今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
彼ならきっとこうなるだろうなと思って書いたものです。
【ギルドナイツ】の施設内にある訓練場で、【ギルドナイト】の候補生達は、今日も訓練に励んでいた。
といっても彼らの場合はハンターの訓練ではなく、
【ギルドナイト】とは、即ちハンターを狩るハンターの事である。
従って【ギルドナイト】になるからには、対人専門の戦闘能力を身に付ける必要があるのだ。
【ギルドナイト】は、ハンターになる時のように訓練場を卒業したり、各地の【ギルドマスター】から推薦状を貰ったりしてなれるものではない。
同じ【ハンターズギルド】に所属するので登録制であるというのはハンターと同じ(ただしこちらは直属)だが、特殊な条件がないと普通はなれない。
ハンターの中で【ギルドマスター】が目を付けた者。もしくはハンターをしている【ギルドナイト】がスカウトした者。
それもただ狩猟が上手いという理由ではなれず、何某か飛び抜けた実力が必要らしい。
しかし秘密裏に行動する事を要求される【ギルドナイツ】の組織は、その情報漏洩を防ぐために都市伝説と化す程秘密主義に徹しているために、未だに【ハンターズギルド】の一部でありながらハンターにすら知られていない程だった。
一応ハンター達の間で話として持ち上がる事があるにはあるのだが、それはまるで悪い事をした子供に対して「悪い子は【モンスター】が来て食べちゃうんだよ!」と脅すように、「違反すれば【ギルドナイト】に殺されるらしい」と、自分達を諫め合うような使い方をする程度だった。
しかしそれでも「自分が殺される」という恐怖はハンターにとっても恐ろしく、ハンター同士の自制として充分に機能していたりする。
「ホレどうした。さっさと殺してみろ!」
【ギルドナイト教官】が、そんな物騒な事を言いながら訓練生を焚き付けている。
彼らは模擬刀と盾を持っている。
模擬刀と言っても切れ味の悪い刃が付いており、切れば相手は傷が付く。ただ深手にならない、というだけである。
人を殺す訓練であるために、実戦向きになっているのだ。その精神をも養うために。
対して【教官】は、なんと丸腰のままで自然体に立っている。
そんな彼に向って殺す気で挑めと言うのである。
彼は初老ながら、その筋肉は他の者を遥かに凌駕している。
その上大男で、更には褐色の肌をしているために、ただ立っているだけでかなりの威圧感があった。
それでけで凄みがあるので怖気付く者もいたが、そんな事をしていると失格になるので訓練生達は踏ん張っている。
彼らはハンターとしての経験上、並の人間より遥かに戦闘能力があるのだが、その力を以てしても、彼には掠り傷一つ付けられないでいる。
どんなに懸命に切り付けようが、全て避けられてしまうのだ。
「どうした? 丸腰相手でも掠り傷すら付けられんのか?」
【教官】は、まるでからかうかのように口の端を持ち上げたまま、自分を殺す気で向かって来る訓練生達をあしらっている。
自分は決して攻撃せず、ただ避けるのみ。
その最小限の動きは、刃が届く寸前なので少しは届く者がいそうなものなのだが、全員で掛かっても一人もその身に刃を当てる事は出来なかった。
「……よし。ならばこうしよう」
そう言うなり【教官】は、なんと目を閉じた。
「どうだ? これで少しは当てられるかな?」
丸腰な上に目が見えない相手を殺そうとする事に、躊躇する訓練生。
「どうした、遠慮はいらんぞ? まとめて殺しに来い」
本当に殺す気で向かわなければ失格になる事は分かっているので、気を奮い立たせて全員で向かって行く。
が、そういう状態でも彼らの刃は当たらない。
「情けねぇなぁお前ら、本当に見えてんのか?」
煽る様な発言に悔しがりつつも、体力を消耗しはじめた訓練生達は、一人、また一人と離脱して行った。
だがそんな中でも頑張っている者がいて、その中の一人がとうとう彼の頬を僅かに切る事に成功する。
「おぉ、当たったなぁ!」
【教官】は嬉しそうに目を開けると、誰がやったか分かっているようでその者に向き直り、「次はもっと深く刃を入れられるように頑張れよ」と、頭をポンポンした。
「はいっ! ありがとうございますっ!」
深々と頭を下げる者に優しく笑いながら踵を返し、「今日はここまで」と去って行った。
「ありがとうございましたっ!」
声を揃えて礼をする訓練生達に、背中を向けたまま手を上げる。
【ギルドナイト教官】となったベナトールの、これが日常的な出来事だった。
「ギルドナイト」であり、現代でも上位階級のようなので、未来は「ギルドナイト教官」までいってるだろうなと。
彼は殺人専用の担当なので、対人専用訓練というよりは殺人訓練のようになってしまっております(笑)