退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

28 / 107
第10話 太陽の心と月の心、そして1人の迷い

「う〜……うっ…!?」

 

朝起きるとそこはリビングのソファーの下であった。

どうやら、昨日帰ってきてすぐにソファーで寝落ちたらしい。

 

「……痛い…机の角とか普通にいてぇ……」

 

そう呟き、ソファーを使い起き上がろうとすると

 

「わあっ!!!」

 

「うわぁっ!?」

 

情けない声を出しながら、また、後頭部を机の角でぶつけた。

すると

 

「あははっ!ビックリしたビックリした!!」

 

そこにはいたずらが成功した子供のように笑う日菜がいた。

 

「『うわぁっ!?』だって!あはは!」

 

「このヤロウ……覚えとけよ…」

 

「そんな事よりさっ!

陽菜くん、なんでこんな所で寝てたの?」

 

「あー……そんな事より、みんなに話があるからな、呼ばないと」

 

「えぇー?気になるー!!」

 

「気になるなら」

 

「気になるなら?」

 

「大人しくしといて頼むから」

 

「むぅ…!」

 

「頬を膨らませても何も出ないぞ」

 

そう言いながらみんなにメッセージを送った。

 

「まぁ、全員集まるまで待つか」

 

「つまんないのー!つまんないのー!」

 

そう言いながら袖を引っ張ってくる日菜に

 

「駄々をこねるな」

 

「だって!つまんないんだもんっ!」

 

「はぁ……この話が終わったら日菜のお願い一つだけ聞くから」

 

「ホントッ!?」

 

「ああ、本当だ。

男に二言はない、って奴だ」

 

嘘です本当は十言くらい許して。

でも、今回ばかりは仕方ない…

 

「やったあ!!!」

 

「子供…」

 

「?子供?」

 

「いや、なんでもない」

 

そう言うと複数の足音とともに階段からみんなが降りてきた。

すると巴が

 

「陽菜さんから呼びかけるって珍しいですね。

どうしたんですか?」

 

「まぁ、今後の注意事項を、な…」

 

「注意事項…ですか?」

 

「…みんなには一度ラフィンコフィンの話をしたな。

これはそのラフコフについての注意事項だ」

 

そう言うと蘭が

 

「なんで今更?ラフコフはあたし達以外の攻略組が討伐したんでしょ?」

 

「ああ。

でも、その後の生き残りが少なからずいる。

…昨日、フードを被った男がいただろ」

 

「うん、陽菜さんが路地裏に入って追いかけて行った。

…まさか陽菜さん、その人もラフィンコフィンの生き残りと思ってるの?」

 

「多分な、でも…」

 

「でも?」

 

「その男、俺の事を知ってるみたいなんだ」

 

「それって…陽菜さんが会った事があるって事?」

 

「いや、俺がラフコフのメンバーと会ったのは1人だけだ。

その1人も見間違える事は絶対にない。

とりあえず、みんなには圏内でも一応警戒して欲しい」

 

『……』

 

なぜか全員が沈黙した。

すると蘭が

 

「…それだけ?」

 

「えっ、うん、そうだけど…」

 

そう言うとリサが

 

「もー!陽菜が呼びかけるなんて滅多にないから何かあったのか、って思っちゃったよ!」

 

「いや、あるだろ、大した事あるだろ」

 

「でも如月さん、私達は今の攻略組よりレベルが高いです。

ですから、そんなに心配なさらずとも…」

 

「それだよ」

 

「?」

 

「ここにいるみんなは、自分達のレベルがそこらにいる攻略組より高いからと言って慢心し過ぎてる。

同じような気持ちを持って死んだ攻略組もいる。

それを踏まえた上で…気をつけて欲しい」

 

「…わかりました。

確かに少し慢心していました」

 

「そうね。

私達も少し調子に乗ってしまっていたわね…」

 

「そうだね、千聖ちゃん」

 

みんなわかってくれたみたいで助かった。

 

そう思って安心したのも、つかの間

俺は日菜との約束を思い出してしまった。

そして

 

「じゃ、陽菜くんっ!!あたしとデートしよっ!!」

 

『ええ!?』

 

「日菜…せめてお出かけと言おうか…。

なんかそれだと俺が日菜と付き合ってるみたいになってるから…」

 

「どっちでもいいよっ!!

なんでも1つお願い聞く約束でしょっ!!」

 

「ヘイヘイ。

じゃあみんな、ちょっと行ってくる」

 

日菜に腕を引っ張られながらそう言い残した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

日菜に連れられて思い出の丘に着いた。

すると日菜が花壇の花の前でしゃがみ込み

 

「わぁっ…!!綺麗!」

 

「ああ、綺麗だな」

 

「ねぇねぇ!これって、もらってもいいのかなっ?」

 

「う〜ん…多分…」

 

そう言って花壇の花を取ろうとすると目の前に紫の文字で『破壊不能オブジェクト』と表示された。

 

「やっぱり、これ『破壊不能オブジェクト』だから、取れないな」

 

「そっかー……残念…」

 

「なんで、花が欲しいんだ?」

 

「…実はお姉ちゃんにプレゼントしようと思って」

 

「…あっ、そうか。

明日は確か…紗夜の誕生日…」

 

「うん…でも、お姉ちゃんって、何が好きなのかわからないから。

あたしなりに考えてここに咲いてる綺麗な花ならお姉ちゃん、喜んでくれるって、思ったんだけどなぁ…」

 

本当に落ち込む日菜を見て

 

「…そういえば、向こうの方にクエストがあって、それをクリアしたら、花束を貰えるんだったな」

 

「えっ?」

 

「…行くぞ日菜」

 

「あ、待って陽菜くん!」

 

そして、花束を摘む用の手提げを持っている三つ編みの女性NPCに声をかけて、簡単な調達クエストを受け、難なくクリアした。

 

「ありがとうございます。

お礼にこれを」

 

そう言って女性NPCが渡してきたのは、色とりどりの花束だった。

そしてそれを日菜が受け取り、クエストが終了した。

 

「るんっ♪って、きた……!!」

 

日菜はそう呟くとウィンドウを操作して大事にしまった。

そして

 

「じゃあ、用事も済んだ事だし、帰るか」

 

「うんっ!今日はありがと陽菜くんっ♪」

 

「どういたしまして、だな」

 

そして家に向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

家に着くと日菜が

 

「あっ!そうだ、陽菜くんに言っておきたかった事があったんだった!」

 

「?」

 

「また、お姉ちゃんに会わせてくれてありがとね!陽菜くん!」

 

「……きっと向こうでも会える」

 

「うんっ!」

 

そう言って日菜は走って台所に向かっていった。

すると左の廊下からリサと友希那が来た。

 

「あっ、陽菜お帰り〜☆

それで〜?どうだったの?日菜とのデートは♪」

 

「デート言うのヤメロ。

別に、日菜的にはいい買い物が出来たってだけだ」

 

「それで、如月。

デートはどうだったの?」

 

「なんでそこを強調した……」

 

「あはは☆それじゃあ行こっか友希那♪」

 

「ええ」

 

「?どこに行くんだ?」

 

「心配しなくても、家の中での用事よ」

 

「そうか」

 

そして2人はリビングの方へ向かって行った。

すると玄関の右隣にある階段から

 

「如月さん、今帰りですか?」

 

「ああ」

 

「そう…ですか」

 

「?」

 

「その…少し付き合ってもらえますか?」

 

「?いいけど…」

 

「お疲れのところすみません。

すぐに支度を済ませますので、5分ほど待っててもらえますか?」

 

「わかった、ここで待ってる」

 

「ありがとうございます」

 

そして少し待つと外出するような格好で紗夜が降りてきた。

 

「どこか、買い物にでも行くのか?」

 

「はい。

ちょっとした事情で…もし迷惑でしたら断ってくれて構いませんので」

 

「いや、いいよ。

俺も何するのかちょっと気になったし」

 

「そうですか。

では、街の方に用があるのでついてきてください」

 

「わかった」

 

そして今度は紗夜に連れられてフローリアに向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第47層 主街区

 

行く途中で紗夜からアクセサリーショップに行く事を聞いて、案内していた。

そしてちょうど今、3軒目である。

 

「………」

 

紗夜は前にかがみながら、首にかけるペンダントをじっくりと見ていた。

 

そういえば、誰に渡すんだろ…。

いや、大体わかってるからいいか。

 

「…中々、難しいですね」

 

「そうなのか?」

 

「はい。

私が良いと思うものはあるのですが、それではダメな気がして…」

 

「?日菜にあげるなら、紗夜が良いと思ったもので、良いんじゃないのか?」

 

「!どうして日菜にあげるとわかったんですか?」

 

「まぁ、それは保留として。

さっき言った通り、日菜に渡すなら紗夜が良いと思った物を買えば良い。

きっと日菜も喜んでくれる」

 

「…本当に大丈夫でしょうか…」

 

「大丈夫だろ。

日菜は紗夜の事、大好きだからな」

 

「!わ、わかりました…!

では、もう一軒寄ってもいいでしょうか?」

 

紗夜が少し照れた後、申し訳なさそうに言った。

 

「いいよ」

 

そう言って次のアクセサリーショップに向かった。

すると

 

「……っ!」

 

「?」

 

「…決まりました」

 

そう言って紗夜は「これを」と店員に言って商品を買った。

そしてそのまま帰っている道中

 

「何にしたんだ?」

 

「これです」

 

そう言って紗夜が取り出したのは

 

「へぇ…綺麗だな。

青い宝石が埋め込まれたペンダントか」

 

そして詳細も見ると、防御力アップの二重バフであった。

それを見て

 

「…紗夜らしいな」

 

「?どういう事ですか?」

 

「いや、姉としては妹が心配なんだなぁ…と」

 

「!別に効果を読んで決めた訳ではありません…!

その効果は少し気になってペンダントを見たら、たまたまそう書いてあっただけです!」

 

「あはは、たまたまか…。

にしても紗夜は変わったな」

 

「?そうですか?」

 

「ああ、変わったよ。

昔は日菜が載ってるポスターを嫌がって、その後の練習もピリピリしてたからなぁ…」

 

「っ、そ、その時の私は…」

 

なぜかそこで照れくさそうにして口ごもってしまった。

するとすぐにその口が開いた。

 

「…多分、焦っていたんだと思います。

私が今までしてきた努力をあの子は一瞬で抜いて行って、私の努力がなかった事になる事を…恐れていたんです」

 

「…そうか…。

やっぱり、そういうのって嫌…だったよな…」

 

「…はい。

でも、ある日、私は日菜と約束しました。

いつか、日菜の隣を並んで歩いていけるように、と。

だから、私は今のRoseliaの氷川紗夜としていられるんです」

 

「……そうか」

 

…俺は、紗夜の気持ちを完全に知る事が出来ない。

ただ歌っていただけで、仲間達を知らないうちに傷つけて、仲間にエゴを押し付けて、勝手にどこまでも、ついてきてくれると勘違いした。

 

それがあの結末。

でも、この子達は違う。

互いに本当の思いやりを持ち、自分達の信念を貫いていく。

本当に…

 

「…本当に…眩しすぎるな…」

 

「?何か、言いましたか?」

 

「…いや、なんでも…」

 

そして家が見えてきた頃に紗夜が

 

「そういえば、まだお礼を言ってませんでした」

 

「?ペンダントの事なら別にいいぞ」

 

「いえ、日菜の事です」

 

「?」

 

「このゲームに入って日菜を見た時は内心、すごく焦りました。

でも、如月さんがあそこまで強くしてくれて、守ってくれて…。

だから、ありがとうございます。

日菜にもう一度合わせてくれて」

 

「…何言ってんだ。

必ずこのゲームをクリアして、また向こうの現実世界でも合わせてやる。

絶対にあの25人だけは現実世界に何があろうと帰す」

 

「今の言葉、訂正してください。

25人、ではなくあなたも含めて26人です」

 

「そうだな。

全員でこの世界から生き延びようか」

 

「はい」

 

そして家の中に入っていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

自分の部屋に入って、すぐさまベッドに身を預けようとすると

 

「ハルナさん!」

 

「!?」

 

扉を勢いよく開けたのはイヴであった。

 

「…何か用でもあったか?」

 

「はいっ!剣の修行に手伝ってもらいたいんです!」

 

するとリサが上がってきたのが見えたので

 

「昼ご飯を食べてからな」

 

「はいっ!ありがとうございます!」

 

そして下に降りて用意されたリサの昼ご飯を美味しくいただいた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

美味しいオムライスを食べた後。

イヴに辺り一帯、花が咲くフィールドに連れて来られた。

 

「ここでするのはいいんだけど…。

なんでお前らまで付いて来てんだ…」

 

そこにいたのは

 

モカ、麻弥、燐子、あこ

 

だった。

 

「だって〜、陽菜さんとイヴさんが戦うのって、めっちゃ気になるじゃないですか〜」

 

「他のみんなはレベリングに行ったけどな」

 

「まぁまぁ、いいじゃないですかっ!

今日は天気もいいですしっ」

 

「まぁ、いいけど…」

 

そして、イヴと2人でみんなが良く見えるほど離れた場所で

 

「じゃあ、一応おさらいな。

ソードスキルの使用は禁止、体術スキルも禁止。

どちらかのHPがイエロー状態になった時点で即終了。

そして、武器は2人とも初期武器って事でいいな?」

 

「はいっ!」

 

「じゃあまぁ…5秒後に始めようか」

 

そう言ってウィンドウを開き、カウントを始めた。

 

「よろしくお願いしますっ!」

 

「ああ、よろしく」

 

「「……」」

 

しばらくの沈黙

 

そして

 

「…ヤァ!!!」

 

同時に一瞬で距離を詰め、花が宙に舞った。

そしてイヴの気合の入った声と同時に上段斬りを受け、それを左に払って流れるように左からの水平斬りを撃ち込んだが、それを刀の柄で弾かれる。

次に来る刀の斬り上げを体を右に逸らして避け、隙が出来たところを、右肩、左腹部、左腕、右腹部、胴に狙いを定めて全力で斬りつけた。

 

「っ!?」

 

しかし、その全てをイヴは一瞬で弾いた。

そして2人同時に水平斬りを撃ち込んだが、それを相手の首に当たる寸前のところで止め、後ろに下がった。

 

「…さすがイヴだな。

純粋な剣技じゃ、圧倒的に俺の負けだよ」

 

「ありがとうございます!

ハルナさんも、さっきの攻撃はまるでソードスキルのような速さと重さでした」

 

「ありがとう。

…でもまぁ、とりあえず」

 

「はい、次で終わらせましょう」

 

「……」

 

「………」

 

そして、互いに武器を構え直し

 

「「っ!!」」

 

刀と剣が高い金属音と宙に舞う花と共に交わった。

その戦いは数分にもおよんだ。

そして、ついに…

 

バキィィィィィン!!!

 

甲高い音と共に、刀と剣が折れてしまい結晶のかけらとなって消えた。

 

「あー折れちゃったか…」

 

「残念です……」

 

そう話すと観客4人が

 

「いやいや〜、2人とも戦いすぎですよー」

 

「陽菜さんとイヴさん。

もう30分近くも戦っていましたね」

 

「2人とも…すごい戦いでした……」

 

「だよねだよねっ!陽兄ぃもイブさんもすごくカッコ良かった!!」

 

「そうか、ありがとう。

まぁ、HPもいい感じだし、回復して戻るか」

 

『はーい!』

 

そして回復ポーションを飲み、帰ろうとした。

すると

 

「きゃあ!」

 

「イヴ、どうした?」

 

「すみません。

何か下にあって…」

 

そう言うのでイヴの足元を見るとそこら辺の草が結ばれていた。

 

「?なんだこれ…簡易式の草トラップ…?」

 

なんでこんな所に…

 

そんな思考を冷たい何かが遮った。

 

「……っ!全員しゃがめ!!」

 

咄嗟にイヴを庇うようにしゃがみ込んだ。

ドスッ!!

そして間一髪のところで、イヴの頭の横に白く輝いたナイフが突き刺さった。

すると木の上から

 

「…避けたか…」

 

その声は俺が一度だけ聞いた事がある冷徹なものだった。

そしてみんなを立ち上がらせてから

 

「…久しぶりだな、Poh」

 

そう言った目線の先には、木の下に降りてきた黒ポンチョの格好をし、腰には大きな包丁を持った男がいた。

 

「よう…約一年ぶりだなぁ先輩。

会いたくなかったぜ」

 

「俺もお前とは会いたくなかったよ」

 

「さっさとオレの目の前から消え失せて欲しいもんだ」

 

「随分と嫌われたもんだな。

…そんなに、俺がお前の作戦を妨害したのが気にくわないか?」

 

「ああ、気にくわねぇな」

 

「奇遇だな、俺もだ。

それで、今から攻略組6人をたった1人で相手してみるか?」

 

「フンッ……攻略組、ねぇ……」

 

そう言ってPohはみんなを見渡した。

 

「…せっかくオレが作ったギルドを、あんな腑抜けた攻略組に壊滅させられるとはな…」

 

「よく言うよ。

どうせ、ラフィンコフィンのアジトの場所を攻略組に教えたのはお前なんだろ、Poh」

 

「おっ!わかってんじゃねぇか。

そうだ、オレがあの攻略組にギルドの場所を教えて、あのサルどもの殺し合いをハイドで見てたんだよ」

 

すると燐子が

 

「……なんで……殺し合いなんか……」

 

「そんなの楽しいから、面白いからに決まってんだろ」

 

「っ!そんな…事の為に…」

 

「オイオイ、そんな事とか言うなよ。

オレにとって最高の娯楽なんだから。

特にあのブラッキーは最高だ、怒り狂って2人も殺してたんだぜ?

ハイドがバレないように笑いを堪えるのが必死だったよ」

 

「っ!!」

 

燐子の身体が少し震えているのがわかった。

そして小声で

 

「燐子、大丈夫だから安心しててくれ」

 

気休めでも燐子を安心させないといけない、と思いそう言って燐子を落ち着かせた。

そして

 

「お前がキリトの事を気に入って、俺のことを気にくわないのは、第5層でお前がキリトを殺す所を邪魔した事か?それとも殺人計画を崩されたからか?」

 

「…少し話しすぎたな」

 

そう言ってPohは転移結晶を取り出した。

 

「!待て!!」

 

「安心しろよ先輩。

オレだってあんたみたいな規格外にもう関わりたくねぇよ」

 

「っ!!」

 

投擲スキルで近くに落ちていた石を投げたが、Pohは転移結晶で逃げてしまった。

すると麻弥が

 

「陽菜さん、もしかして今のが…前に話してたラフィンコフィンの生き残り…ですか?」

 

「残念ながら、そういう事だ…。

まぁ、とりあえず帰るか、これ以上ここにいたら危険だ」

 

……アイツは約一年ぶり、と言ってた。

だから、アイツはこの前のフードを被った男じゃない

 

「わかりました。

…他の皆さんは、もう家に帰ってると思いますから、この事は話した方がいいですね」

 

「ああ、そうだな」

 

そして、そのまま帰宅した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

帰宅して、みんなに起きた事を説明した。

すると蘭が

 

「でも、そのPohって人、もう陽菜さんと関わりたくない、って言ってたんでしょ?

なら、もう襲われる心配しなくてもいいんじゃないの?」

 

「いや、この前のフードの男がまだ気になる。

Pohとフードの男は別と考えていいだろう。

……まぁ、Pohがこれ以上俺達に関わらないなら、それはそれで助かる」

 

「Pohって奴、そんなに安心する程危険なの?」

 

「ああ。

アイツの武器、メイトチョッパーって言うんだけど、モンスターを倒したら剣のステータスが下がるんだ」

 

「えっ?

それって、プレイヤーにとって何のメリットもないんじゃ…」

 

「本来、正常な人間ならそう思うが、Pohは別だ。

…モンスターでステータスが減るが、その逆、人を殺していけばステータスは上がっていく、その上魔剣クラスとは…。

実にアイツらしい武器だよ……ホント…」

 

憎らしい感じで言うと同時に、一気に疲労感が襲ってきた。

するとリサが

 

「大丈夫陽菜?

顔色悪いよ?」

 

「いや…大丈夫だ。

ちょっと部屋で休んでくる」

 

「うん…何かあったら言ってね」

 

「…わかった」

 

そして自分の部屋に戻った。

 

「……はぁ」

 

ため息をつきながらベッドで横になった。

そして、装備を部屋着に変え、ニュースウィンドウを開き、読んでいると大した事は書いておらず、どんどん意識がかすれてきた。

そして、暗転した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……ここは…どこだ…?」

 

そこには何も無い、真っ暗闇だった。

気づくと剣を右手に持っていた。

そしていつの間にか目の前に誰かが立っており、それは暗闇の中こちらを向いた。

すると薄く光るその人影は

 

「君は、どうしてあの子達と一緒にいるの?」

 

その声の主は誰かわからない。

声が統一されておらず色んな声が聞こえるからだ。

そしてその人影は決められたプログラムを実行するかのように話を進めた。

 

「君は、もしかして不純物じゃないの?」

 

「…不純物…か…」

 

「君は、選ばれた人間なんかじゃないよ」

 

「……わかってるよ…そんな事は…」

 

「君は、自分の力で、その剣で、この世界をクリア出来ると思っているなら、それはただの勘違いだ」

 

「……今更…だな……」

 

「下を見て」

 

そう言われて下を見ると、さっきまで何もなかったはずの地面が、ドス黒いドロドロした水のような物になっており、足が浸かって鏡のようになっていた。

更に、水の向こうに何かがうごめいていた。

そしてそれは

 

「!みんな…!?」

 

「この子達は、君がエゴを押し付けて死んでいくんだよ。

可哀想に……君がいなければ、こんな事にはならずに済んだのに」

 

「!!……俺の…エゴ……」

 

「君が死んでも、何も問題ない。

彼女達はいずれ君の事、この世界の事を忘れ、そのまま大人になっていくよ?」

 

「…っ…」

 

「それに、仮にこの世界を生き抜いたとしても、だ。

君みたいな異物が入り込んだから、Roseliaの演奏も悪くなる可能性が出てくるぞ。

そして君の一緒にいたいというエゴで彼女達の夢を、目標を、全て壊す事になる」

 

「…っ!…それじゃあ俺は……どうすれば……!」

 

「…さて、時間だ。

君もそろそろ目覚めたらどうだ?」

 

薄く光っていた人影が指を鳴らすと同時に、突然白く発光した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……っ!」

 

眼が覚めるとまず入り込んできたのは天井と窓から差し込む月の光であった。

すると

 

「あら、起きたの?」

 

「!」

 

急いで飛び起き、足をベッドから下ろして、声の方を見た。

そしてそこにいたのは窓の近くで椅子に座った友希那だった。

 

「……友希那か。

何してるんだ…こんな所で…」

 

「リサに頼まれて様子を見に来たのよ。

あなたは寝ていたけれど…」

 

そう言われて時間を見ると0:12と表示されていた。

 

「なっ…!?」

 

あの美味しいご飯を食べ逃した…だと!?

 

「はぁ…」

 

普通に精神的ダメージを受けた後、友希那に

 

「…こんな時間まで起きてたらダメだろ…」

 

「明日攻略する訳じゃないのだから、これくらいの時間なら大丈夫よ。

それよりどうしたの?

随分うなされてたみたいだけど」

 

「………なんでもない」

 

少し目を逸らして言った。

すると

 

「…知ってる?

あなたが悪い嘘をつく時、必ず右に目を逸らすのよ」

 

「っ!」

 

「それで、何をうなされていたの?」

 

「……ちょっと夢を見てたんだ…」

 

「夢?」

 

そして、少し下に俯きながら

 

「…なぁ友希那…。

俺って別にいなくても良かったんじゃないか?」

 

「……何を…言っているの?

あなたがいたから今の私達がいるのよ…?」

 

「そうかも知れないが…。

それなら、今の友希那達は俺なんかに頼らなくても、もう大丈夫だろ…」

 

「…私達の演奏技術が上がったのは、今まであなたがいてくれたおかげもあって…!」

 

「だからって、そのまま俺に頼りすぎるとダメだ。

俺だって人間なんだ、間違う時がある。

それに、俺のせいで演奏に影響を与えたら友希那達の夢は壊れてしまう。

だから、向こうの現実世界に帰った時は、俺の事は忘れて」

 

「……っ」

 

その時、俯いた俺の視線の中に何か、キラキラ光る物が零れ落ちた。

時間がゆっくり動いているような感覚になり一瞬理解出来ずにいた。

そして、友希那の方を見ると

 

「ゆき…っ!」

 

そこには窓から差し込む月の輝きで照らされ水晶のような雫を流している友希那の姿であった。

そしてそれは初めて見る光景でもあった。

 

「どうして……!」

 

「…」

 

「どうして…そんな事を言うの…!?

今まで…あなたがいてくれたから、私達が解散しそうになった時も助かったのよ……!!」

 

「っ…それは…結果的に、友希那達だけでやってのけた事だ。

俺はいらなかっただろ…」

 

「っ!!

…あの時、あなたが私達に言ってくれた事を…!

…あなたの目標を、約束を、もう忘れたの…!?」

 

「!何を…言って…」

 

「…初めて、あなたの目標を聞いた時は…嬉しかった。

Roseliaを肯定してくれて、私達の事を考えてくれて…本当に嬉しかった…!」

 

「っ!!」

 

「…信じていたのに…。

…もう、寝るわ…おやすみなさい…」

 

そう言って友希那は出て行ってしまった。

もちろん、引き止めようとした。

しかし、まず俺が持っていた目標…それを思い出さない限り、自分の間違いを見つけられない。

 

「…俺の目標…」

 

思い出せない。

もっとも、こんな気持ちじゃ見つけられない…

 

そう思ってベッドで横になって考え込んだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌日

 

「……」

 

朝、目が覚めてすぐに思い出すのは昨日の夜、友希那に言われた事、友希那が泣いていた事。

そして『信じていたのに』という言葉が頭から離れない。

 

…いや、泣かせた、の間違いだな…

 

そう思いながら、起き上がり時間を見た。

 

「とりあえず、下に降りるか…」

 

そう他に誰もいない部屋で呟いてから下に降り、リビングに向かった。

するとキッチンに

 

「あっ!陽菜さん、おはようございます」

 

「おはよう。

今日はつぐみが料理担当なのか?」

 

「はい。

リサさんの料理の方が良かったですか?」

 

「いやいや!別にそういう意味で言ったんじゃないから!」

 

「ふふ、わかってますよ。

にしても、今日は朝早いですね。

何かあったんですか?」

 

「…いや、なんでもない。

それより、何か手伝う事無いか?」

 

そう聞くとつぐみは少し悩んだ後

 

「う〜ん…今日は量が少ないですから、私1人で大丈夫です。

ありがとうございます陽菜さん」

 

「そうか…わかった」

 

そう言ってソファーに座って後ろにもたれかかり、昨日、友希那に言われた事を思い出そうとした。

しかしその瞬間、後ろから何かに抱きつかれた。

そしてそれは

 

「ハルナさんっ、おはようございます!」

 

「あ、ああ…おはよう。

…それと朝から抱きつくのやめようか…」

 

「あっ!ごめんなさい…。

たまたま、ここに来たら、ハルナさんが何か悩んでいたみたいでしたので…。

何かお困りならいつでも相談してください!

1人で抱え込むのはダメですよ!」

 

イヴがそう言うと、美味しそうな鮭とみそ汁の匂いを漂わせて、料理をしていたつぐみが

 

「えっ!陽菜さん、何か困ってるんですか?

すみません、気づかなくて…」

 

「いや、なんで謝る。

…悩みはあるけど、これは俺自身の問題だ。

だから、これは俺が自分で解決しないとダメなんだ」

 

そう言うと2人は少し考えてから

 

「…わかりました!

ハルナさんがいつか、その迷いの答えを見つけられる事を願っています!」

 

「そうですね。

私も、陽菜さんを応援してます!」

 

お、大げさだなぁ…

……でも、こういう時の2人の対応はありがたい。

 

「ありがとう2人とも。

……それじゃあ、俺はもう一つの用事を済ませるか…」

 

「?なんですかそれは?」

 

「まぁ、気にしないでくれ。

俺も自分が入るのは間違いだと思うけど、気になるから」

 

「?よくわかりませんが、頑張ってください!」

 

「ああ」

 

そう言って二階に上がっていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

二階 廊下 休憩場

 

歩いていると紗夜が休憩場におり、近づいて行くとこちらに気づいた。

 

「如月さん、おはようございます。

珍しいですね、如月さんが朝早く起きるなんて」

 

「紗夜の中で、俺はどんな奴なんだよ…」

 

「そうですね。

ぐーたらで、どこか抜けています」

 

「えぇ…」

 

「でも、同時にいざという時はなんだかんだで助けてくれます。

抜けている割には、私達の事を大事にしてくれて、25人の面倒を見てくれています。

抜けている割には、ですけど」

 

「おい、三回も言うなよ。

…それで、紗夜はなんでここに?」

 

「…日菜と待ち合わせしているんです。

今日はあの子の誕生日ですから…。

昨日、如月さんと一緒に買ったペンダントを渡したいので…」

 

「そうか。

…1番を取るのは悪いな」

 

「?何の事ですか?」

 

「いや、なんでもない。

じゃあ、俺はそろそろ下に降りる。

姉妹の間に水を差したくないから」

 

「!…そうですか。

では、また後で」

 

「……ああ」

 

そして、用事も終わったので下に降りた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一階 リビング

 

降りて来てつぐみに

 

「つぐみ、俺が今から言う事、後でみんなに伝えて欲しいんだけどいいか?」

 

「?なんですか?」

 

「俺はしばらくの間、友達の家に泊まりに行くって事を伝えてくれ」

 

「?はい…いいですけど…」

 

「まぁ、これは建前だ。

本当は、今日の朝ご飯食べたら、俺はしばらく75層のダンジョンに潜ってくるって事だ」

 

「えっ!?

…しばらく、ってどのくらい潜るんですか?」

 

「あー…そうだな…。

レベリングするから2、3日くらいかな…」

 

「そ…そんなのダメですよっ!

友希那さんに怒られますよ!」

 

「いや、だって」

 

するとつぐみはそんな言葉を遮って

 

「ご飯はどうするんですか!」

 

「そ、それなら、街のご飯を食べて」

 

「1人で潜るなんて危険過ぎます!

75層のダンジョンはまだよくわかってないんですから!」

 

「うっ…」

 

「それに!

…陽菜さんがもし死んだらどうするんですか!」

 

「っ…わかった。

ただ1日、1日だけは許してくれ。

明日には帰る」

 

「……わかりました。

約束ですよ」

 

約束……

俺が忘れた約束って、目標ってなんだろう…

 

そんな事を思いながら、つぐみに

 

「ああ、絶対に帰ってくる」

 

「はい!

陽菜さん、皆さんより先にご飯食べちゃいますか?」

 

「…そうだな、そうする」

 

そう言うとつぐみは料理を持って来てくれた。

そして、最後になるかも知れない料理をじっくりと堪能し、ダンジョンに潜る準備をした。

そして、玄関である事を思い出したので

 

「そうだ。

つぐみ、最後にもう一つお願いがあるんだけど…。

コレは紗夜に渡して、コッチを日菜に渡してくれないか?」

 

そう言って二つのピアスを渡した。

 

「これは…」

 

「今日はあの2人の誕生日だから。

まぁ、詳細を見たらわかるけど…。

コッチのアクアマリンの方は紗夜に。

そっちのオブシディアンの方を日菜に渡してくれ」

 

「お別れの品……じゃないですよね…?」

 

「当たり前だ。

死ぬ気なんて、さらさらないから安心して、あの2人に渡してくれ」

 

「はい、絶対に帰って来てくださいね」

 

「ああ。

それじゃあ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい、陽菜さん」

 

そして、扉を閉めた。




フム…結構早く終わりましたね。
じゃあ早速

藤恭様 黒き太刀風の二刀流霧夜様 反逆の堕天使ルシファー様
kuronosu127様
九澄大牙様 アーペ様 Bacon0112様
瑠璃ぃぃぃ様 黒夜様 関飛様

次はもっと頑張ってストーリーを面白くしたいと思います。
まぁ、自分に発想力があるかですが…

とりあえず、何が言いたいのかと言うと

感想、いつでもお待ちしております。
気軽に書いてくださって構いませんよ。

オマケ

これは…1学期の期末テストが返ってきた頃のお話です。

え?英語のテストの点数が46点?
え?補修受けるの?
……嘘でしょ…

like→rike

………

………友よ!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。