今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
ちょっと長めです。
(私のちょっと長め=五千字超え)
各部屋を覗いたハナは、【召使アイルー】から男三人がそれぞれに【仕事】と【クエスト】に出発してしまったという事を聞いたので、暇を持て余して【メゼポルタ広場】にあるベンチに座ってぼ~~っとしていた。
と、突如後ろから口と鼻を布で塞がれて、ハナはくたりとなった。
【ネムリ草】から抽出した催眠液を押し付けた大男は、ハナを抱えて何処かへ去って行った。
大男は【アカムト】シリーズを身に付けていたため、傍から見れば、いつものようにベナトールがハナを連れて行ったとしか思えなかったろう。
【仕事】から帰ったベナトールは、【召使アイルー】から「旦那様に渡せと言われましたにゃ」と、畳まれた羊皮紙を受け取った。
そこに書いてあるものを読んだ途端、ベナトールは【殺気】を湧き出たせて【召使アイルー】を大いに怯えさせた。
そこにはこう書かれてあったからである。
『お前がこのガキの【守護者】だという事は分かっている。ガキの命を護りたいならばここに書いてある場所に丸腰で来い。もちろん防具も無しだ』
他の者に知られたくなかったので、気配を消してその場所に行く。
そこは地下であり、どうやら昔拷問部屋に使われていた跡のようだった。
入り口はこの分厚い扉一ヶ所のみのようなのだが、中の様子が分からないのでいきなり踏み込みたくない。
だが踏み込まないとハナを救えないしと扉に耳を付けたりしていると、いきなり後頭部を殴られた。
既に気配を読んでいたベナトールは、良い機会だから気絶するふりをして中に入れてもらう。
物凄い力だったのが少し頭にきたが。
投げ込まれるように落とされると、ハナの悲鳴が聞こえた。
無事を確認して取り敢えず安堵する。
うかつに動けないので気配だけを窺っていると、後ろ手に縛られた。
「おい、起きろ!」
今度こそ本当に気絶するんじゃないのかと思うような勢いで蹴られる。
目を開けると、黒い大きなグリーヴがあったので転がったまま見上げる。
そこには【アカムト】シリーズを着た大男がいた。
他にも数人、ハンターらしき輩がいる。
「立て!」
「……。お前ら、密猟者か?」
立ち上がりながら聞くと、「……それをやったせいで親や仲間が殺された者の集まりだよ。貴様にな!」と言われた。
「成程、復讐って奴か?」
「そうだ。調べるのに随分苦労したがな。そのためにハンターになった者もいる」
「それはご苦労な事だ。しかしわざわざこんな手の込んだ事をして呼び出さずとも、俺から出向いてやるのに」
苦笑するベナトール。
「ただ呼び出しただけなら貴様に敵わんからな」
「クックッ、弱さは認めていると見える」
「笑うな!!」
大男が拳を鳩尾にめり込ませた。
やはり先程から物凄い力で殴ったり蹴ったりしていたのはこいつか。
「……。先に言って置くが、俺を殺したとしても貴様らの寿命がほんの少し伸びるだけだぞ? 【ギルドナイト】は何も俺だけではないのだからな」
「分かっている。だが一番多く人を屠れるのは貴様だろう。ならば少しでも長く逃げ果せるように出来るではないか? その分生き延びられる者も増えるかもしれん」
「――無駄な事を。【ギルド】はどんなに逃げ延びようが違反者を探し出すぞ? それこそ何年経とうがな」
「……。それでも、少しでも長く生き延びたいだけだ」
部屋の壁際で磔に縛られていたハナは、彼らの言っている事が理解出来なかった。
いや理解するのを放棄していたと言っていい。
【ギルドナイト】についてどうやら話している、というのは分かった。
でもベナが『一番多く人を屠れる』とはどういう意味なんだろう?
【ギルドナイト】という言葉はハンターの間にも上がっていたから何度か聞いた事はある。
そういえば彼らは言ってたっけ。『違反すれば【ギルドナイト】に消される』って。
『消される』って、もしかして『殺される』って事?
じ、じゃあベナが【ギルドナイト】で、ここにいる人たちの親や仲間を殺したって事?
そんな彼女の混乱を、激しい殴打の音が掻き消した。
ハッとした彼女が見たものは、そこにいる全員がベナトールを殴り蹴る姿。
それは倒れても続けられていた。
「やめて! やめてよおぉ!!」
いくら泣き叫ぼうが、止むはずはない。
無抵抗なまま受けているのは、自分に危害が及ぶのを避けるためなのだとハナは理解した。
だが、やがて彼らが息を荒げて静まった頃、それまで呻き声すら上げずに黙って成すがままにされていたベナトールが口を開いた。
「……。気は済んだか?」
その言葉で更に激高して続ける彼ら。
が、体力が続かなくなったらしく、とうとう【ライトボウガン】を持ち出した。
「すぐには殺さない。じわじわと嬲り殺してやる……!」
そしてふら付きもせずに立ち上がったベナトールに、向けられた。
発射されたいくつもの弾丸が、彼の体に食い込む。
彼ならば避けられたのだが、ベナトールは避けなかった。
なぜなら、軌道上にハナがいたからである。
「ククク……。避けられねぇよなぁ? 大事な奴に当たるもんなぁ?」
彼らは、ベナトールが身を挺してハナを護るだろう事を見越してわざわざハナを誘拐したのだ。
だからベナトールは、【ヘビィボウガン】と比べて威力の低い【ライトボウガン】を構えられた時点で、弾が貫通しないであろう事を見抜いていた。
そうやって致命傷を与えずに、じわじわと殺すつもりであろうという事も。
なので彼はそんな状況になっても口の端を持ち上げたまま、黙って彼らを見詰めて成すがままになっている。
背中越しにその様子を見たハナは、あまりの悲惨な光景に気絶してしまった。
気配でハナが気絶した事を悟ったベナトールは、「……。そろそろ止めを刺した方が良いんじゃねぇのか?」と言った。
「苦し紛れに言ったって聞く耳持たねぇぜ。まだまだ楽しませて――!?」
言いかけた者は、途中で驚愕の表情のまま固まった。
ベナトールが縛られたロープを一瞬で引き千切ったからである。
「う……。撃てえぇ!!」
狼狽しつつ掛った声に、一斉に射撃する。
彼が自由になった腕で急所を護った次の瞬間、一番近くにいた者の首が折られた。
「い、いつの間に!?」
接近にまったく気付かなかった者が狼狽える。
「止まるな! 撃ち続けろ!!」
だが次の射撃は首を折った者を盾にして防がれた。
ハチの巣状態でだらんとぶら下がった者を投げ捨て、次の者へ肉迫。
背後から撃たれたのを察して避け、その者に当てる。
その頃には背後から撃った者の首の骨が折られていた。
そうやって表情一つ変えずに次から次へと殺していくベナトールに、ただ一人残された大男は震えながら呟いた。
「化け物……」
「……。ふん、まあ悪くねぇ響きだな」
彼は体中に弾丸を食い込ませているにもかかわらず、血を滴らせながら平然と立っている。
というか、その状態であれだけの動きが出来る事自体が驚愕である。
まるで、致命傷にさえならなければ傷の内に入らないとでも言いたげだった。
「お前だけを残したのには理由がある」
ベナトールは、大男に人差し指を突き付けた。
「ちと今までにやられた事で思う所があってな。まあちょっとした仕返しをしたくなったのだよ」
大男はたじろいでいる。
「お前はけっこう力があるようだから、一対一でやり合ってみたいと思ったのだ。どうだ? ただ一方的にやられるだけだと思うのならば、武器を使っても構わんぞ」
【ライトボウガン】ではまったく歯が立たないのが分かったのでそれを捨てた大男は、そう言われて剥ぎ取り用のナイフを抜いた。
「ふむ。そのナイフならば少しは素早く動けるかもな。どれだけ持つか楽しみだ」
ベナトールはニヤリと笑った。
「ほれ来い。遠慮はいらんぞ」
「おぉおぉ~~~!!!」
大男は吠えると、向かって行った。
それを簡単に躱すベナトール。
直後に切り上げられたが、それも難無く躱す。
「ふむ。力はあるが、動きはイマイチだな」
「舐めやがって!!」
「ほれ胴ががら空きだぞ」
ベナトールは軽く拳を当てた。
だがそれだけで相手は吹っ飛んだ。
わざとダメージを少なくしているので、すぐに起き上がって向かって来る。
「お前程の力があれば致命傷を与えられる。ほれ頑張りな」
「くうぅ……!」
吹っ飛ばされて向かって来る大男。
「俺が万全ではないのは充分に分かっているはずだ。正直言って残り体力は少ないだろう。だがまあ、それでもお前は勝てんだろうがな」
「くそおぉ!!」
吹っ飛ばされる度に向かって来る大男に、ベナトールは不敵な笑いを崩していない。
獲物を弄ぶような表情に、大男は悔しさを露わにした。
「さて、そろそろ終わりにするか……」
それ程長い間闘ってはいないのだが、流石にきつくなってきたベナトールは、そう呟いて大男の胸部に拳をめり込ませた。
相手が向かって来る勢いも利用したそれは心臓破裂を起こさせるのに充分で、大男は大量に吐血した後その場に崩れ落ちた。
「ふ~~~っ」
長い溜息を付くとハナの元へ歩いて行く。
少しふら付いてしまい、「ちと遊び過ぎたか……」と独り言ちた。
ロープを引き千切る力が残っていないのを悟り、先程大男が使っていた剥ぎ取り用ナイフを拾い上げて切る。
「……ハナ起きろ。終わったぞ」
そっと下ろして軽く揺すると、ハナは目を覚ました。
「ベナ……」
「怪我はねぇか?」
「大丈夫……」
そして周りを見て死体が散乱しているのに気付き、「ひっ!」と息を飲んだ。
「見なくて良い……」
そのために、ハナが気絶した時に殺したのだから。
思わずしがみ付こうとしたハナは、彼が全身から血を滴らせているのを見て、更に息を飲んだ。
「酷い怪我! これ撃たれたんだよね!?」
「なに大した事はない。まあ体内の弾を取り除く必要はあるがな」
「痛く……ないの?」
「痛くない訳が無かろう。ただお前より痛みに対するコントロールに長けているだけに過ぎん」
「……ごめんなさい……」
「何を謝る?」
「あたしのせいで、こんな、酷い……」
「泣かんで良い。お前を護るのは俺の任務だ」
「だって、だってあたしを庇ってこんな……」
「心配するな。俺はこの程度じゃ死なん」
頭をポンポンしようとしたベナトールは、しかしその手を跳ねのけられた。
そして涙を拭いたハナは、決意したような表情になって、次のように言った。
「ねぇ教えて、【ギルドナイト】って何?」
「……。聞いていたのか?」
「うん。……ねぇベナは【ギルドナイト】なの? あの人たちの親や仲間を殺したの? あの人たちも、殺しちゃったの?」
「……。だとしたら、どうする?」
彼の、いつか自分を脅し諫めた時のような表情に、恐れ慄くハナ。
「俺が、【殺人専門者】だったら、どうする……?」
見下ろす視線は鋭いが、その中に悲し気な色が交ざっている。
ハナが震えたまま何も言えないでいるのを見て、ベナトールは「……忘れろ」と言った。
「いつか分かる事だ。だが、今は忘れて良い」
その目に悲し気な色を秘めさせたまま、ベナトールは諭すように言った。
「それから、先程まであった出来事は誰にも言うな。口を裂かれてもな」
ハナは気圧されて、ゆっくり頷いた。
「俺の傷の事も、出来れば言わんで欲しい」
「……分かった」
「約束、出来るな?」
念を押す彼に、もう一度頷くハナ。
「良い子だ。ありがとな」
ベナトールは抱き締めたかったが、血が付くので頭を撫でるだけにとどめた。
死体から剥ぎ取った布などで止血し、応急処置を済ませたベナトールは、「誰にも会わずに帰るぞ」と、ハナを部屋まで送り届けた。
「ちと疲れた。寝るから今日はもう俺の部屋に来るなよ」
言い残して自分の部屋に戻ったベナトールは、しかしその足で【ギルドマスター】に報告しに行った。
「……左様か。まあ恨みを買う仕事じゃからのぉ」
「……。報いは、いつか受けるでしょうな」
「じゃが、出来ればお主には、なるべく長く【ギルドナイト】を務めてもらいたいんじゃがのぉ」
「俺も辞めるつもりはありませんよ。ただ、出来ればフィールドで死にたいものですがね」
「ハンターらしい発言じゃのぉ」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
「傷を見て余計な心配を掛けさせたくないから」と、【大長老】には【ギルドマスター】が簡潔に報告に行ってくれるとの事だったので、【ギルドナイツ】の専用医務室へ。
傷が傷なので、普通の医務室では変な疑いを掛けられたり騒がれたりする恐れがあったからである。
摘出手術を受けた彼だが、筋肉のお陰で弾が内臓を傷付ける程深く入り込んでない事は分かっていたため、麻酔無しで受けた。
(傷の具合も含めて、医療係には「あなたって本当に化け物ねぇ」と、とことん呆れられたが)
ハナは、アレクやおじいちゃんがあれ程言い淀んでいたのはこの事かもしれないと悩んだが、彼との約束もあって、それ以上は追及しなかった。
追及するのが怖かったというのもあるにはあるが、彼が「忘れろ」と言うなら知らない方が良いのだろうと思ったのだ。
なぜなら、以前彼の【仕事】について追及しようとして、恐怖を持って諭された経験があったからである。
この話で分かるように、ベナトールは化け物です。
てか、これ書きながら自分で怖がってましたもん。「こいつ怖ぇ((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」って(笑)
いかに威力の低い「ライトボウガン」とはいえ「モンスター」を殺すための武器なんですから、それで撃たれたらただでは済まないと思うんですが……。
でも「痛くない訳が無かろう」と本音を漏らした時、半ギレしていたのは内緒(笑)
てか、都市伝説的な噂に過ぎない「ギルドナイツ」の情報を調べてベナトールが「ギルドナイト」であると割り出すこいつらって、相当な情報収集力がありますよね。
もし「ハンターズギルド」が国ならば、国家機密に当たるものだというのに。
まあでもギルド直属とはいえハンターの一部とも言えますので、「ハンター」であるならもしかすればその気にさえなれば誰でも情報が手に入るのかもしれません。
それが正しいかどうかは別として。
今回はたまたま「当たり」を引いたに過ぎないのかも。