退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第13話 死ぬ気で

翌日 13時20分

第75層 コリニア市 ゲート広場

 

「へぇ……結構集まったな」

 

すでに一見して高レベルのプレイヤーが集まっていた。

数は俺達含めて60人ほどだった。

すると

 

「よう!」

 

景気の良い声で呼びかけられ、その声の方角を見ると

 

「クライン!?それにエギルも…2人もボス戦に参加するのか?」

 

「にしても、相っ変わらず女の子ばっかり引きつけやがって……。

見せつけか!この野郎!」

 

「違うから、俺だってたまには1人でいる時も……」

 

あんまり無いな…

 

「あんまり無いな…って顔しやがって!!」

 

「エスパーかお前は!!」

 

そんな会話をしていると向こうから黒ずくめとそれとは正反対の白い装備をした男女が近づいてきた。

 

「久しぶりだな」

 

キリトがそう言うと同時に隣にいたアスナが

 

「わぁ!!みんなも今回のボス戦参加するの?」

 

そう言いながらアスナは友希那達の所へ行った。

そしてこっちは

 

「おお!キリの字じゃねぇか!!」

 

「なんだ…陽菜は知ってたけど、クラインとエギルも参加するのか」

 

「なんだとはなんだ!

大体なぁ俺は…」

 

などの男同士の会話を聞きながら、もう片方も見てみると

 

「アスナ!久しぶり♪元気にしてた?」

 

「うんっ♪リサ達も元気そうで良かったよー。

今日は頑張ろうねっ!」

 

「うんっ!アスナも絶対死んじゃダメだからね!」

 

「私は死ねないよ。

私が死んだらキリト君が死んじゃうから」

 

「?……あっ!もしかして〜、2人付き合った?」

 

「!な、なんでわかったの!?」

 

「アスナの様子見てたらすぐわかったよ♪

青春してるねアスナ〜☆」

 

「もー!茶化さないでよリサ。

それに!陽菜君だってもうこの中の誰かと付き合ってるでしょ?」

 

アスナがこちらを向くと同時に話を振ってきた。

 

「?付き合ってないけど?」

 

「えっ!?

陽菜君、こんなに女の子がいて誰とも付き合ってないの?」

 

「…考えてみてくれ。

俺がこの中の一人と付き合ったら、まず間違いなく俺はファンの方々に殺されるな」

 

「た、確かに…みんなすごい有名人だもんね」

 

アスナがそう言うとリサが

 

「そんな事付き合った人が説明してあげれば問題ない、って言ってるんだけどね〜」

 

「いや〜…でもどうだろう、陽菜君はキリト君に似てる部分あるから、難しいかもよ?」

 

「おーい、アスナさーん?聞こえてますよー」

 

するとゲートから新たに数人が現れた。

そしてそれは真紅の装備に身を包み、巨大な十字盾を持ったヒースクリフとその後ろに精鋭がいた。

そしてその聖騎士はキリトに何か言ってから全体に聞こえるくらいの声で

 

「では、ボス部屋前までのコリドーを開く」

 

そう言ってヒースクリフが腰ポーチから取り出したのは濃紺色の転移結晶だった。

それを見た周囲のプレイヤーから「おぉ…」という驚きの声が聞こえてきた。

そして

 

「コリドー・オープン!」

 

そういうとクリスタルは砕け散ってからヒースクリフの目の前に青色で揺らめく光の渦が出現した。

すると沙綾が

 

「あれ?あの結晶って、家買う前に陽菜さんが『ちょっと美味しい店に行ってくる』って言って使ってた結晶ですよね?」

 

「そうだな。

まぁ、本来ならああやってダンジョンに使うんだけど…」

 

「何やってるんですか…」

 

「あはは…その時はお腹空いてたんだ許してくれ」

 

そんな会話をして、渦の中に入って行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

第75層 ボス部屋前

 

少しの間ヒースクリフが話をして、ついにギィィ…という重々しく緊張感のある音と共に扉が開かれた。

そしていざ入り込もうとするとキリトが

 

「死ぬなよ」

 

「わかってるよ。

キリトも守るべきものをしっかり守ってやれよ」

 

「!ああ…!」

 

そしてヒースクリフが

 

「戦闘、開始!!」

 

そう言うと同時にヒースクリフ率いる血盟騎士団が中に入っていき、俺達もそれに続いてかなり広いドームの中に入って行った。

しかしボスの姿、影すら見えなかった。

そして、1秒経って行くごとに時間が長く感じた。

そんな中、耳をすませていると

 

……カサカサッ

 

「「上だ(よ)!!!」」

 

俺とアスナの声が同時に鋭く叫んだ。

上を見ると、ドームの天井にそれはいた。

 

「デカ……」

 

人の骸骨のような物で出来ているが、ムカデの形をして前足の左右には大鎌が二つ付いており、ドクロの顔に青い眼窩があって、体長は見ただけでも数十メートルはあるだろう。

ボスの頭の上に黄色カーソルが表示され、同時に名前も表示された。

そしてその名を誰かが呟いた。

 

「《The Skullreaper》……!!!」

 

するとボスは不意を突くようにパーティの上で百はありそうな足を全て離した。

それに反応してヒースクリフが

 

「固まるな!!距離を取れ!!!」

 

空気を切り裂きそうな声で呼びかけられ、ボスの下にいたプレイヤーは即座に反応して落下地点から離れた。

しかし、逃げ遅れた者が3人おり、無残にも落下してきたボスの、2、3メートルはある大鎌の餌食となって、そのプレイヤーのHPバーが消し飛んだ。

そして空中で連続の破裂音と共に死んでいった。

 

「っ!?一撃……!?

それになんで……HPバーが3本しかないんだ…」

 

そんな考えを中断させると同時に、ボスは流れるように次の獲物へと鎌を突き刺した。

 

「!」

 

しかし、それはヒースクリフの盾によってプレイヤーは守られた。

だが、それに安心してか、そのプレイヤーは即座に動こうとしなかった為、もう片方の大鎌で身体を切り裂かれ、結晶のかけらとなった。

そしてボスはヒースクリフを避けてこちらに向かってきた。

 

「っ!!」

 

左から繰り出される大鎌をジャンプして避け、次にくる右からの大鎌をソードスキル『ソニックリープ』で弾こうとしたが、そのまま鍔迫り合いに持ち込まれた。

 

ソードスキルがキャンセルされれば俺は確実に死ぬ

だから、このまま一気に…!!

 

「っ…せぁ!!!」

 

激しい火花を散らして大鎌を弾いた。

そして、ボスが揺らいだその隙を見逃さず巴とあこ、燐子がそれぞれソードスキルをボスの背中に撃ち込んだ。

 

HPバーは1割も削れてなかったけど

これなら…

 

「みんな!!俺が鎌を相手する!!

全員は側面から攻撃してくれ!!!

絶対に尻尾付近には近づくなよ!!!」

 

その叫びに反応するかのようにボスはこちらを向いた。

 

「友希那!!」

 

「ええ」

 

後ろにいた友希那は落ち着いた様子でウィンドウを操作した。

すると

 

「『歌姫』」

 

その声が聞こえると共に友希那の歌が始まり、ボス部屋のあらゆる場所から金色の光の粒子がふわりふわりと浮き上がってきた。

するとそれに触れた瞬間、視界の左上にあるHPバーの下にステータス全ブーストのアイコンと攻撃無効のアイコンが表示された。

 

しかも、MAXか…!

攻撃無効は一回だけだけど、それでも充分過ぎる

 

そう思っているとボスの左右の大鎌が上から同時に振ってきた。

そしてそのボスの大鎌を軸足で回転しブーストをかけてソードスキル『ホリゾンタル』で弾き飛ばした。

友希那のユニークスキルのおかげで筋力値までもがMAXまで上がっていた。

それを見て、ボスと真正面から向き合って黒く光沢があるエリュシデータを右手に、真っ直ぐボスの元へ歩いていった。

 

「さて…と…始めるか」

 

と呟きながらダッシュすると同時にボスの大鎌が右から薙ぎ払おうとしてきたが、それをヒースクリフが盾で防いだ。

そしてそのまま、ボスに向かってソードスキル『ヴォーパルストライク』を撃ち込んだ後、体術スキル『弦月』で顔を蹴り上げ、剣を薄緑に発光させてから、顔に3つの爪跡を刻み込み、もう一度体術スキルで、一回転し顔にブーストをかけた蹴りを入れた。

すると

 

「「スイッチ!!」」

 

その声が聞こえたと同時に、バックステップで後ろに下がるとピンクと紫の軌跡が横を通過し、ボスの前面に複数のピンクと紫の斬撃を繰り出して、ボスを後ろに退かせた。

そしてそれは

 

「!イヴ!?彩!?」

 

「ハルナさんだけに、ボスの相手をさせるわけにはいきません!」

 

「陽菜くん、私達も手伝わせて!!」

 

「…わかった…!

片方の鎌は俺がなんとかする。

2人は左の鎌を頼む!」

 

「「はいっ!」」

 

そして数分間、攻撃をし続けてボスのHPが5割を切った所で、音が聞こえなくなった。

 

「!」

 

しまった!『歌姫』の効果が切れたか…!

 

そう思い、ボスの大鎌の根元を攻撃して弾こうとしたが、ボスが友希那に目を光らせて向かって行ったのを見て敏捷値MAXで友希那の方へ向かった。

 

「友希那っ!」

 

友希那に手を伸ばし、腕をかすめたがギリギリのところでボスの突き刺し攻撃を回避した。

 

「…っ…危なかった…。

友希那は武器持ってないからなぁ…」

 

「ごめんなさい…。

次に使えるのは4分後ね」

 

「でも、効果は後30秒続いてる。

これだけあれば、ボスのHPバー2本に減らせる」

 

「できるの…?」

 

「まぁ……ゴリ押し」

 

「えっ!?」

 

そんな会話をしているとボスがもう一度突き刺し攻撃を放ってきた。

 

「ちょっと失礼」

 

そう言って友希那を肩に持ち上げてから左に避け、相手の懐に入ると同時に剣を青白く発光させて、ボスの首元に向かってソードスキル『バーチカルスクエア』を放った。

すると二つの緑に発光したハルバードでの攻撃が轟音と共にボスの頭に入り、HPバーが2割まで減った。

 

「おお……さすが、あことひまり。

なんか一瞬、ボスが可哀想に見えた…」

 

「そんな事より、早く下ろしてちょうだい」

 

「ハイハイ」

 

そんな事を呟いて友希那を下ろしてから約50分後

長い激戦の中、数人のプレイヤーは死の破片を撒き散らしボスはキリト達の方へ向かって行った。

しかし、キリトとアスナ、ヒースクリフがソードスキルを放ち、怯んだ後ヒースクリフの命令と共に全員が総攻撃をしかけ、HPがついに0になった。

するとボスは

 

…カタカタッ…カタカタッ…

 

と骨を鳴らしていた。

そして、鳴らしたままジッとして動かない。

それに反応して1人のプレイヤーが

 

「まだ死んでねぇなら、今のうちにやっちまえ!!」

 

そう叫んだ。

そして、プレイヤーが近づくとボスは白く発光して結晶のかけらとなった。

 

「……やったのか……?」

 

「…ボスの姿は見えないって事は……」

 

『いよっしゃーーー!!!!!』

 

全プレイヤーが喜んだ。

しかし、何かが足りない。

いつも攻略すれば、ウィンドウが表示され、報酬を受け取る。

でも、それ以前にも何かがあった。

それは…

 

「!『Congratulations』」

 

その文字が表示されない事に気がついた。

そしてそれは、まだ戦いが続いている事を指していた。

 

「みんな!!まだ戦いは」

 

「陽菜君後ろだ!!!」

 

ヒースクリフの鋭い声が聞こえたと同時に

 

…ジャリン

 

その音が背後から聞こえ、振り向かずに隣にいた友希那を引っ張り前方2メートル程飛んだ。

それと同時に、何か突き刺さる甲高い金属音が後ろで鳴り響いた。

 

「!…友希那……下がれ……!」

 

これはマズイ…

 

振り返って見て瞬時にそう理解した。

なぜならそこには、3体のボスモンスターが現れたからだ。

俺から見て右に

第一層ボス《イルファング・ザ・コボルトロード》

左に

第74層ボス《ザ・グリームアイズ》

そして真ん中には、ボロボロの黒いローブをまとい、フードと袖口からは、濃い闇のような物を滲み出している。

そして黄色カーソルと共に表示された名前は…

 

「《ザ・フェイタル・サイス》…!」

 

先程の金属音を鳴らしたのはおそらく、この死神の鎌であろう。

 

「……さっきの鎌よりデカイな」

 

すると死神は血管のある赤い目をギョロつかせ、こちらを見下ろし、死神は血がポタリポタリと落ちた赤黒い大鎌を右手に取った。

そして死神の攻撃が来ると思うと左右にいた悪魔と王が大きくジャンプして後方にいた攻略組に飛んで行った。

 

「っ!…友希那『歌スキル』いけるか?」

 

「いつでもいけるわ」

 

「じゃあ頼んだ!」

 

そう言うと同時に死神の方へと走って行った。

それと同時に死神が反応して鎌を振りかざし振り下ろした。

それを防御ソードスキル『スピニングシールド』で弾いたが、反動が大き過ぎるあまりボスよりも退いてしまった。

すると死神はすぐに体制を整え、もう一度鎌で薙ぎ払った。

 

「…っ!!」

 

力を込めて体術スキル『弦月』で何もない宙を蹴って、後ろに一回転し紙一重で鎌を避けた後もなお迫り続ける鎌の連続攻撃を回避し、剣で軌道を逸らした。

 

「っ!」

 

そして、最後の一撃を左に避けて懐に入り、ソードスキル『ホリゾンタルスクエア』を発動させ、両腕、胴に2撃与えて周囲に大きな青白い正方形を描いた。

しかし

 

「……!!?」

 

ボスのHPバーは1本だけだったが、その1割しか削れていなかった。

 

そうか、コイツら一体一体雑魚じゃない…!!

 

そう理解した瞬間に宙にとどまっていた俺はボスの心臓部に向け体術スキル『エンブレイサー』を穿った。

それでもボスのHPは8割を切らない。

 

だったら…!!

 

剣をオレンジ色に発光させ、混合スキル『メテオブレイク』をもう一度心臓部に向けて撃ち込んでいった。

カスタマイズが入った9撃全て心臓に撃ち込み、ボスのHPバーを見るとようやく7割まで削れたが、黄色には陥っていなかった。

 

「……」

 

友希那に付与してもらった攻撃力アップでもアレだけしか削れないのか…

 

そう思って後ろに下がると死神は回転し始めた。

死神の鎌の切っ先が回転しながら迫ってきた。

それを見て回避するのは不可能と瞬時に判断し、即座にソードスキル『ヴォーパルストライク』を轟音と共に死神の回転する刃に向けて穿った。

 

[ごぉぉぉぉぉぉ……]

 

ボスの初めての声、それに合わせるように

 

「せぁ!!!」

 

その直後

 

「っ!?」

 

凄まじい金属音、血の代わりに出る赤いライトエフェクト、重い衝撃、赤い閃光。

 

「いっ……!?」

 

一瞬にして俺のHPバーが残り2割まで持っていかれた。

そして、地面に身体を打ち付けられた後、ボスの方を見るとフードの隙間から瘴気を流しながらゆっくりとこちらに近づいている。

すると歌が鳴り止んだと同時に友希那が駆け寄って来た。

 

「!…友希那…」

 

「如月、無事?」

 

「大丈夫だ……それより早く」

 

刹那、紫と青、白とオレンジの四つの色が、ボスの腹部を同時に突き刺して吹き飛ばした。

 

「「!」」

 

そして、それは

 

「よ、良かった……間に合った……」

 

「全く、1人でボスを相手するなんて、いくらなんでも危険すぎますよ。

如月さん」

 

「リサ姉!今のすっごいカッコ良かったよね!!」

 

「うんっ☆カッコ良かったよあこ♪」

 

「陽菜さんは…回復をしてください……!

それまで……私達が…持ちこたえます…!」

 

「っ!…あいつの攻撃パターンはまだ読めてない!

だから」

 

するとその言葉を遮って友希那が

 

「少しはみんなを信じてみたらどう?

守られるだけの存在じゃないわ」

 

「…だけど」

 

「如月もリサ達が『守られるだけの存在』じゃ嫌だから、ここまで育てたんでしょう。

なら、あなたが信じなくてどうするのよ」

 

「!…はぁ、わかった。

みんな、30秒だけ時間を稼いでくれ!」

 

『はい!』

 

そして急いでハイ・ポーションを飲み、回復するのを待った。

数秒でドンドン回復していき、HPバーがすぐに8割くらい回復した時点で死神のHPバーは黄色に陥り、リサの一撃で赤色になった。

 

[ごぉぉぉぉぉぉ!!!]

 

赤色になったからか、死神は雄叫びを上げ、鎌を回転させて鎌を赤色に発光させた。

 

「っ!?ソードスキル!?」

 

今まで片手剣や大剣、刀などを持ったボスモンスターが使っているところは見た事がある。

ただし、それはプレイヤーも装備できる武器であり、プレイヤーも使えるソードスキルだった。

しかし、鎌を使うソードスキルは初めてみる。

つまりそれは、どんな攻撃なのか、何回攻撃するのか、それすらわからない事を示していた。

 

「下がれ!!」

 

そう叫びながら、ダッシュすると隣にヒースクリフがついてきた。

 

「鎌を弾くぞ!!」

 

そう言って2人一斉に剣をそれぞれ違う鮮やかな色に発光させて黒い鎌にめがけてソードスキルを打ち払った。

 

「スイッチ!!」

 

「行くよ燐子♪」

 

「はい…!」

 

2人の息ピッタリな青色の光る一線が死神の両肩を切り落とした。

そして、その瞬間を見逃さず、俺はすぐにボスとの距離を詰め、剣を紫色に発光させて片手剣最上位スキル『ノヴァ・アセンション』をがむしゃらに放った。

凄まじい10撃の軌跡を周囲に描きながら、ボスのHPバーはジリジリと減っていき、ついに

 

[キュルオオオォォォォ……]

 

最後の断末魔を上げ、カランカラン、という音を立て鎌を落としてから、死神は無数の結晶のかけらとなった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして、ボス全てを倒し終わり、みんな座り込んでいる中、俺の隣で友希那が

 

「……如月。

ちゃんとみんな生きているわ」

 

「……そうか」

 

安心したと共に身体中の力が抜けた感じがした。

するとエギルが

 

「……何人……死んだ……」

 

疲弊し切った声で聞き、それを確かめる為ウィンドウを開いてパーティ人数を確認した。

そこには49人という最初に比べて明らかに少ない文字が表示された。

 

「……11人死んだ……」

 

静まり返ったその空間でそう返すと

 

「!ウソだろ……まだ、25層もあるんだぞ……。

本当に……クリア出来んのか……」

 

そう言われて、何も言えずに顔を上げるとそこには仁王立ちしている聖騎士ヒースクリフだった。

HPバーは緑のままで、やはり黄色には陥っていなかった。

 

……あんな激戦だったのに、HPがまだ緑とは…大したもんだ

あんな強さ、まるで何かに守られてるみたいだな…

何か……絶対的な物に…

 

そんな事を考えているとある言葉に辿り着いた。

 

「…システム…?」

 

ポツリと呟くと今までの事が、気になっていた事が、全て一つの線に繋がった。

 

「!!そうか……そういうことか…」

 

そう言うと目の前に立っていた聖騎士がこちらを向き

 

「陽菜君、どうかしたのかな?」

 

「……なぁ、ヒースクリフは一度も、HPバーが緑に陥った事がないんだよな?」

 

「自慢ではないがね」

 

「なるほど……俺はそのあまりの強さにこう思ったよ。

アンタの強さはまるで…システムに守られてるみたいだ」

 

「っ!!」

 

ヒースクリフは戦闘以外、一度も表情を変えなかったが、この時だけはその表情は驚きに揺らいだ。

それと同時に、俺はある確信を得た。

そしてフェイントを入れてエリュシデータでヒースクリフを斬りつけた。

しかし、フェイントにはかからず、ヒースクリフは剣を盾で防いだ。

すると

 

「!」

 

ガードしたヒースクリフの背中に黒い切れ端が見えた。

それと同時にヒースクリフの背中に一撃入り、頭の上には紫の文字で

 

「…『システム的不死』…か」

 

周りがざわめいた。

すると紗夜が

 

「…団長、その文字は一体…どういう事ですか?」

 

文字のウィンドウが閉じると、ヒースクリフは全プレイヤーの中で俺達だけにわかるように

 

「……その前に、なぜ気づいたのか参考までに教えてもらえるかな?」

 

落ち着いた様子でヒースクリフは言った。

そして

 

「そうだな……それを1番簡単に説明できるのはキリトだ。

てことで、キリトよろしく」

 

そう言うとキリトは頷いた。

 

「…最初におかしいと思ったのは、あのデュエルの時だ。

あの最後の時アンタ余りにも早すぎたよ」

 

「やはりそうか。

アレは私も君の二刀流に圧倒されて、つい、システムのオーバーアシストを使ってしまった。

では、君はどうして気づいたのかな?陽菜君」

 

「まぁ…俺の場合はほぼ勘だ。

アンタはHPバーが緑に陥った事がない。

それがもし、プレイヤー技術によるものでなくシステムに守られてるモノだったら、って考えた。

なら、今HPバーが黄色に陥りそうなアンタを攻撃すれば、なんらかのシステム的アシストマークが出ると思ってな」

 

そう言うとヒースクリフは苦笑を交えて

 

「そうか」

 

とだけ答えた。

そして

 

「…じゃあ、俺達2人の採点をお願いしようかな」

 

「ふむ…2人とも100点満点だ」

 

そしてヒースクリフは辺りにいる座り込んだ攻略組を見渡すと、堂々と

 

「そうだ、私が茅場晶彦だ。

付け加えるなら、このゲームの最上階、紅玉宮で君達を待つ最終ボスでもある」

 

静かだった空間がその言葉で一瞬にして大きくざわめいた。

 

「…変わった趣味をお持ちで」

 

「…キリト君にはいつか気がつかれると思っていたが、まさか君に気づかれるとはね……。

やはり、君はもう一枚のジョーカーだ」

 

「…じゃあ、俺はアンタの『シナリオには入っていなかった』という事か…」

 

「ああ。

キリト君はこの世界で最大の不確定要素だったが、君はまた違った『何か』の不確定要素だったよ」

 

そう言いながら、ヒースクリフは左手を動かしていた。

すると次々と俺とキリト、そしてヒースクリフ以外の全員が倒れていった。

すると紗夜が

 

「……っ…これは…麻痺…?」

 

「!…ここで、隠蔽…って訳じゃないな。

俺とキリトが麻痺にかかっていないという事は、まだ何かあるんだろ?」

 

「やはり、君は勘が良い。

そうだ2人には…私の正体を看破した報酬としてチャンスをやろう」

 

「チャンス?」

 

キリトがそう聞くと

 

「陽菜君、キリト君。

君達のどちらかが、今、私と一対一で戦う、どうかな?」

 

「!…それは、何か利益でもあるのか?

アンタを倒しても、まだゲームが続く、なんてただの時間の無駄だ」

 

「もちろんあるとも。

君達のどちらかが私に勝てば、ゲームはクリアされ、この世界から全プレイヤーをログアウトさせる」

 

ログアウト…

 

「……わかった」

 

「!やめろ!

確かに陽菜は強いが、他に守るべきものがあるだろ!?」

 

「…確かにある。

だけど…俺はRoseliaのみんなにある約束をした。

……ヒースクリフ、キリトを麻痺状態に。

俺がやる」

 

「っ!陽」

 

キリトが横で止めようとしたがヒースクリフはそれを遮り

 

「了承した」

 

そう言ってキリトに麻痺状態がついた。

そして、キリトを黙って担ぎ、アスナの隣に置いた。

 

「キリト…もし俺が死んだらお前が倒せ」

 

「待って…陽菜君…!

あなたは…死んじゃダメ!」

 

「……」

 

アスナの言葉を耳に入れるだけその言葉を無視して、横たわる友希那の方へ向かっていった。

 

「如月…今はやめて…!

あなたは」

 

座り込むと共にその言葉を遮り

 

「友希那。

俺さ、ようやく思い出した」

 

「……何を…」

 

「約束だよ。

俺がRoseliaのみんなに言った事、それは。

『みんなをFUTURE WORLD FES,で優勝させて笑顔にする』って約束」

 

「っ!!」

 

「言い訳にはならないけど、俺はこの世界に来てから、ずっとみんなを脱出させないといけない、っていう強迫観念に似てるものでずっと動いてたんだ。

でも…あの日、友希那に言われてからずっと考えてようやく思い出したんだ。

だから、俺は為すべきことを成す」

 

「!」

 

「…これ渡しておく」

 

そう言って友希那に渡したのは第三層のトレジャーボックスから手に入れた『ジュエリーボックスの指輪』だった。

 

「!……死ぬ気じゃないでしょうね…」

 

「まぁ…死ぬ気で頑張ってくるよ」

 

そう言って立ち上がり、右手に剣を持った。

 

「これで…お前ともお別れだな」

 

剣にそう呟き、ヒースクリフの前に立った。

すると背後から

 

「陽菜ー!やめろー!!」

 

そう叫んだのはエギルだった。

 

「…エギルにはみんなの育成に付き合ってもらったな。

それに、剣士クラスのサポートもかなり助かったよ。

…もし、俺が死んだら、エギルには俺の金が全部入るから、それで中層クラスのサポート頑張ってくれ」

 

ハッとするエギルの次にバンダナを付けてエギルの隣で寝転ぶクラインが

 

「陽菜ーー!!

ここは引いて、みんなで攻略していくのがセオリーってオメェもわかってんだろうが!!

今無理するんじゃねぇ!!」

 

「……クライン。

俺にあのアイテムは絶対に使うなよ。

…それと、初めて会った時にお前を置いてみんなを探しに行って悪かった」

 

「!今…今謝るんじゃねぇ!許さねぇぞ!

メシの一つでも奢ってからじゃねぇと、許さねぇからな!!!」

 

「オイオイ、俺向こうでは結構金欠なんだからやめてくれよ」

 

そう言い返すと周りから

 

「陽菜くん!絶対にダメー!!」

 

「お願い陽菜っ!!今はやめて!!」

 

「如月さん!そんな事絶対に…許しませんよ!!」

 

「如月…!!」

 

その声に応える事はなかった。

するとヒースクリフが

 

「本当にいいのかい?

仲間が必死に止めているというのに」

 

「いいよ。

なんて、簡単には言いたくないけど。

この子達にはまだ、これからの『物語』がある。

俺はただ、この子達の『物語』を前に進めるだけだ」

 

「そうか」

 

「長い事待たせて悪かったな」

 

「これも若者の青春の醍醐味というものだろう」

 

「じゃあ…始める前にちょっとお願いがある」

 

「何かな?」

 

「ここじゃ、お互い存分に暴れられないだろうから。

少し場所を変えたい」

 

「わかった」

 

ヒースクリフはそう言うと左手を動かし、シュワァァ…という音と共に、俺とヒースクリフ自身を転移させた。

 

「……」

 

一瞬、友希那達の方を見るとその顔には涙が流れていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第??層 ???

 

「!!?」

 

そこは部屋全体が赤いレンガで作られていた。

そしてそこには、右手に剣を持って左手に槍を持ち、どちらの武器もその巨体の腰から足までの大きさを持って、体の各所に6個の光る宝石が埋め込まれている。

その姿はまるで女神のようだった。

そして見とれていると

 

「安心してくれたまえ。

これは今から一時的に消去するよ」

 

そう言ってヒースクリフがウィンドウを操作する動作を行うと、そこにいた超巨大モンスターはポリゴンが光ると弾けた。

 

「……まさか、天井の位置から考えてここは」

 

「ああ、ここが紅玉宮だよ。

さっきのは、私と戦う前に戦ってもらう…まぁ、前菜みたいなものだ」

 

アレを前菜とか…ふざけんな…

 

「とりあえず…ここなら俺も本気を出せるな」

 

「おや?まるで今までは本気で戦っていなかったような口調だね」

 

「まぁ、今まで本気で戦って来たけど。

それは俺が持っている最高技術でしかない」

 

「…覚悟を決めたような顔をしているね」

 

「ああ、死ぬ気でやる、その覚悟が出来たよ」

 

「……なら、君は」

 

「…ああ、お前に貰った奥の手を使わせてもらう」

 

「…いいだろう。

私の全身全霊をかけて、君の全力を相手しよう」

 

そして一息を吐いてから

 

「ユニークスキル…『剣聖』…!!」


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