今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】 作:沙希斗
【メゼポルタ広場】を歩いていたカイは、すれ違った男に「よぉ、姉ちゃん」と声を掛けられた。
そんな事は一度や二度ではないので、無視して歩く。
「無視してんじゃねぇよ」
背後から乱暴に肩を持たれ、強引に振り向かされる。
「チッ、男かよ」
顔を見た男に舌打ちしつつ乱暴に押し離される。
そんな事が今までに何度あったろう。
だが、今回は違っていた。
普通ならば男と分かった時点で興味を無くし、何事も無かったように歩いて行くのだが、この男は彼が男と分かった上でもなお、まじまじとカイの顔を覗き込んでいた。
「おめぇ、綺麗な顔してんな……!」
不快さを露わにしているカイに、男は感慨の声を漏らす。
「これは上玉かもしんねぇな」
男はいやらしい顔でほくそ笑むと、いきなりカイの口を塞ぎ、拳を鳩尾にめり込ませた。
抵抗する間も無くぐったりしたカイを担ぎ、路地裏へ。
そこには数人の男が待ち構えていた。
「首尾良くいったか?」
「あぁ、バッチリ攫って来たぜ」
やや乱暴に下ろされたカイを見て、男の一人が呟いた。
「こいつ、男なんじゃねぇのか?」
「あぁ。男は男なんだがな、ツラ見て見な。そそらねぇか?」
「確かにな……」
男共は全員、下卑た笑いを浮かべた。
その僅か前、一人の男がカイが運び込まれて行くのを遠目で見ていた。
担がれた者が誰かは分からなかったが、華奢な体型の者が屈強な男に担がれていたのと、そいつが路地裏に入って行ったのとで女を連れ込んだなと判断する。
なので、犯される前に助けようと、遅れて入って行った。
乱暴にインナースーツを引き裂かれた感覚で目が覚めたカイは、一瞬自分がどういう状況になっているのか判断出来ずに混乱していた。
が、それが下半身に及ぼうとしているのにようやく気が付いて、その作業をしている男の一人を「触るな!」と蹴り飛ばした。
男は不意を突かれて吹っ飛んだが、「お、やっぱ男は元気が良いねぇ」と意に介さずに戻って来て、続きをしようとしている。
それどころか目が覚めた事で興奮した男共に押さえ付けられ、暴れても殴り飛ばしても、下卑た笑いを浮かべたまま熱い息で首筋や乳首などに舌を這わされるのを、虫唾が走る思いで受けていた。
「よぉ、お前ら楽しそうな事やってんじゃねぇか」
自分の非力さに泣きたくなった頃、覚えのある声が掛かった。
男共と共に振り向く(といってもカイは仰向け状態で首だけ持ち上げる格好になったが)と、少し離れた場所に男が立っていた。
逆光になってよく見えないが、どうにか青い髪をしているのだけは分かった。
「……アレク、なのか?」
半信半疑で声を掛けるカイ。
「んん? その声はもしかしてカイか!?」
女を連れ込んでいるとばかり思っていた彼は、驚いた声になっている。
「よぉカイ。どうした揉め事か?」
近付いて確信したのだろう。彼はそう言ってニッと笑った。
褐色の肌をしているので、逆光でも白い歯が目立つ。
それは、二人が共に育った村にいた頃から、アレクトロがカイを助ける時に言うセリフだった。
カイは子供の頃から女に間違えられる事が度々ある程の美少年だったため、悪ガキ共によく小突き回されていたからである。
「……。いいや、そうでもないよ」
嬉しかったカイだが、わざとそんな事を言ってみる。
「ケッ、その状態で言えるセリフじゃねぇだろが。可愛くねぇ野郎だなオイ」
インナースーツをビリビリに破られて半裸になっているカイを見て、呆れて首を振るアレクトロ。
「オイてめぇ、邪魔してんじゃねぇぞ」
苛立ちを募らせるように、男の一人が近付いた。
「続けたかったら続けな、それが出来るならな」
アレクトロは、いきなり相手の股間を蹴り上げた。
思い切り浮き上がって吹っ飛び、倒れた先で泡を吹いて動かなくなる。
ハンターの筋力で蹴り上げられたのだ。睾丸の一つくらいは潰れているかもしれない。
「やろぉ!!!」
それを合図に、四方から男共がアレクトロに襲い掛かる。
それを不敵に笑いつつ、全て躱すアレクトロ。
「遅ぇぞおめぇら」
「このっ!!」
「ちっとも当たんねぇじゃねぇか。ちゃんと目ぇ付いてんのか?」
「舐めやがって!!」
「大振りなんだよおめぇらは。そんな力任せに振り回すしか能がねぇ攻撃なんざ当たるかよ」
「ちくしょおぉ!!」
「大体な、ハンター相手に一般人が喧嘩売る方が間違ってんだっつの。おめぇらガタイは良いみてぇだが、動きを制御する筋力が違うんだよこっちはな」
そう。一般人なら肉離れを起こしたり腱や靭帯が断裂するような動きや急激な停止などを、常人を遥かに凌ぐ筋力でもってハンターは制御出来るのである。
だから重い武器で攻撃中でも、強引に引き戻して【モンスター】の攻撃を避けたり出来るのだ。
「っつう事でよ、いい加減諦めたらどうだ?」
「……そう言われて大人しく引き下がるとでも?」
「だよなぁ……」
「アレク、加勢しようか?」
「苦戦してるように見えるか?」
「見えないね」
「だろ? お前は見てるかサッサと部屋帰って着替えるか好きにしてな」
「面白いから見てるよ」
「あそ」
「舐めるのもいい加減にしやがれ!!!」
男共はナイフを取り出した。
「おいおい、武器出しても当たんなきゃ意味ねぇだろぉ? てか、それでビビらせてるつもりならハンター舐めてねぇか?」
「うるせえぇ!!」
切り掛かっても躱す事には変わらない。
が、その内の一人がカイの背後に回り、首元にナイフを突き付けた。
「ケケ、こいつがどうなっても良いのか? 大人しくしねぇと――」
言い終わらない内に、後方に吹っ飛ぶ。
カイが肘鉄をかましたからである。
「ナイス!」
声を掛けられてニコッと笑いながら親指を立てるカイ。
カイとてハンターの端くれである。女のような華奢な体をしていても、それに見合わない筋力が備わっているのだ。一般人の、しかも一人相手に後れを取る奴ではない。
今まで反撃が儘ならなかったのは、単に気絶させられていたのと、数人で押さえ付けられていたからに過ぎない。
吹っ飛んだ相手は脇の下を押さえて、苦し気に悶えている。
あの状態では肋骨が折れたかヒビが入ったかしているはずである。笑い顔は可愛ささえ漂うが、手加減無しなのはやはり腹に据えかねているのだろう。
「残りは三人か」
躱すのに飽きたアレクトロは、そう呟いて相手の腕を
軽く攻撃したつもりだったのだが、相手は腕を押さえて蹲り、顔を歪めて呻いている。
「悪ぃ、手加減したつもりなんだが骨逝っちまったか?」
そいつに気を取られている間に横と後ろから攻められる。
「おっと」
躱しつつ横の者の脚を蹴り飛ばす。無様にひっくり返って脚を押さえ、転がり回っているのを無視して後ろの者のナイフを叩き落とす。
「お、骨があるじゃねぇか」
最後の者がナイフを拾い直し、呻きつつも立ち上がったのを見て、少し感心したようにアレクトロは言った。
それでもやはり右手は使えなくなったのか、左手にナイフを持ち換えて向かって来る。
右手の動きと大差無いのを見ると、両刀使いなのかもしれない。
「へぇ、お前【双剣使い】みてぇだな」
「その【双剣使い】のハンターに教わったからな」
「一般人の筋力であんま両手持ちやると、筋線維がズタズタに引き千切れちまうぜ?」
「ハンターじゃあるめぇし、そんな闘い方するかよ」
「意外にも技量わきまえてんだな。女襲ってる割には頭良いじゃねぇか。今回は女じゃねぇけど」
「余計な世話だ!!」
ハンターに鍛えてもらったからなのか、それとも一人になって動きが制限されなくなったからなのか、思ったより良い動きをする相手を面白がったアレクトロは、しばらく攻撃せずに避けつつ遊んでやった。
が、その余裕がいけなかった。
脇腹をナイフが掠り、僅かながら切り傷を付けられた時、体に違和感を感じたのだ。
「――!?」
急激に体の自由が奪われて、片膝を折るアレクトロ。
そのまま立てなくなって横倒しになり、痙攣した。
「アレク!?」
慌てて駆け寄ったカイが助け起こそうとしたが、まったく体の自由が利かない。
「クックッ、いくらハンターでも麻痺には逆らえんよなぁ?」
……このやろ、ナイフに【マヒダケ】エキスを塗り付けてやがったな……!?
つまり、ハンターに習った知識は【双剣】の攻撃方法だけではないという訳か。
「こんのおぉっ!!」
怒ったカイはナイフを避けながら、攻撃された際に出来た死角から(それでも手加減して平手で)押し飛ばすように二の腕を叩いた。
横様に吹っ飛んだ相手は叫び声を上げながら転がり回っている。
完全に上腕骨が砕けたようだ。
「……お……前、ちと、やり過……ぎ……じゃ……ねぇ、のか?」
まだ続いている叫び声で相手の状態を判断しながら、痺れた舌でどうにか言葉を紡ぐアレクトロ。
「おいらの分もあるんだから、これでも足りないよ」
「怖ぇ、奴……だな……」
そう言われたカイは、彼特有の人懐こい笑顔を浮かべた。
男共は、後で【
カイは怒ると結構怖い奴なのです。
滅多に怒りませんが(笑)