今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
その日の彼は、なんでか調子が悪かった。
【狩猟】に身が入らないという訳ではない。
ないはずなのだが、うっかりしている事が多かった。
例えば【雪山】での事。
【フラヒヤ山脈】付近に出没する【フルフル】の狩猟が目的だったのだが……。
「おいオッサン、もしかして【ホットドリンク】忘れたんじゃねぇのか?」
勘の鋭いアレクトロは、ベナトールが震えているのを見抜いた。抑えているが、白い息を細切れに吐いているのが見えたためだ。
「もも、問題無い」
誤魔化してみたが、声が震えているために効果は無い。
「なに痩せ我慢してんだ。ほれやるからさっさと飲みやがれ」
呆れた様子で見えないように、こっそり【ホットドリンク】を差し出すアレクトロ。
それでも黙っていると、「おい! 【ハンマー】はスタミナ命だろうが! てめぇのミスでハナがピンチになったらどうすんだコラ! 受け取らねぇなら無理矢理口ん中突っ込むからな!」とヒソヒソ声で怒られた。
「すまんな」
こっそり受け取って見えないように飲むベナトール。
アレクトロは、こういう事には配慮する男である。
つまりは、特にハナには知られたくないだろうという事を分かっているのだ。
いざ狩りが始まると彼の動きには一切無駄がなく、攻撃も回避もハナを護る行動も、いつもと変わらない様子である。
なので(特にハナには)変わった様子は気付かれていないようだった。
次に【火山】に行った時も、彼はうっかりしていた。
今度は【ラティオ活火山】に生息する【ショウグンギザミ】が相手だったのだが、やはりアレクトロがベナトールの様子がおかしいのに気付いた。
ダメージを負っていないのに、大きな息をしていたからである。
それでも平然とはしているが、明らかに上昇した体温を持て余しているふうだった。
「オッサンよ、今度は【クーラードリンク】忘れかよ?」
苦笑しながらこっそり【クーラードリンク】を渡すアレクトロ。
「いやすまん、ちとうっかりしてな」
ベナトールは、今度は素直に受け取った。
まあ黙ってたら無理矢理飲まされるから、なのだが。
「【雪山】の時といい、らしくねぇなオッサン」
「むぅ……」
闘いつつも、ヒソヒソ声で話す二人。
「どしたよ? なんか悩みでもあんのか?」
「いや、そういう訳ではないのだが……。自分でも分からんのだ」
「最近ハナやカイに付き合って軽いクエばっか行ってるから、気が緩んでんじゃねぇのか?」
「そういうつもりは無いのだがなぁ?」
「まあいいさ。たまにゃオッサンもうっかりする事もあんだろ」
「……。そう、だと良いんだが……」
「キツイ依頼や【仕事】の時にこうなったらって心配してんだろ。安心しなオッサン。あんたがそんな時にヘマなんかしねぇよ」
アレクトロは彼の肩を、軽く叩いて戦闘に戻った。
ベナトールは兜の中で口の端を持ち上げてから、沸き上がった不安を打ち消すように吠えながら【ハンマー】を振るった。
「ねぇベナ。アレクにさ、何を貰ってたの?」
【街】に帰るまでの竜車の中で、ハナは聞いた。
「う、それはだな……」
言い淀むベナトールに、ハナは言う。
「もぉ、痩せ我慢しないでよねっ! 少しはあたしに頼ってくれたって良いじゃないっ」
ふくれっ面のハナ。
「おめぇよ、そういやオッサンに貰わなくてもアイテム使ってたよな」
「当たり前でしょ!? もうフィールド環境ぐらいは分かってるわよ。【モンスター】によって、何が必要かも」
「へぇ、意外に成長してんじゃねぇかよ」
「バカにしないでよねっ! こう見えて、一人でレウスも狩れるんだからっ」
「ほぉ? どこで狩ったんだよそいつ?」
「【ココット村】だけど?」
「【村】のレウスで自慢されてもなぁ」
「まあまあアレク。こいつにとっちゃ随分な成長だろう」
「甘ぇなオッサン。大体あんたがそんなだからいつまで経ってもおんぶに抱っこなんだぜ?」
「それの何が悪いのよ」
「あのなぁハナ、おめぇ自立する気あんのかよ!?」
「あるわよっ! あるけど……」
「あぁもう良いよ。おめぇらは一生くっ付いてろ!」
二人の雰囲気を見たアレクトロは、諦めるしかなかった。
というか、彼自身もそのつもりで付き合っているので愚問だったなと思った。
ハナが成長して自分で環境に合わせたアイテムを持って来るようになってなかったら、ベナトールがうっかりしてるのがバレてしまっていたので、成長してくれて良かったです。
(なんか最終的にバレてたみたいですが)
アレクトロが「村のレウスで自慢されても」とハナを馬鹿にしていますが、「村(オフライン)」の「モンスター」は全て下位扱いなので、その気になれば上位レウスを裸で狩れる程の実力のあるアレクトロにはまったく物足りない相手なのです。