退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第3話 温もり

「よし!ボスがBパターンに入った!攻撃を開始する!!タンク隊下がれ!D隊前進!!」

 

ディアベルの指揮は予想以上だった。

そして、みんな強くて、連携もとれている。

だが…その中の誰よりも、1人群を抜いて強い者がいた。

キリトだ。

どうやら、『演奏スキル』もみんなの役に立っていた。

攻撃力アップと防御力アップ、SP回復継続がついている。

そしてしばらく経ち……

 

「おおっ!!」

 

そんな声が聞こえ、ボスを見るとHPバーが1本になり、黄色になっていた。

 

「よし!斧を手離した、あと一息だ!!」

 

護衛はいらなかったな……

そう思ってボスが取り出した武器を見ると

 

「なっ!?」

 

驚くと共に他の攻略組も

 

「なんだあれ!?情報と違うぞ!!」

 

「な、なんで片手剣なんか持ってるんだ……」

 

すると

 

「うわぁ!!!?」

 

「な、なんでまた取り巻きがポップしてんだよぉ!!」

 

「い、嫌だ!し、死にたくない!!」

 

そう言って逃げようとしていた。

すると

 

「みんな落ち着け!!!」

 

『っ!!』

 

「ボスはオレがなんとかする!

みんなはセンチネルを今まで通りに対処してくれ!!」

 

「お、おう!!」

 

「ディアベルさんが言うなら…!」

 

「そ、そうだな、あの人がそう言うなら!」

 

すると怯えていながらも全員が即座に目の前のことに対応していった。

だが…

 

「……おかしい」

 

ディアベルはこういう時、撤退させるはずだ。

なのに、どうして1人で、いくらHPが少ないとは言え……

すると演奏が鳴り止んだ。

 

「っ!!」

 

「ご、ごめん陽菜『演奏スキル』きれちゃったみたい」

 

「……そうか、でも後30秒ほどは効果が残ってるはずだ。

みんなはSP回復ポーションを飲んでくれ」

 

そして、次に前を見た瞬間

 

「C隊下がれ!!」

 

しかし、C隊はディアベルのそれに反応出来ず、ボスの重い一撃をくらってしまった。

そしてC隊は全員スタンになった。

 

「悪い!!みんなはここで待っててくれ!!」

 

「は、陽菜っ!?」

 

そう言い残してボスの追撃が来る前に剣を抜きボスの所へ向かった。

そして剣を青白く発光させ、ボスを狙って『レイジスパイク』を放とうとした。

すると

 

「ダメだっ!!陽菜、スキルモーションを起こすな!!」

 

「っ!」

 

ボスの剣が頭に当たる前にギリギリの所でスキルをキャンセルし、避けた。

危なかった。にしてもさっきの声……

そんな事を考えている暇はなかった。

すぐさまボスは剣を振り下ろし、俺は剣で下に受け流した。

そしてその剣をソードスキルで弾いた。

すると後ろから

 

「スイッチ!!」

 

そう言ったのはディアベルだった。

そしてディアベルは剣を黄色に眩く発光させながら、ボスの腹を穿つ。

はずだった。

ボスは、かく乱させるように上に飛び交った。

そして、空中からの攻撃でディアベルは吹っ飛び切り裂かれ武器を手離した。

 

「グァァァァァァァ!!?」

 

そして、ボスは回り込んで更に空中でもう一撃入れ、ディアベルは俺の後ろに飛んでいった。

それを見て俺はすぐに命令を出した。

 

「タンク隊!!HPがグリーンの奴はこいつの攻撃をしばらく防御してくれ!!無理に向かい打つなよ!!」

 

「わかった!!」

 

そう言ってこちらに来たのはエギルと呼ばれていた男だった。

 

「頼んだ!」

 

そして、ディアベルの所へ走り回復ポーションをポーチから出して飲ませようとした。

すると

 

「っ!」

 

飲ませようとした手を止められた。

 

「いいんだ……これは、馬鹿な事をしようとした俺への報いなんだ……」

 

「報い…?」

 

「ああ、俺は……ボスのラストアタックボーナスが欲しいために……味方のスイッチを使った……その報いだよ。

……あとは……頼んだ」

 

ディアベルのHPバーはもうゼロに等しかった。

しかしその言葉を聞いて

 

「…知るか」

 

無理矢理回復ポーションを口に入れ、それでもHPは残り3割ほど回復したがすぐに減っていった。

だから、2個目の回復ポーションも口に突っ込んだ。

するとHPバーの減りが残り1割で止まった。

 

「いいか、お前が有終の身をここで飾ろうと俺にとってはどうでもいい。

でも、あの子達の目の前で人を死なすわけにはいかないんだ

…それにお前は本物の実力者だ、この失敗を次に生かせばいい」

 

「……そう、か…そうだな…でもまだ、こんな所で死ねない」

 

「わかったら、さっさと回復して指揮を立て直せ、アイツらはお前がいないとバラバラになるから。

…わかったな『元ベータテスター』」

 

「っ!…わかった、ありがとう。

……1つ聞かせてほしいんだけどいいか?」

 

「ダメだ、さっさと行け。

犠牲は無しなんだろ…?」

 

「ははは、そうだね。

行ってくるよ」

 

そう言ってディアベルは自分のすべき事に戻った。

 

「……俺も戻るか」

 

そして、急いで護衛に戻った。

 

「みんな『演奏スキル』は何秒後にできる?」

 

「おそらく後2分ほどかと……」

 

「そうか……」

 

どうしようか『演奏スキル』はそれなりに影響力もあるから、再発動に時間がかかるんだろう。

するとすぐ後ろから

 

「ま、また武器を持ち替えたぞー!!!」

 

そして振り返りボスの武器を見てみると

 

「弓っ!?」

 

しかも、それは持ち替えたのではなく、片手剣と弓を両方を装備していた。

ボスは周りを片手剣で振り払った後、弓を持ち、片手剣を引いてこちらに向けて放った。

何あれどうやって片手剣放ったの?

そんな考えを持っているとボスはどうやら、今頃『演奏スキル』の存在が邪魔になると気づいたようだ。

おそらく再発動する前に倒すつもりで放ったのであろう。

 

「危ないっ!!」

 

ディアベルがそう叫んだ次の瞬間

ギャリィィィィィィィン!!!

 

『っ!!』

 

「お……っと」

 

甲高い音とともに、飛んできた片手剣をソードスキル『ホリゾンタル』で軌道を横にそらし、片手剣が地面に突き刺さった。

するとそれに反応してか、ボスは矢を2本放ってきた。

そして、硬直時間がギリギリで切れ、ソードスキル『バーチカルアーク』を矢尻に向けて放ち、撃ち落とした。

これなら……

そう思い

 

「ディアベル!矢は矢尻をソードスキルで狙ったら落ちる!」

 

「わかった!タンク隊は矢を弾きながら前進!」

 

『おうっ!』

 

もうそろそろ時間が来るはず……

 

「友希那達は『演奏スキル』を!」

 

「ちょうど今終わったわ」

 

友希那がそう言ってから全員が『演奏スキル』を発動させると、みんなの前にガラスで作られたような、それぞれの楽器が揃い、それぞれ色んな色をまとっていた。

そして、俺達と、センチネルを相手してたキリトと女性プレイヤー以外、奥の場所で全員がボスに近づいていた。

 

「……これなら大丈夫だな」

 

そう呟くとボスはHPバーが赤色になり、雄叫びをあげた。

すると周りにいたプレイヤーをひるまして、こちらに飛んできた。

 

「なっ!?」

 

だが、飛んできたボスの狙いはこちらではなく、先程、弓で放った片手剣だった。

ボスは着地するとともに、その片手剣を握りしめ、『演奏スキル』を発動中の友希那に向かって青黒い色に発光させた。

そして、振り払われる片手剣をジャンプしてから発動させたソードスキル『ホリゾンタル』で斬りあげ、なんとか反応出来た。

すると横から猛スピードでボスの横腹を突いて吹っ飛ばした2人がいた。

 

「……キリト」

 

「久しぶりだな、陽菜。

まさか空中でソードスキルを使うとは思わなかったよ。

…それと話は後だ」

 

「…わかった、手順はセンチネルと一緒でいいな」

 

「ああ、来るぞ!」

 

そして俺とキリトと女性プレイヤーは構えた。

するとボスは片手剣を大きく振りかぶり真紅に発光させた。

 

「陽菜!!」

 

「ああ!!」

 

俺とキリトは剣を青白く発光させた。

2人でボスのソードスキルを合わせて弾き、女性プレイヤーが細剣を薄緑に発光させボスの腹に何発か入れると、ボスが一撃縦に振り下ろしたが、女性プレイヤーのフードをちぎっただけで済んだ。

そして、その一瞬を

 

「「っ!!」」

 

硬直時間が解けて最後のソードスキルを発動させた。

2人の一撃目はバツ印に斬り、軸足を回転させてそのまま両腕を斬り落とした。

ボスは声にならないほどの雄叫びを上げ、光を放ち弾けて、結晶のかけらとなった。

するとボス部屋の明かりが消え、空中に白い文字が浮かんだ。

 

「Congratulations…」

 

そしてモンスターを倒した時にでる報酬ウィンドウが表示されると

 

『よっしゃああああアアア!!!勝ったァーッ!!!!』

 

みんなが有り余った体力を全力で使い喜んでいた。

すると

 

「お疲れ様」

 

「…キリトか、お疲れ様。

死人は出てないよな?」

 

「ああ、出てないよ。

それよりも、さっきの報酬見てくれ」

 

「報酬?」

 

なぜそう言うのか気になり、ウィンドウを開き、アイテム欄を見てみるとその中に以前まで入っていなかった物があった。

 

「これは……コート?」

 

「やっぱり、そっちにも落ちてたか…それがフロアボスやフィールドボスから出る。

ラストアタックボーナスだ」

 

「へぇ……これが…でもなんでこっちにも?その言い方だとキリトも出たんだろ?」

 

「多分、俺と陽菜の最後の攻撃判定が一緒だったんだろう。

だから、こうやって2つのラストアタックボーナスがあるんだ」

 

そういうとキリトはウィンドウを操作してコートを羽織った。

 

「なるほどな……そう言うことか。

まぁ、終わった事だし、キリトは先に上の階層に行ってていいぞ」

 

「いいのか?」

 

「いいよ。俺はあの子達をおいてはいけないから」

 

「あの子達……ああ、あの『演奏スキル』を使ってた子達か」

 

「……それと、あの時に付いて行ってやれなくて悪かった。

まぁ、そう言う事だから先に行っててくれ」

 

「……わかった。

じゃあ先に行ってるよ、次の階層では初見モブが多いから気をつけろよ」

 

そう言ってキリトと女性プレイヤーは第二層へ登っていった。

それを見届けていると

 

「陽菜〜☆お疲れ様っ!」

 

「如月、お疲れさま」

 

「お疲れ様。

リサと友希那も演奏、よく頑張ってくれた。

結構助けられた」

 

「なら、良かったわ」

 

「じゃあ俺達もそろそろ上に行くか」

 

そう言って上の階層に上がろうとすると

 

「待ってくれ!」

 

「ディ、ディアベルさん……ど、どうしたん…ですか……?」

 

燐子は話すのが苦手ながらも克服しようと頑張っているみたいだった。

 

「ちょうど君達にお礼を言おうと思って」

 

「お礼……?」

 

「今回のボス攻略、君達がいなかったら、オレ達は全滅していただろう。

だから、ありがとう」

 

そう言ってディアベルは頭を深々と下げた。

 

「あ、あの……えっと……」

 

燐子はどうやらここが限界みたいだった。

それを見て小声で

 

「燐子、よく頑張った。ゆっくりしてていいぞ」

 

「!…す、すみません……ありがとう、ございます……」

 

そして、話を戻し

 

「そう言うディアベルもかなり指揮が良かった。

だから、死者が出なかったんだ」

 

「…本当にありがとう」

 

「それと…お礼としてはなんだが…これ」

 

そう言ってウィンドウをスライドさせた。

 

「っ!!これは……ボスのラストアタックボーナス……。

どうして」

 

「これが俺にできる事だからな」

 

すると

 

「……いや、これは姫を守った騎士の君が受け取るべきものだ。

…そのかわり、君に聞きたいことがある」

 

「?」

 

「君はこの子達の事を本当に大切にしている。

だから、君はこの子達の為に自分を犠牲にしてでも助けると思ったんだ……違うかな」

 

「……違うな」

 

「…なら良かった。

攻略組としては、心強いだろうからね」

 

「そうか…じゃあまた、次の攻略の時に」

 

「ああ、それなんだけど……オレはもう攻略組を抜ける事にした。

後は、キバオウやリンドに任せるよ、2人ともやってくれると言ってくれたからね」

 

「……そうか。まぁ、俺がどうこう言う事じゃないからな。

じゃあな」

 

そして次のフロアに上がって行く道中

俺は密かに思っていた。

犠牲にしてでも…か……反省しとこう、うん。

しかも、俺が死んだら元も子もないな。

すると

 

「如月、着いたわよ」

 

「ここが第二層か…」

 

そう言って平原が広がる第二層に踏み込んだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ボス攻略した日からしばらく俺は1人でダンジョンに潜り、牛男達を倒し周っていた。

それから2週間ほど経ち、友希那とリサにあった。

 

「あれ?陽菜っ!久しぶり!噂、聞いてるよ〜☆」

 

「噂?」

 

「ええ、コートを着た目つきの悪い盾無しソードマンがダンジョンで牛男を狩り続けているっていう噂の事よ」

 

それって目つきの悪い、で俺って判断してるよな…間違いではないけど……

 

「それで、2人ともここら辺に何か用でもあったのか?」

 

「あっ、そうそう!この前この近くで巴達がカフェを開いたんだって、よかったら陽菜も行かない?」

 

「……誘ってくれるのは嬉しいけど、俺はまた、これからダンジョンに潜りに行くから」

 

すると友希那が

 

「1人で?」

 

「う、うん」

 

なんかこの前もこんな状況あったような…

そんな事を思っていると

 

「…如月、今日からしばらく攻略は休みなさい。

あなたの噂を耳にしたのはボス攻略後すぐの事よ、ずっと休んでいないなら休みなさい」

 

「いや、でもダンジョンの攻略が…」

 

「休みなさい」

 

「…はい」

 

こんな感じで今日からしばらく攻略を休む事にした。

そしてリサが言ってたアフロが開いたカフェ店に行くと

 

「い、いらっしゃいませ、ご主人さ……まっ!?」

 

「あっ、リサさん、友希那さん、それに陽菜さん、いらっしゃいませ〜」

 

すると小声で

 

「ちょ、ちょっと、名前はダメだよ…!」

 

なんと扉を開けると蘭やモカ、つぐみがメイド姿で出てきた。

そして、色々とあった。

まず、蘭の自分がどうしてメイド姿になってるか、の言い訳を聞いたり、モカとつぐみが蘭のメイド姿を褒めまくり、蘭が顔を赤く染めて、照れて店の奥に逃げてしまった事などがあった。

そして

 

「たまにはこういうのもいいね☆

それに、この3人で集まるのって懐かしいしさっ」

 

「そうだな、Roseliaのメンバーを集めてる時、たまにCiRCLEカフェに集まったな」

 

「そうね。

あの時、あなたのメンバーを集める速度は正直異常だったわね」

 

「異常って言うなよ、俺だって友希那の歌声を聴くの楽しみにしてたから早く集めたんだよ」

 

「…!そう」

 

「も〜陽菜ってば〜、友希那が顔、赤くなっちゃうじゃん♪」

 

「そう言ってる割にはリサ、楽しそうだな」

 

「もうやめて2人とも」

 

「「は〜い」」

 

「……」

 

友希那がこちらを睨みつけている。

なぜ、俺だけなんだ…

そう思っていると

 

「…ねぇ、アタシ達ってまた向こうで、現実世界でまた、あの『音』出せるよね……?」

 

するとその質問に友希那が

 

「当たり前でしょ、この世界からさっさと脱出するわ。

その為にも…」

 

「そうだな。

てことで、まずはダンジョンに行くか」

 

「ダメよ」

 

「えぇ…」

 

「じゃあ如月、あなた今のレベルはいくつ?」

 

俺は視線を左上のHPバーの下に書いているレベルを確かめて誤魔化しながら

 

「えっと……25です……」

 

そう伝えると

 

「2、25!?陽菜、どんだけ牛男狩ってたの!?」

 

すると友希那が呆れたふうに

 

「はぁ……あなたは本当に馬鹿ね…。

何もそこまでしなくても…」

 

「いいだろ、守る為に困る事なんてないから」

 

「……もういいわ」

 

「?友希那?」

 

「ごめんなさい、用事を思い出したわ。

私はこれで…」

 

そう言って友希那は立ち上がり、立ち去ってしまった。

すると

 

「ねぇ、陽菜?もしかして気づいてない?」

 

「?気づいてない?どういうこと?」

 

「も〜、仕方ないな〜陽菜は☆

あのね、友希那はああは言ってるけど、ホントは陽菜のことを心配してるんだよ。

だから、追いかけてちゃんと謝ってくる事、わかった?」

 

「…わかった」

 

そう言って友希那を見失ったのでフレンドの居場所検索をすると

 

「?なんで友希那がダンジョンに……」

 

まさか…

とりあえず急いで向かうか。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第一層 古びたダンジョン奥地

 

「友希那ー!」

 

そう叫んでも返ってくるのは自分の叫んだ声が反響してくるだけだった。

第一層にはもう何もないはずなのにどうして…

マップを見ても友希那の居場所を指しているのはダンジョンということだけだった。

すると

 

「っ!」

 

今どこかで声が聞こえてきた、誰かの怒りの声。

このダンジョンの奥から聞こえたので、急いで向かうと

 

「友希那っ!!」

 

「!如月、ダメ!」

 

体育館並みに広くて薄暗い中に男組3人と腕が片方だけない友希那がいた。

友希那のHPバーを見てみるとすでに黄色になっており、後1割を切ると赤色になる危険な状態だ、一方で男達の方を見ると、HPバーは1割も削られてはいなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

友希那 side

 

私は少し苛立っていた。

どうして如月はわかってくれないの

…鈍感過ぎるわ。

 

「はぁ…」

 

そんなため息をついていると周りから

 

おい!あれって…

 

ああ、第一層のフロアボスを攻略する時に現れた…

 

見た目が女神のようであの子が歌を歌うと恐怖を忘れるっていう…

 

『歌姫の女神』!

 

などの声が聞こえてきた。

別に気にはしないけど、『ああ』言われるのは好きとは言えないわね。

そして歩いているとどこかわからない場所に入ってしまった。

こういう時はマップデータを…

そう考えていると

 

「おい『歌姫』ちょっとテメーに用がある」

 

突然目の前の空間が歪み背中に大剣を持った筋肉質の男は現れた。

 

「!」

 

転移とは違う。また別の何かだった。

 

「…何の用かしら」

 

「話が早くて助かるぜ。

『歌姫』俺とデュエルしろ」

 

そう言って男はウィンドウを手元に表示させてきた。

そこには『半減決着モード』と表示されていた。

すると

 

「お前は『女神』と称されるほどの強さを持ってると聞いた。

だから、試したくなったんだ。

俺達は俺達より強い奴を倒す事に興味があるんだ」

 

「私は、そんな事に興味はないわ」

 

そう言ってウィンドウのバツボタンを押そうとすると、押したはずの右手が丸ボタンを押していた。

そしてまた、隣の空間が歪み、今度は男が2人現れた。

その内の1人に右手を移動させられた。

そして、デュエルのカウントが始まった。

 

「っ!!」

 

すると隣にいた2人の痩せた槍持ちの男と20歳くらいの片手剣持ちの男が

 

「君ならそうすると思ったよ、悪いけど戦ってもらうよ」

 

「ふんっ、何も悪くはない。

どちらにせよコイツには俺達の取引先に使うからな」

 

「それは…どういう意味?」

 

そう問いかけると同時にカウントがゼロになり、【DUEL】と言う文字が浮かび、前を見ると

ドスッ

何かが飛んできて、肩に刺さった。

心配になり、HPを見るとほとんどダメージがなかったがHPバーの横にカミナリのマークが書いてあった。

 

「これは……」

 

その場で倒れこみ、口を動かすのも困難であった。

そして男が近づいてきて

 

「おい、場所を変える。

いつものとこに運べ」

 

「人使い荒いなぁレベルが3つ上だからって」

 

「うるせぇ、さっさと運べ」

 

「はいはい」

 

そう言って男が近づいてき、もう一つのナイフを刺した。

 

「うっ…!」

 

すると麻痺状態の他に泡が書いてある状態がついたと思うと眠気が襲ってきて、そのまま眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

眼が覚めるとそこは、第一層の古びたダンジョンであった。

手と足には縄がかけられていて、起きたのに気づいた片手剣の男と大剣の男が

 

「やっと目が覚めたな、それで?どうすんだよ」

 

「わかってんだろ、俺達の本命は『歌姫』じゃねぇ。

戦えない事はわかってたからな」

 

「どういう事?」

 

「俺達の狙いはお前じゃなくてお前を守ってる男だよ」

 

「…!それって」

 

「ああ、第一層のボスモンスターを倒した1人だ」

 

「あなた達…如月に何をするつもり?」

 

「言ったろ、俺達は俺達より強い奴を倒す事に興味があるって。

そいつは姫をボスから守り抜いたんだ、1人でな。

だから、俺達はそいつを倒したいんだ」

 

「その『倒す』ってどういう事?」

 

すると大剣の男は不敵な笑みを浮かべ

 

「殺すに決まってんだろ」

 

ただ、そう簡潔に答えた。

 

「っ!…あなた達なんか全く歯が立たないわ」

 

そう言うと血相を変えた槍持ちの男が近づいてきて槍を腕に突き刺してきた。

 

「ううっ…!!」

 

このゲームに痛みは存在しない。

だが、この現実じみた世界では少しのかすり傷も痛みが感じられる。

 

「俺達が敵わない?そんなわけないだろうが!俺達はあいつを殺す為にレベリングをしてきたんだ!!負ける訳がない!」

 

なおも刺し続け、腕が落ちた。

HPバーが4割切ったところでそれは止まった。

 

「っ!?」

 

すると足音に気づき、3人組がその時を待ってたかのように戦闘の準備をした。

そして…

 

「友希那っ!!」

 

来ないことを願っていたのに如月は来てしまった。

いえ、来る事はわかっていた、如月はいつも本気で助けてくれる。

そんな事、わかってる。

でも

 

「如月、ダメ!」

 

そう呼び止めた。

すると

 

「会いたかったぜ。

お前が姫をボスから守り抜いたっていう騎士だな?」

 

「…だったらなんだ」

 

「見ろ、この『歌姫』のHPバー、見えてんだろ。

もう4割を切るところだ。

コイツを助けたければ、俺達とデュエルしろ」

 

「…片腕がないが…友希那に何をした」

 

すると槍を持った男が近づいて

 

「へぇ…そんなにこの子が大事か……だったらこの子、俺がもらってもい」

 

その男に何かを言いながらこちらに手を出そうとした。

と同時に如月は私の視界から消えていた。

 

「調子に乗るなよ…」

 

その冷たく低い声とともに、痩せた男の両腕は切り落とされていた。

 

「…友希那に手を出すというのはそれ相応の覚悟があるんだろうな」

 

「「「っ!!」」」

 

「えっ?…あ、ああっ!腕が、僕の腕がぁぁぁぁ!!」

 

一人称が俺だった槍使いが悲鳴を上げていた。

私はこの状況を把握して

まず、斬ったのは間違いなく如月であった。

いくらレベル差があるとはいえ、何も見えなかった。

ただ、如月が消えて槍使いの腕がなくなった、という事でしか認識できなかった。

男のHPバーを確認すると、1割もないくらいに残っていた。

すると空間が歪み、大剣を持った男が剣を真紅に発光させて如月の背中めがけて突進した。

刺さると思ったその刹那、大剣にひびが入り結晶のかけらとなって消えた。

この現象は前に、如月がモンスターの武器をソードスキルで破壊した時に似ていた。

 

「なっ!?がはぁっ!?」

 

次の瞬間、男は腹を殴られ、足を切り落とされ筋肉質の男のHPバーが残り2割ほどで止まった。

すると

 

「『ハイディング』…そんな練度を上げてないスキルなんて『リピール』で簡単に見破れる。

鼠を見習え」

 

「ちっ!バケモンがぁ!!」

 

そう言って片手剣を持って襲いかかったが呆気なくやられた。

その20歳くらいの男のHPバーは5割残っていたが、混乱状態になって動けなくなっていた。

すると

 

「きさら…!!」

 

如月は私を力強く抱きしめた、HPが減らない程度に力を加えて。

ごめん、と謝りながら、泣きそうな声で…

それでも、如月の温もりがとても暖かく感じられた。

この世界に体温なんて存在しないはずなのに。

すると如月は抱きしめながら、らしくない声で

 

「ごめん……こんな目に合わせて…俺があの時、友希那が心配してくれてる事に気付いたら……本当に、ごめん」

 

そして私は、その言葉を聞いて色んな事を思いながら言った。

 

「ありがとう。

私を助けに来てくれて、気づいてくれて」

 

「っ!ありが、とう…っ!」

 

「ええ…どういたしまして」

 

そう言いながら、背中を優しく叩いた。

そして、如月が抱きつくのをやめ、帰ろうとすると

後ろにいた大剣の男が

 

「待て………テメェ……その武器、片手剣の初期の武器だろ。

それなのに、どうしてこっちのHPが一気になくなった……」

 

すると如月は振り向いて男の質問に答えた。

 

「俺の本当のレベルは34だ。

いつも愛用してる剣だと一瞬で死ぬ。

だから、こうして初期武器を買ったんだ」

 

「……はは…なんだ…そりゃ、レベル21の俺達は……最初から勝ち目なんて……なかったな……」

 

「…最前線で戦えばもっと活躍できたろうに。

それと、この世界には牢獄システムがある。

お前達には今からそこに転移してもらう」

 

「……そうか…勝手にしてくれ……あの方にも顔負けできねぇしな……」

 

最後がよく聞き取れなかったが如月は気にせず

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

そう言って如月は転移させた。

 

 

 

 

 

友希那 side out

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その帰り道

 

「「………」」

 

今、お互いの顔を直視できない状態にある。

中々の気まずさ、小、中学校と独りでやってきたがこの気まずさは史上最大の気まずさである。

すると

 

「あの…如月?」

 

「は、はい!」

 

「そんなに…怯えないでもらえるかしら…」

 

「…ごめん」

 

すると友希那が

 

「私はレベルが1番低いの、だからちゃんと第二層まで送りなさい」

 

「いやでも、ここら辺のモンスターなら友希那でも……」

 

友希那は遮るように

 

「ピンチの時に、武器屋で初期武器を買ってたのはどこの誰だったかしら?」

 

「きちんと送らせていただきます」

 

そう言うと友希那は微笑みながら

 

「ええ、頼んだわよ。

私の騎士として」

 




今回から次回予告はしません。
勝手な都合で申し訳ないのですが、ころころとタイトルを変えるのも読んでくださっている方に悪いのでやめます。
また、勝手な都合で復活するかも知れません。

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