今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
刃が交わる音と二連撃の空気を切り裂く音が、先程から続いている。
二人の【ギルドナイト】の対決はハンターの動きをも遥かに凌駕しており、二人共【双剣】を使っているのもあって舞うように美しくさえ見え、ハンター達は手も足も出ないのもあって、二人の闘いに魅了されていた。
そのいつ決着がつくとも知れぬ勝負は、まるでアリーナで剣闘士の闘いを見ているかのような見応えがあるため、むしろハンター達は、内心では終わって欲しくないと思う程興奮していた。
自分達のリーダーが処刑されようとしているのに、である。
戦闘が長引くに従ってお互いの息も荒くなっていったが、主にその息遣いが目立つのはグリードの方だった。
「……。相変わらずタフだな貴様は……」
「それだけが取り柄なもんでな」
と言っても、単に体力を消耗しないような立ち回りをしているに過ぎないのだが。
しかしこれだけ長く闘っていると無傷ではいられず、深手ではないにせよ、お互いに体のあちこちに切り傷や刺し傷が付いている。
舞うように闘う度に汗と共に血も落ちるようになって来、勝負はどちらが先に致命傷を与えるかというよりは、体力を削った方が勝ち、というような様子になって来ている。
と、その時グリードが僅かに足をふら付かせた。
その隙を見逃さず突いたベナトールだったが、刹那で躱される。
飛び退ったグリードは、最後の勝負とばかりに頭上で【双剣】を交差させた。
ジャリーーーン!
刃が合わさる音がした途端、彼の足元から紅い闘気が立ち上った。
たちまち今までの動きとはまるで違う速さに変わり、鬼の如くに攻撃していく。
俗に言う【鬼人化】というものである。
「ようやく本気になったか?」
「うるせぇ! その余裕がいつまで続くか試してやる!!」
息もつかせぬ連撃に、流石の彼も押され気味になった。
「どうした、なんなら貴様も【鬼人化】しても良いんだぜ?」
「馬鹿者が、ますます体力が落ちるのが分からんのか貴様は。それが解けた直後を貴様の最期にしてやる」
「それまでに決着をつけてやるわ!!!」
と、ベナトールが下がった先に死体から出た血溜まりがあり、うかつにも滑ってしまった。
「もらったあぁ!!!」
バランスを崩した彼に向け、切り下しと突きが同時に来る。
切り下しの方は辛うじて防げたが、突きの方は防げずに、そのまま受けてしまった。
脇腹から血が溢れて行く。
だが、頑丈な制服の下に筋肉の鎧を身に付けているような彼は、貫通する程の衝撃を筋肉が吸収して貫通を許さず、致命傷に至っていない。
二人は動きを止めている。
「……そ……んな……」
刺されたのはベナトールのはずなのに、グリードの方が驚愕の面持ちで苦し気に声を出した。
「……。残念、だったな」
反対側から見ていたハンター達は、大きく目を見開いたままガクガクと震えている。
グリードの背中の中央辺り、丁度心臓があると思われる場所から、【双剣】の一つが突き出していたからである。
彼はバランスを崩しつつも、心臓ががら空きになる瞬間を見逃さなかったのだ。
「遺言は、あるか?」
「……く……そ……。き、貴様に……。オレは貴様に……、勝ちた、かった……」
そう言って、脇腹に突き入れた一本を掴んだままの手に力を入れたが、その震える手でそれ以上、押し込む力は残って無かった。
「すまんが、叶えてやる事は出来ん。さらばだグリードよ」
ベナトールはそう言うや否や心臓を抉り、抜いた。
噴水のような返り血を浴びつつ、脇腹に刺さった物を抜く。
体に力を入れて出血を抑えているので、血が吹き出さない。
崩れ落ちたグリードに跪き、力無く持っているもう一本を取ると、それを証拠とするために二本とも回収した。
深く息を付いて踵を返し、部屋を出て行く。
何人かのハンターが身構えようとしたが、彼が睨むと、そのまま大人しくなった。
「双剣」同士の闘いって、見応えあると思うんですよね。
ましてや「ギルドナイト」同士ですから、さぞや乱舞も綺麗だったろうと思います。