今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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今回から戦闘シーンが入ります。
まず雑魚戦から。


密猟団を駆逐せよ!(3)

 

 

 

 アジトまでの地図と縮図を渡されたベナトールは、夜の闇に紛れて【北エルデ地方】への道を【ケルビ】に乗って駆けていた。

 一般的には【アプトノス】の引く荷車が使われているし、【クエスト】もこれで行くものなのだが、それより速く、小回りの利く【ケルビ】を飼い馴らして使う事も多い。

 荷馬車を引くには非力だが、個人の移動手段としては最適だからである。

 

 なお、ジグザグに跳ねながら移動する事でハンターの間で【ケルビステップ】と呼ばれている独特のステップは、敵を攪乱させるために行うものなので通常は真っ直ぐ走る。

 

 彼は闇に溶け込むように、黒い制服を身に付けていた。

 

 布地に見えるがハンターが着られるレプリカと違って、【黒龍の翼膜】を使うなどした見た目よりもかなり丈夫な作りをしており、性能もかなり良い。

 それだけではなくて各関節や四肢などは金属で補強された特別仕様になっている(俗に【ギルドガード】シリーズと言われるもの)ので、そのまま狩りに行っても支障が無い程頑丈な作りの制服なのだ。

 

 腰には通常使う【サーベル】の他に、【ギルドナイトセイバー】という【ギルドナイト】専用の【双剣】。そして対人専用に作られた特別仕様の【銃】という武器を携えている。

 

 これは【ライトボウガン】を小型化して片手で扱えるようにしたもので、【モンスター】には通用しないが【人間】は、上手く行けば貫通出来る程の威力のある弾を発射出来る。

 

 これも対人戦を行う【ギルドナイト】だけが使う事を許された武器なのだろう。

 

 【双剣】以外が【モンスター】用の武器じゃないのは対人に特化するためで、長剣などの大型の武器じゃないのは、その分素早く動いて敵より多く致命傷を叩き込めるからである。

 道の途中で【モンスター】に遭遇する可能性は充分にあったのだが、彼は【モンスター】よりも主に【人間】にシフトした武器を選んだのだ。

 

 

 現場近くに着いた彼は、鞍などを外して【ケルビ】を開放した。

 野生のものと見分けが付かないようにするためである。

 外した鞍を見付からないような所に隠すと、【双眼鏡】を覗いてアジトを見た。

 周りは闇夜だが、アジト付近は火が焚かれていて見えるからである。

 

 坑道の入り口はそれ程広くなく、人三人が並んで入れる程度。

 その入り口で見張っている者は、二人。

 重装備で槍を持っているが、【モンスター】用の【ランス】ではなさそうだ。

 使われなくなっているとはいえ、坑道付近には【モンスター】はあまり出没しないのだろう。

 

 しばらく見ていたが出入りが無いのを確認した彼は、音も無く近付きつつ【サーベル】を抜き放ち、二人の首を切り裂く。

 相手は敵に気付く間もなく無言のまま絶命した。

 気絶させても良かったのだが、重装備の者二人を一瞬で気絶させる事は難しく、その分騒がれて中の者に知られてはやっかいなので、殺したのだ。

 

 倒れる音がしないように支えつつ横たえ、すぐには見付からないような場所に死体を隠し、そろりと中へ。

 

 真っ直ぐに穿たれた坑道を少し進むと、地下に降りる梯子がある。

 梯子は人一人が通れるぐらいの穴に掛けられているため、これに取り付いて降りるしかない。

 降りた先には立って歩ける程の通路があるのは分かっているのだが、そこまで到達するまでけっこう深い。

 

「誰だ!」 

 

 後数メートル、という所で、下から鋭い声が聞こえた。

 内心舌打ちして見下ろすと、三名程が見えた。

 

 その内の二人はクロスボウを構えている。このままでは的になるようなものである。

 

 そこでベナトールは梯子から手を放し、幅広の羽根付き帽子が飛ばないように片手で押さえながら、飛び下りた。

 一応撃っては来たのだが、落下しているからか当たらない。

 というよりは、数メートルを残して飛び下りた相手に驚愕している。

 【密林】などで高い崖から飛び降りる事の多いハンターには造作もない事なのだが、これでうろたえる程驚愕するとは、こいつらはハンターではないのだろうか?

 

 見た所、全員若造のようだが……。

 

 戦意喪失している様子の一人の首を掴み、持ち上げる。

「は、放せえぇ!」

 勇敢にも切り掛かって来た者を僅かな動作で避け、首を掴んだ者をそいつに向けて放り投げる。

 

 二人は折り重なったまま気絶した。

 

 残った一人は知らせるために駆けて行ったので、案内を兼ねて後を追う。

 息せき切って大きなドアに辿り着き、「カシラ! 奇襲です!」とドアを開けたところで「案内ご苦労」と手刀を打ち込み、気絶させた。

 

 中は広くて吹き抜けになっており、数十名のハンター用装備の連中が集っていた。 

 ざわついている彼らに手を上げて静止させたのは、一段上に上がった場所の、中央部に設えた大き目の椅子に腰かけた男。面を被っていて顔は見えないが、その様子から見るに、この男がリーダーであるグリードと見て間違いないだろう。

 

 臆するどころか堂々と中央付近まで進んだベナトールを眺めながら、男は「――一人か?」と聞いた。

 

「いかにも」

「見た所ギルドナイトのようだが、目的は?」

「……。ここで雇ってもらおうとして来た、とでも言うと思ったか?」

 

 馬鹿にしたような口調で言う彼に、周囲が殺気立つ。

 

「目的は貴様の処刑だよ、グリード。そして、お前らのな」

 グリードと思われる男に顎をしゃくり、一段上がった同じ場所で椅子に並ぶように立っている、取り巻き連中を見回す。

 

 それを聞いて全員が下卑た笑いを響かせた。

 

「たった一人で乗り込んで、この人数に勝てるとでも思っているのか!」

「頭おかしいんじゃねぇのかこいつ!」

「面白れぇ! 嬲り殺してやろうぜ!」 

 

 ぎゃはぎゃは笑っているその中で、ベナトールは口を開けた。

「良かろう、やるならばいつでも良いぞ」

 

 それを聞くや否や一斉に襲い掛かって来た配下の者を、まず相手にする。

 狩りに行く前だったのか全員が【モンスター】用の武器で攻撃して来るが、当たらなければどうという事はない。

 

 ただし一度でも掠れば重傷は必至である。

 

 そのくらい【人間】に対する威力があるがためにハンターは人に武器を向けてはならない掟があり、それを犯せば即抹殺されるのだが、ここではそんな掟などどこ吹く風とばかりに躊躇なく【モンスター】用の武器を振り回して来る。

 が、【モンスター】に対して有効なこの武器は【人間】相手に振るには遅く、彼には簡単に避けられる。

 

 

 目深に被った幅広の帽子で顔が見えないが、口元だけ覗いているこの男が、不敵な笑みを浮かべたまま全て避けて行くのが腹立たしくて仕方がない。

 

 だがどんなに懸命に攻撃しようが僅かな動きだけで避けられるので、配下のハンターたちは次第に息が上がって来た。

 中には【ボウガン】や【弓】などで攻撃して来る者もいたのだが、撃つ前に軌道を読まれるために、掠り弾すら当てられない。

 しかも背後から撃っても背中に目があるかのように避けられるので、当てるどころか避けられた事によって仲間に当てる失態を犯す者もいた。

 

「……。どうした、ここまでか?」

 全員動きが鈍くなって、戦闘どころではなくなった頃、彼は動いた。

 

 彼らの傍を動き回りつつ、気絶させていく。

 気絶した端から、部屋の隅やら壁際やらに放り投げて行く。

 次に来る取り巻き連中との闘いのために、場所を確保するためである。

 戦闘中なので気絶した者をそのままにして置く方が簡単なのだが、それだとあちこちに気絶した者が転がるので闘いにくいのだ。

 なお、彼にとっては殺す方が逆に簡単なのだが殺さないのは、「全滅させる事はない」と【ギルドマスター】に言われたからである。

 

 最も、【モンスター】用の武器で攻撃して来た事実があるため、命令が下れば全員処刑されるのだろうが。

 

 

「――さて」

 戦闘に加わった者を全員気絶させたベナトールは、手をパンパンと払いながら言った。

 

「纏めて片付けるのと、一人ひとりを相手にするのと、どちらが良いかね?」

 




「モンスターハンター」の世界にも一応「馬」がいるようなのですが、未確認生物のカテゴリーに入っている程なので一般人どころか各フィールドを駆け回って様々な生物を目にして来ているはずのハンターでさえまず見る機会が無いと考えても良いようなものらしいです。

なのでもしこの「馬」なる生物を扱える者がいるとすれば王族の類いぐらいなものなので、私独自の解釈として「ケルビ」を馬同様に扱っているという事にいたしました。


ちなみに、ハンター達をすぐに気絶させずに相手が疲れて鈍るまで闘わせたのは、ベナトールが気絶させやすいように疲れるまで待ったからではなく、単に彼が戦闘を楽しんでいたからです。
始めから気絶させるつもりでいた彼ですが、動きが鈍くなってつまらなくなったので動いただけです。

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