今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
通称【雪山】と呼ばれている【フラヒヤ山脈】に、まるで怪談のような噂が立った。
なんでも、『雪原に大量の血痕が見えたので近付くと、それが蠢いていた』というのである。
それも、『どうも電気を帯びているらしい』との事。
「なんだその気色悪い話は?」
「『電気を帯びて蠢く血痕』……。何かの【モンスター】の仕業なのか、たまたまそこに電気の地場が発生したのか、それともその『血痕そのもの』が【モンスター】だったのか……」
「なにそれ気持ち悪い。そんな話やめてよねぇ」
「お、おいらグロイ話ダメなんだよぉ」
カイは涙目になっている。
「ふむ。調べてみっか? オッサン」
「だな。もし見間違いでただの血痕だったにしても、『大量な』というのが引っ掛かる。【モンスター】が食い散らかされていたのだとしたら、死骸の欠片が見付かるはず。それが肉片一つ見付かっていないというのなら、そうなる理由も調べねばならん」
「まあ『電気を帯びている』ってのなら、ある程度見当は付くっちゃ付くが……」
「そうだが、それは【モンスター】の場合だろう? そうとは限らんかもしれんからな」
「あたしパス。そんな気持ち悪いもの見たくない」
「おいらも嫌だ」
「別に全員で来いとは一言も言うつもりはなかったんだがな? てか、別にてめぇらなんぞは端から当てにしてねぇよ」
「酷ぇ言いようだなアレクよ?」
「事実じゃねぇかよ」
ベナトールは苦笑した。
さて。
【ベースキャンプ】から外へ出、そのまま《6》へ。
噂では『雪原に血痕があった』という事だったから、この場所か後二ヶ所ある《8》《7》あたりにありそうなのだが……。
「オッサン、あれ――」
《8》に入った時、遠くに赤いものが見えたのだ。
真っ白い雪原に、まさに血のように一ヶ所だけ赤くなっている所がある。
「あそこだな」
「おう。行ってみようぜ」
駆け寄って行くに従って、その血のようなものが、蠢いているのが分かって来る。
そしてその正体が、段々とハッキリしてきた。
雪煙で霞んでいた視界がクリアになっていくに従って、それがどうも血痕ではないという事が分かって来たのだ。
それは血のように赤い体を持つ【モンスター】だった。
その体には甲殻や棘などが一切無く、まるで甲殻を全て剥がされて中の肉を剥き出しにされているかのような、つるんとした外見をしていた。
鱗は埋まっているのか、それとも元から無いのか、とにかくブヨブヨした皮膚に覆われている。
どうやら【飛竜種】のようで、控え目な翼が前脚にあたる所に付いている。
正面に回り込むと、首の前にあるはずの頭が無く、頭を切り落とされた首だけが胴体に付いているというように見える。
そして、その頭無しの首を地面に近付け、ヒクヒクと動かして臭いを嗅いでいるかのような仕草をした。
「……。こいつ、【フルフル】じゃねぇのか?」
「どうやらそのように見えるな」
「だが、【フルフル】って普通は白いよな?」
「『白い』と言うよりはむしろ『色が無い』と言った方が正しいが……。まあそうだわな」
「っつう事はよ、【亜種】か?」
「そう考えるべきだろうな」
「なるほど、なら『電気を帯びていた』ってのも辻褄合うな」
「だな」
もしこの【モンスター】が【フルフル亜種】ならば、電気を操るからである。
「試してみっか……」
そう呟いたアレクトロは、少し相手を切り刻んでみた。
ヴォエェ~~~!!!
なんとも奇妙な声で鳴いた相手は、アレクトロに向き直ると短い尾の先を吸盤のように丸く広げて地面に付け、頭の無い首の先を切断面を見せるかのように彼に向けるや否や、そこから電気を吐き出した。
電気は地面を伝わりながら三方向に広がりつつ、彼に向かって来る。
「おっと」
アレクトロは簡単に避けると、「確定だな」と言った。
「やっぱ見当通りか……。どうするよオッサン、このまま狩るか?」
「ふむ……。その前に報告して【マスター】の意見を伺おう。だが、サンプルは欲しい所だな」
「了解。なら気絶させてくれよ。俺が皮膚を剥ぐからさ」
「承知した」
「……。ふむ、やはり【フルフル亜種】じゃったか」
【街】に帰って【ギルドマスター】に報告すると、二人はそんな事を言われた。
「分かっておられたんですか?」
「『電気を帯びて蠢く』というので、なんとなく想像は付いておったのじゃよ。電気を操る【モンスター】は【雪山】には他にもいるが、『血痕が蠢く』というのだから、それが【モンスター】なら色は赤じゃろう。だとすれば、赤い【モンスター】は【フルフル亜種】しか今の所【雪山】にはおらんのでな」
「やっぱ俺が見当した通りだったな」
「――ん? お主もそう思っておったのか?」
アレクトロの発言に、少し驚く【ギルドマスター】。
「まぁある程度の想像はしておりましたがね。そして報告すれば、【マスター】もそうおっしゃられるだろうとは思ってましたよ」
「相変わらず勘が鋭いのぉ、お主は」
「お褒めいただき光栄でございます」
「いっその事、その勘の鋭さを活かして【ギルドナイト】にでもなったらどうじゃ?」
「お断り致します。俺は殺人なんぞはしたくありません」
「ほっほっほっ。相変わらず冗談の通じん奴じゃのぉ」
「半分本気でしたよね?」
「それも見抜いておったとはなぁ。いやそこにおるベナトールと組めば、良いコンビになると思うたのじゃよ。少しな」
「……。オッサンは、そういう柄じゃないでしょう」
そう言ってアレクトロがベナトールの方を見ると、彼は少しだけ口の端を持ち上げた。
「よう分っておるのぉ。なら、【ギルドナイト】の件は諦めるか。ちと残念じゃがの」
「そうしていただけると有難いです」
「……。ところで【マスター】、件の【フルフル亜種】ですが、どうなさるおつもりですか?」
頃合だと思ったのだろう。ベナトールが話を戻した。
「まあ様子見じゃな。今の所被害の報告は無いのでな」
「承知致しました」
「狩りたいか? アレクトロ」
「いいえ。俺も無駄な殺生はしたくありませんので」
「優しいのぉ」
「――で、どうだったの?」
「知りたいか?」
ニヤニヤ笑うアレクトロを見て、「あ、やっぱ知りたくないかも」と言うハナ。
「【雪山】の《8》にな、血痕らしきものがあったから、近付いてみると……」
「み、みると!?」
「それが蠢いてんだよ。ウネウネとな」
「ぎゃあぁ~~~!!」
耳を塞ぐカイ。
「あんたの悲鳴の方が怖いわっ!」
突っ込むハナ。
「でな、そいつがどうも【モンスター】だって事が分かったんだが……」
「【モンスター】だったの!?」
「そいつ、切り落とされたみてぇに頭がねぇんだよ。なのに動いてやがんだ」
「きゃあぁ~~~!!!」
「は、ハナ、そんな悲鳴は心臓に悪いからやめてくれよぉ」
カイは涙目で訴えた。
「血濡れたみてぇに赤い体でよ。まるで甲殻を全部剥がされた【飛竜】みてぇな姿してんだよな」
「もも、もしや今までに討伐された【飛竜種】が恨みで出て来たとか!?」
「そうかもしれねぇなぁ……。電気ブレス吐いてたしなぁ」
「で、電気ブレス!?」
「ああ。そいつ電気ブレス吐くんだよ。見てねぇけど多分放電もするはず」
「あれ? それって――」
「種明しすっとな。どうも【フルフル亜種】らしい」
「なぁんだぁ~~~」
「もっとグロイ話かと思ったよぉ」
ホッとした様子の二人。
ベナトールはというと、アレクトロに苦笑しながら二人の様子を楽しんでいた。
通常種の「フルフル」に「アルビノの中落ち」などという素材名があるので、最初に通常種として登録された「フルフル」の方が突然変異である「色素欠乏症(アルビノ)」なんだと思うんですよ。
なので白く見えますがあれは単に色が無い状態なんだと思います。
卑猥な話ですが、この「モンスター」がチ〇ポに見える事から「チ〇ポ竜」などと呼んだりしていたものですから、「フルフル亜種(通称赤フル)」は「赤チン」などと呼んでました(笑)