退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ...... 作:haru亜
今回長いです。
第1話 Last Shout
「悪い。
何故か知らんがタイミング良く遅れた」
振り向かずとも背中と声色だけで誰かわかった。
それだけで嬉しさのあまり泣きそうになるがなんとか堪える。
しかし、もっと確証を得たいが為に顔を見たいと考えた。
それでも顔を見ることを友希那は我慢していると、頭に置かれていた懐かしい手が離れた。
それと同時に、目の前にいた5人のうち1人の男が嫌悪感を抱いた眼差しで振り向き足を止めた。
「へぇ…。
誰かと思えば…何時ぞやの生意気な【神童】じゃないか」
鬼龍の憎たらしい口調に、俺は下手な敬語で返した。
「久しぶりですね鬼龍さん」
「…こんな所に何をしに来た」
「第一の理由としては、
まぁ間に合わなかったけど…」
「…また随分と生意気なことを言うようになったな」
「実際事実に変わりないですよ」
「……もう一度聞くぞ。
こんな所に何をしに来た」
「…この子たちの演奏を久しぶりに聴いてみたかったんだけど…。
詳しい話はこの子たちからまた聞きます。
まぁ、また大人気ない交渉をしたみたいだけど…」
「利益しかない話に乗らない訳にはいかない。
残念だが、CiRCLEはもう俺たちの物だ。
その子たちもお前も、俺に交渉するための材料はもう…」
「じゃあ、もし先輩方が俺に勝ったら、俺が持つ【神童】の勲章をあげます」
余裕を見せて話す鬼龍の話を切ると空気が固まった。
すると口出ししてこなかった羅門と翔栄が初めて驚愕に染めた声色で口を挟んだ。
「は?お前今なんて言った?」
「ふふ…。
聞き間違えじゃ…ないかな?」
絶対音感である翔栄が聞き返す程の言葉を聞いた。
すると月影が横槍を入れた。
「君、何か勘違いしてない?
僕らは、勝負することに意味なんて無いし。
その勲章だって僕は興味無い。
何より、僕らはあの時最高潮だった君たちを既に抜いている。
バンドを解散した君程度が勝てると思ってるの?」
「月影さん。
その時出した俺たちの音楽が最高傑作だと本気で思ってるなら…。
いつまで経ってもそこがアンタの天井だ」
「っ!」
「バンドマンなら誰かの音楽を焦がれるくらい好きになっても良い。
でも、自分の音楽を最高だと言わしめたいなら、他人の音楽を最高だとは思わないことです」
「……なら、今言った言葉。
取り消すなよ?」
「もちろん。
ただ勝負期間は設けてもらいますよ」
「具体的には?」
「3日」
短く返した。
そろそろ話を切り上げて後ろにいる友希那たちと話をしたいからだ。
「良いよ。
それじゃあ…場所は、因縁の地下ライブハウスにしようか」
「わかりました」
「まぁ、それまでにバンドメンバー集められるかどうか…だがな。
せいぜいそこから頑張れよ」
挨拶代わりに手を振って仲間を鬼龍は去っていった。
そしてやっと話せると思い振り向いた瞬間
「さて…「陽菜くんっ!!!」とぉっ!?」
泣きそうになっている日菜の声が耳元で聞こえてくる。
そして優しく背中を叩きながら
「…悲しませて悪かったな。
でも、あの日の約束は果たしたから許してくれ…」
俺は海外へ行く前に交わした日菜との約束を守ったことを伝えた。
「うんっ…!うんっ!!」
それでも離れようとしない日菜。
声色からして泣きそうになっているのを堪えているのだろうが、普通に泣いている。
するとまるで信じられないと言いたげな友希那がこちらを見て口を開いた。
「あなた…どう…して…」
「…それ諸共CiRCLEの中で話そう。
俺も話したいこと沢山あるから」
そうして日菜をくっつけたままCiRCLEに入り、初めてあると知ったラウンジへと足を踏み入れた。
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ラウンジに集まると意外と快適な温度だった。
ゆっくり出来る場所のはずが視線が痛い。
まぁ、その原因は未だにくっ付いている日菜のせいだと思いたい。
「ええと…どこから話そうかね…」
「自分で起爆した爆発に巻き込まれて自滅したはずのあなたが、どうやって生き延びたのか…。
まずは、そこから説明してくれるかしら?」
いざとなるとどこから話して良いのかわからず口に出すと、千聖に速攻で答えを返された。
「わかった。
まず、確かに俺は爆破に巻き込まれて左腕を肘から失った」
もちろんゲームみたいにザクッと落ちた訳ではない。
爆発の影響により、尖った鉄パイプが肘の関節を貫通して次の爆風と共に空中で引き千切られたのだ。
クスリを使っていたお陰か細胞がボロボロになっており、すぐに千切れた。
しかし、そんなことをこの子たちの前でわざわざ詳細に言い聞かす理由は無い。
「でも爆破するのが早かったせいもあって、横から来る爆風がクッションになってそのままビルより遠く離れた場所に落ちた。
しばらく息出来なくて体も動かないし、流石に死んだと思った。
でも、ビルが全壊してから友希那たちを送ったヘリとは別のヘリが来て助けてもらった」
「別のヘリ…?」
「ああ。
まぁ、そこは省かせてもらう。
そのヘリに連れて行かれた場所がどこかは、途中で気を失ってわからなくなったんだが…。
次に目を覚ましたらこうなってた」
そう言って左肘から付く外側が肌色に作られた義手を見せた。
限りなく本物の腕に近いそれは、義手と言わないとわからないほどであった。
『!!』
「寝てる間に手術を受けて、その後1週間…?かな。
それくらい経った頃に友希那たちがCiRCLEでライブやるって聞いてな。
ちょうど4日くらい前から体を自由に動かせるようになってたから、急いでこっちに来た」
簡潔に纏めて話すと彩が心配そうに聞いてきた。
「か、体は大丈夫なの…?」
「大丈夫…といえば嘘になる。
デメリットがあったとしたら左腕は見ての通り肘から下が無いこと。
それと子どもが作れなくなったことくらいだ」
「えっ…?」
「主な原因は『ドラッグの投与し過ぎだろう』って医者に言われた。
あのクスリは細胞を壊す。
とはいえ、皮肉ながらも俺がこうやって生きれたのはクスリが強制的に俺を生かし続けた。
だから結果的に普通には歩けるけど、体の骨とかが一般の成人男性より脆くなったな」
『…!!』
「で、でも…陽菜さんが生きてるって事は、また政府に…」
ひまりが最後だけ言葉を濁す。
それでもこの場に居る全員が、それが『なんなのか』はすぐ理解した。
そして俺は返す言葉に若干苦味を入れた。
「う、う…む…。
それなんだがな…」
「?」
「俺が生きてるってわかった瞬間、政府に呼び戻されそうになったんだが…。
俺の体がボロボロになって使い物にならないと判断されて、そのまま追放喰らった」
「!なんか…むしゃくしゃする…」
蘭が微妙な表情筋を浮かべながら言う。
「俺がむしゃくしゃしたのはここからなんだよ…蘭」
「えっ?」
「いや…実はな。
俺が追放されたすぐ後、特殊機関が消滅したんだよ」
『えっ!?』
「で、それがなんでかって言うと。
特殊機関の現総監と次期総監候補が消えたからなんだ」
「?どういうことですか?」
巴が聞いてきて、そのまま話を続けた。
「まぁそうなるよな。
順を追って説明すると、特殊機関の次期総監は特殊機関に所属していた奴らから選抜される。
で、本来継ぐ筈だった俺と…兄さんが死んだから、特殊機関の総監は誰も選抜しないまま機関を潰して消息不明。
で…ここからが本当に後悔した話なんだが…」
少し憎たらしく呟くと紗夜がキョトンとしながら聞いてきた。
「後悔?
やっと抜けられたのに…ですか?」
「ああ…。
特殊機関が消滅する。
そこまでが兄さんの考えていたプランだったんだよ…」
「プラン?」
「まず友希那を拐って、俺を釣る。
そしてその後に俺を追い詰めてクスリを2回使用することまで計算されてた…。
そうすれば、俺が死ぬに至る導火線に火をつけた状態が完成。
後は自分が死ぬことで、俺を特殊機関から解放すると共に、特殊機関を消滅させる…」
「どうしてそう思うんですか?」
立て続けに質問する紗夜は久しぶり話したかったのもあり会話を少しだけ、もう少しだけ長引かせたかった。
「あの人は久しぶりあった時に『僕と陽菜が死んでようやく成り立つもの』って言ってた。
更には『結果的に陽菜の為になる』とかも…な。
特殊機関が消滅して、その言葉の意味がやっと理解できた」
「…なるほど…。
そういうことでしたか…」
「でも……良かったです…。
陽菜さんが…生きててくれて…」
「そうだな…。
でも、さっきの話については本当に最悪だ…。
相変わらず抜け目がねぇ…。
引き分けたと思ったのにまた俺の完敗だ…」
深くため息を吐く。
正直かなり落ち込んでいる。
今落ち込むのはどうかと思ってはいるが、それでも相当落ち込んでいる。
本当にあの時ばかりは初めて引き分けに持って行けたと思っていたのに、まさかの計算され尽くされていたパターンだ。
すると彩が隙を見て聞いてきた。
「じゃあ……陽菜くんはもう普通の生活に戻ったってこと?」
「ああ。
まぁ…俺も他に色々と言いたいことはある。
けど、やっとあの監獄みたいな所から解放された。
だから今は…そうだな。
ありふれた言葉だけど…ただいま、みんな」
こんなありふれた言葉を、また言える日が来るなんて本当…思いもしなかった。
『うんっ!』『ええ』
心置きなく受け入れてくれる俺の選んだ居場所は、何も間違っては居なかったと自信を持って今は言えるだろう。
そしてこの後色々と質問攻めにあった。
ちょいちょい親みたいな質問を入れてこられたりもした。
しばらくして俺はその相手をした後に、イチバンドマンとして頭を切り替えて今回の経緯を聞くことにした。
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話を聞いた限り、どうやら鬼龍たちがCiRCLEの土地を貰いに来たらしく、それに異論を挟んだこの子たちがライブ対決を挑んだ。
しかし、圧倒的差をつけられて敗北。
ちょうどその時、俺が合流したらしい。
「にしても…よりにもよってWorld Throneか…。
めんどくさいことになったな…」
「陽菜さん知ってるんすか?」
「あぁ…。
昔、まだ俺がバンドをやってる時に一度だけ対決したことがある」
『えっ!?』
「じゃあ…もしかして…陽菜さん。
勝ったんですか?」
「…勝ったな」
場が安堵に包まれそうになったが、次の言葉で瞬時に空気を切り裂いた。
「3票差の僅差で」
『!?』
「陽菜さんのバンドでも…3票差…」
美咲が冷静な声で呟く。
俺はそれに続けて更に絶望するような言葉を発した。
「しかも、相手は生まれたての雛も同然だった頃だ。
はっきり言って、今の俺じゃ勝てるビジョンが見えん…」
『ええっ!?』
「あんな啖呵を切ったのに?」
おたえが中々痛い所を突いてくる。
「う……む…。
だって、あの時はそう言うしか無かっただろ。
お前らが何を賭けてるのかも知らなかったしな…」
一言添えて言う。
するとリサが『あっ』と思い出したかのように手を打った。
「そういえばさ陽菜」
「ん?」
「さっき、あの人たちなんで陽菜の勝負を受け入れたの?」
「なんで…って、そりゃ【神童】の勲章を簡単に手に入れられる千載一遇のチャンスなんだから…」
「勲章…って何?陽菜」
やたらと名前を呼ぶリサが、どこか浮き立つ足をなんとか堪えようとしている気がするのは気のせいだろうか。
とはいえ、音楽業界に関して隠し続けていたことを話す時が来たようだ。
………とか考えてみる。
「まぁ、簡単に言えば、世間代表の人たちが認めた公式の二つ名ってところだ」
「それって、友希那が前まで記事で書かれてた【孤高の歌姫】…みたいな感じ?」
「それは非公式だ。
公式って付くからには、ちゃんと試験がある」
「じゃあ、陽菜とあの人たちはその試験に受かったってこと?」
「ああ」
短く返した。
それとついでに言っておくと【天才】四宮 凛音は違う。
あの男は試験を通過出来なかった為に友希那と同じ非公式だ。
「…さて…と。
まずバンドメンバーどうするかな…」
「待って待って陽菜!
その勲章ってどこで取れるの?」
「……まさかリサ。
取る気か?」
こくんと頷くリサ。
おそらく勲章が取れればRoseliaの地位が上がって、まだRoseliaを知らない人に知ってもらえると思ったのだろう。
ただ、そうであって欲しいとは俺も願うものの、現実はそう簡単じゃない。
「……今のリサには早すぎる」
「っ!!」
「それに今は勲章じゃない。
バンドメンバーを集めないと話にならん」
「……ギターが必要なら、私を頼ってください」
紗夜が思い切った声で言う。
すると右腕にくっついていた日菜が
「あたしもやる!!」
と言い出した。
こうなっては他の奴らもやると言いかねない。
とはいえ、口で説明しても日菜辺りは納得しないだろう。
(…この子たちには悪いけど…)
「…じゃあ、さっき弾いてた曲で試してみるか」
「試す?」
「ああ。
まぁ、やってみたらわかるだろ…」
そう言って地下にあるライブステージへと向かった。
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地下のステージへ向かおうとする途中。
受付前でオーナーに見つかった。
「お?なんだい生きてたのかい如月 陽菜。
退職金は貰えたの?」
もはや隠そうともしないオーナーの姿勢には呆れを通り越しそうだ。
「退職金は貰えたけど…。
9年間あんな仕事やってたのにアレだけとか、0のケタが1つ足りない気がしてならないんだが…」
「ままま、今度宮本 雫にも挨拶とお礼してやんな。
そこの歌姫がヘリで救助されるまで守ってたのアイツだよ?」
「気が向いたらな。
それと地下のステージ借りるぞ」
「ん?なんだい?
何か用でもあるのかい?」
「…まぁ、勲章を賭けた勝負があるんでな」
「!アンタ…まさか…【神童】の称号を賭けたってのかい!?」
「ほっとけ…。
あろうが無かろうが、俺にとっては要らない肩書きに変わりない」
「はぁ〜…その勲章1つでいくら稼げると思ってんだか…」
「2年間活動し続けて、ざっと数千万だろうな。
俺は金を稼ぐ道具としてこの歌声を使うつもりはない」
「知ってるさ。
で、バンドメンバーはどうするんだい?」
「…技術が足りるなら、この子たちをバンドメンバーにする」
「はっはっは。
面白いことを言うね。
ま、この店も好きに使いな。
明後日まではこの店の権限はこっちにあるからねぇ」
「そうか。
……それと、一応アイツらを呼んでくれ。
この子たちじゃ多分…」
「りょーかいりょーかい」
「助かる」
短く返し、地下へと降りていった。
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「ねぇ…紗夜」
リサが隣にいる紗夜に声をかける。
「……言いたいことはわかります…」
「さっき勲章について凄いこと言ってなかった…?」
「言ってましたね…。
なんというか…それを賭けさせてしまった申し訳なさと相変わらず如月さんらしい行動で安心している自分が居ます…」
すると真っ直ぐ進んで、地下ステージへと辿り着くと陽菜が
「じゃあ、演奏を組みたい奴は用意してステージに上がってくれ」
そう言って1人ステージ中心にあるマイクへと向かっていった。
少しして準備が終わり、いざステージに立つ。
そう。
ここまではみんないつもの緊張感が漂っていた。
しかし
「じゃあ、あこ。
カウント頼んだ」
それは…
「うんっ!
それじゃあ、3、2、1…」
陽菜が歌い始めた瞬間から焦りや不安が付け加えられた。
『っ!!?』
(っ…!
なんて声域の広さなの!?
前に見た如月さんとは別人みたいじゃない…!)
(何これ追いつけない!
陽菜くんの声の高さに合わせるのが難し過ぎる…!)
(次に弾く鍵盤の位置を体が自然に覚えてても……一瞬でも気を抜くと……陽菜さんの歌声で……その記憶ごと引っ張られそう……)
(焦っては駄目とわかっているのに、私の技術が陽菜よりも圧倒的に不足して焦りが生じてしまう…)
(集中集中!
じゃないと陽兄ぃに置いてかれちゃう!)
そうして演奏は数分で終わりを迎えた。
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演奏の結果は言うまでも無かった。
圧倒的な技術不足。
かろうじて、日菜と紗夜、燐子とあこはミスはしなかったものの、それぞれ体を痛めている。
それ以前に少しでも萎縮してしまうと陽菜の歌声には誰もついていけない。
(…陽菜に全然届かなかった…。
前にセッションした時よりも、陽菜の歌声凄い響いてきた…)
リサがそう思うとほぼ同時に陽菜は思い詰めた顔をしていたが、何か考えた後でため息を吐き
「んー…仕方ない…か。
やっぱりアイツらじゃないと…」
などと呟く。
すると陽菜は体力をごっそりと削られた全員に対して優しい言葉で労った。
「お疲れ様。
本当によく頑張った。
でも、今はそこで見といてくれ」
きっぱりとでは無いが、バンドを組むのは断られた。
『……』
「本当…心が折られそうなくらい辛いわね」
千聖がポツリと呟く。
「うん…。
全然話にもならなかったね…」
それに花音が反応して返す。
充満する劣等感。
「あーあ…。
陽菜くん凄かったなぁ…。
あたし、途中までは楽しかったけどすっごい疲れちゃった♪
おねーちゃんはどう?」
「…私も…少し疲れたわ」
冷静に返してはいる。
しかし、本心ではかなり悔しかった。
今まで積み上げてきた技術が、陽菜にはほとんど通用しなかったのだから…。
すると日菜が
「でも陽菜くんどうするの?
1人じゃ勝てないんでしょ?」
さっきから考え事をしている陽菜に問いかけた。
「まぁ…そうだな。
一応、妙案は浮かんでるんだが…」
「それってどんなの?」
「…いや、やっぱりやめとく。
非現実的過ぎる。
アイツらが手を貸してくれるとは思えないしな」
「?」
「とりあえず、今日はこれで解散。
悪いな。
ライブ終わりに付き合わせて」
そう言って陽菜は一足先に会場から出る。
しばらくすると友希那がすくっと立ち上がった。
「友希那。
今から帰るの?」
リサが問う。
「…ええ。
如月にも解散と言われたでしょう?
それに、技術が圧倒的に不足しているのだから、私たちは何も力になれない」
「っ…!
ま、待って!
それじゃあアタシも一緒に帰るから」
「そう」
そうして友希那とリサが最初に出て行き、みんなも後を追うようにして出て行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あー!もうめんどいなぁ!
バンドを再結成したいんやったら、ちゃっちゃと言わんかい!」
受付前まで付くと何やら話し合っている声が聞こえてきた。
(この声…どこかで聞いたような…)
そう思い顔を出すとそこには陽菜と、その元バンドメンバー達が居た。
「悪いけど、バンドを再結成するのは合意しないな。
一度は解散したんだ。
それを立て直すなんて都合が良過ぎるだろう?陽菜」
「ああ。
ライカの言う通りだカイト。
俺は再結成を望んでる訳じゃない。
3日後のライブで一回限り力を貸してほしい」
「…今から経った2日で今のあの人たちを超えるのは無理だ」
「アカギ。
そうやってやる前に決めつけるのがお前の悪い所だ。
それに、一度は勝った相手だ」
「確かに3票差で勝ったね。
でも、ライカの絶対音感だって才能じゃない。
無才の僕ら4人が集まった所で、鬼才の陽菜に届くと思うの?」
「萎縮するなシュウ。
たった一度だけで良い。
もう一度俺のバンドメンバーとなって、ライブをしてくれ。
頼む」
頭を深く下げる陽菜。
すると
「はぁ……しゃーないなぁ。
お前が頭下げるとこなんて俺初めて見たわ」
「あの日から、俺たちがお前にどれだけ追い付いたのか。
3日後にそれを証明してやるよ」
「ただ、陽菜はどうしてそこまでする?
ただその勲章を守りたい訳じゃないんだろ?」
「……確かに、それは気になる」
4人が同意してくれただけで良かったのだが、まさか理由まで追求されるとは思っていなかった。
とはいえ、話さない訳にもいかない。
「相手が賭けたのはCiRCLEの所有権だ。
この場所は、アイツらにとっても大事な場所だ。
でも、技術が足りなくて負けた。
だから
もう2度とアイツらとの約束を違えたくはない」
「「!!」」
影で聞いていた友希那とリサ。
するとライカと目が合い、呆気にとられたように驚いていた。
しかし、ライカはすぐに怪しい笑みを浮かべた。
「そういえば陽菜。
さっき地下の方から演奏が聞こえたけど、そのアイツらって人たちとセッションしてたの?」
「?そうだな。
それがどうした?」
「いや?
その子たちとセッションしてみてどうだった?
特に、銀髪のボーカリストと赤いベーシストは」
「「えっ!?」」
驚いたがなんとか声を抑える2人。
不安になりながらも耳を傾けると
「そうだな…。
友希那は相変わらずすごい声量だった。
高音は俺に追いつかなくても、あの子は俺を超えてくれる希望の1つだ」
「なるほどなるほど。
それで赤いベーシストの子は?」
「リサは本当に優しい子でな。
なんというか…他人を喜ばせるのが好きで、思いやりも人一倍以上にある。
性分がそのまま音に出てるから、かなり優しい音なんだ。
それに…」
「それに?」
「俺の歌声を最大限に引き出すことは出来ないけど、リサとセッションしたら心がすごい安らぐ」
さっきの演奏では良い声と音が出せなかった。
だから、あまり良い評価は期待してなかったのだが、陽菜はいつものように褒めてくれた。
それが嬉しくてうずうずしているリサ。
その隣で嬉しいのは嬉しいのだ。
しかし、同時にそれ以上の情けなさと申し訳なさを感じる友希那。
するとライカがこちらを指差した。
「まぁ、その2人そこで盗み聞きしてるんだけどね」
「えっ?」「「あっ」」
陽菜と目が合った。
「お前謀ったな!?」
「気にすんなよこれくらい」
「お前本当にその性格は…」
なんてことを言い合っていると友希那が
「如月……」
「ん?」
「私は…あなたに追いつけるかしら?」
不安の詰まった問いを投げる。
しかし、陽菜は平然とした顔で言った。
「ああ。
友希那は、必ず俺を超えられる」
「……そう…」
友希那はそう言うと店の出口から帰って行った。
それを何か読み取るようにして見送る陽菜。
「…それじゃあ、これから俺たちは練習する。
だからリサたちは早く帰れ」
「?」
「いや、あんまり練習を見られたくないってだけだ」
「…わかったっ♪
じゃあ、本番楽しみにしてるねっ☆」
そうして明るい笑顔を見せてリサは友希那を追った。
「よっしゃ、ほな本気でやったんで!」
「静かにしろ。
店に迷惑だ」
「どこでやるの?」
「Aスタジオ」
「相変わらずうるせぇなコイツら…」
怠そうにしながらも2日間即興オリジナル曲を練習した。
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そして当日
楽屋を出ると
目の前には宿敵である1人のバンドマンである鬼龍と出会した。
「よくメンバーを集められたな。
それもあの日と全く同じメンバーとは…。
ある意味流石だな」
皮肉じみたことを言われても対して気にはしなかった。
「そりゃどうも。
でも、あの日から成長したのはアンタらだけじゃない」
「1つ、先輩として教えてやる。
オレたちが世界最高峰のバンドと呼ばれる所以はな。
音楽業界がオレたちを世界トップだと認めたからだ。
挫折なんてする輩にオレのバンドが負ける訳がない」
「なら、俺も後輩として教えておきます。
挫折しない人ってのは、すぐ天井に行き着くもんなんですよ」
「そしてどちらが正しいのかも、今日この夜のライブでわかる」
鬼龍がそう言う。
張り詰めた空気が漂う。
すると、翔栄が呼びに来て鬼龍はステージ裏へと向かって行った。
「ふふ…。
楽しそうな会話ね」
「つまらない話さ。
未来を語るなら今を生きろ。
アイツはそれが出来ない。
だからこそ、オレたちに2度の敗北はありえない」
「ふふ…。
それはどうかな…」
「何?」
「ふふ。
なんでも…」
「なんだそれ。
とりあえず、勝ちに行くぞ」
そうしてまだ彩られていないステージへ。
玉座に座る5人の王はそれぞれの音源を手にして演奏を奏でた。
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客席に居ても果てしなく遠いと感じさせられる。
前にみんなで聞いた陽菜の歌声よりも、もっと鮮烈で鮮明に
辿り着くにはどうやっても遠過ぎる存在。
ただ才能のある者だけを集めた集団じゃない。
技術が計り知れない。
一体どれだけの時間を費やしたのだろうと改めて感じさせられる。
観客が目を惹いて最高潮に盛り上がる中、友希那は1人観客席から外れ、楽屋へと向かった。
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楽屋に着くと先客が居た。
「!…湊さん」
「紗夜?」
「どうしてここに…とは聞くまでも無いですね」
「もしかして…紗夜も心配になってきたのかしら?」
すると紗夜は難しい顔をしてから苦笑を浮かべて言った。
「まぁ…最初はそうだったんですが…。
「?」
紗夜の元へと近づくと楽屋の中から声が聞こえてきて、耳を当てると
「はっはー!!
どうしたんや陽菜!お?
腕相撲めっちゃ弱なってるやん!」
「くっそ!
相変わらず意味わからん所で馬鹿力だしよって!」
「おおー、本気の関西弁やんけ。
まぁ、そんな義手付けてたら敵わんわな!」
なんて賑やかな声が聞こえてくるのでしょう。
周りが止めてくれると少し信じていたのだが、それは呆気なく終わった。
「2人とも頑張れー」
「カイトお前指壊すなよ…。
今からライブなんだから」
「負けた方は奢り」
外野であろう3人組は止めるどころか、応援したりしてあまりに能天気過ぎる。
「……」
静かに耳を離して紗夜の方へと目線を送ったが、どうしようもないと言わんばかりに首を横に振られる。
すると
「なんでだよ!
それ俺が奢る未来見えてんじゃねぇか!」
陽菜の声。
「まぁ頑張れって。
これトーナメント戦なんだから」
シュウの声。
「いや初耳なんだけど。
そもそもお前らに奢ってやる金は無い」
「とか言って、金あるんでしょ?」
ライカがドス黒い笑顔で言う。
「あの子たちにはあるけどお前らの分け金はねぇよ。
9年間の退職金だがな」
「そうや!
このライブ勝ったら陽菜の金で飯食おうや!」
声を張って言うカイト。
「賛成」
「賛成」
「賛成」
「ガチクズ過ぎんだろ!
バンド名『ガチクズバンド』に改名する!?」
「それ陽菜も入ってるね」
「じゃあ駄目だわ。
とにかく、右腕を折ってでも勝ってや…」
その言葉が聞こえた瞬間、うっかり間に受けて後先考えずにノックをしてしまった。
『ん?』
「なんや、もう出番か?」
「いや、まだ鬼龍さんたち演奏中なんだが……。
もしかしたら俺かも知れん」
そんな会話が聞こえてドアノブを離す。
ほぼ同時に扉が開き、陽菜の胸下にぼふっと顔が当たり、その場で静止する。
「おおっ、友希那。
って、紗夜も。
2人揃ってどうしたこんな所で」
懐かしい香りがしたが、すぐに離れた。
「?鼻赤いぞ友希那」
「これは……今あなたにぶつかったからよ…」
鼻を手で覆って頬まで赤くなっているのを悟られる前に、目線を下に向けて逸らす。
「それは悪かった。
それで、ここに来るなんてどうした?」
「いえ…別に…」
「?」
言葉を段々と濁していく友希那だったが、紗夜が話してくれた。
「少し心配になって見に来たのですが…。
その必要は無かったようですね」
「ああ、そういうことか。
残念ながら、心配することなんて1つも無い」
「まぁ…今の会話を聞いてみた辺り、大丈夫そうですけど」
「そうか…。
じゃあ、2人に言っとく。
このライブ、最後まで見届けろ。
特に紗夜」
「!私…ですか?」
「ああ。
才能に勝る努力。
それを俺の仲間が証明してくれる。
だから、最後までちゃんと見ておけ」
手をぽんっと軽く頭に置く。
すると
「陽菜。
そろそろ時間だよ」
シュウが時間を知らせに来た。
「わかった」
そうして向かおうとした時、きゅっと服の袖を掴まれた。
「友希那?」
掴んでいたのは友希那だった。
そして手を離した友希那は
「ごめんなさい…」
ただ一言謝った。
友希那なりに思う所があったのだろう。
また相談に乗ってあげようと考えた後
「心配すんな。
行ってくる」
すぐに裏方へと向かい、ライブを待った。
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ステージ裏方
「はぁ……」
息を吐く。
久しぶりの高揚感を抑え切る。
そして
「……行くぞお前ら。
ここから先は俺たちの独壇場だ」
「「「「おう!」」」」
ステージに立つ4人の努力家とその中心となる1人の妙才。
マイクを持つと同時にキーボードの繊細な音が奏でられる。
そして…
『墜えてしまった夢を再び手にして今蘇る』
激しいドラマとギター、そしてベースの音が一気に鳴り響く。
『愚か者は自由を握り
手に持つ幻想も離さない
歌うことを許された日
最高峰の歌声は咲く
取り戻そうか
まだ高く飛べるはずだった翼を
証明しよう
あの涙が無駄ではなかったことを
この生まれ変わった姿見せて さぁ
蝶のようにどこまでも踊り舞って
輝きを放ち出す
今歌え 鼓動を膨張させよ
奇跡に頼ることはなく
星座が欠けることはなく
大胆不敵にも風向きを変えていく
運命を決める勝負
神々にだって負ける気はない
無限に広がる
不羈なる諸刃が打つ創曲
かの約束された歌唱は
醜い翼を魅せていった
玉座を超えて行く【mechanical one wing】
己が朽ちるまで【With unrivaled wing】
Keep rising so No need faker anymore...,
I swear I well never forget!
儚き軌跡を繋ぐ
迸れ 天元の華を添えて
比類なき残響は散る
されど己の研ぎ澄まされた実力が
敗北する道理は無い
さながら背いた天を裂く愚者のように
「一切の手加減はもう無しだ」ここから先は
たった一対の勝負
如何なる者にも譲る気はない
全を賭していく星々よ
美しき羽根で辿り着いてみせて
少し先の居場所で待っているから
音の壁を超える唯一無二の幻翼よ
ここから見える天外の域へと飛翔せよ
今謳え 閉じられる檻の中で
奇跡なんて頼らせない
果てのなき才能の終止符を待つ
千の音に酔いしれて
翼が導く愛しき
絆が示す勝機
神々にだって譲る気はない
We Last Shout!!』
理想に嫌われた。
挫折を味わった。
これからも味わうかも知れない。
それでも、もう一度諦めずに頂点を拓き続ける愚かさ。
誰にも譲れない闘争力。
そして、目も届かない遥か先の頂点で待っているという追いかける者たちに対してのメッセージ。
陽菜は心の底から楽しんでいることを瞬時に理解した。
『World Throne』なんて比じゃない。
そこに居るのは紛れもない世界最高峰のバンドだ。
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ライブ終了後
投票が終わったと聞きつけ、すぐに向かう『SPバンド!』のメンバーたち。
しかし、そこには『World Throne』だけが居た。
そしていつの日か見た大柄でサングラスをかけた大男が言った。
「そんじゃま、集計結果発表しまっせぇ。
勝った方の全体を締める票割合は9割やったでぇ」
「!9割…!?」
「そんなに差が…」
ひまりとつぐみが驚いていると大男が
「中々ええ試合見せてもらったわ。
今日は誰も連れ去られてないし、ホンマええ日やわぁ。
そんじゃま、まどろっこしいのは嫌いじゃ。
結果だけ告げるでぇ」
そう言って背丈に似合わない小さなボックスを机の上に置いた後、結果を告げた。
「勝者は………」
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急いで楽屋へと向かう彩。
ライブの後、消耗し切っていた陽菜を心配していたからだ。
そして楽屋に着き扉を勢いよく開ける。
「陽菜くん!!」
が、そこに存在したのは、充満し切ったネガティブ空間と机や床にひれ伏す陽菜たち5人の姿だった。
「ど……ぅ……した……彩」
机にダウンしている陽菜。
「あ、あのね!勝ったよ!!」
「……な……にが…?」
「勝負!
さっきのライブ対決!
陽菜くんたちが勝ったんだよっ!
1862票で、陽菜くんたち勝ったんだよ!!」
「1862…?」
「そうっ!
すごいよ陽菜くん!!」
「2000票じゃなくて…?」
「えっ?うん…」
「……そうか。
なら、万々歳だな…。
これからもCiRCLEは健在だ…」
「うんっ!」
「俺は……ちょっと寝る……。
タイマーはセットしてあるから……先に帰ってて良いぞ……」
「ええっ!?わ、わかった!
あ、あとそれと…!」
「なんだ……?」
彩が周りに聞こえないように配慮して俺の耳に口を近づけて
「本当にありがとう陽菜くん」
そう囁いてから『バイバイ!』と笑顔で帰って行った。
「……どう……致しまして……」
眠りに落ちた。
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1人の少女がガランとした地下ステージを見据える。
(1862票…。
私たちの票を含めれば…ええと……3318票…かしら。
私たちと如月には、今それだけの差が開いているということ…。
如月が心の底から嬉しそうに歌って、仲間を信じ切って背中を預け、演奏していた。
私に…いつかあんなステージが創れるのかしら…)
そして迷いを抱えながら1人去って行った。
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それから数時間後
設定していたアラームが鳴り、急いで目を覚ます。
「ん……あ?」
目を覚まして時間を見ると20時38分となっていた。
「ふわぁ…」
背伸びをしてから荷物を持つ。
どうやらアイツらは先に帰ったようだ。
(どうせ帰るなら起こして欲しかったんだが…)
そう思いながら、地下ライブハウスを出て寝る前の記憶を引き出していく。
「ええと…確か……」
(あぁ…そういえば、勝ったんだったなライブ…)
完全に思い出すと同時に悔しさが込み上げてきた。
(1862票ってことは、138人は向こうの音楽に票を入れたってことだ…)
考えことをしながら歩く。
「はぁ……どうせなら2000票は行きたかった」
1人後悔と喜びの混ざり合った感情を抱えながら帰って行った。
TIK様 スマホスライム様
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