今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
※「彼女」は「フロンティア」の世界にはいませんので、これはPSPでの狩猟になります。
三人は、【密林】に来ていた。
一人だったハナが【ランゴスタ】の素材が欲しいというので、まずカイが誘われ、当然のようにアレクトロが巻き込まれたのだ。
丁度昆虫が大発生する時期だったので、どのエリアに行っても大抵は囁くような、【ランゴスタ】の羽音が聞こえている。
それはいいが、攻撃するたびにあちこちから刺され、時には麻痺させられたりしてうっとうしいったらない。
おまけに……。
「おいハナ! 俺が手加減して攻撃した奴を追撃するんじゃねぇ! 死体がばらけるだろうが!」
「なによ! 誰が攻撃したかなんて分かる訳ないでしょお!」
【ランゴスタ】の素材を得るには死体を残して剥ぎ取らねばならないのだが、もろい外殻の【モンスター】なので、すぐにバラバラになってしまって残したまま殺すのは至難の業なのだ。
「クソ、やっぱ端からこいつを使っときゃ良かったぜ」
そう言うと、アレクトロはポーチから【毒煙玉】を出して地面に叩き付けた。
彼の周囲に紫色の煙が立ち上がったのを見て、「なによ、持ってるんなら初めから使いなさいよ!」と強い口調で言うハナ。
「うるせぇな! もっと引き付けてから何匹かまとめて使いたかったんだよ!」
【毒煙玉】は効果時間が短い上に、調合分も含めてそれ程持って行けないために、なるべく多く巻き込んで使いたかったのだ。
「あ~もぉ、喧嘩しないでくれよぉ」
間に挟まれたカイは、ぼやきつつ【ランゴスタ】と闘っていた。
エリアを移動しつつ何匹か狩り、《6》で狩っていた時の事。
ふいに、【ランゴスタ】の囁くような羽音とは別の、それよりは低く唸るような羽音がしたのにアレクトロは気が付いた。
その方向を見上げた彼は驚愕した。
そこに、通常のものより数倍大きな【ランゴスタ】が浮かんでいたからである。
いや大きさだけじゃない。腹部が異様に肥大化しており、なんとも悍ましい姿をしている。
「お前らあれ見ろ!」
アレクトロが指差す方向を見上げた二人は、驚愕どころか恐怖で固まった。
「あ、あ、あれ何!?」
「で、でっかいぃ……!」
「馬鹿固まるな! 周り見ろ周り!」
見ると、ほぼ殲滅させていたはずのエリア内の【ランゴスタ】が、再び数を増している。
それどころかどんどん増えていく。
まるで、数倍大きな【ランゴスタ】に、呼ばれて従うかのように。
「こいつはクイーンだ! 気を付けろ、今までのようにはいかねぇぞ!」
アレクトロの注意した通りに、見る間に統率の取れた攻撃を始めた【ランゴスタ】の群れ。
彼の【大剣】やカイの【太刀】ならばある程度はまとめて薙ぎ払う事が出来るが、それでも四方八方から刺されてしまう。
一匹一匹の攻撃自体は大した事はないのだが、こうも狙って連続で攻撃されると、麻痺らされるのもあって中々きつい。
おまけに【クイーンランゴスタ】の攻撃力が高い上、こっちはただ刺すだけでなく、防御率が低くなる酸性の腐食液を尻針から吹き付けてきたりするので、【ランゴスタ】に気を取られていると危なくて仕方がない。
「チッ! 一旦退くぞ!」
そう言って地面に【モドリ玉】を叩き付けたアレクトロ。
だが、緑の煙が消えた時、彼はそのままそこにいた。
【モドリ玉】の効果が表れる前に、攻撃を受けてしまったのだ。
「クッソォ! 邪魔すんなてめぇらあぁ~~~!!!」
アレクトロはキレて見境なく【大剣】を振り回している。
そんな彼を嘲笑うかのように、【ランゴスタ】はあちこちから刺して来る。
同じく退却に失敗したカイと、【モドリ玉】をポーチから出す暇もなかったハナも、それぞれに大苦戦を強いられている。
そんな彼らの背後から、ゆっくり近付く【彼女】。
「やめろおぉ~~~!!!」
突然カイが叫び、闇雲に【太刀】を振り回しながら逃げ始めた。
「カイ馬鹿野郎! 背を向けたら逆に危ねぇって!!」
だが、聞く耳を持っていない様子。
「落ち着け! やられてぇのか!?」
引き戻そうとしたが、物凄い力で振り払われた。
非力な彼がアレクトロの腕力に勝っている。
つまり通常の状態ではないのだ。
「うわあぁ~~~!!!」
カイは発狂したように叫んでいる。
恐らく、パニックを起こしているのだろう。
「きゃあぁっ!!」
その時、ハナの悲鳴がアレクトロの耳に届いた。
「ハナ!?」
見ると、【ランゴスタ】に連続攻撃されて尻餅を付いた彼女の眼前に、【クイーンランゴスタ】がいる。
相手は巨大な腹を彼女から引くようにして曲げ、ピタリと尻針を向けた。
「チイィッ!!!」
アレクトロはハナに飛び付いて抱いたまま転がった。
直後にその脇を、腐食液が着弾する。
「ぐうぅっ!!」
ハナを庇うようにしていたアレクトロは、背中に焼けるような痛みを感じて呻いた。
飛び散った腐食液が掛かってしまったのだ。
「アレク!? 大丈夫!?」
背中からシュウシュウと煙を上げている彼を見て、ハナは狼狽した。
「……。おめぇには、かかって、ねぇよな……?」
苦し気に、彼は聞いた。
「う、うん、大丈夫……」
「……なら、いいや……」
ハナの返事を聞いて、よろよろと立ち上がるアレクトロ。
腐食液は、彼の鎧と肉体を溶かし続けている。
そのままにしておくと、骨まで溶かしてしまうだろう。
……クソ、まずいぜ……。
取り敢えず【回復薬グレート】を飲んだものの、液が付いている間は溶かされ続ける事になるため、しばらく彼は白い煙を背中から上げながら時折回復せねばならなかった。
が、その間も【ランゴスタ】の群れや【クイーンランゴスタ】が容赦するはずがない。
防具が溶けて防御率が低くなった所を狙われると、今までそんなに脅威じゃなかった【ランゴスタ】の一刺し一刺しが、けっこうなダメージになった。
……。気絶、するわけにはいかねぇ……。
時折朦朧となりながらも、彼はハナから離れようとはしなかった。
ベナトールがいない今、自分が彼女を護るしかないと思ったからである。
というよりはむしろ、なるべく無傷でベナトールの元に届けたいと思っているのだ。
自分のせいでアレクトロが重症を負ったと分かっているハナは、それでも離れようとはしない彼に、せめて少しでも回復させようと【生命の粉塵】を投げ続けた。
その甲斐あって腐食液が消えるまで、アレクトロはなんとか気絶だけはせずに済んだ。
腐食液が消えれば回復も早いので、「助かったぜハナ。ありがとな」と礼を言った。
朦朧となっている間も、本能で無意識に攻撃していた彼は、意識がハッキリした今は正確に【クイーンランゴスタ】の腹部に攻撃を当て続けている。
そういやカイは? とチラチラ視線を彷徨わせたアレクトロは、彼の姿が見えないのに気が付いた。
無事に逃げたのか、それとも気絶して【ベースキャンプ】に運ばれたか……。
いずれにせよ、あの精神状態ではしばらくは攻撃に参加出来ないだろう。
なら、二人でなんとかするっきゃねぇか……。
そう考えたアレクトロは、次のように言った。
「よしハナ、二人でやっつけるぞ!」
「――えぇ!?」
「素っ頓狂な声出してる暇あったらちったぁ攻撃しやがれ!!」
「わ、分かったわよっ!」
意外に精神力の強さを見せるハナ。
アレクトロは最悪一人でやらねばならないかと思っていたので、少し安心した。
それでもなるべく【彼女】は自分が引き受けるように闘って、ハナにヘイトが向かないような立ち回りをした。
当然腐食液を掛けられるのは主に自分だったのだが、今度はガードする余裕があった。
護衛と思われる通常より強い個体を殲滅させた頃、立ち直ったと見られるカイが戻って来た。
それでも【彼女】のうねる腹部を見てたじろいだが、【太刀】を構えて参加して来た。
二人が頑張っているのに一人だけ逃げる訳にはいかないと考えたのだろう。
が、その息遣いは明らかに怯えている。
「カイ、怖いなら無理すんな」
一応声を掛けたアレクトロだが、カイは激しく首を横に振った。
カイの頑張りのおかげで三人になったので、もう護衛のいない【彼女】は集中攻撃を受けてついに落ち、動けなくなった。
それでもヒクヒクと細い脚を痙攣させ続けている【彼女】を見て、三人は剥ぎ取りすら躊躇したのであった。
「クイーンランゴスタ」の気持ち悪さは群を抜いていると思います。
羽の色は綺麗なんですけどねぇ……。
「クイーンランゴスタ」に限らず「腐食液」を出す「モンスター」には「ウチケシの実」が有効なんですが、この時アレクトロは持って来ていませんでした。
もしかしたら他の二人は持って来ていたかもしれないんですが、渡す余裕が無かったようです。
ちなみに余談ですが、これを読んだ友人には「もうハナは庇わなくても良いと思うよ」と言われました。
私的にはまだまだ彼女は弱っちく、誰かに護ってもらいながら攻撃するようなイメージなんですが、友人的には独り立ちしているイメージだったようです。