退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第6章 なんてラブコメだよ…
第1話 いやちょっと待て


翌日 4月1日 月曜日

 

スマホで時間を確認すると正午を回っていた。

一応、朝起きて薬を飲んだので、本日2度目の起床。

 

「はぁ…」

 

体の怠さを少しでも抜き取るように息を吐く。

すると一通の通知がバイブレーションと共に届いた。

 

「…リサ…?」

 

なぜ朝からリサのメールが来るのかわからなかったが、とりあえず開くと『今どこ?』という内容のメールが来る。

 

「?家」

 

と呟きながら返すとすぐに返信が来た。

 

『家に行ったけど陽菜居ないって言われたよ?』

 

「?あぁ…そういや…。

言い忘れてたな…」

 

目に刺さりそうな寝癖を退けて、なんと返そうか迷う。

実を言うと、前まで住んでいた家にはもう俺の荷物は無くなっている。

その荷物はどこに行ったのかって?

それは俺が今住んでいる新しい家にある。

5階建てマンションで、たまたま5階にある502号室が空いていたので住むことにした。

今では段ボールの山が1番小さい物置部屋を埋め尽くしている。

1LDKと一人暮らしするには大きく感じたが、少し奮発した。

ベランダはあるが、外で洗濯物を干す以外は、あんまり使わないだろう。

金?

退職金でカバーしてるから、少しだけ趣味やらに手を出しても数十年は暮らせる。

約9年間文字通り命を懸けて生きてきたんだから、これくらいの娯楽は許してくれと思う。

そして更に言うと、こうなったのも全て()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でもある。

まぁ今はそんな事はさて置き、返信である。

 

「んん…」

 

(この場所を知られたら…俺の家に毎回遊びに来る奴とか出てこないよな…?

…………ま、大丈夫だろ)

 

そんな軽い気持ちで大丈夫か?

気にもせず自分が居る場所をリサに送る。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その頃リサは…

 

「んぇっ!?」

 

思わず変な声が出た。

 

(ここって…マンション?

なんで…?)

 

そんな疑問がいくつか上がった。

 

(ううん。

今日は陽菜に話したいことがあるから、とりあえず行こうっ)

 

何か決意を固めて家へと向かって行くリサは

 

「……」

 

(陽菜…ちゃんとご飯食べてるのかなぁ…。

家に着いたら何か栄養のある料理作ってあげよっと♪)

 

どうやら別の楽しみも考えているようです。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

しばらくして……

 

「陽菜〜♪」

 

チャイムを鳴らしてから名前を呼ばれた。

リサであることは間違いないので、ドアスコープを覗かずに扉を開ける。

そこには懐かしい縦セーターの服を来た少し大人のお姉さんっぽいリサが居た。

随分とラフな格好をする。

危機感をもう少し待って欲しいとは思うが口には出さない。

 

「来ちゃった♪」

 

「元から来るつもりだったろ…」

 

「えへへっ♪」

 

ワザとらしいリサに呆れながらも中へと誘う。

するとリサはソワソワしながら部屋の中を見始めた。

 

「ここが靴箱で、ここがトイレでしょ。

それから…」

 

タッタッタッとリビングの方へと向かうリサ。

 

「あっ!キッチン!

まだ使ってない感じだけど…ご飯ちゃんと食べてる?」

 

さらりとキッチンを撫でるだけで俺が一度も使っていないことを見破るリサ。

 

「まぁ…腹は膨れてる」

 

「やっぱり…。

ご飯はちゃんと食べないと駄目だよ?」

 

「う……む…」

 

「冷蔵庫は何が入ってるの?」

 

「え?」

 

「アタシが何か作るから、そこで待ってて♪」

 

嬉しそうに言うリサ。

なんていうか…()()()()()()()()

 

(あんまり心配はかけたくないが…。

隠しごとはもうしないって決めたからな…)

 

「…まぁ、良いか。

こっちで話すぞリサ」

 

「こっち…って、陽菜の部屋?」

 

そう言うとリサはキッチン下の扉を閉じた。

 

「ああ。

てか、なんでキッチン漁ってんだ…」

 

「んー、陽菜が一人暮らしって心配だったし…。

ちゃんと料理器具あるのかなぁ…って」

 

「それについても説明するから、こっち来い」

 

玄関から、そのまま真っ直ぐの場所にキッチンとリビングが繋がった家の中で1番広い部屋。

その隣室には横開けの扉があり、そこが俺の部屋となっている。

そしてその中に入ってから座って話をすることにした。

 

「それで、話ってなんの話?」

 

「…俺が助かった理由はちゃんとある。

でも、食事と今の俺の体に出てる症状だけ話しておく」

 

「えっ?」

 

意味ありげな言葉に惑うリサ。

さて、俺が誰に助けられたのか。

そこは多分みんなが気になっているかと思う。

だから、時を少し遡って1週間ほど前…。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺は目を覚ますとまず知らない天井が見えた。

ボヤけた目が次に視認したのは、体に繋がれた点滴剤。

重度の風邪のような怠さを持つ体を動かそうとすると激痛が走る。

 

(痛い……何これ痛い……)

 

なんて思っていると左腕の感覚だけが無いことに気づく。

麻痺しているのかと思い、目線を映す。

 

「!」

 

はっきり言って初見は驚愕の一言に尽きた。

麻痺しているどうこうの話ではない。

左腕そのものが無かった。

肘から装着されているのは指すら動かせない義手。

 

(えっ……なんだこれ…。

左腕どこ行った…?)

 

錯乱しかけていた。

しかしそこへ、ガチャ…と扉の開く音が聞こえて黒服さん登場。

んで、目を覚ましてる俺に気がついて、何やら的確な指示を出している。

 

(あぁ…病院かここ…)

 

黒服来た看護師がどこにいる。

今ならそうツッコミを入れられる。

この時はまだ意識が混沌としていたから仕方ない。

そして、何やら意識が戻り始めてくると、点滴剤を1つだけ残したまま車椅子に座らされた。

 

「………」

 

(なんで?)

 

意味がわからないまま、何やら大きな屋敷の中にある廊下を車椅子を押されて駆け巡り、1つの部屋に辿り着いた。

 

「お連れしました」

 

そう言うと左右の扉が開き、部屋の中には1つの机と、その上に乗った薄いカーテン。

カーテン越しには誰かが居て、その手前には椅子に座っている1人の後ろ姿があった。

そして振り向いたその子が誰かと言うと

 

「み、美咲…!?」

 

「あ、お久しぶりです陽菜さん」

 

平然と悟ったような顔で手を小さく振る美咲。

 

「なんでここに…」

 

「なんかよくわかんないですけど、陽菜さんが目を覚ました途端、急にあたしも呼び出されちゃって」

 

「…ますます意味がわからんな…」

 

頭の整理が追い付かずに居ると

 

「まぁ…まぁ…落ち着きなさいそこの若い男」

 

カーテン越しに居た人影が話し出した。

声はそれ相応の年季を感じさせられる。

年は60代…?いや、70後半くらいであろう。

とりあえず俺は、言われた通り静かにする。

車椅子を黒服さんが美咲の隣まで押していく。

するとまたもカーテン越しで話しかけて来た。

 

「とりあえず…復活おめでとう如月くん」

 

「…どうも」

 

この時は相手にもわかるほど警戒心がかなりあった。

恩を感じているとはいえ、この老人の目的がはっきりしていないからだ。

そんな俺の心情を読み取ったのかすぐに老人は捕捉した。

 

「何もとって食おうとは誰もしとらんよ…。

ただ助けた見返りとして、お願いを聞いて欲しいんじゃよ」

 

「お願い…?」

 

「そう。

と言っても簡単なお願いじゃ」

 

「それは?」

 

「ワシの()()()()弦巻こころの婿になって欲しい…」

 

「「はぁ!!?」ゴホッゴホッ…!」

 

被ったが俺は途中で咳き込んだ。

むせた訳ではない。

単に体の怠さが抜け切っていないのだ。

 

「は、陽菜さん大丈夫なんですか?」

 

「だ…大丈夫…」

 

(このジイさん…。

こころの爺さんとか言ってたか…?

尚更わけわからんぞ…。

祖父に当たるってことか…?

いや、そんなことよりも…)

 

「婿…?

ええと…つまり、俺がこころの旦那になるってことですかね…?」

 

「そうじゃね…」

 

「……ふっ…」

 

少し吹き出してから頭を抱えた。

起き上がったから何か説明があると思いきやこれだ。

もう頭を使うのが面倒で、どうしていいかわからなくなってきた。

 

「美咲…。

結婚の断り方ってどうするんだっけ?」

 

「いやいや早いですって。

最後まで話を聞きましょう?

何か理由があるかも知れませんし」

 

「そうだな…」

 

(なんか、めんどくさいことになりそう…)

 

そう思いながらも老人の話を聞くことにした。

 

「まぁ…理由は特に無いんじゃが…」

 

「俺帰って良いかな」

 

「ここは我慢です…。

陽菜さん」

 

「まぁ…落ち着け若いの。

ワシの孫はそれはもう大変可愛くて可愛くて世界で一番可愛くての…」

 

「今ジイさん可愛いって3回も言ったぞ」

 

「大事なことなんですよ」

 

「だから、こころには婚約して欲しいと迫ってくる金と地位に飢えた獣どもが多くてなぁ…」

 

「まぁ、確かに男は獣だな」

 

「あれ?意外ですね。

てっきり陽菜さんは否定するのかと…」

 

「人は見かけに寄らないからな。

そこのジイさんが言ってる通り、俺含め、男の殆どは獣だ」

 

「なるほど」

 

するとジイさんがこちらの話題に乗って来た。

 

「そりゃそうじゃ。

ワシも若い頃はそこらの女を…」

 

「美咲、ちょっと失礼するぞ」

 

「わあっ!?」

 

嫌な予感がして両手で美咲の耳を塞いだ。

車椅子に座っているので、美咲を寄せる形になってしまったが致し方ない。

片方は義手なので塞げていることを願った。

 

「……それで○○を○○して、○○○○○○」

 

「おいこのジイさん伏せ字しかねぇじゃねぇか」

 

そして10秒くらいして

 

「おっと失敬失敬…。

話が脱線したわい…」

 

話が脱線したことに気づいたジイさん。

両手を離して横に寝かせる状態になっていた美咲を起こす。

 

「すまんかった」

 

赤くなっている美咲に謝る。

 

「いえ…気にしないでください…」

 

美咲が顔を伏せて手を翳すとジイさんが話を戻した。

 

「まぁ、とにかく婚約者等のことについて、ワシも悩んでたんじゃ…。

そしたらある日、久しぶりに会った孫が楽しそうに話すんじゃよ」

 

「これ俺か?」

 

「絶対そうですね、100%」

 

「『陽菜がー』『陽菜とー』と孫が楽しそうに話すんじゃよ。

気になってそやつの過去の経歴を漁ったら…」

 

「プライバシーを返せ」

 

「今更感ありますよ…それ」

 

「なんと、あの無駄に育った天皇の懐刀だったんじゃよ」

 

高揚がつくジイさんの話は、冷静な空気感に切り替わった。

 

「とはいえ…特殊機関の連中はあまり良いイメージが無い。

特殊機関とは、根っからの変人やサイコパス、人を殺すに長けた才を持つ者の集まる場所じゃ…。

そんな変人の巣窟に居るお主は、友人であるこころに自身の正体を隠していた…」

 

「……」

 

「その結果、今も孫は悲しんでいる。

言葉にも、表情にも出さない。

ただこころも人間であり、喜怒哀楽の感情はちゃんとある。

孫を悲しませるような男を婿には迎えたくない」

 

「…」

 

「じゃがしかし、ワシは人の過去を気にするような人間ではない。

こころが良いと言うのなら、ワシは互いの意見を尊重した上で結婚させようと思う…。

そこで、君がワシの孫を絶対に悲しませないと誓うのなら、ワシは安心して先立てる」

 

「は?」「えっ?」

 

聞き間違えだと思い、もう一度尋ねた。

 

「ええと…先立つってのはどういう…」

 

「寿命じゃ寿命…。

来月にはワシ、この世から居なくなるそうじゃ…。

だから、最期くらい孫のウエディングドレスを見てから死にたい…」

 

ここで1つよく考えてみて欲しい。

こころが孫ということは、このジイさんには娘や息子が居るわけだ。

もし娘の方だとするなら、ウエディングドレスを見ているはず…と思いたい。

 

「ちょっと待ってくれ…。

アンタは息子と娘のどっちが居るんだ?」

 

「娘じゃ」

 

「結婚式は?」

 

「挙げた」

 

「2分の1の確率で、ウエディングドレスは見れてる筈だろ…」

 

「そうじゃな。

娘のウエディングドレスはもう見た」

 

「だったらそれで…」

 

「良い訳ないじゃろ!」

 

「なんでだよ!」

 

「娘と孫の可愛さの違いもわからんのか貴様!!」

 

「いや知るかよ!!」

 

「孫は孫で見たいというワシの気持ちがわからんのか!」

 

「俺がそれを理解したら結婚式挙げることになるだろ!」

 

「あのー、お2人とも落ち着いてください…」

 

美咲に一言添えられ、つい感情的になってしまった自分を両者抑える。

 

「つまり、死ぬまでにこころのウエディングドレス姿を一度で良いから見たい…ということであってますか?」

 

「そうじゃ…」

 

カーテン越しでシュン…としたジイさん。

 

「じゃあ、肝心の陽菜さんはどうするんですか?」

 

「……俺が居ないと安心して逝けないんだろ…?」

 

「そうですね」

 

「………まぁ…最期の我儘くらい聞いてやるか…。

確か、結婚式を体験出来るサイトが…」

 

するとまたもや

 

「待つんじゃ若いの」

 

「「?」」

 

「ワシは本物の結婚式が見たいんじゃ。

体験などで孫のウエディングドレス姿を満喫出来る訳無かろうて」

 

「えっ…と…。

それはつまり……本当に結婚しろと?」

 

「じゃからそう言っておるだろう…」

 

「「……」」

 

困る2人。

確かに先程からそう言ってた。

しかし、まさか結婚式の体験版を禁止にされるとは思ってもいなかった。

 

「…どうする美咲。

このままじゃ本気で結婚することになる」

 

小声で聞く。

 

「んー…もう諦めて結婚式挙げますか?」

 

引きつりながらもにっこりと返された。

 

「いや俺には今……。

じゃない。

とりあえず諦める方向は無し。

なんか別の案を…」

 

「とは言われても…そう良い案は…」

 

唸って考えていると思わぬ助け舟が出た。

 

「そうじゃな…。

無理にとは言わん…。

嫌なら断ってくれても構わないんじゃが…」

 

「あ、じゃあ…」

 

「ただし、それには条件付きじゃ」

 

「条件?」

 

(嫌な予感しかしねぇ…)

 

(すごい嫌な予感…)

 

同時に負の兆しを感じ取る。

 

「そこの若いの」

 

カーテン越しじゃ相手の目線を読めない。

しかし、おそらく『若いの』とは俺のことだろう。

『はい』と返事してから返ってきた言葉は

 

「お主が他の女友達から『好き』と15回言われれば、その時はワシも潔く諦めよう」

 

「いやちょっと待て…。

それはアレだよな?

同じ人に15回でも良いんだよな?」

 

「もちろん」

 

ほっ…(心の安堵)

 

「15人それぞれ別の女に決まっとるじゃろうて」

 

パリーン(心の崩壊)

 

「ええと…陽菜さん。

…ご結婚おめでとうございます」

 

「頼むから祝わないでくれ…」

 

そして一旦頭を冷やす。

病み上がりでこの話は精神的にキツい。

せっかく出来た心の余裕が無くなる。

 

「それとじゃな。

もし、こころに好きと言われれば結婚しなさい」

 

「さっき互いの意見を尊重とか言ってませんでした?

俺の意見どこ?迷子?」

 

「まぁ落ち着くんじゃ…。

その前に一度でも『好き』と言われれば、そこの黒服たちに逐一報告せよ」

 

「えぇ…」

 

「それじゃあ…ワシはそろそろ自室に戻るとするか…。

黒服」

 

よろよろと立ち上がる老人に黒服さんが杖を渡す。

そのまま黒服さんに体の左半分を支えられ、カーテンの向こうにある扉から部屋を出て行こうとした時

 

「あぁ…それとじゃ。

()()()はちゃんとあるぞい」

 

意味深なことを告げる。

そしてバタンと閉まる扉は物静かさだけを残した。

すると美咲が先に口を開いた。

 

「どうするんですか?」

 

「……とりあえず、あのジイさんの願いは悪いが叶えられん」

 

「まぁ…普通に考えれば常識的じゃないですからね…」

 

「それもあるんだが…」

 

「?」

 

「もしこころが俺と結婚式を挙げるとしよう。

そして、それを見たジイさんは未練なく生涯を終える」

 

「そうですね」

 

「でも、そこに肝心なこころの意思が無い。

好きでもない男と結婚式を挙げる。

そんなの嫁が本当に幸せだと思うか?」

 

問いかけると美咲は少し考えた後

 

「や、そこは陽菜さんがこころを幸せにすれば問題無いと思いますよ」

 

手を横に振って言われた。

 

「待て待て。

万が一こころが俺の事嫌ってたらどうすんだよ」

 

「そんな可能性無いですから。

こころですよ?」

 

「絶対に無いと言い切れない可能性が万が一の可能性って奴だぞ」

 

「絶対にありませんから安心してください」

 

「……そうか」

 

「それで、方法はありますか?」

 

そう言われて少し落ち着いてから考え始める。

 

(確かに…この状況は色々とまずい…。

助かったのは良いが、あの子たちになんて説明しよう…。

死者蘇生で生き返りましたー…とか下手な事ほざくのは論外。

面白そうだけど怒られるのは嫌だ。

とりあえず…俺が今すべき事は…)

 

「こころの件は、あのジイさんあんまり深くは考えてなかった。

いや、どちらかというと考えた上で、俺にこんな選択肢を迫ってるんだろうな…」

 

「というと?」

 

「話し方が策士だ。

まず結婚の話をするだろ?」

 

「はい」

 

「んで、その後にさっきの課題を出す。

そうしたら普通はどう考える?」

 

「それはまぁ、女友達に告白される…ですか?」

 

「そう。

でも、この課題にはジイさんが言ってた通り抜け道がある」

 

「抜け道?」

 

「課題クリアの条件は『女友達に好き』と言われる事。

でもそれは、告白に限らなくていい」

 

「…あっ、そっか。

好きと言われたら良いだけだから、友達として好きと言われても問題ないって事ですね」

 

「そういうこと」

 

すると美咲は少し考えてから何か疑問を浮かべた。

 

「あっ、それじゃあ…。

あたしが呼ばれた理由って結局なんだったんでしょうね?」

 

「?確かにな」

 

言われてみればそうだな。

とか思っていると俺たちの背後にあった扉が開き、黒服の1人が入ってきた。

 

「それは私の口から説明させていただきます」

 

「あっ、どうも」

 

「まず、奥沢様が呼ばれた理由ですが。

それは如月様の助手としてです」

 

「助手…ですか?」

 

「はい。

如月様の体内には、まだドラッグによる腐敗が進みかけている状態です」

 

「えっ…!?」「……」

 

「精神面もあまりよくありません」

 

「「ん?」」

 

「ですので、出来る限り相談相手として如月様の手助けをしていただきます」

 

「あ、決定事項なんですね」

 

「はい。

それと、この話を友人の方々にして貰っても構いません。

しかし、そうなった場合その話を知った友人は課題の対象外となりますのでご注意ください」

 

そう言って黒服さんは頭を深く下げて出て行った。

今の話を聞く限り、俺がこの話で相談できるのは美咲だけということになる。

話すとしても『好き』と言われた後か、俺が押し負けた時だけ。

まぁ、相談相手が居るだけマシなんだけど…。

美咲からしたら、ただの傍迷惑というモノだろう。

 

「はぁ……悪い美咲。

めんどくさいことになった…」

 

謝ると美咲は少し考えてから

 

「……まぁ、仕方ないですよ。

なんたって、相手がミッシェルにジェット機搭載するような弦巻家ですからね…。

あ、後…こころ達にはどう説明しますか?」

 

若干の申し訳なさを残しながら切り替えられた話題を思考する。

 

(説明…説明か…)

 

「ここって電話使えるのか?」

 

「使え……ませんね…。

圏外です」

 

スマホを取り出した美咲が画面を見せる。

壁紙がハロハピのライブ写真という所には、それだけ美咲がハロハピのことが好きだということなのだろう。

とはいえ、そこには触れずに話を進めた。

 

「……だったら、とりあえず今は黙っておいてくれ。

みんなには悪いけど、また説明する機会があるだろうしな」

 

「わかりました。

それじゃあま、私はこれで帰りますね。

何かあったら連絡してください」

 

「ああ。

……あ、すまん美咲。

一つ聞いて良いか?」

 

「?なんですか?」

 

「俺が死んでから……」

 

俺が死んだ後の話を聞こうか迷った。

けれど、その質問をする原因となったのは、相手の気持ちを考えてるつもりでいた俺自身だ。

今の俺に『みんなが今どうしているのか』なんて聞く権利は無い。

想像できるのにそれを自意識過剰と思って想像するのをやめてしまう。

 

「あー、やっぱなんでもない」

 

なので、俺はそこで話を切り上げた。

 

「?それじゃ、また後日」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺は話を終えた。

もちろん、美咲が俺の生存を最初から知ってたことや、ジイさんの課題の件はほとんど省いて話した。

話した所は黒服さんとの会話だけだ。

そして、ベッドの横にある引き出しから、1つの袋を取り出した。

そして話を聞いて暗くなるリサに

 

「これが今の話に出て来た俺の1ヶ月分の食料だ」

 

薬を黒いミニテーブルの上に乗せて見せた。

赤と青と黄の3色が混じったカプセル型の医療薬。

 

「!……これが…?」

 

「ああ。

これはその進行を止めることが出来る医療薬だ。

でも、これを飲む時は必ず温水で飲むこと。

それから一切の食事が医者から禁止されてんだ」

 

「!」

 

「薬の成分が変わってドラッグの進行を促進させるかも知れない。

だから、とりあえず1ヶ月はこの薬だけだ。

リサの手料理も、また今度な」

 

「っ…陽菜は…大丈夫なの?」

 

今にも泣きそうな少し震えた声で聞かれる。

俯いたリサにこれ以上説明してしまえば泣かせてしまう。

リサを泣かせたくない。

そう思い、オブラートに包んで話すことにした。

 

「とはいえ、この薬凄くてな。

空腹を感じさせない効果も含んでる上に必要な栄養価が結構詰まってるから、はっきり言ってこれだけで…」

 

「っ…!」

 

言い切る前に俺より一回り小さい体が飛び込んできた。

どうやらオブラートに包んでも、中身が尖り過ぎていたようだ。

 

「ごめん…!」

 

「なんで謝る…」

 

上手くやれなかった自分の不甲斐なさに呆れながら聞くとリサは震えた手で俺の服を握る。

 

「今までずっと一緒に居たのに、気付いてあげられなくて…ごめん…!」

 

「……」

 

「もっと早くに気づいてたら、陽菜の左腕が無くなることも無かったかも知れないのに…!」

 

「どの道、俺はリサたちに話すなんてことは絶対にしなかった。

これは変わらなかった結果だ。

それに…もう良いんだよリサ」

 

「えっ?」

 

「過程がどうであれ、結果は全員助かった。

その事実だけで良い。

それに、この薬飲んでるだけでドラッグの症状は治るんだから安いもんだろ」

 

「でも…左腕は…」

 

「大丈夫。

服着る時と風呂入る時以外は、あんまり苦労しない。

それに…」

 

「?」

 

不安な顔をして不思議そうに下から見てくるリサ。

 

「この左腕の犠牲は、友希那を助ける為には必ず必要だった。

だから、リサはこれからも友希那の隣に居て、いつか俺たちを超えるバンドに成長してくれ。

約束出来るか?」

 

「それ…陽菜も何か約束守ってくれるの…?」

 

不安になるのも仕方がない。

約束らしいことを交わしては、今まで散々破って来たのだから…。

ただ今回の件で俺もいくつか学んだ。

あの時、友希那が言ってくれた言葉は、きっとこれからも俺が持つべき()()()()()として生き続ける。

 

「そんなに心配なら、ここで誓うか」

 

「えっ…?」

 

「俺はもう2度とリサたちとの約束を違えないし、交わした約束は必ず守る」

 

「嘘じゃない…?」

 

「ああ。

まぁ…今は信じられないと思うけど、これから信じてくれたら良い。

どんなに小さい約束でも必ず守る」

 

「ホント…?」

 

「ああ」

 

「わかった…。

それじゃあ、アタシが相談したい時に乗ってくれる?」

 

「ああ」

 

「一度許可した約束は()()()守る?」

 

「ああ」

 

「陽菜が辛い時はアタシを頼ってくれる?」

 

「ああ」

 

「陽菜の家にしばらく泊まっても良い?」

 

「ああ。

 

 

 

 

 

 

 

…………いやちょっと待て」

 

俺はとんでもない返事ミスをしてしまった。




daisuke0927様 ルナセリア様
つばきんぐ様 mkh55様

お気に入りありがとうございます。

ちょっと諸事情で投稿が遅れました。


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