退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第4話 負の連鎖

2月26日 火曜日

霞みがかった月の見える夜。

メールで友希那に連絡を入れた。

そして…

 

(もうこれしか……方法無い…よね…)

 

「…よしっ!」

 

気合いを入れたリサはカーテンを開けてベランダに出る。

すると向かい側のベランダには友希那が居た。

 

「…どうしたの?」

 

「…友希那。

アタシ、やっぱり陽菜が生きてるって信じたい」

 

「…そんなものは、ただの理想と言ったでしょう」

 

「友希那…!

理想そのものを嫌いになったりしないでよ!

それじゃあ…昔の友希那に戻っちゃうから!」

 

「っ!」

 

リサの言葉で一歩下がると共に冷たい風が吹く。

そして、リサはそんな中話し出した。

 

「友希那、お父さんがバンドを解散した時から悩んでた…。

お父さんの無念を晴らそうとして、ずっとフェスに向けて頑張ってた…。

今の友希那は、それと同じだよ」

 

凛とした瞳で友希那の目を見つめるリサ。

 

「……何が同じなのかしら」

 

間が空いてから冷静に返答する友希那。

 

「そうやって、大切な人の想いが裏切られて嫌悪感を抱いちゃうとこ。

でも、そんな優しい友希那だからこそ、本当は…とっくに『そんなこと間違いだ』って気づいてるんだよね…?」

 

「!」

 

「SMSで失敗した時に陽菜が残してくれた手紙。

アレを読んだ時に、陽菜が友希那になんて書いたのか覚えてる?」

 

「…『父親の背中を追いかける湊 友希那』ではなく。

『Roseliaの湊 友希那』…」

 

「そうだよっ。

でも、今の友希那はRoseliaの友希那じゃない…。

だって…陽菜が生きてた時の友希那はもっと輝いてた!

今よりももっと凄かった!」

 

「っ……だったら…!

私はどうすれば良かったのかしら!?」

 

「っ!」

 

「私は、如月を裏切った理想が嫌いよ…!

どうしてあの人があそこまで苦しまなければならなかったの!?

死ぬほどの罪を何か犯したのかしら!?

どうして…!?…どうしてあの時私は…!」

 

「もう…良いんだよ友希那」

 

目に涙を浮かべる友希那に、リサは優しく聞こえるように声をかけた。

 

「何が……っ…良いの…?」

 

「もう後悔しないで良いんだよ友希那。

今、友希那が生きてるのは陽菜が命懸けで救ったから。

友希那のことが大事だったから…っていうのもあると思うけど。

多分きっと、陽菜はまたRoseliaの演奏を聴きたいんだよ…っ」

 

「っ……」

 

リサはベランダの手すりに置いていた手を強く握った。

きっと今から言うのは間違った解釈だと確信してしまったからだ。

そして…

 

「だから、また一緒に演奏しよ?

もし陽菜が生きてたら、上達したアタシたち見せつけて驚かせてあげよーよっ♪

そしたら……きっと……っ」

 

ポタリ…

 

「陽菜もさっ…きっと…喜んでくれる…から…さ…っ…」

 

ポタポタと手すりに零れ落ちる涙。

 

「!!」

 

「あれ……?おかしいなぁ…。

なんで…だろ…」

 

どんどん溢れ出る涙。

 

「ごめんっ…友希那…っ…。

なんか………止まんないや……」

 

子どもが泣きじゃくった時のような止めどない涙を拭うリサ。

何度も目を擦る。

その度に、リサは申し訳なさと自分を騙している虚無感に襲われる。

同時に、友希那もその姿を見ているだけで、息苦しく感じるほど胸を強く締め付けられる。

すると

 

「…リサ」

 

友希那が切り出した。

 

「私は…そう思えないの…。

けれど、練習にはこれから必ず参加する。

いつか必ずRoseliaで如月の見ていた世界に辿り着く為にも…」

 

「!友希那…」

 

「今日はもう寒いから戻りましょう。

それじゃあ、また明日」

 

そう言って友希那が部屋の中へ戻って行く。

リサもそれを見て戻ろうと中に足を踏み入れた瞬間

 

「……この前は…自分勝手なことを言ってしまって……()()()()()()()()()…ごめんなさい…」

 

『この前』という言葉を聞いてリサが思い当たるのは、自分が失言をした日のことだった。

 

「!…ううん!

アタシこそ…!」

 

振り返って思いを伝えようとした頃には、友希那はベランダから消えており、ゆらゆらと部屋のカーテンだけが揺れていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌日

 

少し急ぎ足で家を出る。

隣の家へ行き、緊張しながらもインターホンを鳴らす。

するとガチャ…と扉が開き、友希那が出てきた。

 

「お、おはよう友希那っ!」

 

「おはようリサ」

 

どうやら緊張していたのはこちらだけのようだった。

そして、しばらく歩き進み、学生たちが流れ歩く桜並木の通学路へ合流した。

 

「ねっ、友希那…」

 

「?何かしら?」

 

「昨日のことだけど…。

アタシこそ…ごめん。

友希那の気持ち、全然考えてなかった」

 

「別に、それはもうお互いに納得し合ったことよ」

 

友希那は普段の様子に戻って返した。

ふとリサは昨日の夜に、友希那が『嘘を吐いてごめんなさい』と言ったことを思い出す。

少し気になった。

けれど、深くは考えずにいた。

 

「…そっか」

 

昨日は本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

自分を騙して真実から目を逸らそうとしたこと。

そして、その生き方を幼馴染に押し付けようとしたこと。

今思い出しても息苦しい。

すると

 

「…そういえば、昨日言い忘れていたのだけれど…。

リサ、あなた最近元気が無いわよ?」

 

「えっ!?」

 

「あの人のことがあってから…なんというか…明るさ…的なモノを感じなくなったわ」

 

友希那の言うことはビックリする程的を得ていた。

自分でも薄々感づいていたことをはっきりと言われる。

もっと正確にいえば、隠そうとしていた本音を告げられた。

 

「…そう…だっけ?」

 

「ええ。

前までのリサは、もっと楽しそうにしていたじゃない」

 

「そ、そうだっけなぁ〜」

 

目を泳がせるリサ。

 

「……」

 

それを横目で見る友希那。

 

「はぁ…そうやってはぐらかすのは、別に構わないけれど…。

そういう所、如月に似てきたんじゃないかしら?」

 

「うっ…ん…」

 

有無を言えない状況になったリサは

 

「…あ、あのさ友希那。

不謹慎かもだけど、あの言葉を聞いてアタシ安心した」

 

別の話題に切り替えた。

ただし本音である。

 

「?」

 

「友希那が、陽菜のことで四六時中ずっと悩んで考える程好きなんだ…ってわかったから♪」

 

「………………」

 

「?友希那?」

 

何かしらの返答を待っていたのだが、返事がないので声をかけながら横を見る。

 

「っ!!?」

 

なんとそこには、顔を紅くしながら小さい右手の甲で口元を隠す友希那が居た。

すると

 

「…リサ」

 

「?な、何?」

 

友希那が恥ずかしそうに切り出すので思わず緊張した。

 

「とても言い難いのだけれど……今回の件で気づいたことがあるわ…」

 

「?気づいたことって?」

 

「その…私は…如月のことが好きみたい…なの」

 

それを聞いたリサは、少し頭の中で整理した後

 

「んー…それ今更感…あるよ?」

 

と思わず返してしまった。

 

「えっ?」

 

当然、驚くと同時に抜けた声が出てしまう友希那。

 

(あ〜…そっかそっか。

アタシは恋愛小説読んでるから、アタシ自身の気持ちにもすぐ気づいたけど…。

友希那って昔から音楽しか興味無かったし、恋愛感情がどんな感じなのかとか、わからなかったんだなぁ〜…)

 

リサはしみじみ心の中で感慨深いものが生まれた感じがした。

 

「リサ…?

今更…ってあなた知ってたの?」

 

恥ずかしそうに聞いてくる友希那を見て、リサは迷いながらも答えた。

 

「んー…うん…。

というか、結構前から知ってたよ?

友希那が陽菜のこと好きなの」

 

「えっ……!?」

 

「…あはは〜」

 

「ちょっとリサ?

目を逸らさないでくれるかしら?」

 

「そ、そういえば友希那さ!

あの青薔薇のネックレスはどうしてるの?」

 

「えっ?」

 

「やっぱり、校則もあるし、さすがに学校までは持って来てないよね〜」

 

「それなら今もポケットに入れているわよ」

 

友希那が左ポケットから取り出した青薔薇のネックレスを見て、1つの逃げ場が閉ざされたリサ。

 

「それよりも、さっきの話について…」

 

「あっ!ほ、ほら!

学校着いたよ友希那!」

 

小走りで駆けるリサ。

 

「!ま、待ちなさいリサ…!」

 

それを追いかける友希那。

下足室では、友希那からの質問責めをリサは上手く受け流しながらも、そのまま教室まで向かう。

 

「ちょっとリサ。

いつまで話の腰を折るつもり?」

 

「腰を折るほど話してないよね!?」

 

「リサが受け流すからでしょう?」

 

「う、う〜ん…」

 

リサが唸った直後

 

謝ってよ!!!

 

聞き覚えのある声がした。

2-Bの教室からだ。

急いで駆けつけて中に入ると、そこには前まで陽菜が座っていた席を背にして立ち塞がる日菜とガラの悪い3人組の背丈の高い男子生徒たちが居た。

1人は金髪の男、もう1人は顔が良い男、最後は至って普通の男だった。

 

(やっぱり、さっきの声ヒナだったんだ。

でも…なんで怒って……)

 

「「!」」

 

そこでリサと友希那は信じられない光景を見た。

日菜の背後にある席は入り口からではよく見えなかった。

けれど、白い花瓶が置いてあり、机が黒ずんでいるのがわかった。

 

「これ、謝って…!」

 

「あー…マジだりぃ……。

なんでオレたちがお前に謝んなくちゃいけねぇんだよ…」

 

「あたしじゃなくて陽菜くんに謝って!!」

 

日菜は少し震えながら目の前に立つ金髪の男子生徒に向かって叫んだ。

 

「は?何言ってんだお前。

もうそいつ死んでんだろ?」

 

その男は馬鹿にするように含み笑いで言った。

 

「っ!」

 

「聞いたぜ、そいつの噂。

なんかの事件に巻き込まれて死んだんだってなぁ?

死んだ根暗が座ってた机をどうしようが…オレの勝手だろぉが!!」

 

めちゃくちゃな暴論で叫ぶと共に横にあった机を蹴り飛ばす男。

すると日菜の目の前にリサと友希那が立ち阻んだ。

 

「!リサちー?…に友希那ちゃん?」

 

「大丈夫ヒナ!?

どこか怪我してない?」

 

「うん…あたしは大丈夫。

でも…!」

 

日菜の視線を追い陽菜の机を見ると、そこには見るに耐えない程に汚されていた。

『なんで生きてたの?』『やっと死んだか』などの罵詈雑言。

振りまかれている白い粉は恐らくチョークの粉だろう。

 

「っ……!」

 

思わず目を逸らすリサ。

 

「なんだお前ら」

 

すると友希那が2人の前に立ち塞がった。

 

「それ以上…彼の事を冒涜するのはやめなさい」

 

友希那がそう言うと金髪の男子生徒の隣に居た男が口を開いた。

 

「ははっ。

おいおい、またその口かよ。

タッちゃんどうすんの?」

 

「別に?

こいつらがまた絡んでくるようなら、()()()()()1人ずつやるだけだろ」

 

「タッちゃんおっかねぇ〜。

まぁ、死んだ奴のことなんて普通誰も気にしねぇよな」

 

2人の会話を聞いて

 

「……っ!

陽菜くんは生きてるもん!!」

 

日菜は理不尽さに耐えられなくなり叫ぶ。

教室全体に聞こえるほどの声量。

しかし、金髪の取り巻きは

 

「学校に来ねぇのが1番の答えじゃねぇか」

 

嗤うように言葉を吐き捨てた。

そして、教室に充満したのは疑心暗鬼になったクラスの視線だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後

 

「…」

 

私は今日この日が終わるまで、日菜の様子をチラチラと見ていた。

しかし、それは良くない光景しか目に映らなかった。

誰も日菜に話しかけようとせず、日菜が話しかけても逃げるようにして話もせずに去ってしまう。

話すのは私とリサ、それから過去にガールズバンドパーティで集まった女性陣だけ。

そしてその事象は、日菜だけでは無かった。

クラスの空気から大体察せられる。

いつも私は誰かと話すことはない。

それは、ただ必要ないから。

けれど、今回は少し違った。

視線が多い。

何かに怯えているような素振りでこちらを見てくるので、話のする方へ目を向けても、すぐに視線を逸らされる。

この原因は、どう考えても朝の騒動が関係している。

 

(それ程…みんな、あんな人たちが怖いのかしら…?)

 

そんなことを思っていると

 

「友ー希那っ。

早く練習行こ?」

 

ポンっと肩を叩かれて振り返るとリサが居た。

そして

 

「…そうね」

 

いつも通り短く返すとリサは日菜の所へ行き

 

「ヒナも途中までしか一緒じゃないけど、一緒に帰ろ?」

 

「……」

 

呼びかけても日菜からの反応は無かった。

窓の外を見てボーッとしている。

 

「…ヒーナっ」

 

今度は優しくリサが話しかけるとピクッと反応して振り向いた。

 

「リサちー…?」

 

「ほーらっ。

早く鞄持って一緒に帰ろっ」

 

「うん…」

 

暗い表情を浮かべる日菜だったが、リサが手を引っ張って連れてきた。

 

「良い、友希那?」

 

「ええ」

 

そうしてCiRCLEへと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

CiRCLEへ向かう。

筈だったのだが、下足室で

 

「待って日菜ちゃん!」

 

後ろから声をかけられて振り向くと、そこにはいつも日菜に話しかけている女の子の1人が立っていた。

その後ろにはいつもの2人が居る。

ちなみに、この子たちは準生徒ではなく、普通の生徒たちだ。

 

「あの3人には関わっちゃダメって、教えたよね…?」

 

「……」

 

日菜は言い出すのを堪えていた。

言っても理解されないと思ってしまったから。

 

「また絶対に絡んでくるけど、まともに相手しちゃダメだからね」

 

「それと…安心した所を付け狙ってくるから気をつけて」

 

「後は…極力目を合わせないこと。

私たちが言えるのは…それだけだから…。

じゃあ…」

 

そう言って3人は去って行った。

彼女たちなりに、せめてもの忠告をしてくれたのだろう。

 

「…行くわよ2人とも」

 

友希那はそう言ってCiRCLEへと向かって行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

CiRCLE

 

中に入ろうとすると、友希那が入り口で立ち止まった。

 

「友希那?」

 

「…いいえ、なんでもないわ。

それよりも…」

 

リサの袖にくっつく日菜。

 

「日菜。

あなた、どこまで付いて来るつもりなの?」

 

「ちょっ、友希那…!」

 

友希那に悪気が無いのはわかっていてもリサが抑えを呼びかけるように名前を呼ぶ。

 

「おねーちゃんと話したいことがあるから、居ても良い?」

 

日菜が心配そうに聞くと友希那は少し考えてから

 

「…そうね。

1度、紗夜にあの話をしてからにしましょう」

 

結局、日菜も連れていつものスタジオへと向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スタジオ

 

扉を開けると、そこには真っ先に来ていた紗夜と燐子、そしてあこが居た。

 

「!日菜!?」

 

当然、紗夜は驚く。

するとリサの袖を掴んで俯いてた日菜が顔を上げた。

 

「…おねーちゃん…」

 

日菜が一言そう言った。

 

「…何があったのか話してみなさい」

 

しかし、たったそれだけで紗夜は何かを感じ取る。

そして、日菜は泣きそうになりながらも紗夜に話した。

あの時その場に居なかった友希那たちも話を聞き、すぐにわかった。

まず、あの3人は人目があるにも関わらず、日菜が座る前の席に落書きをし始めたらしい。

日菜は「なんで?」という疑問が頭の中でいっぱいになって、しばらくしてから体が動き、それを割って止めようとした所に友希那とリサが来たようだった。

そして、日菜の口から話の一連を聞いた。

 

「…イジメ…ね。

しかも、またあの3人…」

 

紗夜がポツリと呟いた。

 

「またあの3人…って、紗夜さん何か知ってるんですか?」

 

あこが尋ねると紗夜は頷き、呆れたように話し始めた。

 

「私たちの通う学校で、今1番厄介な問題児たちです。

校内でのカツアゲ、暴力、他には他人の物を勝手に捨てるなど、色々と問題を起こしている3人組です」

 

「それ、学校側はどうしてるの?」

 

リサが問う。

 

「おそらく、校長が出張で居ない今は何も動こうとはしないでしょう。

その旦那さんである天象先生も、別の出張で忙しいと思いますから…」

 

「それじゃあ……そのイジメられている生徒たちは…どうなるんですか……?」

 

「この問題は必ず解決しなくてはなりません。

ですから、今私も個人的に動いているのですが…イジメられていた生徒たちに話を聞こうとしても、誰1人怯えて口も聞けない状態でした…」

 

「!紗夜さん個人的に動いてるんですか!?」

 

「それって、危険なんじゃ……」

 

あこが驚き、リサが心配すると紗夜は平然とした顔で会話を繋げた。

 

「それは十分承知しています。

ですが、先程言った通り本当に厄介な問題児たちなんです」

 

「厄介…というと?」

 

「リーダー格である金髪の男子生徒。

名前は確か……田中 純平(じゅんぺい)さん…でした。

その人はヤクザの分家ということもあり、それを鼻にかけて度々イジメを繰り返しているのが目撃されています」

 

「……その情報は、信用出来るのかしら?」

 

「ええ。

羽沢さんから頂いた情報です。

廊下を美竹さんたちと歩いていたら、偶然階段裏でカツアゲしている3人を見て、彼女たちも止めに入ろうとしたみたいですが、すぐに気づかれて逃げてしまったとの報告がありました」

 

「つまり、Afterglowのみんなは既に接触しているのね。

………」

 

そこで友希那は口を止めた。

そして

 

「いいえ。

今それを気にしている場合ではないわ。

今は練習に集中しましょう」

 

友希那が切り出すと紗夜は平然とした顔から驚きの表情へと入れ替わった。

 

「!練習……ということは、自分だけの答えは出たんですか?」

 

「……いいえ。

まだ…出ていないわ。

けれど、今練習を休めばその分以上の技術が失われる。

それだけは絶対にあってはならないことよ。

Roseliaを少しでも前に進めるためにも、今は練習を続けるわ」

 

「そうですか。

…安心しました」

 

「?」

 

「いえ、あの人が生きていた頃のあなたが戻ってきたみたいで…」

 

「!………そう…」

 

「とはいえ、練習を始めましょうか。

少しいつもより開始時間が遅れていますから」

 

「日菜はどうするの?」

 

「……」

 

紗夜は悩んだ後に、何か決意をしたような眼差しで答えた。

 

「…このまま帰すわけにも行きませんから、今日だけここに置いて貰っても構いませんか?」

 

「練習の妨げにならないのなら構わないわ」

 

「そういうことだから、日菜。

そこの椅子に座って見ていてちょうだい」

 

「床で良い……」

 

日菜は相当ショックを受けているようだった。

日菜からしたら、ああいう問題は理解不能なのだろう。

すると紗夜が

 

「床だと腰が痛むかも知れないわ。

そこの椅子に座っていてちょうだい」

 

「……」

 

「前まで如月が座っていた所よ」

 

「……座る…」

 

そう言って日菜はてくてくと歩き、すとんっと椅子に座った。

 

(如月さんのことにだけは敏感に反応するのよね…)

 

紗夜は心の中でそう思ったが、すぐに練習が始まった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

数時間経ち、練習は終わった。

スタジオの鍵を返しに受付へ向かうとオーナーとまりなさんが何か話していた。

 

「……ということがあって、どうしますか?オーナー」

 

「内容にも寄るねぇ。

それにうちにはまだお客様が居る。

まぁ、来たらそん時はそん時。

それに1ヶ月先の未来なんてわかるはずないだろう?」

 

「そ、そんな悠長な…!」

 

青ざめたまりなさんと目が合った。

 

「どうかしたんですか?」

 

紗夜が尋ねる。

 

「う〜ん…」

 

「何か起きそうなのさ」

 

まりなさんが唸っているとオーナーが答えた。

 

「まぁ、あんたら子供が気にすることはないよ」

 

「いえ……20歳を超えているので一応大人ですよ私たち」

 

「心がまだ子供だって言ってんのさ。

それに、帰るなら早く帰りな。

今日は雨が降るらしいからね」

 

「雨?」

 

外を見ると雲が黒に寄りかかった色に染まっていた。

すると

 

「そういえばおねーちゃん。

今日、洗濯物干して無かったっけ?」

 

「そういえば…そうだったわね。

私たちは先に帰りますが…もし何かあれば連絡してください。

それと……くれぐれもあの件については気をつけてください」

 

「ええ。

わかったわ。

お疲れ様、紗夜」

 

「おつかれー紗夜っ☆」

 

「お疲れ様です…」「お疲れ様です!」

 

「はい。

…では、行きましょうか日菜」

 

「うん」

 

そうして紗夜たちは、カランカランと鈴の音を立ててCiRCLEを抜け、先に帰って行く。

私とリサが次の予約を入れている間に、あこと燐子もCiRCLEでゲームの話してから先に帰った。

こうしていつもみたいに練習出来るのはリサのお陰でもあった。

その幼馴染に私は1つだけ嘘を吐いた。

本当は嫌なのに嫌と言えなかった。

いつもどこかで気を張っていなければ、すぐに()()してしまいそうになる。

けれど、どんな形であれ進み方はこれで合っているはず。

それなのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のはどうしてだろう。

 

「……」

 

「友希那?」

 

「私たちも帰りましょうか」

 

ペンを置いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

氷川家

 

話そうか、話さないでおこうか。

その2つの選択肢が現れたが、後の事を考えた結果。

日菜には忠告しようと思った。

 

「日菜」

 

お菓子を食べながらテレビを見てソファに座る日菜に声をかける。

 

「んー?どうしたの?」

 

日菜が振り返って聞く。

 

「…もし今後、今日みたいな事があっても相手に突っかからずに感情を抑えなさい」

 

「…なんで…?」

 

「危険だからよ」

 

「……嫌……」

 

小声でそう言った。

 

「…駄々を捏ねないでちょうだい」

 

「嫌!

あの人たちがまた陽菜くんに何かしたら、あたし怒る!」

 

「っ…!

いい加減にして日菜!!」

 

「!!」

 

紗夜の怒りに染まった声が日菜の体をビクつかせた。

 

「私は如月さんのように強くないの!

あなたに何かあっても私は身代わりになることくらいでしか守れない!

けれど、それでは如月さんと同じ行為をすることになって、また誰かを悲しませてしまう!」

 

「っ…!!」

 

「だから…それくらいわかってちょうだい…」

 

トーンを落とす紗夜の声色は、どこか申し訳なさを日菜は感じた。

それでも

 

「わかってるもん…。

そんなこと…わかってるもん!!」

 

日菜は叫んだ。

その瞳に綺麗に透き通る涙を浮かべながら。

 

「っ!」

 

「でも!なんで陽菜くんのことを虐めるの!?

ねぇ!なんで!?

陽菜くんあの人たちに何も悪いことしてないじゃん!!

ずっと考えてたけど全然わかんないよ!!

なんで陽菜くんのこと誰も助けてくれなかったの!?

なんで助けられなかったの!?

なんで陽菜くん約束守ってくれなかったの!?

ねぇ!知ってるなら答えてよおねーちゃん!!!」

 

ずっと悩んでいたような言葉だった。

混乱した言葉からしてわかる。

今日までずっと毎日考えていたのだ。

大粒の涙とその眼でわかる。

日菜は何も出来ずに悔しくて、自分が許せなかった。

それは皆同じであった。

負い目を感じる必要など無くても、皆同じ疑問を抱えていた。

 

「……それは…そういう人たちが存在するからよ日菜」

 

一部の疑問だけを抜粋して応える。

日菜は俯きながら手を強く握り締め黙って聞いた。

 

「イジメというのは、どんな学校にでも起こりうることよ。

1つ例をあげるなら、不安が積もり、それを誤魔化す為に全て誰かのせいにしようとして、ターゲットを決める。

そして、その誰かを虐めて自分より下がいる事を誤認して安心を得ようとする…。

そういうことをする人たちは、それに気付かず他人を軽い気持ちで虐めていて、少なからず存在しているものなのよ」

 

「……じゃあ……あたしがなんとかしたら良いんだよね?」

 

「なんとか…って、あなたに何が出来るの?

危険な行動は止しなさいと言っているでしょう」

 

「次の生徒会選挙。

あたしが今空いている生徒会長になって、イジメを無くせば良い」

 

「イジメを無くす…?」

 

「そうっ!

そうすれば良いじゃん」

 

「それは……誰の為に?」

 

「陽菜くんみたいに虐められている人の為だよ」

 

「……はぁ……」

 

溜め息を吐いた。

 

(…虐められている側の人たちを如月さんと重ねているのかしら…?)

 

そう思ったが、同時に、自分もまだずっと引きずっているではないかと思わされた。

そして変わらぬ眼差しを向ける日菜に紗夜はこう言うことにした。

 

「……あなたなら、そう言うと思ったわ。

けれど、約束してちょうだい」

 

「?」

 

「次に行われる生徒会選挙は、4月の中旬…。

その時まで、あの人たちが何かしてきても、絶対に反抗したりしないで。

そうしてくれるなら、私も出来る限り協力するから」

 

「ほんとっ?」

 

ちょっとだけ嬉しそうに聞いてきた。

 

「ええ。

出来る限り…だけれど。

それでも良いのなら私も手伝うわ」

 

「やったぁ!」

 

日菜は両手を上げて満面の笑みで喜んだ。

感情の揺れ幅が相変わらず凄いと思った紗夜だったが、それも笑みを含んだやれやれ顔で済ます。

 

「良い日菜?

ちゃんと約束は守ること。

そうしないと、手伝ってあげませんからね」

 

「うんわかったっ!!」

 

(早い…)

 

この日から日菜は約束を守り続けた。

そしてそれは、数十日続き、不運が離れて行ったかと思えた。

しかし……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

来閃育成音楽コーポレーション

 

事務室

 

「さて…と。

そろそろあの場所、貰おうかな」

 

不穏な影が現れた。




マキナシ様 KOROTA20様
オリジン486909様 田中凛太朗a.k.a生卵様
酔生夢死陽炎様

お気に入りありがとうございます。
200人突破しました!
ありがとうございます。

次回は少し時間が流れた頃の話から始まります。
それと遅れてすまない…。

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