今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
容赦なく照り付ける【砂漠】の太陽が、広大な砂地を照り返して眩しくて仕方がない。
それが暑さを一層引き出すように思え、【クーラードリンク】を飲んでいても喘ぎたくなる。
が、そんな中でもまだ【火山】よりは、いくらかマシだとハナは思った。
眩しさに目を眇めていたら、視界の端にちらりと桜色が映ったような気がした。
その方向を向くと、ゆっくりとこちらに向かって来る、大きな桜色のシルエットが見えた。
【桜レイア】とも呼ばれる、【リオレイア亜種】である。
まだ遠くだったからか陽炎のように揺らめいているそれは、近付くにつれてハッキリして来、それと同時に自分も含めて周りが戦闘態勢に入ったのが分かる。
それに答えるように威嚇の声を上げた相手に、【閃光玉】を投げたのはアレクトロである。
視界を奪われた相手に、それぞれが転回しながら攻撃開始。
尻尾を切ろうと思ったらしいアレクトロが尻尾付近で溜めていたが、側面であったがためか回転尻尾に巻き込まれて吹っ飛ばされた。
戻って来た時には麻痺っていたので、今度は安全に溜め攻撃が出来たようである。
麻痺が解けたと同時にベナトールがスタンさせたので、もう一度溜めるアレクトロ。
それで尻尾の切断に成功した。
痛そうに吠える相手に再び【閃光玉】が投げられたので、ハナは脚を狙って切り刻み、こかせた。
カイと二人で側面から翼を狙い、翼爪の破壊に成功。
起き上がるまでにアレクトロの溜めが決まる。
ずっと頭を狙い続けているベナトールが頭の甲殻を破壊する事に成功して、これで全ての部位破壊を達成出来た。
ここまでは順調だったが、相手が怒り出したために多少戦況が乱れる。
最初に犠牲になったのはハナのはずだった。
足元で切っていて指先に当たって尻餅を付いた時、相手が二歩程下がったのを見て戦慄。そして、そのままサマーソルトの餌食になるはずだった。
が、飛び付いて抱き留めつつ、一緒に放り投げられた者がいた。
熱い砂地に叩き付けられて何度か転がって止まり、まだ抱き締めたままでいる者をハナは見る。
やはりベナトールである。
もう『やはり』と言うしかない程、この男はハナを執拗に護ろうとするのだ。
「……。当たってないな?」
「うん。大丈夫……」
そう答えると彼は抱いている力を緩め、立ち上がった。
その背からは幾筋か血が流れている。
まるで、そうするのが当たり前であるかのように、彼女の代わりに尾の棘を受けたのだ。
ならば、毒にも冒されているはず。
尾で叩かれただけでもけっこうなダメージになる上に毒まで付いて来るサマーソルトは、そのまま気絶してもおかしくない程の勢いを持っている。
ましてや怒り時に受けたのならば尚更だろう。
なのに、彼は平然と戦闘に参加して行く。
ハナは、彼のために【回復薬】を投げて掛け、続けて【解毒薬】も投げた。
〈広域化+2〉のスキルがあるので、自分で使うのと同等にそれらの薬を他人にも施せるようになるのだ。
一瞬振り向いたベナトールが彼女に向かって親指を立てる。
彼は回復役がいるのが当たり前だと言わんばかりに、回復しようとすらしていない。
戦闘好き、と言うのかどうか分からないが、この男は回復よりもむしろ戦闘に集中する傾向がある。
重傷を負ってもそうしようとするのは、彼がそれ程タフなのか、それとも自分の肉体を酷使するのが好きなのか……。
少し経った頃、回転尻尾に巻き込まれたカイが吹っ飛ばされた。
打たれ強いベナトールと違い、カイはすぐには起き上がれずに呻いている。
離れた事で突進が誘発され、相手は真っ直ぐに彼の元へ向かって行った。
が、カイの前に立ちはだかった者がいた。
彼はベナトールのように飛び付いて護ろうとはせず、まともに突進を受けている。
ただしカイの代わりに犠牲になった訳ではなく、【大剣】でガードしたのだ。
アレクトロである。
長年の付き合いから自然にそうなっているのであるが、彼の場合、例え初めて組んだ者であったとしても、自分より弱いと判断した奴を護るのは当然だと思っている。
が、その思いを果たせずに護り切れない場合も多く、悔しい思いをしていた。
彼ら以外とはPTを組みたがらない理由もそれなのだろう。
続いて放たれたブレスを【大剣】の腹で受けている間にカイが立ち直ったようなので、カイの礼の言葉を背中で聞きながら黙って戦闘に参加した。
カイは、この不愛想な男をなぜか気に入っており、幼い頃から付き回っては【金魚のフン】呼ばわりされている。
なので、アレクトロの傍には大抵彼がいた。
だが護ってもらうだけでなく、時にはアレクトロの命を救ったりしてもいるため、お互い様だと思っている。
さて戦況だが、桜色の甲殻のあちこちに傷を付けられた【リオレイア亜種】は、とうとう脚を引きずった。
それを見てハナが躊躇したが、巣に逃げ切る前に【閃光玉】を投げられたのを見て、覚悟を決めたように再び切り始めた。
止めの一撃はアレクトロの溜めであったのか、それともベナトールの溜めであったのか、とにかく溜め攻撃が決まった事によって、相手は最初にいたエリアから移動する間も与えられずに砂地に倒れ伏した。
「広域化」というスキルは自分に使うにもかかわらず同じエリアにいる他人に特定アイテムの効果をもたらすというスキルなんですが、ただ「飲む」だけで他人に効果が表れるなんて小説で書いたら魔法みたいになってしまうので、そのアイテムを「投げ掛ける」事で効果を得るようにいたしました。