退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第11話 誕生日ケーキ

第75層 ダンジョン 迷宮区

 

「さて…と」

 

どうしようか…

 

そう迷っているのは、5時間程かけてボス部屋を見つけたのだが、先にボス部屋に着いて中に入っていった血盟騎士団をどうやってこの部屋から出すか考えていた。

 

「それで…もう一つの隊は、全員が鍵開けスキルを使って開かなかった…と」

 

そう言うと赤白の鎧を着て、ハルバードを装備した細目の男が

 

「ああ、そうだ。

攻撃もしてみたんだが反応しなくてな。

……」

 

「?どうした?」

 

「……なぁ、アンタこの前まで複数の女子を連れてたよな?」

 

「…そうだけど…それがどうした?」

 

「いや、あの女の子達は有名なバンド達だ。

君が死なせてしまったら、俺達ファンの怒りが抑えきれない、と思ってな」

 

「!お、お前らファンだったのか!?」

 

すると斧を持った隣の男が

 

「おうよ!Roseliaの演奏ってホントいつも最高なんだよっ!

いいよなぁ…毎日聴いてるんだろ?いいよなぁ…」

 

「いや…全然、各自練習はしてるみたいなんだけど、この世界に入ってから俺はボス戦以外で演奏は聴いたことない」

 

「ええ!?マジかよ…護衛って近くにいるからいつでも聴けるんだと思ってた…」

 

「なわけあるか。

…!」

 

そんな会話をしていると後ろの扉がギギギ…という不快音を鳴らしながら開いていった。

そしてその中には

 

「…誰もいないぞ…。

アンタらの仲間…」

 

「っ!嘘だろ…まさか、5分も経ってないのに…!」

 

「偵察隊が…全滅…!?」

 

「お、おい…なんの冗談だよ…」

 

そう言って片手剣を装備した男が中に入って行こうとした。

 

「!待て!!

偵察隊が全滅したという事は、中は多分結晶無効化エリアだ。

その上、扉を開ける手段もない」

 

「……わ、かった…」

 

「とりあえず、血盟騎士団に報告して来い。

ここからなら転移結晶も使えるから」

 

「…ああ、わかった。

お前ら行くぞ!」

 

リーダーらしき人物がそう言うと、俺以外の全員が転移していった。

そして

 

「…みんな大丈夫かなぁ…」

 

そんな事を呟き、そのまま迷宮区の来た道を戻って行きながら、レベリングをしていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

つぐみ side

 

約5時間程前

 

陽菜さんが出て行って3分程経った後。

 

「……」

 

ど、どうしよう…!

陽菜さんには、友達の家に泊まりに行く建前の事をみんなに伝えといて、って言われたけど……みんなに嘘つけないし…

でも…本当の事を話したら、陽菜さんが友希那さんに怒られちゃうし……

 

「…うぅ…」

 

「つぐみ、おはよう」

 

「きゃあ!!?」

 

振り向くとそこには蘭ちゃんがいた。

 

ど、どうしよう!

なんとか誤魔化さないと…!

 

「ど、どど、どうしたの!?

こ、こんな朝早くから珍しいね」

 

「?もう9時だよ?

ていうか、さっきから何焦ってるの?」

 

「う、ううん!

焦ってないよ!ほ、ほら、朝ご飯出来そうだから、みんな起こすの手伝って蘭ちゃん!」

 

「別にいいけど…」

 

「じ、じゃあ、蘭ちゃんは2階をお願い。

私は3階に行くから」

 

「?わかった」

 

そうして、私と蘭ちゃんでみんなを起こして、下に降り、全員が集まると

 

「…如月はどうしたの?」

 

「う〜ん…まだ寝てるんじゃない?

陽菜、昨日疲れてたから」

 

「…そう」

 

よ、良かった、リサさんがいてくれて…

友希那さんがちょっと不安?って顔してるけど…

 

そうして少し安心していると蘭ちゃんが

 

「そういえば、3階ってつぐみが起こしに行ってたよね?

陽菜さん、大丈夫だったの?」

 

「えっ!?」

 

「?何驚いてるの?

陽菜さんが大丈夫かどうか聞いただけなんだけど…」

 

「は、陽菜さんなら先にご飯食べちゃったよ!

みんなが起きる前に!」

 

すると今度は紗夜さんが

 

「そういえば…如月さん。

今日は珍しく早起きしていましたね」

 

「紗夜さん、陽菜さんと会ったんですか?」

 

「ええ。

今朝、少し用事があって、その時にお会いしました」

 

「そ、そうなんですね」

 

あっ、そういえば…朝ってイヴちゃんもいたよね…

 

そう思ったと同時にイヴちゃんが

 

「私も、ハルナさんと今朝会いました。

でも、何か悩んでいるようでした…」

 

「イヴちゃん、悩んでたって?」

 

彩さんがそう聞くとイヴちゃんは

 

「私も聞いてみたんですが、ハルナさんが『自分で解決しないと意味がない』と言っていましたっ」

 

「?どういう事?」

 

「私もわかりません。

でも、ハルナさんならきっと大丈夫です!」

 

な、なんとか大丈夫なのかな…?

とりあえず、陽菜さんがこの家にいない事を隠さないと…!

 

そう思っていると、こころちゃんが階段の上から

 

「陽菜が部屋にいなかったわ!

どこかお出かけしているのかしら?」

 

あっ…

 

「私がさっき朝の稽古をしていた時、ハルナさんは見かけませんでしたよ?」

 

「?だとしたら、如月さんは今どこにいるんでしょうか。

…メッセージを送ってみますね」

 

すると蘭ちゃんが

 

「……つぐみ、さっきから何隠してるの?」

 

「…えっ!?」

 

「さっきからつぐみ、変。

絶対なんか隠してる」

 

「っ…!」

 

思わず目を逸らしてしまった。

すると紗夜さんが

 

「羽沢さん、何か知っているなら話してください」

 

「…わ、わかりました…」

 

ごめんなさい陽菜さん、私が隠し通すのは無理でした…

 

そして全てを話してしまった…

 

 

 

 

つぐみ side out

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第75層

 

「やぁやぁ陽坊、元気なさそうで何よりダ」

 

手をヒラヒラさせながら、満面の笑みでアルゴは現れた。

 

「…そう言うアルゴは何か嬉しい事でもあったのか?」

 

「いやァ…ついさっき、いい感じの武器と情報を仕入れてナ。

それデ?Pohの奴と出会ったっテ?ご愁傷様だナ」

 

「うるさいな、俺だって会いたくなかったよ…。

それで?第75層のボスモンスターは知らないのか?」

 

「あア、ベータ版じゃそこまで進まなかったからな。

それよりモ、今日はあの子達どうしたんダ?」

 

「まぁ、色々あって今は一緒じゃないんだ」

 

「……浮気は感心しないなぁ陽坊」

 

「誰が付き合ってるって?」

 

「ニハハ。

そうダ…昔、友希っちが誘拐されたその後。

黒幕と幹部がわかって陽坊が1人で突っ込んで行った事あっただロ?」

 

「…あった」

 

「その時、その黒幕、エルが作っていたギルドの中に一部裏仕事している奴らがいたナ」

 

「ああ。

それがこの前ほぼ壊滅したラフィンコフィン、だろ…。

それを今更聞いてどうする?」

 

「いや…陽坊は今でもその子達を覚えてるのかナァ…っテ」

 

「…覚えてるに決まってるだろ」

 

するとメッセージが届いた。

 

「!…ヒースクリフから…」

 

「へぇ…じゃあ次は76層を見る事が出来るんだナ」

 

「なんでクリアする前提なんだよ…」

 

「当たり前だロ?

まぁ、頑張ってくレ」

 

そう言ってアルゴはまた手をヒラヒラさせながら路地裏へ入っていった。

 

「……まぁ、友希那達にも届いてるだろうから、いいか」

 

そう呟きヒースクリフの所へ向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第55層 血盟騎士団本部 入口前

 

「……」

 

今2人の門兵に邪魔されていた。

 

「だーかーら!ヒースクリフに呼ばれてきたんだよ!」

 

「黙れ!お前のような見た目雑魚プレイヤーが呼ばれるわけないだろう!!」

 

「はぁ……めんどくさい…」

 

「ああ!?お前今なんと!!」

 

すると門の奥から誰かがやって来て

 

「その人は私の知り合いです。

通してください」

 

その人物は軽装備ではあるが防御力が高そうで、腰にレイピアを下げていた。

するとそれを聞いて門兵が

 

「!副団長様!こんな奴が一体何の用ですか!?」

 

「その人の言った通り、今度のボス戦に参加する高レベルプレイヤーの1人よ。

それもアインクラッド一の、ね」

 

「っ!!わ、わかりました!」

 

そう言って2人の門兵は通してくれた。

そして、会議室へ向かっている道中

 

「ごめんね。

さっきはあの門兵達が足止めちゃって」

 

「アスナのお陰で通れたから何の問題も無い。

それより、やっぱり…あの子達もいるのか?」

 

「?……ああ、友希那ちゃん達の事ね!

残念だけど、今日は呼ばれてないの…」

 

「!…そうか」

 

「…そういえば聞いてるよ陽菜君。

君が勝手に家を抜け出した事」

 

「!?え?嘘だろ!?」

 

もうバレたのか…頼んでおいてなんだけど、つぐみは嘘をつけない子だから、仕方ないか…

 

「ん?いや、ちょっと待て!

なんでアスナがその事知ってるんだよ」

 

「?リサから連絡がきたのよ。

『陽菜が家出、しちゃったかも』って」

 

「どうして…そういう感じになった…。

とりあえず、まだ何も返信してないよな?」

 

「へっ!?」

 

そう言うアスナの方を恐る恐る見ると、何か送信した後だった。

 

「……何してんすか」

 

「え、えっと…あっ!ほら、もう会議室に着くよ!」

 

「えぇ…」

 

納得の出来ないまま、会議室に入った。

そしてそこには黒ずくめで俺と同じ剣、エリュシデータと白い長剣の二刀を持った男が立っていた。

 

「やっぱり陽菜も呼ばれたのか」

 

「久しぶりだな。

キリトもヒースクリフに呼ばれたのか?」

 

「ああ、そうなんだ」

 

そんな会話をしていると二度目に見る半円形の机と5個の椅子の真ん中に座るヒースクリフが

 

「3人とも、そろそろいいかな?」

 

「ああ」

 

そう答えるとヒースクリフは先程、俺の目の前で起こった事を話していった。

そしてこちらが質問したり、あちらからの質問に答える、などが続いて数分後

 

「じゃあ、今回のボス戦では、あの子達全員を参加させる。

って言ってるのか?」

 

「ああ、君達はこの世界で、高レベルかつ戦闘技術もほぼトップクラスだ。

ぜひ、参加して欲しい。

攻略の日時は後日プレイヤー全員に通達する」

 

「……通達した時。

あの子達が出たくないと言ったら諦めてくれ」

 

「もちろん、彼女達の意見は聞く。

良い返事を期待しているよ」

 

「……そうか。

じゃあ、俺は先に帰る。

また、ボス戦でな2人とも」

 

「ああ、またな陽菜」

 

「じゃあね陽菜君」

 

それを聞いて扉を閉めた。

 

「…夜に帰るか…」

 

そしてしばらくぶらついてから家に帰っていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

つぐみ side

 

現時刻20時34分

 

今日は…陽菜さん帰ってこないから、大丈夫だけど。

明日帰ってきた時なんて言おう…!

と、とりあえず謝る?でも、陽菜さん、絶対友希那さんに怒られちゃうよね…

 

そう思って友希那さんの方を見ると

 

「………」

 

や、やっぱり、怒ってる?のかなぁ…。

でもなんか友希那さん、いつもと違う感じがする…

 

すると

 

「…?羽沢さん、私の顔に何かついてるかしら?」

 

「えっ!?いえ、なんでもありませんっ!

ただちょっと、友希那さんがいつもと違う感じがしたので」

 

「…私が…?」

 

「はい。

なんて言ったらいいのかわからないんですが、何かどこかで見たような感じがしたので…」

 

「?」

 

「あっ!そうだ!

陽菜さんが悩んでる時も、そんな顔をしてました」

 

「!……」

 

友希那さんは目を逸らしてしまった。

そして、また何か考えていた。

すると隣の廊下からリサさんが出てきた。

紗夜さんと日菜ちゃんの誕生日の準備を終えたようだった。

 

「リサさん!」

 

思わず呼んでしまった。

するとリサさんはそれに反応して

 

「わぁっ!つぐみどうしたの?」

 

「あっ、えっと…あのお二人の誕生日ケーキなんですけど、ここがどうしても作れなくて…」

 

「どれどれ?

ん〜…そっか、わかった☆

これは料理スキルとちょっとしたコツが必要だから、ちょっとでも足りてないとミスしちゃう確率上がっちゃうんだ。

ここはアタシがやるから、やり方見ててよ♪」

 

「わ、わかりました!」

 

「よ〜しっ☆あの2人の為に頑張っちゃうぞー!」

 

そう言ってリサさんは手際よく一瞬で終わらせてしまった。

すると終わると同時に

 

ギィ、バタン!

 

「「!!」」

 

「あれ?今、玄関開いた?」

 

「えっ!?でも、みんな家に居ますよ?」

 

「ま、まさか…幽霊…じゃないよね…?」

 

リサさんがものすごい速さで私の背後に回って、後ろで怯えていた。

 

「つ、つぐみ、い、一緒に見に行かない?」

 

「えっ…?」

 

「だ、だって怖いじゃん…!

もし、本物の幽霊だったら……」

 

「ええ!?怖いこと言わないでくださいよリサさん!」

 

そんなやり取りをしていると…

 

 

 

 

つぐみ side out

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

友希那 side

 

「……」

 

昨日は…少し言い過ぎたかしら…

…いえ、そんな事はないわ。

ああでも言わないと如月は、絶対に気づかないもの。

それに、如月には自分で思い出してもらわないと…

 

ソファーに座りながら考えていると視線を感じ、見てみると羽沢さんがこちらを見ていた。

 

「?私の顔に何かついてるかしら?」

 

そう聞くと羽沢さんは焦ったように

 

「えっ!?いえ、なんでもありませんっ!

ただちょっと、友希那さんがいつもと違う感じがしたので」

 

「…私が…?」

 

「はい。

なんて言ったらいいのかわからないんですが、何かどこかで見たような感じがしたので…」

 

「?」

 

すると少し悩んだ後、何か思い出したように

 

「あっ!そうだ!

陽菜さんが悩んでる時も、そんな顔をしてました」

 

「!……」

 

……そう……如月も、少しは考えてくれているのね…

でも、羽沢さんにあんな頼み事をしたのだから、明日帰ってきたら反省させる必要があるわね

 

そう思っていると玄関が開いて、閉まる音がした。

 

?こんな時間に誰かしら…

 

するとリサが

 

「ま、まさか…幽霊…じゃないよね…?」

 

そう言うとリサはすぐさま羽沢さんの背後に回って、後ろで怯えていた。

 

「つ、つぐみ、い、一緒に見に行かない?」

 

「えっ…?」

 

「だ、だって怖いじゃん…!

もし、本物の幽霊だったら……」

 

「ええ!?怖いこと言わないでくださいよリサさん!」

 

そんな会話を聞いて

 

「…私が行くわ」

 

そういえば、リサは怖いものが苦手だったわね

 

そう思うとリサが

 

「えっ!?友希那、大丈夫?幽霊怖くない?」

 

「…そんなに心配しなくても大丈夫よ。

リサと羽沢さんはケーキの方を見ていて」

 

「わ、わかりました!」

 

「友希那、気をつけてねっ!」

 

「ええ」

 

そうして玄関に向かって行くと

 

「!如月…!?」

 

「あ…」

 

「……、あ…、とは何?」

 

「えっと…ごめんなさい」

 

「それは……どういう意味での謝罪かしら?」

 

「昨日の事なんだけど…やっぱり思い出せなくて…」

 

「…そう…」

 

少し…落ち込んだ。

すると如月は

 

「でも…必ず思い出す。

その時は、昨日の夜の事を謝らせて欲しい…」

 

「…わかったわ」

 

「…ありがとう」

 

「……」

 

「……」

 

「…リサ達が、紗夜と日菜のバースデーケーキを作っているわ。

如月も、一緒に手伝って」

 

「!あ、ああ…わかった」

 

そう言って如月を連れてリサ達の所に行った。

 

 

 

 

友希那 side out

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

友希那に連れられ、キッチンに着くと

 

「は、陽菜っ!?」

 

「は、陽菜さん…!?」

 

1人は驚き、もう片方は少し申し訳なさそうにしていた。

すると

 

「…あの…陽菜さん。

すみません、私皆さんに陽菜さんの事話せなくて…」

 

「いや、俺の方こそごめん。

つぐみにあんな事させて、もう大丈夫だから」

 

「!はいっ!」

 

「それで、何か手伝う事あるか?」

 

「あっ!それなら陽菜にはこれ運んで欲しいんだ〜☆」

 

そう言ってリサが指差したのは紗夜と日菜のバースデーケーキといろんな種類があるケーキだった。

 

「おお…これ全部2人で作ったのか!?」

 

「いえ!沙綾さんと麻弥さん、それに美咲さんも手伝ってくれました!」

 

「沙綾はわかるけど、麻弥と美咲が作るって意外だな…」

 

「そんな事ないよ?

あの2人、結構料理スキル上げてたし、ケーキ作るの上手かったんだよね〜♪」

 

「はいっ!このいろんな種類のケーキだって彩綾さんと麻弥さんが作って、美咲さんとリサさんがトッピングしてくれたんですっ♪」

 

「これ、店と同じくらい上手いな…

とりあえず、持っていくか」

 

するとリサが何か思い出したように

 

「あっ!そうだ♪

陽菜、後で紗夜と日菜にサプライズしたいからさ。

どうにか2人を少しの間引き止めておいてよっ♪

終わったら夜の9時に、一階ダイニングに連れてきてくれる?」

 

「…無茶な事を…」

 

「お願い陽菜っ!」

 

「…わかった」

 

そして、とりあえずいつものダイニングに向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

扉を指でノックして、開けてもらった。

すると

 

「陽菜さん!?」

 

そこはかなり広いダイニングの割に、蘭以外誰もいなかった。

 

「良かった…蘭だった」

 

そして人が飛んでこない事に安心して、つい呟いてしまった。

 

「?何言ってるんですか?」

 

「いや、何でもない。

それより、つぐみにあんな事頼んで悪かった」

 

「…なんであたしに言うんですか。

それ、ちゃんと本人に言いました?」

 

「ああ、ついさっき謝ったばかりだ」

 

「まぁ、わかってるならいいけど…。

とりあえず、それ、重そうだから手伝ってあげる」

 

そう言って蘭は俺の右腕に乗った皿を持ってくれた。

 

「ありがとう、助かる」

 

「別に…4つも皿持ってて落としそうだったから、手伝っただけだし……」

 

それでも充分助かってるんだよなぁ

 

そう思いながらテーブルの上に2つの皿を置き、リサに頼まれた2人の元に向かおうとして扉を開けると

 

「陽菜さん!!」

 

「うわっ!?」

 

そこにいたのはエプロン姿のつぐみだった。

すると

 

「あ、あの…このピアスですけど…」

 

そう言ってつぐみが渡してきたのは、俺がつぐみに渡してくれと頼んだ紗夜と日菜のピアスだった。

 

「あれ?まだ渡してなかったのか」

 

「はい…やっぱり私は陽菜さんがあの2人に直接渡すべきだと思います!」

 

「…わかった、直接渡す」

 

そう言うと、つぐみからピアスを受け取った。

 

みんなにはボス戦の事、また今度伝えよう

 

そう思って向かったが、行く途中でみんなにばったり会い、同じような反応をされて、色々と説明…言い訳をして、ミニお説教を受けた。

そして、なんとか切り抜けて2人の元へ向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2階 テラス

 

少し歩き周り、やっと紗夜を見つけた。

 

「あ、いた、紗夜!」

 

そう呼びかけると

 

「如月さん!?迷宮区に行ったんじゃないんですか?」

 

「えっとまぁ…それは後で話すとして、今いいか?」

 

「?構いませんけど…」

 

「じゃあ、これ」

 

短く言って、アクアマリンが埋め込まれたピアスを渡した。

 

「!これは…」

 

そう驚く紗夜に

 

「いつもギターを頑張ってる紗夜には、これを渡そうと思って」

 

「あ、ありがとう…ございます…」

 

「…どうかしたか?」

 

「!い、いえ!

こんな綺麗なピアスは初めて見たものですから…少し驚いてしまって…」

 

「ちなみに、それはどこにも売ってない。

つまり、世界で一つの品だ」

 

「えっ!?」

 

今日はやたらと紗夜の驚いた顔が見れるな

 

そう思いながら話を続けた。

 

「この前、俺のアクセサリー製作スキルで作ったんだ。

意外と楽しかったなぁ…」

 

そんな事を最後に呟くと紗夜が

 

「本当に、ありがとうございます如月さん」

 

「…ああ。

紗夜も誕生日おめでとう」

 

「はい」

 

「ところで、日菜はどこにいるか知らないか?」

 

「!もしかして日菜にも作ってくれたんですか?」

 

「?もちろん作った」

 

「何から何まで、本当に優しいですね如月さんは…。

私には…そんな事出来ません…」

 

「?何言ってんだ。

紗夜だって日菜の為にわざわざ街まで歩いて行っただろ」

 

「…そう…でしょうか」

 

少し安っぽい事を言ったのだが、余計に悩ませてしまったようだった。

なので

 

「……紗夜に一つ教えておく」

 

「?」

 

「『努力し続ければ、いつしか才能を持つ者に匹敵する』

これ、俺の知り合いの実体験。

覚えておくといいぞ」

 

そう言うと紗夜は少し驚いた後に

 

「ふふ…その言葉、覚えておきますね」

 

そう、紗夜は微笑みながら言った。

 

「ああ」

 

「日菜なら先程、白鷺さんの所へ行く、と言って3階に行きました」

 

「そうか、わかった」

 

そう言って3階へ向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

3階 廊下

 

千聖の部屋に着き、ノックをした。

すると中から『どうぞ』と元気な声が聞こえたので開けようとし、ドアノブを回して少し開いた所で

 

「待って日菜ちゃん!!」

 

「!?」

 

そんな声が聞こえてきた。

すると

 

「ご、ごめんなさい!

少し待ってて貰えるかしら」

 

そう言われたので黙って待つと数秒で

 

「どうぞ!」

 

そして扉を開けると

 

「!陽菜!?」

 

「あっ!陽菜くんだっ!!」

 

「てい」

 

そう言いながら飛びつこうとする日菜にチョップを繰り出した。

そして

 

「痛ーい…」

 

「いや、日菜の飛びつきってレベルも上がってるから、最悪の場合俺が吹き飛ばされる可能性がな…」

 

「ひど〜い!

でも、なんで陽菜くんここにいるの?」

 

「あー…ちょっと暇で帰ってきたんだ」

 

「じゃあ、あたし達と遊ぼっ!」

 

「嫌だよ。

それより、千聖、なんでさっき入ったらダメだったんだ?」

 

「それは……」

 

何故か千聖は口ごもってしまった。

すると日菜が

 

「あははっ☆

千聖ちゃん、さっきまでここで着替えて」

 

「日菜ちゃん!」

 

千聖が日菜の言おうとしてたことを必死に止めた。

しかし、俺はよく聞こえなかったので

 

「さっきまで千聖は何をして」

 

「陽菜?」

 

目元が暗い笑顔を見せる千聖。

 

「えっ…」

 

すると日菜が

 

「あははっ♪

陽菜くん鈍感っ!」

 

まさか日菜に鈍感と言われる日が来るとは…

 

若干落ち込んだ後に用事を思い出し

 

「あっ、千聖。

日菜をちょっとだけ借りてもいいか?」

 

「?良いけれど…どうして?」

 

「まぁ…あれだ。

リサの頼み事だ」

 

すると千聖は一瞬考えそうになったが、すぐに思い出したように

 

「…!

わかったわ。

日菜ちゃん、借りていいわよ」

 

「じゃあ、とりあえず廊下で話すか日菜」

 

「んー?」

 

そして廊下にある休憩場に行き

 

「日菜、これ誕生日プレゼントだ」

 

そう言ってアイテムストレージからオブシディアンが埋め込まれたピアスを取り出して渡した。

 

「わぁ…!!

やったぁ!!陽菜くんからのプレゼントだぁ!!」

 

ぴょんぴょんしながら喜ぶ日菜の姿を見て

 

やっぱり、まだ子供だなぁ…

 

そう思った。

すると

 

「ねぇねぇ!!

もしかしておねーちゃんにも作ったの?

それってお揃い?」

 

「鋭いな…。

まぁ、使ってる宝石とか違うけど、ピアスって部分は一緒だ」

 

「やったぁ!!陽菜くんありがとっ♪

すっごく、るんっ♪って来たよっ!!」

 

「そうか、良かったな。

誕生日おめでとう日菜」

 

「うんっ!!」

 

頷き、日菜は満開の笑顔になった。

すると階段からつぐみが来て

 

「あっ!陽菜さん日菜さん!

そろそろご飯出来ますよー」

 

「はーい!

陽菜くん行こっ♪」

 

「ちょ、引っ張るなよ」

 

「いいからいいから♪

千聖ちゃんも一緒行こー!」

 

そう言いながら日菜は勢いよく扉を開けた。

そして千聖は

 

「わかったわ。

でも日菜ちゃん、勢いよく扉を開けるのはやめましょう…」

 

「はーい!」

 

返事をすると同時に日菜は千聖の手を取り

 

「きゃあ!階段で引っ張らないで日菜ちゃん!」

 

「あはは☆」

 

下の階へと駆けていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一階 廊下

 

そしてダイニングに向かう途中で紗夜に会って、そのまま向かっていると

 

「あら?日菜ちゃん、そのピアス似合っているわね」

 

どうやら日菜は俺が渡したプレゼントをもう付けてるようだ。

 

「えへへー☆

陽菜くんからの誕生日プレゼント!

おねーちゃんとお揃いなんだー♪」

 

「へぇ…陽菜って意外と良い物を渡すわね」

 

それを聞いて

 

「どういう意味だよ…」

 

「なんでもないわよ」

 

千聖は笑顔でそう言った。

 

この笑顔はなんかあるな…

 

そう思ったが、気にしなかった。

すると千聖が俺に小声で

 

「陽菜、ダイニングにはあの2人を先に入らせる手筈なの。

私達はもう一つの扉から入るわよ」

 

随分と手の込んだ事で…

 

「わかった」

 

短く返し、2人に

 

「あっ、俺と千聖は用があるから先に入ってていいぞ」

 

「?用でしたら私達も手伝います」

 

「いや、紗夜達は今日誕生日だから、先にダイニングに入っていいぞ」

 

「ですが…」

 

「じゃあまた今度、何かあればその時頼む。

今日は誕生日に甘えておいた方がいいぞ」

 

「…わかりました。

では、お先に」

 

「あっ、待っておねーちゃん!」

 

そして2人はダイニングに向かっていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

千聖 side

 

別ルートでダイニングに向っている途中でさっきの事を思い出し

 

「…さっきはどうなるかと思ったわ」

 

そう言うと陽菜は

 

「?なんで?」

 

「話を切り込むにしても、他にやり方があるでしょう…」

 

「俺は最短ルートを選んだだけだ」

 

「そう」

 

すると陽菜は何か思いついたように

 

「そういえば、パスパレのみんなはなんでこのゲームに?」

 

「あら、陽菜はテレビを見ない方なの?」

 

「ほとんど興味ないから見てないな…」

 

陽菜は現実世界での情報はどうしてるのかしら…

 

「…まぁいいわ。

私達はあるテレビ番組に呼ばれて、ナーヴギアを使った最新ゲーム『ソードアート・オンライン』がどんな物なのか、そのテレビ番組初の放送をしようとしたわ。

でも…」

 

すると陽菜は言葉を繋げるように

 

「楽しいそうなゲームはデスゲームになってこうして囚われてしまった、か…」

 

「ええ…。

…仕事を受けた事を初めて後悔しているわ。

あの時私が断っていれば、みんなを巻き込む事は無かったのに、って…」

 

今でも…みんなの戦っている姿を見てそう思う時はある。

すると

 

「それって、千聖が気にやむ事じゃないだろ」

 

「え?」

 

「大体、このゲームを作った茅場晶彦と、ナーヴギアの危険に気づいているのに何もしなかった奴が悪い」

 

その言い方はまるで誰かを責めているかのように聞こえた。

 

「陽菜…?」

 

「そろそろ着く頃だ」

 

「ええ…わかったわ」

 

そしてダイニングに入っていった。

 

 

 

 

千聖 side out

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

中に入るとリサにクラッカーを渡されて、もうすぐ来るとの事だった。

すると扉が開き、紗夜と日菜が現れると同時に

 

『誕生日おめでとう!!!』

 

クラッカーを鳴らした。

 

「紗夜と日菜、誕生日おめでとっ!」

 

「!なるほど…そういう事でしたか。

ありがとうございます」

 

「ありがとリサちー!!」

 

そしてみんなで食べ始めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

食べ始めて数分後、俺は1人でゆっくりしていると

 

「陽菜くんっ」

 

そう呼びかけながら肩を、ぽんっ、と叩いたのは彩だった。

 

「どうした?」

 

「陽菜くんちゃんと楽しんでる?」

 

「もちろん。

こんなに楽しいと思ったのは、25人のライブを手伝った時以来…だな」

 

「うんっ!あの時すっごく楽しかったね!

まりなさん元気にしてるかなっ」

 

「絶対元気にしてる。

それに、みんなの事心配してるだろうな」

 

「…また、みんなで一緒にライブできる…かな?」

 

「…できる。

また向こうの世界でみんなを笑顔……に…」

 

あ、れ…?

確か…前に一度だけ…こんな事…

 

すると

 

「陽菜くん?」

 

「っ!あ、ああ。

…大丈夫だ、最高のライブをみんなが出来るように、俺も手伝うから。

だから、安心していいぞ」

 

「陽菜くんがそういうなら安心だねっ♪」

 

そんな会話をしていると香澄が来て

 

「陽菜と彩先輩もこっち来てよっ♪」

 

「俺だけ先輩呼びじゃないのはなんでだ?」

 

「あははっ、もしかして陽菜くん。

先輩って感じしてない?」

 

「陽菜はお父さんだよっ!」

 

「俺まだ19だと思うんだよね…」

 

そしてみんなの所に向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

かなりの時間が経って誕生日パーティーが終わり、香澄とはぐみ、こころがだだっ広いダイニングでそのままはしゃいで寝てしまい、みんなはしゃぎ疲れてか、ほとんどが3人につられるように寝てしまった。

すると

 

「すみません……わたしも少し……眠たくなってきました……」

 

「後の片付けはやっておくから、燐子も寝てていいぞ。

各バンドの保護者達も寝てるみたいだから」

 

「はい……ありがとうございます……陽菜さん…」

 

そしてそのまま寝かせてあげ、皿を全部ストレージに入れてキッチンに向かった。

その道中

 

「……」

 

毛布くらい被せたらよかった…

 

そう後悔したが、もうキッチンに着いてしまったので皿を洗った。

そしてしばらく掛かったが洗い終わり、ソファーに座った。

 

「……」

 

さっき…俺は彩に何を言おうとしたんだ?

いや、違うな…

あの言葉はもっと前に、俺が…誰かに……

 

「……あっ…そうか」

 

そうだ……思い出した

あの言葉は、俺が友希那に…いや、Roseliaに…

 

答えにたどり着いた。

そう思った瞬間に、後ろから

 

「あら、陽菜じゃないっ!」

 

「!!こころ…。

悪い、起こしたか?」

 

「いいえ!あたしが起きた時はみんな寝てて静かだったわ!」

 

「そうか。

じゃあこころは、声のボリューム落とそうか」

 

「?どうして?」

 

「こころは寝てる時、どんな気持ちだった?」

 

「そうね。

夢の中は楽しかったと思うわ!」

 

「こころはボーカルだから、その声でみんな起きちゃうかもしれない」

 

「わかったわ!」

 

笑顔でそう返された。

すると

 

「そういえば、さっき起きた時にこんなメールが届いたわね!」

 

声を落としながらこころは言った。

 

「メール?」

 

「これよっ!」

 

そう言うとこころは隣に座って、メールを見せてきた。

そしてそれは

 

「!第75層…ボス攻略について……!?」

 

そんな…いくらなんでも早すぎる

まだ1日も経ってないぞ…

 

そんな思考を巡らせていると肩に何か重量がかかった。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

「ん?」

 

横を見てみると、こころがいつの間にかパジャマに着替えて、俺に寄りかかり肩に頭を乗せてぐっすり寝ていた。

 

「……全く…風邪ひくぞ…」

 

ゆっくりとこころを横にしてアイテムストレージから毛布を出して被せた後、ダイニングにいるみんなにも毛布を被せた。

 

「………はぁ…」

 

ため息をついた後に自分の部屋に戻っていった。




本当、こんな物をお気に入りしてくださりありがとうございます!

KIRAMERO様 飛翔翼刃様 霧雨隼人様 赤い龍ポン酢
藤恭様
黒き太刀風の二刀流霧夜様 反逆の堕天使ルシファー様 kuronosu127様
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