今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「フロンティア」の始めの頃には通称「夫婦クエ」と呼ばれる、「リオレウス」「リオレイア」を同時狩猟するクエストがありました。
(今は廃止されております)
ソロでやるにはかなりキツイクエストではありましたが、その分やりがいがあって面白かったものです。


夫婦の仲を裂く者は

 

 

 アレクトロという男は、〈危険大好き〉のリアルスキルでもあるかのように、自ら危険に飛び込むような奴である。

 だから特に独りで受ける依頼は、成功が難しいような危険なものが多かった。

 もちろんそれで失敗する事もあるのだが、めげずに受けては最終的には成功したりしていた。

 

 そんな彼が今回選んだのは、【リオス科】の夫婦クエスト。

 つまり、番の【モンスター】を狩れというものである。

 

 

 

 通称【森丘】と呼ばれている【シルクフォーレの森】と【シルトン丘陵】からなる地域には、【イャンクック】などの【鳥竜種】や【リオレウス】などの【飛竜種】が住みやすい環境らしく、たまに人里近くに巣を構えては狩猟対象になる事がある。

 近くをうろつく程度ならば撃退だけでいいのだが、巣を構えてしまうとしばらくそこに居つき、子を育てるための餌の対象を家畜だけでなく人間をも視野に入れる事があるため、そういう場合は【ハンターズギルド】に依頼が来るのだ。

 

 【森丘】の位置的には【ココット村】が最も近く、従って新米も含めたハンター達の主な狩場を【森丘】で行う事が多いために、そこに住む者やハンターは大抵、【リオス科】の雄々しき姿を目にする機会がある。

 彼の者らは【森丘】の頂点に立つ程の強さを誇るため、いかに見慣れている【村】付きのハンターだったとしても、余程の腕が無ければ狩猟許可が下りない。

 だがそれでも【村】のハンターだけで解決出来る依頼を、【街】を拠点とするハンターにまで回されたのには訳があった。

 

 その番が【ハンター慣れ】していたからである。

 

 基本的に【村】での依頼は、ハンターランク的に下位のものしか無い。

 それはこの周辺に生息する【モンスター】達がハンターに会う機会があまりなく、従って【ハンター慣れ】してないから狩猟が容易いという判断での事。

 だが、そういう【モンスター】でも手強いものでは手負いになったりハンターが失敗したりして何度もハンターと闘う機会を得、ハンターとの闘い方を知ってしまった【ハンター慣れ】する個体が出て来る場合があるのだ。

 そういう個体はかなり手強くなっており、下位ランクではとても太刀打ち出来ない強さになる。

 なので、【ハンター慣れ】している【モンスター】は、上位ランクのハンター、つまり【街】のハンターが請け負う事になるのだ。

 

 アレクトロは、その上位の、しかも番の【リオス科】に独りで挑むつもりなのである。

 

 

 

 さて、今彼が歩いているのは地図で言う《2》の番号が振ってある所。

 そこは大抵【ランポス】の生息地になっており、先程から縄張りに侵入して来た彼をやっつけようと、喧しく鳴き交わしながら飛び付いたり噛み付いたりしている。

 彼らを統率する【ドスランポス】がいないのを見抜いているアレクトロは、その統率性の無い攻撃を適当にあしらいながら進んでいる。

 あまりにしつこいものは【大剣】の餌食にされているが、元から無駄な殺生をしない彼にとっては、彼らの攻撃すらも猫がちょっかいを掛けている程度にしか思っていない。

 

 そこを抜け《3》へ。

 

 【モンスター】は、自分の縄張りに入ったものに対しては容赦なく排除しようとするが、例え隣のエリアであっても一度縄張りを抜けてしまうと深追いをしないという性質があるため、もう【ランポス】共は追っては来ない。

 だから彼らを脅威とするはずの【アプトノス】の群れも、隣のエリアなのにも関わらず、この場所ではのんびりしているようだ。

 

 が、ここではそれを利用して【リオレウス】が狩場にしている事があるため、油断は禁物である。

 

「ふむ、いねぇな」

 まだ狩りは行われていなかったのかそこに狩猟対象の一つである【リオレウス】の姿が無いのを確認し、アレクトロは独りごちた。

 そこで、そのエリアから繋がっている《4》に行ってみる。

 その場所は巣があると思われる《5》の隣のエリアであり、羽を休めるために、よく【リオス科】が下りているからである。

 

 ――いた――!

 

 エリアの端に佇む深紅の影を見付けたアレクトロは、丁度入り口を塞ぐような形になっている、上に草の生えた岩陰に隠れつつ近付いた。

 気付かれないように近付くと、いきなり抜刀切りをお見舞いした。

 

 普通ハンターが真っ先にやる事と言えば【ペイントボール】を投げる事で、それを開幕の合図にする事が多いのだが、彼は気付かれようと気付かれまいとお構いなしに抜刀切りから始めるようだ。

 なので、そこから連続攻撃に繋げるせいで、攻撃に集中し過ぎて【ペイントボール】を投げるのを忘れて逃げた時などに目標を見失う事もしょっちゅうだった。

 狩猟時間の短縮は考えない奴なので、まあ時間内に見付かりゃいいやぐらいにしか考えてないのであるが。

 

 不意を突かれて面食らった【リオレウス】は、取り敢えず体を回転させて尻尾を打ち付けた。

 

 が、その行動を読んでいたアレクトロに避けられて、空気を切る。

 相対して威嚇してみたが、意に介さずに頭に一撃入れられる。

 頭をブルンと振って血を飛ばし、噛み付こうと横様に首を振ったが、相手の頸動脈に牙が掛る寸での所で避けられた。

 

 直後に下顎から上に向けての斬撃。

 

 怯んだ所に横様に頬を一撃。甲殻を通り抜けて肉に食い込んだ刃が抜かれると、【リオレウス】は怒りの咆哮を上げた。

 

 飛び退りつつブレス。

 

 避けられた方向を見定め、そのまま突進。

 つんのめる程の勢いは、しかしアレクトロを轢き殺せない。

 

 

 

 ゆっくり振り向いて息を吸い込んだ相手に対し、アレクトロは余裕で避ける準備をした。

 が、背後で大きな風圧が起こって一瞬背筋が凍った。

 

 ――来たな。

 

 それが絶望的な状況を生む事を知っているにも関わらず、アレクトロは兜の下で口の端を持ち上げた。

 途端に背中で爆発するように咆哮が上がる。

 

 彼は見なくても分かっている。

 【彼】の嫁である【リオレイア】が降り立ったのだ。

 

 直後に放たれた【リオレウス】のブレスを躱す。

 背後から重々しい足音が響いて来るのを感じ、ちらりとそちらを見てから横に避ける。

 深緑の巨体が脇を擦り抜けるのを見送ると、丁度並んだように視界に入った夫婦を見据え、ニヤリと笑った。

 

 怖くないと言えば嘘になる。

 背中に嫌な汗が伝うのが分かる。そして手にはべっとりと汗が滲んでいる。

 それを拭おうと無意識に太腿に持って行ったが、手甲をしているのを思い出して途中で止めた。

 

 二頭は、まるでシンクロするように吠えている。

 

 どう料理しようかと考えたが、取り敢えず怒っている【リオレウス】の方から片付ける事に決めた。

 【彼女】に邪魔されないように、タイミングを見計らって【閃光玉】を投げ、大人しくさせる。

 効いている時間は短いが、その間になるべく【彼】に大ダメージを叩き込む。

 が、相手はよく飛ぶので、【彼女】の視界を奪っている間には中々攻撃する事が難しい。

 

 と、【彼】がブレスの体勢に入った。

 

 タイミング的にガードしようかと考えていると、背後から熱量を感じた。

「どわわっ!?」

 変な声を出して横っ飛びした直後、前後から挟み撃ちするように火球が交差した。

「あ、危ねぇ……」

 

 どうやら【彼女】の視界が戻ったようである。

 

 二つの火球は直線状に飛び、偶然にも夫婦のお互いの顔面に直撃した。

 【火竜】とも呼ばれる種類なので熱に対してはへっちゃらなのだが、どうもこれがきっかけでお互いにキレたらしい。

 エリアの端と端で咆哮を上げるや、お互いを目指して突進して行く。

「うわわわっ!?」

 堪らず《5》に通じる高台の上に避難したアレクトロは、そこから唖然と夫婦喧嘩を眺めた。

 

 全長十六メートル強の巨体がぶつかり合う。

 火球をぶつけ合い、絡み合い、噛み付き合い、転がり合う。

 

 唸り声と地響き、土煙や火煙が上がり、その大して広くも無い《4》エリアは、引っ掻き回されたり焼かれたりして見る見るうちに草原や茂みだったものが土だけになって行く。

「……お前ら、目標間違ってねぇか?」

 高台に沸く【ランゴスタ】をあしらいながら、アレクトロは呆れて言った。

 

 

 お互いが気が済んだ様子でようやく離れた時、既に両者共に息も絶え絶えになっていた。

 アレクトロは少しばかり気が引けたが、「喧嘩両成敗という事で……」と【閃光玉】を投げる。

 夫婦共にズタズタになっているようなので、二頭共に【罠】に掛け、捕獲する事にした。

 

 討伐するにしても、自分の力だけで【クエスト成功】してないように思えて、依頼主に対して申し訳ないような気がしたからである。

 

 




もう廃止されてしまったクエなので、挿絵の再現撮影が出来ませんでした。
実際にこんなふうに、エリア4で夫婦喧嘩をするシーンを撮りたかったのに。
残念。

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