今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
「……。貴様、何者だ?」
「知る必要はない。それとも、冥土の土産に顔でも見て置くか?」
彼は、そこで初めて帽子を取った。
「……ベナトール!?」
「覚えてくれていたとはな。久しぶりだなグリード」
「あぁ覚えているともよ。貴様のせいでオレは……っ!」
彼は、怒りに体を震わせるようにしてから、顔の面を取った。
斜めに三本、大型【モンスター】の爪を受けたと思われる傷があり、特に右目の下あたりが大きく抉れていた。
抉れた箇所は火傷のようなケロイド状になっている。
「貴様の! 貴様のせいで【炎王龍】にこんな傷を負わされたのだぞ! そのせいで視力が落ち、【ギルドナイト】の仕事どころかハンターとしての生活が出来なくなったのだ!」
「……。それは逆恨みと言う奴ではないのか?」
「――なんだと?」
「【テオ=テスカトル】の生態調査でヘマをしたのは貴様だろうが。俺は最初から忠告したはずだ。『上位種は下位とは比べ物にならんくらい強い』とな。通常種とは違う動きをするかなり手強い個体だったとはいえ、分かっていながら舐めて食らった貴様が悪い。俺が恨まれる筋合いは無い」
「な――っ!」
「引退したのがそんな理由だったとはな。――それで? そう考えれば【古龍種】のレア素材を売り捌いているのは儲かるためじゃなくて【古龍】そのものに恨みがあるためか? 勝手にヘマして傷付いておいて、逆恨みで乱獲されるとは【古龍種】も堪ったものではないな。それで復讐しているつもりならば、片腹痛いわ」
「貴様あぁ!!」
「しかもよりによって【ハンターズギルド】の掟を骨身に染みて分かっているはずの【ギルドナイト】がここまでの罪を犯すとは。貴様はどこまで落ちたのだ? 誇りを捨てた末路がこれとは、元同僚として情けないぜ」
「掟の事はよぉ~~く分かってたさ。だからいずれ【黒のギルドナイト】が仕向けられる事もな。そして、それを受けるのが貴様だろうという事も!」
「――ほぉ、ならばわざと俺に来るように仕向けたと? 俺への恨みを晴らすために?」
「そうともよ。先程驚いたのはまさか本当に読みが当たるとは思わなかったからだ。だが直後にやはりなと思った。最も、【古龍】も屠る【上位】ハンターがこれ程役に立たんとは思わなかったがな。所詮は烏合の衆に過ぎんという事か……」
「貴様はどこまで馬鹿なのだ。【モンスター】用の武器で【人間】を相手に戦闘出来る訳がなかろう。人間用の武器で闘えたのなら、こいつらももっとマシな動きが出来ただろうに。見た所狩りに行く前だったようだから、それが災いした。ただそれだけの事ではないか」
「それで、命拾いをしたとでも?」
「――俺を、
次の瞬間、ベナトールは全身から【殺気】を湧き出させた。
「舐められたもんだなグリードよ。もう何も聞く耳は持たん。纏めて掛かって来い!」
一瞬躊躇した取り巻きは、腰の長剣を抜き放ち、一斉に掛かって来た。
流石にこちらの方は人間用を持っていたようで、動きも素早く、手強そうである。
が、彼はまず一番前にいた一人に向けて身を沈め、踏み込むと同時に【サーベル】を抜いて抜き胴。鎧ごと切断した。
即振り下ろされた長剣を躱し、二人目に向き直って切り上げ、脇腹から肩までを斜めに切り裂いたと同時に刃を返して振り向き、三人目を袈裟切りにした。
そのまま【サーベル】を引きつつ躱し、四人目の胴を串刺し。抜くと同時に、そのために遅れて五人目の攻撃を受けそうなのを四人目の体を盾にして防ぎ、その隙に脇から突いて肺を抉り、抜いた。
あっという間の出来事で、気が付くと選りすぐりの精鋭であるはずの五人の取り巻きは、全員死体になっていた。
「……。全員で掛かって来いと言ったつもりなのだが、貴様は入っていないとでも思ったか? 俺としては貴様のためのハンデとしたつもりだったのだがな」
ベナトールは、息一つ乱していない。
「後は貴様だけだグリード。命乞いは聞かんが、遺言があるなら聞くぞ?」
「……。ふざけやがって!!」
彼はようやく立ち上がり、背面から【ギルドナイトセイバー】を引き抜いて構えた。
「ほぉ、まだ大事に持っていたと見える。――良かろう。
ベナトールは【サーベル】を捨てると、同じように【ギルドナイトセイバー】を抜いて構えた。
どっちみちグリードを仕留めるためにこれを使うつもりで持って来たものだったし、先程の連撃で鎧ごと切ったせいで【サーベル】の刃がボロボロになっていたため、丁度良かったのだ。
ちなみに、先程の戦闘の間に気絶していたハンターの何人かは気が付いていたのだが、彼の【殺気】の恐ろしさと電光石火の如き動きを見て腰を抜かし、戦闘に参加する気すら失せていた。
段上から飛び降りつつ切り掛かって来たグリードを、死体を飛び越えつつ飛び退って避け、その場から移動する。
足元に五人の死体が転がっていて戦闘の邪魔だからである。
追い掛けて背後から切り付けようとしたのを躱し、向き直るや否や右手で切り上げ。
躱されて突かれたのを半身で避け、向き直りつつ左手で薙ぐ。
飛び退ったのを踏み込みつつ右手で突き、躱されたのを追い掛けるようにして左手で薙ぐ。
刃を合わせて防がれたと同時に片方の手は切り上げて来たので、こちらも刃を合わせて防ぐ。
「腕落ちてなさそうじゃねぇか。視力が落ちたというのは嘘なんじゃねぇのか?」
「遠目が落ちただけだ。普段の生活には支障はない」
「成程、ならハンデを作ってやる必要は無かったという事か?」
「舐めるなよベナトール。オレはそこまで落ちちゃいねぇ。少なくとも戦闘においてはな!」
「嬉しいねぇ。物足りないまま終わると思ってたんだが、楽しませてくれそうだ」
「相変わらずふざけた野郎だ」
「ふざけてるのはどっちだコラ、貴様処刑されようとしているのが分かっているのか?」
「立場は分かっているさ。そのために貴様をよこすように仕向けたのだからな。だが、ただ殺されるつもりはない。貴様を道連れにしてやる!」
「――良かろう。それが出来るようにせいぜい抗うんだな!」
その時横から気配がしたのに気付いたベナトールは、合わせた刃を押し退けつつ後ろに飛び退った。
直後に乾いた破裂音が響き、二人の間を弾が抜けた。
「カシラ! 援護いたします!!」
そこには【ライトボウガン】を構えたハンターが立っていた。
「やめておけ、こいつを巻き込むのが落ちだ。自分の大事なリーダーに当たっても良いのか?」
逡巡している者の他にも【ガンナー】がそれぞれの武器を構えてあちこちから狙ってはいたのだが、そう言われると攻撃をためらう。
現に先程の戦闘でいくら撃とうが簡単に避けられて太刀打ち出来ず、挙句の果てに気絶させられているので、避けられた事によって自分達の大事なカシラに当たる恐れがあるのは分かっていた。
が、それでも戦闘中に撃って来た不届き者がいて、案の定ベナトールに避けられて、グリードは微かにではあるが二の腕を掠められた。
「だから言ったのだ」
呆れたように首を振るベナトール。
【ガンナー】達は、悔し気に武器を下ろした。
まだ戦闘は続きます。
二人で調査したと思われる「上位テオ=テスカトル」についてですが、「通常種とは違う動きをするかなり手強い個体だった」という事ですので、恐らく「特異個体」もしくは「剛種特異個体」だと思われます。
あ、グリードの推定年齢はベナトールよりも若く、多分二十代後半もしくは三十代だと思います。
私はどのキャラに関しても明確な年齢設定はしていませんが、ベナトール(オッサン呼ばわりされているので四十代ぐらいだと思われ)よりは遥かに年下です。