今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
「ドス系うぜぇ」とか思いつつもそれなりに楽しかったんですが、今は「楽しむクエスト」というものが殆ど無くなってしまったのが残念です。
※挿絵はグロ注意です。
雪を蹴立てて突進して来る相手を、二人は避けつつ攻撃していた。
が、周りの【ブランゴ】が邪魔するので、ウザったらしいったらなかった。
先にその邪魔者を排除しようと動いたアレクトロだったが、そっちに気が散っている間に突進を食らって跳ね飛ばされた。
「いってぇな!!」
すぐに起き上がるあたりは彼が打たれ強い証拠ではあるのだが、まあ実際として頑丈な鎧を身に着けているのもあって、それ程脅威になるようなダメージは負ってはいなかった。
仕方がないので両方を視界に入れつつなるべく【ブランゴ】を倒していく事にしたのだが、早々上手くいくものではない。
なので、時折吹っ飛ばされながら、少しずつその数を減らしていった。
ほぼ全滅させた頃に、相手が怒りだした。
怒る前の攻撃は大したダメージではないと舐めていたアレクトロだが、上位【モンスター】の怒り時の痛さは身に染みて分かっているので、ここからは慎重に避けていた。
が、もう一人がその場で暴れた牙に引っ掛けられ、見事に放物線を描いて吹っ飛んだ。
「おいカイ、踏み込み過ぎだっつの」
呆れて声を掛ける。
いかに怒り時でも、一撃では(かなり痛いが)それ程重症にはならない事を知っているため、まだ心配はしていない。
二人は、上位の【ドスファンゴ】を狩りに来ていた。
「いてて……」
痛がりつつも戻って来たカイは、隙を見て【回復薬グレート】を飲んでいる。
その隙を補うように、アレクトロは攻撃していた。
上位とはいえ【ドスファンゴ】を何度も狩って来ている二人は手慣れたもので、相手が怒っているにもかかわらず、軽口さえ叩きながら攻撃している。
弱った頃に【麻痺属性】の【太刀】を持つカイが麻痺らせたので、「おし、止めだな」とアレクトロは振り被り、溜めを開始した。
「体が冷えちまったからよ、帰ったら【ホクホク鍋】でも食おうぜ♪」
溜めつつそんな事を言っていたアレクトロは、直後にそのささやかな希望が、絶望と共に打ち砕かれた事を知る事になる。
突然物凄い威圧を感じて横を向くと、奥から電気を帯びた巨大な球が襲って来たからである。
訳が分からなかったが瞬時に頭が反応し、回避の命令を下す。
が、溜めに入っているせいで体は硬直しており、一度筋肉を緩ませる必要があったため、頭より反応が遅れた。
それでもなんとかまともに食らう事だけは免れた彼の右肩が、落雷したように閃光した。
「ぐあっ!!」
一瞬で筋肉組織が破壊され、焼ける。
カイが気が付いたのは、アレクトロの肩が閃光し、煙と肉の焼ける臭いを漂わせながら、彼が苦し気にその場所を押さえた頃だった。
「アレク!?」
「来るな避けろ!!」
叫びながら左手だけでガードするアレクトロ。
が、直後に飛んで来た巨大な黒褐色の塊を防ぎ切れず、体勢を崩しつつ跳ね飛ばされた。
それでも転がって【大剣】を引き摺りつつ起き、右手をだらんとさせながら、立ち上がって相手を見据えた。
「……止めを持って行かれちまったぜクソが……!」
そんな状態でも悪態を付くアレクトロ。
先程のブレスが着弾した事により、【ドスファンゴ】は焼け焦げた死体になっていた。
相手はまるで不敵に笑うかのように歯を剥き出すと、筋肉粒々の太い腕を振り回しながら突進して来る。
今度はしっかり見えているので余裕で避けたアレクトロは、隙を見て【回復薬グレート】を呷った。
右肩をやられたのはちとキツイな……。
焼けているので傷口からの出血は少なくて済んでいるが、利き手なので、力が入り辛くなってしまった。
カイは相手の姿を見て、恐怖で慄いた。
そこに立っていたのは【牙獣種】の頂点にあたるであろう【モンスター】。即ち【ラージャン】だったからである。
【ドスファンゴ】だったから二人で来てたんだ。コイツなら上位でも余裕で狩れると思ったから。
こんな奴、二人でなんて、とても勝てっこない……。
カイは、【ラージャン】と闘った経験がほぼ無い。
いやあったにしても、相手になんかしたくないと思っている。
なのに、それが目の前にいるのだ。
「カイてめぇ! ボサッと突っ立ってんじゃねぇ!!」
アレクトロの声でハッとなったカイは、向かって来た相手を見て慌てて避けた。
だが闘うためだけに生まれて来たようなこの【モンスター】に翻弄され、攻撃タイミングが掴めないでいる。
「ブレスだカイ。ブレスの隙に攻撃しろ!」
言われたカイは、球状のブレスを吐いた時に切り掛かってしまった。
「馬鹿そのブレスじゃねぇよ!!」
攻撃して怯ませるアレクトロ。だがそれでも【太刀】は【大剣】より素早く攻撃出来るので、アレクトロの攻撃タイミングより早目に攻撃出来ていた。
攻撃タイミングが合い始めたカイは、麻痺させる事に成功する。
「ナイス!」
アレクトロは正面に回り、溜めた。
力が入り辛いといっても【大剣】の溜め威力は侮れず、角の一本が折れる。
カイも麻痺っている間に気刃斬りをお見舞いし、二人でなるべくダメージを稼ぐ。
無駄な殺生を嫌うアレクトロではあるが、相手が相手なだけに逃げる事も叶わないので、死ぬ気で攻撃していた。
願わくば弱らせて逃げるように仕向けたいのだが、多分無理だろう。
何度目かの攻撃の後、相手が突如金毛を逆立て、特大に吠えた。
こうなったら手が付けられない程に暴れまくるので、(特にカイは)避ける事を中心にしていく。
それでも避けたと思った所に飛び掛かって来たりして、避ける事すらままならない。
その時、カイが避ける方向を見誤って突進を食らってしまった。
腕を振り回しながら行う【ラージャン】の突進は、急激に曲がるので追尾性があるように思えるが、左に回り込むようにして避けると避けやすい。
が、場所的に左に回り込めなかったりすると、食らいやすいのだ。
「カイ!!!」
呼び掛けたが、やはり怒り時の突進はかなりのダメージらしく、倒れたままになっている。
「クソてめぇ! さっさと倒れやがれ!!」
切り掛かったアレクトロは、相手がカイに向かって行った焦りもあって、バックステップで跳ね飛ばされた。
「ぐうっ!」
直後に飛び掛かって来たのをガードしたが、右手の力が入り辛いため、しっかりと衝撃を受け流し切れない。
体勢を崩された隙に、太い腕が襲い掛かって来た。
「うがっ!!」
吹っ飛んだ先で思い切り凍った地面に叩き付けられ、肺の空気が全部押し出される。
急激に入って来た空気と共に肺が膨らむと、激痛が襲って来た。
「ゲホゲホッ!!」
上半身を起こしながらむせるように咳込んだアレクトロは、血を吐き出した。
鎧の胸部が大きく凹んでいる。爪で切り裂かれる代わりに拳で叩き付けられた事により、どうやら肋骨が折れて、それが肺に刺さったらしい。
……まずいな……。
肋骨を抜かない限りは大出血はしないだろうが、呼吸困難になる。
が、そんな状態になったからといって、攻撃の手を緩めてくれる相手ではない。
「……がは……っ!」
血を吐きつつもガードしたアレクトロだが、片膝を付いた。
「があぁっ!!」
それでも立ち上がる勢いを利用して切り上げ、相手を吹っ飛ばす。
【大剣】を杖にして体を支え、相手が来る勢いを利用して、カウンターで切り返す。
攻撃の瞬間だけ最大の力を用い、後は呼吸の確保と体力の温存を図る。
苦しくて走って避けられないので、ブレスの時は何度か転がって避けた。
緊急回避は胴体を滑らせるようにして落ちるため、折れた肋骨では支え切れないのだ。
カイは気絶しているのか、同じ場所で仰向けに倒れたまま動かない。
こんな時に限って、なぜか【猫車】が来てくれない。
どうしても嫌な想像をしてしまうが、それを頭から排除する。
苦しい。咳込むたびに口から血が溢れ出す。
が、倒れるつもりはなかった。
彼は闘い続ける事によりヘイトを全て自分に向け、相手の意識をカイから逸らせようとしていた。
【ラージャン】を一人で相手にする事はかなりきつかったが、ソロで闘った経験はあるので、闘い方は知っている。
問題は、いつまで体が持つか、である。
【回復薬グレート】を飲む隙はあるが、刺さった肋骨はそのままなので、例え【秘薬】を飲んだとしても肺からの出血は止められない。
それでも他の傷は回復するので、苦しささえ我慢すれば、なんとか闘えた。
苦しささえ我慢すれば――。
再び金毛を逆立てた【ラージャン】に、ぜぇぜぇと血の交じった呼吸をしながらアレクトロは立ち向かって行った。
どのくらいの時間が経ったか分からないが、カイは相変わらずそのままの姿勢で雪原に転がっている。
危険な状態なんだろうか?
近付いて呼吸を確かめたいが、その前にこいつをなんとかしねぇと……。
そう考えた矢先、自分を圧し潰すように振り下ろされた腕をガードした衝撃で、【大剣】にひびが入った。
……マジかよ……。
血を吐きつつ絶望感に苛まれる。
砥石で回復するだろうかと思いながら、もう一度振り上げられた腕を見て身を捩る。
が、間に合わずに背中を大きく切り裂かれた。
「うがあぁ~~~!!!」
跳ね飛ばされた場所で転がり回って悶える。
雪原に見る見る内に赤い染みが広がって行く。
……クソ……。もう動けねぇ……。
俯せ状態で喘いでいるアレクトロに、飛び掛かって行く【ラージャン】。
「ちくしょおぉ~~~!!!」
彼は転がると、その勢いを利用して思い切り【大剣】を薙いだ。
上手い具合にカウンターが決まり、相手の喉が切り裂かれた。
そして直後にひびの入った部分が折れ飛んだ。
真横に落ちた【ラージャン】は、ビクビクと痙攣した後、ようやく動かなくなった。
アレクトロは喘ぎつつ、未だ動かないカイを見た。
「……カ……っ!」
言いかけて大量の血を吐く。
何度も喀血し、だが、それでもカイに目を向け続ける。
彼は、カイの元に這いずっていた。
途中で何度も血を吐きながら、それでも霞んだ視界にカイの姿を捉え、身を引き寄せ続けた。
彼の目には、カイしか映っていない。
這いずった後には雪の凹みと共に、血の筋が付いて行く。
自分がどうなろうと知った事ではない。どんな状態になっていようと、ただカイだけを見続け、血を吐きつつ、喘ぎながら、彼の元へと身を引き寄せ続ける。
自分の回復よりもまず、カイの安否を優先した。
ようやくカイの元へと辿り着いたアレクトロは、気絶しそうになる意識を無理矢理引き戻し、彼の兜を取った。
カイは目を閉じたまま、蒼白になっている。
……まさか……!
喘ぎながらカイの頸動脈に振れる。
微かに脈打っているのを確認し、安堵しつつ咳込む。
何度も瞬きして無理矢理視界をハッキリさせ、体全体を見回す。
傷は無い。が、鎧の腹部が大きく凹んでいる。
……内臓破裂を、起こしたのか……?
喘ぎ、咳込みつつ自分のポーチに手を伸ばし、【生命の粉塵】を取り出して掛ける。
が、あるだけ掛けてもカイの意識は戻らない。
「……おいカイ、いつまで寝て……やがんだ。……ゴホッ! 帰るぞ起き……やがれ。ゲホゲホッ!」
喀血しつつ呼び掛けるアレクトロ。
無理矢理抱えようとしたが、やはり体に力が入らず、がくりと崩れてしまう。
……ちく……しょ……。すまんカイ……。
そこで意識が途切れてしまった。
――あれ?
ここ、どこだ……?
目を開けたら【雪山】じゃない所に寝かされていたアレクトロは、朦朧とする意識のまま目だけで周りを見回した。
足元付近にベナトールがいるのを見付け、「……オッサン……?」と声を出す。
「お、気が付いたか」
仏頂面に安堵の表情を滲ませるベナトール。
「……ここ、もしかして医務室か……?」
「そうだ」
「なんで、ここに……?」
「上空を通り掛かった【古龍観測隊】がな、お前ら二人を見付けてくれたのだよ」
「そうだカイは――!」
ハッとして起き上がろうとしたアレクトロを押さえ付け、「安心しろ、あいつも無事だ」とベナトールは言った。
「そうか……」
「おめぇなぁ、もう少し自分の身の心配もしたらどうだ? 後少しでも発見が遅れていたら死んでたらしいぜ? 背中はともかく肺をやられてあそこまで動く馬鹿がどこにいる。さぞや苦しかっただろうに」
呆れて笑うベナトール。
彼自身が実際に見た訳では無かったのだが、話を聞く限りその様子は容易く想像出来たからである。
「……。あんたと同じだよ」
「何がだ?」
「あんたがハナを護ろうとする気持ちと同じだ。何よりもまず、あいつを優先して体が動いちまう」
「愛されキャラは得だなぁ、羨ましいぜ」
「茶化すな、そんなんじゃねぇよ。――ただ、それだけ付き合いが長いだけだ」
「愛すべき【金魚のフン】って奴か?」
「だからそんなんじゃねぇって! てめぇと一緒にすんなこのホモ野郎」
「照れるんじゃねぇよ」
「うっせぇぞデカマッチョ!」
彼のそんな悪態も、可愛く思えるベナトールであった。
「2(ドス)」の頃も、「ラージャン」には苦労させられました。
でも心が折れそうになりながらもくじけずに何度も挑戦し、ソロ討伐に成功した時は物凄い達成感でした。
捕獲すると滅多に無い事なんですが「ペット」に出来、「モンスター闘技大会」に出して闘わせる事が出来ます。
「フロンティア」でもこのシステムは残っていて、珍しいもの(亜種やキングサイズなど)を捕まえては仲間内で闘わせて遊んでいたものです。