今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
現代でもこんな訓練が繰り広げられているんでしょうが、これはあくまでも「ベナトールが未来ではギルドナイト教官になっている」という設定に基いて書いたものですので、現代ではなく未来での話になっています。
新入のギルドナイト候補生が整列している前に立ち、【ギルドナイト教官】となったベナトールは、おもむろに口を開いた。
「今日からお前らは【殺人者】としての訓練をし、卒業したら殺人専門の任務をこなす事になる。故に、その精神も養わねばならない。時には自分の感情を押し殺さねばならない事もあるだろう。単独行動が基本だが、集団戦に巻き込まれる事もある。まあ一度の訓練で身に付けようとは思わんで良いが、いずれはそういう事に対処出来るように」
「はいっ!」
「まずは急所を狙える訓練をする。【モンスター】と同じだから分かるな? お前答えてみろ」
「【心臓】【頸動脈】……あたりでしょうか?」
「まあ正解だな。ならばその場所はどこだ? 正確に【心臓】を突いてみろ」
そう言われた訓練生の一人は、模擬刀でベナトールの左胸を突いた。
といっても切っ先は尖ってない(丸い訳ではなくて刺さらない程度になっているだけ)ので、突いたというよりは『つついた』と言った方が良い。
「馬鹿者そこは【肺】だ。一般的に人間の【心臓】があるのは左胸だと思われている事が多いが、それは間違いだ。確かに『左胸』などという表現はあるが、実際にはむしろ中央よりにある。つまりここだな」
ベナトールは模擬刀を掴むと、自分の胸の中央付近に切っ先を添えた。
「お前の持つ模擬刀がもし本物の【サーベル】ならば、このまま押し込めば俺は確実に死ぬ」
ニヤリと笑ったベナトールに対し、訓練生は狼狽の表情を浮かべている。
「後はここだな。このまま一気に切り抜けば良い」
同じように、模擬刀を首の横(性格には下顎のすぐ下あたり)に添え、ベナトールは【頸動脈】の位置を示した。
全員(といってもギルドナイト候補としてスカウトされる者自体が少ないので十人程度)に見えるように横向きで教えながら、「確実に狙えるように覚えて置くように」と言う。
「はいっ!」
「だがな、正確な場所はここだが、相手も馬鹿じゃねぇから殺す気で向かって来るかもしれん。まあ【ギルドナイト】というだけで縮み上がるだろうが、無抵抗で殺される者はそうはいねぇだろう。だから動き回る。立ち位置なんかでは狙えない場合もあるだろう。そういう場合はどうするか……」
ベナトールは全員を見回した。
彼らはそれぞれに考えている。
「……。脚を、狙って動きを鈍らせれば良いんじゃないですかね?」
「良い考えだがそれだと騒がれねぇか? 我々は暗躍者だ。いかに見付からずに、人に知られずに仕留められるかを求められる。しかも一度命令が下れば確実に殺さねばならん。失敗は許されん」
「ならば、背後から狙うのは?」
「ほぉ、よく考えたな。そう、何も正面から堂々と狙う必要はないのだよ。だがそれも難しい場合や集団戦の場合、動き回る相手を急所狙いだけで仕留めるのは容易ではない。だから、体の動きの最も少ない場所を狙う事になる。つまり腹だな」
そう言いながら、自分の腹を示すベナトール。
「後ろからなら腰付近になる。だがこの場合、急所と違って一度で殺す事は不可能なのだ。なるべく苦しませずに殺す事も求められるが、この場所だけでは相手はかなり苦しみ悶える事になる。だからここを狙うを得ない場合は、なるべく早く止めを刺してやる事だ」
「分かりましたっ!」
「他の場所、【肺】【眉間】【喉】なども有効ではあるが、即死させたいならばなるべく【心臓】を狙う事」
「はいっ!」
「【心臓】の深さは個人差があるが、大体七センチ程度と言われている。だから無理に貫通させる必要はねぇぞ。つまり【モンスター】より刺す力はいらんという事だ。どうだ楽なもんだろう?」
ニヤニヤ笑いながら見回すベナトール。どう答えて良いのか分からないふうの訓練生は、複雑な表情でお互いに目を合わせていた。
「さて。では実際にはどう闘うかを見せてやる。気付かれずに仕留める場合と戦闘になった場合のやり方だ」
ベナトールは卒業生を呼んだ。
「ゆっくりやるからよく見て置けよ?」
そう言うと二人で対峙し、まず仕留める場合の動きを見せる。
「気付かれないようにするには背後から回って……」
そう言いながら背後に回ったベナトールは、「背後から心臓を突くか、素早く頸動脈、もしくは喉をかき切る」と、両方の動きをやって見せる。
「気配を消して近付く必要があるが、そのやり方はハンターならば身に付いているはずだ。だが気付かれた場合は戦闘になるかもしれん」
正面に回るベナトール。
「その場合は相手の動きを読んで避けたり受けたりする必要がある。【モンスター】と違って人間は素早いぞ。特に戦闘慣れしているような連中はな」
模擬刀を受け取ったベナトールは、卒業生を相手に立ち回って見せた。
ゆっくり見せてはいるが、それでもけっこう目で追うのが忙しい。
ベナトールは全て避けられる攻撃を、訓練生のためにわざと模擬刀で受けたりして見せている。
実際に【サーベル】一本で闘う事になるので、彼には避けられるが普通では避けられないものを受けて見せているのだ。
ある程度やって見せてから、「お前らに見せるためにわざとゆっくりやって見せたが、実際はこんな速さになる。一応こっちも見て置け」と、卒業生に次のように声を掛けた。
「よし。本気で来い」
たちまち倍以上の速さで向かって来る卒業生。
それを軽くいなすベナトール。
だがやはり、受ける所はわざと受けて見せていた。
最後に止めを刺すように心臓の位置に模擬刀の切っ先を付ける。それでお互いの動きを止め、訓練生を見ると、ただ呆気に取られてポカンと口を開けていた。
「見えなかったかな?」
可笑しそうな二人。
「ご苦労。だがまだまだだな」
「やはり戦闘ともなると、中々急所は狙いにくいですね」
「お前は狙う時に一瞬剣を下げる癖があるな。力を乗せるためだろうが、その隙を突かれるとやられるぞ」
「気を付けます」
「いや多分無意識にやってる癖だな。後で俺の部屋に来い。矯正してやる」
「了解しました。ありがとうございます」
卒業生を下がらせたベナトールは、訓練生に向き直り、「二人組になれ」と促した。
余った一人を自分に付け、「お互いを殺すつもりで闘ってみろ。始め!」と対人戦の訓練をさせた。
訓練の日々を積み重ね、集団戦も含めて剣での対人戦がある程度出来るようになったら射撃の訓練である。
【ボウガン】に慣れたハンターでも、片手で扱う【ギルドナイト】専用の【銃】では勝手が違うため、始めはみんなやりにくそうにしている。
流石のベナトールも実弾を受ける訳にはいかないので、的に当てる訓練をしている者の横に付いて指導した。
(まあ【銃】での戦闘訓練では当たると色が付く模擬弾で指導するのだが)
そうやって、対人戦のスペシャリストを育てていく。
だがやはり途中で失格になる者が多く、実際に卒業出来る訓練生は、三人いれば多い程。
なぜならそれまでに適性が無いと判断されたり、実地試験で失敗したりするからである。
(卒業生が陰で見守るので、失敗すれば卒業生が処刑対象に止めを刺す事になる)
失格した候補生はハンターに戻れるが、【ギルドナイツ】の組織について一言でも漏らすと処刑対象になる。
アレクトロのようにその存在に気付き、それを他の者に話す(もしくは噂を広げる)場合も同様。
といってもアレクトロが特別なだけで、普通の者はまず気付かないのだが。
だからなのか、ベナトール本人どころか【ギルドナイツ】を取り締まっている【ギルドマスター】でさえ、彼が他言しないのもあって黙認しているようである。
アレクトロの口は堅く、特に「ギルドナイツ」の存在は例え死んでも話さないくらいの覚悟をしており、なのでそれを知っているベナトールもギルドマスターも黙認という形を取っているのです。
ただし、彼が一言でも漏らせば処刑するつもりではいるようです。