退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第6話 世界最高峰と謳われるバンド 〜後編〜

翌日 3月23日 終業式

 

2学期の終わりを告げる式が終わり、急いでCiRCLEへと向かった。

 

 

 

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CiRCLE 受付前

 

カランカランと鈴の音を鳴らして入る。

そこには既に蘭が居た。

 

「やっぱり、遅れずにちゃんと来たのね」

 

友希那が挨拶代わりに声をかける。

 

「当たり前です。

……湊さんの方こそ、今日の練習頑張ってくださいね」

 

「ええ」

 

「それじゃあ先行ってます」

 

そう言って蘭はスタジオへと向かっていった。

 

「……」

 

(私も、残りのメンバーが来る前にも早く練習しておきましょう)

 

そうして1人でスタジオへと入っていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

メンバーが集まり練習は滞りなく行われた。

技術にバラつきはある。

けれど、順調にほんの少しずつ上がっていったのも確かだった。

そして休憩時間が終わった頃

 

「……子」

 

ボーッと天井を眺める燐子。

 

「燐子」

 

すぐに名前を呼ばれていることに気づき慌てて返事をする。

 

「は、はい…!」

 

目の前には友希那が立っていた。

 

「す、すみません…!

すぐ戻ります…!」

 

「やはり疲れているようね。

まだ休憩時間中よ」

 

そう言われて時計を見ると休憩から、まだ2分ほどしか経っていなかった。

 

「あっ……」

 

練習メンバーはA〜Eのスタジオに分割されている。

そしてCスタジオであるここのメンバーは燐子、友希那、花音、千聖、たえの5人に分けられていた。

すると

 

「……燐子。

休憩時間が終わるまで、少し外で話しましょう」

 

「!……はい…」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

鈴の音を鳴らして外に出る。

 

(怒られる…わけじゃ無さそうだけど…。

話ってなんだろう…)

 

ほんの少し不安になっていると友希那が切り出した。

 

「燐子。

今から聞くことは…不謹慎極まりないけれど、聞いても良いかしら?」

 

「!」

 

目を見開いて驚いた。

燐子は、友希那が自分から忠告する程ということは、きっとそれが間違っていると薄々自分でも感づいているのでは無いかと思ったからだ。

それでも、それを理解した上で燐子は静かに頷いた。

 

「あの人のこと…忘れられたかしら…?」

 

「…!」

 

(忘れ…られた……?)

 

「どうして…そんなことを…?」

 

「あなたさっきボーッとしていたでしょう?

もしかしたら…と思って聞いてみたの」

 

「…!」

 

(やっぱり友希那さん…。

みんなのこと……よく見てる…)

 

「やっぱり…忘れられないのね」

 

「…はい…」

 

短く返すと友希那は「そう」とだけ言って燐子の背後にあった扉に手をかけた。

その時、燐子は振り返って聞いてみた。

 

「あ、あの…!

友希那さんは……どうして忘れたいんですか…?」

 

「えっ…?」

 

燐子はいつも接しているように聞いた。

ただそれは友希那にとって『忘れたい』と思っていたが、それを表に出すことなんて一度も無かった。

その為、友希那は燐子が気づかせてくれた自分の気持ちに対してほんの少しの冷や汗を流した。

 

「…燐子。

私は、本気で忘れたい訳ではないの」

 

「えっ?」

 

「今回のライブ。

私は必ず成功させないといけない。

けれど、どうしてもあの人のことが忘れられないの…」

 

「!!…」

 

「だから…」

 

「少しの間…忘れ方を知りたい……ですか…?」

 

「……ええ。

こう思うことは…間違っているかしら?」

 

ふと燐子は思った。

『こんな時、陽菜さんならどんな言葉をかけるのだろう…』と。

 

(多分…きっと…陽菜さんなら…)

 

「友希那さんは……今までどんな気持ちで歌って来たんですか…?」

 

「えっ…?」

 

友希那は不意を衝かれたように返事らしきモノをする。

 

「FWFが終わって……友希那さんは今まで通り…誇り高く歌っていました…。

でも…今の友希那さんは…その『誇り』以外に…何を抱えているんですか…?」

 

「っ!!」

 

そして燐子は手を握って勇気を出して言った。

 

「……わたしは…っ!

……今の友希那さんを陽菜さんが見たら……きっと…落ち込んじゃうと…思います…!」

 

「…」

 

「でも…!

友希那さんの歌声が好きなのは…きっと、陽菜さんも一緒です…!」

 

「…そう…」

 

「…ぁっ…!」

 

ハッと思ったよりも言葉が出たことに気づき、オロオロしながら慌てふためいていると悩んで立ち止まる友希那が居た。

しかし、いつもより顔つきが少し変わっていた。

すると

 

「…ありがとう燐子。

少しだけ…わかったような気がしたわ」

 

ほんの少しだけど微笑んでくれた。

 

「!ほ、本当…ですか?」

 

「ええ。

けれど、如月のことは……やっぱりどうしても忘れられないわ」

 

情けなさそうに笑む友希那。

それに燐子は首を横に振りながらこう返した。

 

「それで良いと…わたしは思います…」

 

「それじゃあ、そろそろ時間でしょうから、戻りましょうか」

 

「はいっ…!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして日は流れ、本番ライブ当日

CiRCLEライブステージ

 

観客席は2000人の客で埋め尽くされ、このライブを誰もが待ちに待っていた。

そしてその頃、『SPバンド!』の楽屋では

 

「ねっ…みんな」

 

静かだった空気にリサが声を上げる。

 

『?』

 

「その…この話するの嫌っていうのはわかってるけど…さ。

みんながここを守りたいって言ったの…もしかして」

 

「リサ」

 

リサの問いかけに対して友希那は遮った。

 

「私たちはいつもの場所を守る。

ただそれだけのことよ」

 

「でもさ…友希那。

まだ忘れられないんだよね…?」

 

「…それは今は関係無いわ」

 

「…っ…」

 

自分の胸辺りでギュっと手を握るリサ。

それを見て

 

「それに…リサが居てくれれば大丈夫よ。

必ず勝てるわ」

 

本音だった。

けれど、それは同時に今伝えたい言葉では無かった。

しかし、負ける気など毛頭無い友希那は『必ず』という言葉を使ってまで意思表示をした。

それは当然メンバーにも伝わっており、リサは表情が豊かになると

 

「うんっ!

相手はちょーっと大変だけど、絶対に勝とうねっ♪」

 

「そうですね。

ですが、今回は相手がいつもより格別に手強いです。

皆さん、油断は禁物ですよ」

 

「CiRCLEはみんなが好きな場所だもんっ!

だから、おねーちゃん達の為にも、あこ頑張るっ!」

 

「そうだね…あこちゃん。

わたしも……あの場所は好きだから…」

 

楽屋の空気がよく澄んできた。

するとガチャッと扉が開き、スタッフに出番を知らされた。

 

「行くわよ」

 

『はいっ!』

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

暗闇のステージ。

そこに月明かりのような照明に照らされる25人。

1曲。

たった1曲に全てを賭ける。

この対決ライブのラストを飾る新しいオリジナル曲。

落ち着きがあり他を惹き寄せ、それでいて、曲に詰め込んだ情熱と焦燥が漂う音色。

 

(今の私たちが()れる全てを乗せた歌。

私が超えたかったあの人にも…。

この歌を届かせてみせる!!)

 

たった1つの意志と共に歌う1つの曲は、天まで響かせるという志が波紋のように観客へと伝わっていく。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

演奏が終わり、裏方へ行くとそこにはライブを見に来ていた相手バンドがいた。

 

「……」

 

堂々と歩きながら、鬼龍達とすれ違おうとしたその瞬間

 

「…()()が今の君たちの限界なのか…」

 

鬼龍に呟かれた。

振り向くと、その中に1人見覚えのない怠そうな雰囲気を漂わせ、青い線が光る黒のヘッドフォンを耳に当てている男に気がついた。

すると

 

「あ…ども。

ボーカル担当の神城(かみしろ) 月影(つきかげ)です」

 

気弱そうな自己紹介をすると共に、ヘッドフォンを取り首に置く月影。

しかし、それとは裏腹に

 

「時間あるなら聴いて行ってよ。

僕ら1曲歌うから」

 

「1曲だけ?」

 

「そ。

本当なら、今頃寝てるんだけど。

仕方なく鬼龍たちに付き合ってんの。

でも、君たちが鬼龍に勝負仕掛けたから呼ばれた。

だから、この演奏を聴いてもらって、実力差がはっきりすれば、今後は誰かが勝負仕掛けてくることが少なくなると思って」

 

「…私たちを、見世物にするつもり?」

 

「そうじゃなかったら…。

僕は、こんな所にまでわざわざ足を運んでない。

それに…こんなのただ歌っていれば勝てるから僕は楽で良い」

 

「あまり甘く見ないでもらえるかしら」

 

「ん?」

 

「私たちはここを守ってみせる。

あなた達に奪わせはしない」

 

「…なるほど。

鬼龍が言ってた通りだな」

 

「えっ?」

 

「君らは個々で結成してから5、6年くらいだろう。

それに実力も本物だ。

稀に見る逸材ではないが、限りなく音楽の旅を知っている奴に近い。

けど僕らは、小さい頃から育成教室で超エリートとして選出されて、このバンドを約20年前に結成した」

 

「!20年…!?」

 

「あぁ…補足だけど公式に発表したのは、ついこの間ね。

でも、自分の技術だけを高め続けた僕らに、年季がたった一桁のバンドに負けるわけないから。

それに、()()()と同じ轍は踏まないし」

 

絶対的な自信と余裕を見せつける月影。

その最後のセリフにはどこか恨めしい感情を込めていた。

まるでそこには居ない誰かを恨んでいるような。

すると

 

「月影。

話終わったなら行くぞ」

 

鬼龍に呼ばれ、月影は『SPバンド!』のメンバーに一目置いてから

 

「わかってる」

 

そう言ってステージへと上がって行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そのステージで友希那たちが見た光景は、見た者の脳裏に焼き付くほどに綺麗で美しく、繊細でいて、硬い決心をも揺らす激しく高貴なシャウト。

 

「っ……!」

 

胸の辺りで手をギュッと握る。

この曲を聴いていると何か大切なものを失ってしまったことに気付かされた気がしたからだ。

個々の楽器を極めた者たちによる演奏は、この世の物とは思えないほどに誰よりも輝いていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ライブ終了後 受付前

 

五分程経ち、まりなさんが2つの投票箱の中身を確認し終わった。

そして

 

「えっと…それじゃあ、投票の結果発表するね」

 

息を飲む。

 

「『World Throne』…1728票。

『SPバンド!』…272票…」

 

『っ…!』

 

全く届かなかった。

演奏を聴いた時からこうなる予兆は嫌でもみんなが感じていた。

すると香澄が

 

「もう一回…」

 

「!戸山さん…?」

 

「もう一回!

もう一回だけ、勝負してください!」

 

次の1回で勝つ。

そんな事は無理だと彼女もわかっている。

失いたくないという想いも胸が痛む程に伝わってくる。

それでも、たった1曲で実力の差を嫌という程味合わされた。

当然、その香澄の願いに鬼龍は

 

「無理だな。

これ以上やっても無駄と解らない辺り、自分たちの実力を理解していないようだ」

 

そう返答した。

すると

 

「何度やっても結果は同じだよ。

だって君たちには、欠けているモノがある」

 

友希那は月影に指をさして指摘され肩が一瞬震えるのを感じる。

 

「っ…私たちは、今まで以上に最高の音楽を演奏したわ。

だから……欠けているモノなんてあるわけが…」

 

しかし、友希那は薄々勘づいていた。

認めたくないという思いが強く出てしまい、自分でも情けないくらいに弱々しく言葉が途切れた。

 

「ふふ。

本当に……そう思うの?」

 

「!」

 

意表を突くように翔栄が問いかける。

 

「ふふ。

一体、君たちは()()()()()()()()

()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

『っ!!!』

 

「ふふ…。

迷いは音を鈍らせる。

ボクの絶対音感は嫌でもそれを聴き取ってしまう。

バンドで1番組んではいけないのは、心に大きな迷いや悩みがある者だ」

 

「!」

 

「ふふ。

そしてボクたちは会社に貢献して生きる為に最善を尽くした。

…言葉と本当に思っていることを(たが)えれば、半端な演奏に成り下がることをよく覚えておいで」

 

『…っ…!』

 

今はもうCiRCLEの所有権はあちらに渡り、賭けるものも無くなって交渉も出来ない。

 

この状況を打破することを考えているのは誰1人としていなかった。

なぜなら、翔栄の言葉に自分の中で渦巻いていた迷いが明らかになったからだ。

 

(やっぱり…まだ忘れられない…。

あの人に伝えたかったこと、話したかったこと。

まだ、たくさんあったのに…。

そう…この感覚はきっと…後悔しているんだわ…。

何も伝えられなかったことが…)

 

そんな負の連鎖に押し潰されそうになっていると

 

「でも実際の君たちは予想よりも強かった。

良い音もチームワークも、今まで会ってきたバンドの中で希少に値する。

これまで会ってきた中で2番目…だけど。

ま、これでCiRCLEの所有権は実質もうオレのものになった。

どちらにせよ、今から君たちが交渉を持ちかけようとオレにはメリットが無い。

じゃあな」

 

鬼龍が労うと立ち去っていく5人。

それを無力と思い知らされる程に眺めることしか出来ない。

 

「っ…!」

 

唇を噛み締める。

いつまで経っても現実を受け入れられない自分のせいで、後悔ばかりして、彼の大好きだと言った場所すら守れなかった。

 

(私は…また失うの…?)

 

そんな考えが脳裏を過った次の瞬間。

 

「おいおい…」

 

懐かしく迷いが凝縮された頭の中を解消するように、ポンッと頭を撫でられた。

顔を上げると、目に映るのは頭に置かれた右手。

そして、いずれ追いつくと約束して追いかけた見間違えるはずのない背中。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「えっ……?」

 

「う…そ…」

 

「……!」

 

「これは…驚いた…」

 

それぞれが口に名前を出すのを惜しんだ。

しかし、会った瞬間止めどない感情を抑えきれなくなっていた。

日本に戻ってきた時、必ず呼ぶと誓った名前。

それは…

 

「如月…!!!」

 

「悪い。

何故か知らんがタイミング良く遅れた」

 




ロミボ様 魁音斂様

お気に入りありがとうございます。

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?「おいこら作者」

作者「はい作者です」

?「陽菜生きてんじゃねぇか」

作者「生きてましたね」

?「4.5章最終話の後書きで『実は生きてましたなんてことはありません』って書いてたじゃん」

作者「それについてはちゃんと説明させてもらいます。
まず、その一文の前に『自力で』という言葉があります。
これは5章の最後で陽菜を復帰させる伏線でした。
後書きに伏線ってどうかと思いましたが、逆に後書きに伏線書いた人って居るのかな?とも思い、書きました」

?「つまり、自分で見たことがない『目新しさ』という好奇心に負けて、後書きに伏線貼ったと?」

作者「後書きを読んでない方が居たら、すみませんとしか言いようがありませんね」

?「じゃあ本編の陽菜は自力で助かってないと?」

作者「そうです。
では、一体誰が陽菜を助けたのでしょう?」

?「天皇」

作者「それが違うんですよね…。
そこら辺りは6章で話すと思います」

?「?なんで6章から?」

作者「次の5.5章は1話完結なので」

?「なるほど」

作者「最後に、後書き長くなってすまない…」

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