今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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これは、前回の「夫婦の仲を裂く者は」から思い付いた話です。


命懸けの勘違い

   

 

 

 

 ハンターの間で【森丘夫婦】と呼ばれている、【リオス科】の(つがい)を狩猟する依頼を受けたアレクトロは、夫婦喧嘩のお陰で(笑)無事に【クエスト成功】した。

 親は捕獲したのでその子供は【ハンターズギルド】に任せておけばどうにかしてくれるのだが、【街】に帰る前に、ふと巣のある《5》に寄ってみた。

 巣の様子は一切見てなかったので、まだ卵のままなのか、それとももう生まれているのか気になったのだ。

 巣を覗くと、そこには三匹の雛がいた。

 卵は欠片しか見当たらないのを考えると、もう全部生まれてしまったのだろう。

 

 懐かしいな。

 

 アレクトロは、かつて自分が【リオレイア】に育てられていた頃を思い出した。

 

 俺がいた頃も、こんなちっこい雛が周りにいて、一緒にじゃれたりしてたっけ。

 

 アレクトロは巣に入り、雛の前に胡坐をかいた。

 まだ警戒心という言葉を知らないのか、雛達は目をぱちくりしながらキョトンと彼を見上げてから、『クルル……』と鳴いた。

 

「クルル……」

 彼も同じように()()()答える。

 

 【リオレイア】に育てられた経験から、【リオス科】の言葉がある程度分かるからである。

「クルル、クゥックゥッ……」

 懐かしくて可愛くて、赤子をあやすように持ち上げてたら、突然背後から「動くな!」と鋭い声を掛けられた。

 

 振り向く事も許されないような、張り詰めた空気に変わる。

 

「貴様、その雛をどうするつもりだ?」

 

 振り向かなくてもアレクトロには見当が付いていた。

 恐らく【ギルドナイト】だろう。

 だが、なぜ急に現れた?

 

「……なに勘違いしてんだ? 俺はただ雛をあやしてただけで――」

「嘘を付け! 密猟するつもりだったのだろうが!!」

「な!? なんでそういう事に……!?」

 アレクトロは面食らった。

「調べは付いている。最近【リオス科】の雛を狙って密猟する輩がいると」

 

なるほど、それで現れたのか。

 

「それ俺じゃねぇって! 俺は今【森丘夫婦】の依頼をクリアしたばっかなんだぜ!? んで、たまたま巣の様子を見て、雛がいたからあやしてただけだっつの! 表に夫婦が捕獲されてんの見てんだろが!」

「雛を狙うならば夫婦を狩るのは道理。そして、【リオス科】の番を独りで狩れる者は、そうはいない」

「あんたさぁ、そいつのスケッチ見てる訳? 名前とか分かってんのか?」

「今は貴様に疑いを掛けている段階だ。怪しい輩を調べるのは当然だろう」

「……分かったよ。だが、せめて振り向かせてくんねぇかな? その方が雛にも手を出せねぇだろ」

「……。良いだろう」

 

 抱いていた雛を下ろしてゆっくり立ち上がり、振り向く。

 

 やはりそこには、【ギルドナイト】の制服に身を包んだ者がいた。

 ハンターが着る事を許されているレプリカは、赤もしくは青を基本にしたものなのだが、今対峙している【ギルドナイト】は緑の制服(ギルドナイトスーツ)を着ている。

 階級によって色が決まるのか、それとも自分で好きな色に出来るのか、【ギルドナイツ】のメンバーではないアレクトロには分からない。

 見た目や声質から言うとアレクトロより下か、もしくは同等の年齢に見える。

 

「ゆっくりこちらに来い」

 

 頷き、言う通りにしようとすると、『クゥ』『ギャウギャウ』などと鳴きながら、雛達が足元にくっ付いたり背中によじ登ったりし始めた。

 

「ちょ、ちょっとお前ら!」

 慌てて引き剥がし、元に戻す。

「すでに懐かれている……。さては貴様、運ぶ最中に大人しくさせるために、予め懐くように仕向けていたな?」

「んな訳あるかっ! こいつらは多分、言葉の分かる俺を仲間だと思ってだな――」

 

「問答無用、貴様を密猟の罪で成敗する!」

 相手は腰の【サーベル】を引き抜いた。

 

「待て待て待て待て!!」

 突っ込んで来る相手を辛うじて躱すが、次の瞬間切り上げられて、アレクトロは思わず【大剣】をかざした。

「おのれ、武器を用いるとはますます許しがたい。覚悟しろ貴様ぁ!!」

「ち、ちげぇよ! あんたの攻撃を防ぐためにやむを得ず――」

「黙れ! 大人しく心臓を差し出せ!」

「御免被る!」

 

 鋭い斬撃とそれを弾く音が飛竜の巣に響き渡る。

 アレクトロに攻撃する気などまったく無いが、ガードに徹する事しか出来ないでいる。

 つまり早くて避けられないのだ。

 

 【ギルドナイト】の素早さは、それに所属しているベナトールを見ていればある程度は把握出来ていたが、こうも圧されてしまうと誤解されたまま殺されてしまいそうである。

 

 出来ればそれは、避けたかった。

 

 僅かなチャンスに切り上げで吹っ飛ばす事に成功したアレクトロは、肩で息をしながら【大剣】を杖代わりにして身を支えた。

 吹っ飛ばされた相手は地面に叩き付けられる前に器用に回転して着地し、同時に腰から【銃】を抜いて、アレクトロに狙いを定めていた。

 

「横に飛べ!」

 

 その時別の声が掛かり、アレクトロは考える間も無く反応して倒れ込むように横に飛んだ。

 

 直後に弾が二の腕を掠める。

 

 転がって起き、血の筋が出来た二の腕を顔をしかめながら押さえると、「なぜ止めるのです!?」と今まで攻撃していた【ギルドナイト】が後ろを振り向いて怒声した。

 掛った声に覚えがあるアレクトロは、その姿を見止めて「オッサン!?」と言った。

 

 《5》の入り口から近付いて来た大男は、同じ緑色の制服を着ていた。

 ただし、こちらは金属で補強した頑丈な作りをしている。

 《4》に通じる入り口から入って来たという事は、恐らく今まで捕獲された夫婦を調べたりなど、他の調査をしていたのだと思われる。

 

「間違った事を止めるのは道理だろう。確かに我々は殺人専門ではあるが、罪の無い者まで殺す必要はない。無駄な殺人だ」

「しかしこの者は――」

「こいつは密猟などしていない。本当にただ依頼を受けてクリアし、たまたま雛がいるのを見付けただけだ」

「ならば、なぜ雛は懐いて――?」

「こいつの特殊能力でな。雛と会話出来るために、雛が仲間意識を持ったまでの事。何もやましい事などない」

「会話出来るって……。その方が怪しいのでは?」

「俺はこいつが【リオレイア】と会話をする所を見ている。そしてそうやって闘う事なく退けた所もな」

「信じられません」

「俺の言う事が信じられないと? 前情報だけを頼りに勘違いして、罪も無い人間を殺そうとした事と言い、余程罰を受けたいと見えるな貴様。新人だから大目に見てもらえるとでも思っているのか?」

 

 ベナトールが静かに怒っているのを、アレクトロは付き合いから察していた。

 それでも【殺気】を抑え込んでいる彼を見て、新人である【ギルドナイト】は完全に怯えている。

 

「さぁて、どんな罰を下そうか」

 そう言いながらベナトールは、ゆっくり新人の首を掴むと片手で持ち上げた。

「俺の大事な仲間を殺そうとした罪は重いぞ新人? ゆっくりと死の恐怖を味わうが良い」

 

 ベナトールは、僅かずつ首を掴む手に力を入れていく。

 

「もうやめてやれよオッサン。誤解が解けたんだからそれで良いだろ。俺も死んでねぇんだし」

 それでもまだ力を緩めなかったベナトールだったが、「……フン」と鼻を鳴らしてゴミでも捨てるように脇に放り投げた。

 

「もうここには用は無い。行くぞ」

 

 さっさと去って行くベナトールの背中に、「助かったわオッサン、ありがとな!」と声を掛けるアレクトロ。 

 彼は無反応のように見えたが、僅かに顔をこちらに向けたのを、アレクトロは見逃さなかった。

 新人の【ギルドナイト】は喉を押さえ、咳込みながら震えていたが、立ち上がって「すまなかった!」と頭を下げ、多少よろけつつもベナトールの後を付いて行った。

 

 ありゃ苦労するだろうな……。

 

 アレクトロは、新人の後ろ姿を見送りながら、彼の苦労を想像して苦笑いした。

 




「ギルドナイトの制服は支給だが色は好きに選べる」という自己解釈により、今回彼らは緑色の「ギルドナイトスーツ」を着ています。
舞台が「森丘」なので、目立たないような色を選んでいるという設定です。
ベナトールは「ギルドガード」の方ですが、これは「上位階級になるとガードシリーズを支給されるようになる」という自己解釈のためです。


本来「ギルドナイツ」というのは単独活動が基本らしいのですが、今回は新人教育という事でたまたま上司であるベナトールが同行していたようです。

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