今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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これがこの話の最終話になります。


密猟団を駆逐せよ!(7)

 

 

 その頃、【マイハウス】で目を覚ました者がいた。

 もうとうに深夜になっている。起きている者はほぼいないだろう。

 

 なのに、微かに血の臭いがしたからだ。

 

 部屋を出て広場に出てみる。新月の夜だからか、星が降るように綺麗だった。

 

 確かに血の臭いがする。

 

 彼はそう思いながら、その場所に行ってみる事にした。

 なぜなら、それは【モンスター】ではなくて【人間】の血の臭いだったからである。

 

 誰かが怪我をしている。

 彼はそう思ったのだ。

 

 臭いは【街】の外から漂っている。だから行き倒れだろうかと始めは思った。

 

 

 

 ベナトールが抗え切れなくなって意識を手放そうとしたまさにその時、遠くから草を踏む音が聞こえた。

 しかも、少しずつ近付いて来ているようだ。

 

 ……見付かってはまずい……。

 

 彼は喘ぎつつも腰の【銃】に手を伸ばし、ピタリと足音の主がいる辺りに向けた。

 が、引き金を引く直前に、覚えのある声を聞く。

 

「……。オッサン?」

 ……アレク……。

 

 アレクトロならば自分を【ギルドナイト】だと知っているから殺すことは無い。

 が、出来れば見付かりたくは無かった。

 

「そこにいるんだよな?」

 

 まだ正確に場所を把握していないのだろう。そのまま歩いて来た彼は、倒れているベナトールに足を引っ掛けて転んだ。

「いって!? すまん大丈夫か?」

 圧し掛かってしまったのを慌てて起き上がり、偶然傷のある箇所に触れて、愕然とする。

 

 べったりとした血の感触があったからである。

 

「おいオッサン!? 何があった!?」

 とにかく助け起こそうとするが、相手の力が入らない。これには狼狽した。

 重症を負っても平然としている程のベナトールがぐったりしているという事は、致命傷になっていると考えても良いからだ。

 

「とにかく医務室へ――!」

 が、運ぼうとする彼の肩を、ベナトールは押し止めた。

「……。医務室はまずい……」

「なぜだ!? 運ばねぇと死んじまうだろうが!」 

「【仕事】の、途中なのだ……。そこに運べばバレてしまう……」

 

 ハンター専用とはいえ通常の医務室では、彼が正体を隠している事がバレてしまう。

 それに、カイやハナの目にも入るだろう。

 

「……運ぶなら、【ギルドナイト】専用にしてくれ……」

「んなもん場所分かるかよ!?」

 【ギルドナイツ】の施設内にあるのは分かっているのだが、その組織自体が機密事項なので、【ギルドナイツ】のメンバーではないアレクトロが知っているはずがないのだ。

 

「…………」

 

「お、おいオッサン!!」

 ベナトールは、とうとう意識を手放してしまった。

 

 まずい、どうにかしねぇと!

 

 アレクトロは重いベナトールを無理矢理担ぎ上げ、【街】の中には入らずに、外周を進んでベナトールの【マイハウス】までよたよたと歩いて行くと、外に面した窓から入ってベッドに半ば放り投げた。

 堂々と街中を歩いたりすれば誰に見付かるか分かったものじゃないし、血の跡で騒がれても困るからである。

 

 召使アイルーに指示して【ライトクリスタル】の入った大型のランプを持って来させ、彼の状態を見る。

 夜の狩猟で慣れているアレクトロでも、詳しく見るには明るくしたいからである。

 「【仕事】」と言っていたので【ギルドナイト】の制服を着ている事は分かっていたが、黒の制服は初めて見る。

 

 今夜は新月なので、闇仕様なのだろう。

 

 深手ではないものの上半身のあちこちに切り傷やら刺し傷やらがあり、高くつくであろう制服がボロボロになっている。

 脇腹に深めの刺し傷を見付けたが、致命傷という訳でもない。

 このくらいの傷ならオッサンは平然としているはずで、そう考えると意識を失う程の傷は、少なくとも体の前面には見当たらない。

 ならば裏か? とひっくり返してみたアレクトロは、途端に思考停止する程ショックを受けた。

 

 腰の後ろ側が大きく抉れ、穴が開いていたからである。

 

「こいつは……。ひでぇ……!」

 肉が爆ぜて筋肉組織がぐちゃぐちゃになっている。

 それどころか肋骨の一部や内臓の一部が顔を出している。

 回復系アイテムを飲んだのか既に回復の兆しは表れていたが、それにしてもあまりにも酷い。

「徹甲……榴弾に、当たったんだよな……?」

 

 でもなぜだ? オッサンなら撃たれる前に軌道を読んで避ける事など容易いはず。   

 

「とにかく、回復させねぇと!」

 主人のあまりの惨状を見て、泣きながらオロオロしている召使アイルーに【アイテムボックス】から回復系を持って来させるように指示していると、ドアがノックされた。

 

「ベナトール殿、帰っておられますか?」

 恐らく伝令の者だろう。

 

「帰って来てるがそれどこじゃねぇんだ。ちと手伝ってくれよ!」

 アレクトロが声を掛けると、こんな時間に違う者がいるのに警戒しつつ、伝令が入って来た。

 

「――これは――!」

 伝令は、ベナトールの状態を一目見るなり絶句した。

 

「な、ひでぇだろ!? だから早く回復させねぇと!」

「――分かりました。後はこちらにお任せ下さい」

 

 言いつつ、彼は短剣を抜いて身構えた。

「介抱して下さったのは感謝いたします。ですが、我々は秘密を守らねばなりません」

 

「ちょ! ちょっとタンマ!!」

 刺して来るのを躱しつつ、アレクトロは言った。

「俺はオッサンの正体を知ってるんだ! そして、オッサンもそれを認めてる!」

 

「――。なんですと?」

 

「オッサンは【街】の外に倒れてた。だが、ここに運ぶまでにまだ意識があったんだ。そして、俺が近付くまでに弱々しいが【殺気】を出してた。その【殺気】の特徴でオッサンと分かったんだが、んなこたどうでも良い。とにかく俺だと分かるとそれを消し、俺に身を任せてくれたんだ。嘘だと思うならオッサンの意識が戻ったら本人に聞いてみれば良い。今はとにかく治療が先だ!!」

 

「……。分かりました」

 伝令はそう言うと、その場で簡易治療だけしてベナトールの血を止め、運んで行った。

 

 

 次の日、アレクトロの証言通りに【街】の外れの草むらに大量の血痕が見付かった。

 そして血の跡がベナトールの【マイハウス】まで続いていた事から、その血が彼のものであるという証拠であると同時に、アレクトロが運んだ事も証明された。

 ベナトールの意識はまだ戻っていなかったが、【ギルドマスター】自体が二人の関係を認めていたため、アレクトロの処刑は免れた。

 

 

 

 後日、長い話が出来る状態まで回復したベナトールから詳しい報告を受けた【ギルドマスター】は、残党狩りとも言える作戦で団員ハンター達を探し出し、全て処刑させた。

 ベナトールのために「全滅させなくても良い」と言ったようなものだったし、【モンスター】用武器を使ったという事実がある以上、見逃す訳にはいかなかったのだ。

 

 アジトは封鎖され、元々使われなくなっていたのもあって、その坑道跡は爆破された。

 そのために訪れていた【ギルドナイト】の一人が、アジトから少し離れた場所で腐乱した、【ガンナー】と見られる死体の残骸を見たという。  




話の中の、切りの良い部分で分けて投稿したんですが、まさか七話まで続くとは思いませんでした。
しかも、それでも一話が長くなる場合もありましたしね。

あ、今更なんですが「ギルドガードスーツ」シリーズの色は「フロンティア」では紅と蒼の二種類しか無く、従って黒い制服は存在しません。
(「ギルドガードベスト紅」シリーズは黒いんですが、こちらを着ると「サーベル」を装備しなくなるのでベナトールは「スーツ」シリーズを着用している事になります)
ですが、闇仕様という事ですし、恐らく「ギルドナイト」自身で用途に応じて好きな色を着れるんだと自己解釈いたしました。

「禁忌モンスター」である「黒龍」の素材が使われていますが、制服と「ギルドナイトセイバー」は支給されるものだと私は考えていますので、彼が狩ったわけではありません。
なので、多分ベナトール自身も「ミラボレアス」は見た事もないのではないでしょうか。

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