今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
少し長めです。
いつもの平和な【ドンドルマ】は、突然鳴らされた早鐘によって、その雰囲気をがらりと変えた。
途端にハンター達は殺気立ち、一般人らは大慌てで家に入って窓という窓を全部閉めた。
普段は堅く閉ざされている迎撃門への扉が開き、【
伝令が飛び、召集をかけられたハンターは、下位の者は【ギルドマスター】の元へ、上位の者は【大長老】の元へ集まった。
上位であるベナトールは、他の上位ハンター達と共に【大長老】の命令を聞いていた。
「【古龍】が数頭、【街】に接近中との報告を受けた。その姿から察するに、【鋼龍クシャルダオラ】と思われるとの事。この時期は脱皮前のはずじゃから、かなり狂暴的になっている模様。皆、心してかかるように!」
「ははぁっ!!」
「準備が整い次第、各自で出撃せよ。手強い相手故PTを組む事をすすめるが、自信があるなら一人で挑んでも構わんぞ。――最も、今までに成功した者は一人もおらぬ故、命が惜しくばやめて置く事だ。儂とて分かっていて見殺しにはしたくない故に、一人で行くのは禁止する」
「了解致しました!」
全員がほぼ声を揃えて答える。
その中で一人、不敵に笑う者がいた。
「クックックッ。ついに来たか……!」
始めは抑えた含み笑いだったのが、段々恐ろしく不気味な大笑に変わって行く。
「ぐわ~~っはっはっ、ついに復讐を果たす時が来た! にっくき錆クシャめが! 俺がこの手で引導を渡してくれるわ……!!」
周りを憚らぬその笑い声と、全身から黒々としたオーラを湧き出させたその男の雰囲気に呑まれ、周りにいたハンター全員が、まるで今まさにこの場に【古龍】がいるかのように彼を中心にしてザザッと後退し、その後凍り付いた。
中には腰を抜かさんばかりにガクガクと震えている者や、胸の中央あたりを押さえて喘いでいる者さえいる。
「ベナトールよ……」
【大長老】は呆れた口調で言った。
「お主の因縁の相手だというのは分かるが、この場では【殺気】を抑えよ。周りの者が怯えておるではないか。これでは討伐に向かう前に死人が出てしまうぞ?」
そう言われた直後、彼の禍々しい程のオーラが消え失せた。
そして周りを見渡して状況を察し、「すまなんだな」と言ってさっさと出て行った。
残った者達はほ~~~っと長い息を吐いたり、その場にへたり込んだりした。
準備が出来たベナトールは、一人で出発した。
【大長老】にはああ言われたが、始めから一対一で闘って自ら引導を渡すつもりでいたし、そもそもあの状況を見れば他の者が付いて来てくれるとはとても思えなかったからだ。
アレクトロあたりならばあるいは組んでも良いと思ったが、PTを組むとなるとハナが付いて行く事を譲らないだろうし、あいにく【クエスト】中だったのか、それとも参加する気が無かったのか、自分が召集された時には三人の姿は無かった。
いやむしろ、あの場にハナがいなかったのは良かったと思った。
【殺気】を一切出していない時ですらあれほど怯えていたのだ。ならばあの場にハナが居合わせていたら、その場で心臓が止まり兼ねない。
ハナだけでなく、恐らくカイもそうなるだろう。
そう考えて、あいつらを死なせなくて良かったと安堵した。
【クシャルダオラ】の何頭かはすでに【街】の中に入り込んでおり、【戦闘街】と化した通りの一角は瓦礫となっている。
幸いにもその区画に住んでいる一般市民の避難は済んでいるようで、その守護力は流石に【
彼らのお陰でハンター達は、例え【街】に入ってしまった【古龍】でも気兼ねなく闘えるのだ。
ベナトールは、離れた一角にいる一頭に狙いを定めて突っ込んだ。
彼はいつもの【ハンマー】ではなく、【龍属性】を持つ【ランス】を担いでいた。
それはかつて父が使っていた物と同型のもので、加工技術の進歩により、更に強化されたものだった。
父が自分を庇って死んだ事によって成し得なかった因縁を、同型の【ランス】で、せめて父の代わりに引導を渡そうと決めたのだ。
こちらを見止めた【クシャルダオラ】が咆哮を上げる。
それと同時に体を覆うように、風を纏った。
【龍風圧】と呼ばれるもので、これによってまるで鎧のように他を寄せ付けず、【ボウガン】の弾や【弓】の矢を弾いたりする。
【クシャルダオラ】の持つやっかいな能力の一つである。
毒の攻撃で毒らせている間に一時的に消すか、その発生源である角を折るかでこの能力を封じる事が可能だが、〈龍風圧無効〉というスキルで無効化する事も出来る。
発動させるためのスキルポイントが二十と高いため、他の有効スキル(耳栓とか攻撃力アップなど)と併せて組むとすると中々難しい。
が、彼は必要最小限のスキルは全て身に付けているため、咆哮中ですら平然と攻撃を開始した。
【ハンマー】ならば迷わず頭だけを攻撃し続けるのだが、【ランス】なので、頭を中心にしつつ翼なども攻撃していく。
脱皮前の【クシャルダオラ】は鋼質の甲殻が錆ており、全身が赤茶けたような色をしている。
だから色違いの種類のようにも見え、その凶暴さから一時期【亜種】扱いになっていた事もあったそうな。
錆のせいなのか、飛び上がると金属同士を擦り合わせたような耳障りな羽音がずっと響く。
それが不快なのと飛び回られて被害が拡大するのを防ぐため、ベナトールは【閃光玉】を使ってなるべく飛ばさないようにしながら攻撃していた。
だが飛ばない代わりに闇雲にブレスを吐くようになるため、こちらも防がなければならない。
【ハンマー】ならば避けるしかないのだが【ランス】ならば盾で受けて防ぐ事が出来るため、その分の被害を食い止められる。
が、下位ハンターならば即死する程の勢いがあるこのブレスを受け続けるのも、中々キツイものだった。
盾が持たんかもしれんな……。
受ける度にギチギチと骨や筋肉が悲鳴を上げるのを聞きながら、彼はそう思っていた。
そんな中、目の端の瓦礫が動いたのを捉えたベナトールは、そこから現れたものを見て焦った。
小さな男の子が出て来たからである。
逃げ遅れたのか!?
ベナトールが子供に気付いたと同じように【クシャルダオラ】も気付き、過たずブレスを吐く。
機動性の無い【ランス】では武器を仕舞って飛び付くような暇などないが、素早く横ステップでずれてガードする事によって盾の端にブレスが当たり、なんとか軌道を逸らせる事に成功した。
「おい小僧! 無事か!?」
駆け寄って盾をかざしつつ状態を見る。
幸い大した怪我はしていない模様。
だが逃がすにしてもブレス一発で昇天するだろう。
「誰か! 誰かいないのか!!」
【
当然ながらハンター達は闘うのが精一杯で、とても子供を保護するような余裕はない。
頑丈な瓦礫か建物があればと素早く周りを見回してみたが、隠れるような場所はあっても破壊されて巻き添えで死んでしまうような所ばかりだった。
ならば自分が護り抜くしかない。
「ちとキツイかもしれんが、大人しくしておれよ?」
子供が頷くのを確認すると、彼は盾をはめた腕の中に、子供を抱え込んだ。
もうこうなったらブレスは元より攻撃も全て受け切る覚悟である。
なぜなら子供を抱え続ける行為は、盾が前に固定されてしまうからだ。
横脇に抱えるという選択肢もあるのだが、それだと盾で防ぐ事が出来なくなる。
両手が使える肩車にしようかとも考えたが、目を塞がれると致命傷になり兼ねないし、激しい動きで落ちられても困ると考えた。
だが問題は、盾がいつまで持つか、だな。
盾のある間は盾の中に子供を隠してやれるが、盾が壊されると子供のみならず自分も危険に晒しちまう。
まあ自分はどうともなるが、この小僧がどうなるか……。
ステップを駆使してなるべく攻撃の方は躱しながら、ブレスも吐かせないように頭を中心に攻撃していくベナトール。
角はとっくに折れているので【龍風圧】は気にしなくても良くなったが、飛ばれると左手だけで武器を仕舞ったりアイテムを使ったりしないといけなくなるため、非常に闘い辛かった。
(ハンターは自分の身を護る目的で、より防御力を高めるために利き手である右手で盾を持ち、左手で武器を扱うため)
早いとこ済ませねぇとな。
そう考えながら攻撃していた矢先、相手が反動を付けて半回転しながら前足で引っ掻いて来た。
一度目は躱せたが、二度目は躱せずにガードする。
その途端、盾が破れた。
まずい。
盾自体は残っているが、一部が捲れ、裂けたようになっている。
直接攻撃はまだどうにか防げそうだが、ブレスは風が通り抜け、防ぎ切れないだろう。
と、懸念した通りに相手が深く息を吸い込んだ。
「させるかあぁ!!!」
ベナトールは叫ぶと、吐き出す直前に喉を反らせる一瞬の動作に合わせて、【ランス】を突き入れた。
過たず喉に吸い込まれた矛先が、貫通して裏に飛び出る。
喉を反らせたまま動きを止めた相手は、そのまま大量の血を吐いた。
吐き出されずに喉の中で止まった竜巻状のブレスが、爆発するように喉を裂きながら四方に分散していく。
彼は、至近距離でそれを食らってしまった。
「ぐぅあぁあ!!」
盾が役に立たないと分かっているので身を捻り、両腕で子供を抱え込んで背中で受ける。
が、それも間に合わずに回転しながら飛ばされる。
錐もみ状態で防具が砕け散り、それでも子供は離さないまま瓦礫に叩き付けられ、何度か転がってようやく止まった。
五体が引き千切られるかと思うような衝撃を受け、体が動かせない。
意識が薄れようとした耳に、ハッキリと男の子の泣き声が響いて来た。
……無事だったか……。
安堵の息を吐いたら全身が疼き、呻いた。
そのまま気を失いそうになるのを、男の子の泣き声が引き戻す。
腕の中で泣き続けるので全身に響き、顔を歪めつつ苦笑いする。
だがそれによって意識を保ってくれるのを利用して、呻きつつ頭だけ動かして周りを見た。
やはり自分が対峙した【クシャルダオラ】は、あれが
【ランス】が刺さったままになっている。
周りに戦闘の音が響いてないのを考えると、どうやら【街】に入り込んだ他の【クシャルダオラ】も、討伐されたか撃退されたかしたらしい。
「大丈夫ですか!?」
声が掛ったので横倒しのまま見上げると、【
今更遅ぇよと思いつつ、男の子を示す。
「やはり泣き声の場所はここでしたか」
言いつつ抱き上げようとしてくれたので、ようやく腕の力を抜いた。
男の子の泣き声を頼りに来てくれたらしい。
ベナトールは、男の子が無事に【
「――ナ! ベナ!!」
呼び声が聞こえて目を開けると、ハナが泣きそうな顔で覗き込んでいた。
いつものようにその頭に手をやろうとして、顔を歪ませる。
「動けんと思うぜオッサン」
声のする方に目を動かすと、アレクトロがいた。
「全身複雑骨折だとさ。当分大人しく寝とくんだな」
骨がずれないようにベッドに固定されているらしく、体も動かせない。
「ったく、タフにも程があるぜ。『あの状態で子供を抱え続けていられたとは信じられん』とさ、【
「……。お前は……、何を、していたのだ……?」
「俺か? もちろん迎撃に参加してたさ。クエから帰ったらえらい騒ぎになってんだもんよ。準備もそこそこで部屋飛び出したっつの! でもよ、錆クシャ相手にするよりこいつ護る方が大変だったわ」
「なによぉ、あたしだって頑張ってたでしょぉ!?」
「まあ一応な」
「一応ってなによぉ!?」
「へいへい、麻痺させてくれてありがとな」
「もっと感情込めて言ったらどうなの!?」
「いやだって、麻痺ならカイもいるし。カイの方が尻尾切ったりしてダメージソースになってるし。な、カイ」
「えへへ♪」
「二人して酷ぉい、まるであたしがダメージ蓄積の戦力外みたいじゃないのぉ」
「おめぇなぁ、【片手剣】でそれ求める事自体が間違ってるっつの。それより【属性】蓄積を求めた方がまだ役に立つわバーカ。っつても〈属性強化〉のスキルなんざ持ってねぇだろ」
「つ……っ、作るもんっ!」
「今更作っても遅ぇよ。だから今まで通りに【状態異常】の方で頑張りやがれ。――つっても通用しねぇ相手の場合は役に立たんがな」
「だったらやっぱり作った方が良いじゃないのぉ」
「
「ひっどおぉい!」
「アレク、それは可哀想だよ!」
「そうよぉ! 謝んなさいよぉっ!」
「うっせぇな! オッサンの傷に響くだろうが!!」
「……アレク……、お前のが……、一番、響くんだが……?」
「マジで!? すまん」
それを聞いて、二人はケラケラと笑っている。
笑おうとしたベナトールは、悶絶した。
男の子は、無事に両親に返されたという。
ベナトールが一人で因縁対決をする話ですので、挿絵撮影では「パートナー」を外しております。
「父親と同型のランス」というのは「バベル」から強化していく「撃竜槍【明王】」です。
カワードはHR上位の時に彼を庇って死んでしまいましたので、凄腕で手に入る汎用素材を使ったものまで強化出来ませんでした。
ベナトールはGRでは下位ですが、HRで上位として認められた者からは全て「大老殿」から上位専用クエストを受ける決まりになっていますので、HRだろうがSRだろうがGRだろうが召集の際は「大長老」の元へと集まる事になっています。