般人とか、そこを通る行商人とかを通せんぼして迷惑かけてんだわ。それに放っといて【グラビモス】に成長しちまうと、もっと大変な事になっちまうだろ? だから生息場所によっては幼体の内に叩いといた方が良いっつう判断なんだろうぜ。討伐が嫌なら捕獲すりゃ、他の生息場所に移せるしな」
「なるほどねぇ」
「でもなんか可哀想じゃない? 他の幼体は良くて【グラビモス】の幼体だけはダメだなんて」
「【バサルモス】だからっつって、なにも見付け次第に片っ端から狩るように要請されてる訳じゃねぇんだぜ? それやっちまうと生態系に影響及ぼすからな。ただ鉱石が豊富な【火山】はそれ目当てに行く連中が多くて奴とかち合う場合が多いのと、他の幼体は成体になってから生息地域を広げたり繁殖行動のために凶暴化したりして迷惑かけはじめて、そのせいで依頼が舞い込む事が多いからな。多分その違いなんだろうぜ」
「そっかぁ」
「今来ている依頼もな、採掘してた一般人がかち合って、死ぬ思いして逃げ帰って来たから何とかして欲しいというものなんだわ。――まぁ大した依頼ではないと言えばそれまでなんだが、かと言ってそのままにも出来んからな。どうだ受けてみるか?」
「んなもん他のハンターに――」
言いかけたアレクトロの言葉を即遮って、「うん行くっ!」と元気よく答えた二人。
分かっていた事ではあるが、舌を鳴らしたアレクトロであった。
飛び切り上等な食材でたらふくタダ食いして満足した三人は、渋い表情のベナトールと共に一旦別れて準備をし、【クエスト受付カウンター】へ。
依頼は上位のものであるという。
「あれオッサン、【ハンマー】じゃねぇのかよ?」
彼はいつもの【ハンマー】ではなく、珍しく【ランス】を担いでいる。
「【グラビモス科】に対しては、こいつの方が相性が良いからな」
そう言う彼だが、何か引っかかるアレクトロ。
でもまぁいいやと考え直し、自分は装備を変えずに【火山】へ出発した。
バラバラに到着するのを利用してお互いに散策したら、相手は《7》にいたので合図をしつつ先に着いた者から攻撃開始。
最初に遭遇したのはハナだった。
過去に【バサルモス】と対峙した経験から〈切れ味+1〉のスキルを付けているアレクトロは、最初から弾かれる事なくスムーズに腹を切っている。
動きが緩慢なので、溜めを中心にした攻撃をする余裕まであった。
カイは【双剣】なので、【鬼人化乱舞】で切り刻めばそれ程弾かれる事を苦にしなくても良いものの、その分どうしても【砥石】の消費が増えていた。
ハナは弾かれる部分が多いものの、元々【片手剣】は甲殻の繋ぎ目などの柔らかい部分を狙いやすく、従って上手くいけば弾かれる事が少ない攻撃が出来るため、(下手ながらも)一応役には立っていた。
ベナトールは言うに及ばないほど軽やかなステップで、的確に弱点を突いている。
それは、腹部の甲殻破壊を成功した頃だった。
ふいに背後から強烈な殺気を感じたアレクトロは、横っ飛びに飛んだ。
直後にまるでビームのような熱線が、今彼がいた場所を通り抜ける。
そして咆哮!
「やはり、おいでなすったな……?」
どことなく嬉しそうなベナトール。
二人は見なくとも分かっているが、カイとハナはその方向を向いて愕然としているようである。
「――なるほど、それで【ランス】かよ」
「確信は無かったがな。だが【子】がいるという事は、【親】がいる可能性も充分に考えられたからな」
そう。【バサルモス】の成体である【グラビモス】が、幼体の危機を感じてやって来たのだ。
「ちょちょちょっと! どうすんのよこれ!? 【バサルモス】だけでもけっこう手強いのに!?」
下位ならば数分とかからずに狩猟出来る【バサルモス】だが、上位ともなると体力、攻撃力共に跳ね上がるために下位に比べて時間がかかるのだ。
寝る前の軽い腹ごなしのつもりでいた三人だったが、もうそれどころじゃない。
「構わん、こいつは俺が引き受ける。お前らはそのまま【バサルモス】を攻撃していろ!」
言うや否や【グラビモス】に立ち向かって行くベナトール。
彼の実力は以前に見て知っているので、一人で任せても大丈夫だとは思うのだが……。
と、ベナトールが相手に張り付く前に、彼に向けてグラビームが放たれた。
「あぶな――!!」
ハナは言いかけたが、そのビームを盾で易々と受けるベナトール。
それを見込んで【ランス】を装備しているので、彼にとっては熱線を受ける事によるダメージも、恐らく想定内なのだろう。
一旦張り付いてしまえばブレスや突進はほぼしなくなる事も彼は知っているので、全ては彼の策略通りになっている。
それでも心配そうにチラチラと見ているハナに、「おい! あっちは大丈夫だから集中しろ!」とアレクトロは注意した。
だが、向こうは大丈夫でもこっちが大丈夫ではない場合があった。
三人で攻撃しているという事は、その分ヘイトがばらけるという事でもあるので、張り付いたままでいられないのもあって突進を誘発させてしまったりした。
そして、前傾姿勢になったその先に、ベナトールがいた。
「離れろオッサン!」
注意をしたアレクトロは、ベナトールが取った行動を見て「すげぇ……!」と感慨の声を漏らす。
後ろも見ずにそのまま攻撃を続けつつ、突進を食らう直前にサイドステップして避けたからである。
しかも、何事も無かったかのように、僅かな動作で再び張り付いて攻撃を始めたのだ。
「うっわ~~、まったく真似出来ないわ……」
「流石と言えばいいのか、見事と言えばいいのか……」
二人は驚き過ぎて、逆に呆れてしまった様子。
だがブレスの速度には攻撃中だったからか対応出来なかったようで、盾ではなくて背中で受けてしまったのを見て「ごめんなさいっ!」とハナが【生命の粉塵】を投げた。
(主にベナトールの活躍で)大した被害もなく、【クエスト成功】して【街】に帰った四人。
「相変わらず群を抜いてるよなオッサンは。桁違いだぜまったくよ」
「何がだ?」
「何がだじゃねぇよ、あんな闘い方、とてもじゃねぇが真似出来ねぇって言ってんだよ」
「【ランス】だからな」
「どゆこと?」
「要は【ハンマー】じゃあの闘い方は出来ねぇってこった」
頭の上で?マークを一杯浮かべてそうな顔をしている二人を見て、「おいちゃんと説明してやれよ」と溜息交じりにアレクトロは言った。
「……。【ランス】というのはな、その武器特有の【ステップ】というものがあるのだよ」
「あ、それは分かるよ」
「まあ聞けカイ。お前も知っている通り、【ランス】は構えると、その鉾と盾の重量でまともに歩く事さえ出来なくなる。だから構えたままでの移動手段として【突進】がある訳だが――」
「うん。あれカッコいいよね」
「カイもそう思う?」
「うん♪」
「あれはあくまでも移動手段の一つや、遠くにいる相手もしくは突進されるなどして狩猟対象から離れた際に使う場合が多い。【ランス】での攻撃は主に対象に張り付いて、極端な機動力の低さを補うために相手の動きを封じつつ行う場合が多いのだ。だが相手も馬鹿じゃねぇから攻撃して来る訳だ」
「まあそれを避けるために編み出されたのが【ステップ】ってやつだな」
「そう。盾で防ぎ切れねぇ攻撃を【ステップ】で避ける事で、僅かな動きで避けつつ攻撃出来る事が【ランス】の強みなのだ。つまり逆を言えば、それが出来ねぇ奴は【ランス】は使いこなせねぇとも言える」
「それが難しいんだよなぁ……」
「うん。おいら無理」
「あたしもぉ~~」
「俺も前から言っているように、【ランス】は苦手なのだよ。死んだ親父は有名な【ランス】使いだったんだがなぁ……」
「
アレクトロは首を振る仕草をした。
「まあ苦手だから【グラビモス科】に限定して使ってるんだがな。あいつらだったら動きが遅いし、ブレスやガスなんかも予備動作が分かりやすいから簡単にガードしたり避けたり出来るもんでな」
それと、きっとハナを庇う際に、グラビームをまともに受ける事を避けるためだろうとアレクトロは思った。
上位クエストでは、こんなふうに親子のクエストが期間限定の依頼として出される事があるのです。
(今はイベントクエぐらいしか期間限定のものが無いようですので、このクエはもう廃止されたようなのですが)
ゲーム中では何頭いようが同じエリアにいる者全員に「モンスター」のヘイトが移るシステムになっていますので、本来ならばこの「グラビモス」はベナトールそっちのけで三人に向かって行ってもおかしくないのですが、自己解釈で集中的に注意を向けている者のみにしかヘイトが向かない事にいたしました。
ゲーム中でもヘイトが向きにくい行動は出来ますし、それによって戦闘中にもかかわらず自分だけあまり狙われないという経験も私はあるのです。
(まあそれだけ「パートナー」が積極的にヘイトを稼いでいる証拠なんだろうと思うのですが)