退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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前書きなど不要!
(後々、後悔するやつ)


第18話 物語

「やぁ……ごきげんよう、陽菜君」

 

「お前…なんで……こんな所に…」

 

麻痺で体の自由が効かない中、苦し紛れに聞くと

 

「おやおや、もう僕が攻略組の一員だった事を忘れたのかい?

まぁ、そんな事はどうでも良い…。

問題は、キリト君、君が荒らしに荒らした僕の人体実験の結果だ」

 

「!人体…実験…」

 

「ああ。

僕は人の感情を電磁パルスで操る人体実験をこの世界で行なっていたのだよ。

だというのに……こんな餓鬼に邪魔されるとはなあ!!」

 

叫びながらアルベリヒはキリトの背中を赤黒く歪な形をしたレイピアで刺した。

 

「!……そんな……くだらない事の為に…紗夜とつぐみを巻き込もう……したのか…」

 

「くだらない?

あの実験は複数の国からも接触があるんだよ。

それに、この実験が成功すれば、君が守っているその子達も僕の物になる」

 

「!!…そんな事……出来るわけ」

 

否定しようとするとアルベリヒは言葉を遮って自慢気に

 

「あるんだよそれが。

いくら拒絶の感情があっても、それを喜びの感情に満たせば、彼女達は、たちまち僕の虜になる」

 

そう言いながら、アルベリヒはこちらに近づいてポーチから濃い紫の溶液が入ったビンを取り出した。

すると

 

「キリト君を先に殺そうかと思っていたが……君には1番の屈辱を与えられたからね。

僕自らが、君をじっくりと、そしてゆっくりと心から殺してあげよう」

 

そう言ってビンの蓋を開け、それを無理矢理口の中に流し込まれた。

するとHPバーの隣に毒のマークが付いた。

 

「これはね、僕が作った特製の毒瓶だ。

それもじっくりとHPを1ずつ減らしていき、HPが1になってもそこから減って死ぬ事はないが、毒解除のポーションを飲まなければ永遠に苦しむ事になる」

 

「そんな物…この世界じゃ……痛みが無いから……意味ないだろ」

 

そう言うとアルベリヒはその言葉を待っていたかのような表情を浮かべて見下ろしながら

 

「アハハハハハハ!!

そうだったなぁ……確かにそうだ……だが、そんな物、こうすれば一瞬で変わるんだよ!」

 

アルベリヒはそう言うとウィンドウを閉じ、手をかざすと

 

「システムコマンド!ペインアブソーバ!

プレイヤー『陽菜』を、レベル10からレベル0に変更」

 

そう叫ぶと

 

「!ぐああああああ!!!?」

 

「どうだい!これが僕の『神』の力だ!!」

 

「…ゲホッ…あがぁ……!!」

 

あまりの痛さに意識が混濁とし、視界が赤白と点滅する。

身体の中の神経に何か切り刻まれているかのような、初めて味わう痛み。

 

「ゴホッ…ガハッ…!!あ…ぐぁあ…!!」

 

「アハハハハハハ!!

いやぁ…良いものだな。

あのデュエルが終わってからずっとこの瞬間を待ってたよ」

 

そう言い残すとアルベリヒは友希那の方へと近づいて行きしゃがみ込んだ。

 

「どうだい?友希那。

人の感情を操る、君にも、この僕の実験がどれだけ偉大かわかったかな?」

 

「っ……そんなの……偉大な実験じゃないわ……。

あなたがやっている事は…他人の事を見ずに……ただ自分の事だけを見た……非道な実験よ……!」

 

「!!…このアマァ!!!」

 

大声で叫びながらアルベリヒは容赦なく友希那を蹴り飛ばした。

 

「友……希那…!」

 

必死に叫んだが喉がやられて、声が届かない。

 

「チッ…まぁ良い。

どうせ、そんな感情も僕が喜びの感情に満たすんだからな」

 

「っ!!」

 

「そうなったら、僕が君達と遊んでやろう。

何、大丈夫だよ、この餓鬼が死んでも、僕が君達の感情をコントロールして死んだ事すら忘れさせて……いや……陽菜君の存在事態を僕が君達の記憶から消し去ってあげよう」

 

すると友希那が

 

「……私達は、如月の事を忘れたりなんかしないわ…!

あなたが何をしようと…絶対に忘れない…!

今の私達がいるのは……彼のおかげだもの……」

 

「っ!!」

 

友希那がそう言うとアルベリヒはウィンドウを開き、何か操作した。

すると

 

「「っ!?」」

 

友希那とキリトに何かが起き、アルベリヒは2人が驚く様子を見て

 

「一応君達のユニークスキルを停止させたよ。

これが僕の、この世界の『神』の力の一つ、『スキル封じ』だ。

さて…長話もここまでにしよう。

そろそろ君の感情を操作し泣き喚きながら君が、殺してください、と言うまで僕は高みの見物といこうじゃないか

それが終わったら、彼女達の感情も操作して」

 

……………

 

「……ふざ…けんな…」

 

「何か言ったか?」

 

「人の感情は……もっと自由で…綺麗なんだよ……。

それが……お前みたいな独裁者に……操られて溜まるか…!!」

 

ザッ

 

「フンッ、今更足掻いたところで…。

ああ、君の正体だがね、もう僕にはわかって」

 

「んな事どうでもいいんだよ……」

 

ザザッ

 

麻痺と毒のマークはまだ付いている。

しかし、ノイズの音が入ると同時に、立ち上がっていく。

 

「何故だ!何故立てる!?システムが作動してないのか!?

クソッ!言う事を聞け!この無能システムがあ!!」

 

形のないシステムに罵声を浴びせるアルベリヒはウィンドウを、なおも、操作し続ける。

そして、毒で視界が揺らぐ中

 

「…やっときたか……」

 

「っ!?なんだと!?」

 

アルベリヒの驚きを感じる事もせず、痛みと怒りが入り混じる中

 

「……システムログイン…ID《カーディナル》

システムコマンド、ペインアブソーバをレベル10に変更」

 

そして、毒の痛みが消えた瞬間、続けて

 

「システムコマンドプレイヤーデータバックアップ。

オールクリア。

システムバックアップ…ID《陽菜》」

 

呟くと共にノイズの音が一瞬大きく聞こえた後、システムは正常に戻ったようにシュワァァと言う音と青く眩い光が体全体を覆った。

手には、かつて共に戦った物とはまた違う、青紫の美しい刀身の片手直剣。

そして、灰色のコートをまとい、初期装備の靴が黒のブーツに変わった。

 

「な、なんだそのIDは!!?

僕はこの世界の統括者なんだぞ!?」

 

そう叫んだ後に、アルベリヒは立ち上がった俺に向けて赤紫の大剣を出現させ、切っ先をこちらに向けた。

 

「まぁいい。

そんな大した装備も持たない奴が、僕に勝てる訳がない!

それに、この大剣は僕の力作でね。

刺した相手を必ず死に至らしめる事が出来るんだ。

それも、麻痺状態になり、死ぬまでジワジワとHPを削り殺していくんだ」

 

「はぁ……間違い2つ」

 

「は?」

 

「1つ、装備だけで相手の力量を測った事。

2つ、この世界の統括者はカーディナルだ、お前じゃない」

 

「っ!お前がごときがこの神の力に抗える訳が!!」

 

そう言ってウィンドウを開き、何かしようとすると

 

「そこまでじゃ」

 

その声が聞こえたと認識したと同時に、目の前にはアルベリヒの胴には小さな賢者の手が埋まっていた。

 

「!カーディナル!?」

 

「なんじゃ、しぶとい奴じゃのう。

まぁ、生きてるなら良い。

それよりも、お主の権限、消させてもらうぞ」

 

そう言ってカーディナルは手を引き抜いた。

それと同時に、アルベリヒは

 

「この……クソ餓鬼ごときが!!!」

 

「!ま」

 

しかし、止めるよりも早く小さな賢者の体を大剣が深く貫き、無残にも振り払われた。

 

「っ!なんで抵抗しなかった!」

 

急いで駆け寄りそう言うとカーディナルは体にノイズを走らせながら

 

「何を…心配しておる……。

ワシのこの身体は……全て偽物じゃ、お主達のように死ぬ事はない…。

ただ、もうこの作られた感情システムもワシの体が消滅する同時に無くなるがな…」

 

「…待てよ……俺…まだ、ちゃんと『敗者』使いこなせてないんだけど……。

使いこなせるまで……先生やってくれるんじゃなかったのか…?」

 

「フン……前にも言ったじゃろう……お主のような生徒は……いらん、と……。

勝手に先走って……自分の身を犠牲にしてでも……相手にダメージを入れる……そんな事をして何になる……」

 

「っ……」

 

「…もう……お主は辛い思いなどせずとも良い……。

その手で友を殺し、友を裏切っても…お主は…もう充分過ぎる程、同じ苦しみを味わった……」

 

「っ、でも」

 

「ちゃんと生きていいのじゃよ…。

お主は……人間…なのだ、か…ら……」

 

小さな体が弾ける音。

小さく舞う結晶のかけら。

 

またか……また俺は…いつも何かが失ってからじゃないと、それが大事なものだと気づけないのか…!!!

 

「……っ」

 

すると

 

「…システムを消されたのは想定外だったが……残念でした!

僕の装備は未だに健在して、意味のわからないチビは死んだ!

これはもう僕の勝ちだ!!」

 

「……ちょっと黙ってろ」

 

「は?

今なんっ!!!?」

 

次の瞬間、アルベリヒは四肢を斬り落とされ、胴を突かれ、次の階層へと続く階段の扉まで吹き飛んだ。

 

「……」

 

「ヒッ…!!」

 

瞬時に距離を詰め、上段斬りを放った。

 

ガキィィィィィン!!!

 

轟音と共に、目の前には白と黒の2つの剣があり、俺の剣を防いだ。

 

「っ!陽菜!やめろ!!」

 

麻痺が解けて二刀流が復活したか…

 

「…どけキリト…ソイツは」

 

鍔迫り合いをしていると背後から

 

「やめろ陽菜!」

 

「オメェがそんな事するんじゃねぇ!!」

 

エギルの斧を避けてから、クラインの刀の軌道を剣で逸らした。

そして、数歩下がり

 

「……もう一度言うぞ、どけ…3人とも」

 

そう言うと今度は

 

「3人じゃないよ、陽菜さん」

 

蘭の声が聞こえると思うと、目の前には全員が立ち塞がった。

 

「陽菜くん…やめようよ…」

 

「…そこどいてくれ彩」

 

「ううん…絶対にどかないよ。

陽菜くんに、これ以上、そんな事させない!」

 

「……頼む…どいてくれ…じゃないと」

 

右手に持つ剣を強く握りしめ、構えた。

 

「…陽菜、本当にこんな事しないとダメなの?

アタシは嫌だよ!」

 

「……なら、やめればいい……」

 

「如月さん、私達はレベルも技術もあなたに近づきました。

それを聞いて、まだそのつもりですか?」

 

「……どいてくれ…」

 

「陽菜っ!私もナルちゃんがいなくなったのは、悲しいよ…。

でもっ!こんなの絶対しちゃダメだよ!」

 

「……どいてくれ……香澄……斬る事になる…」

 

「陽菜!私達と何か笑顔になれる楽しい事をしましょうっ!

それなら、あなたも楽しい気持ちになるわ!」

 

「……悪い、今はそんな気分じゃないんだ…。

……そろそろ始めるぞ…」

 

「っ!全員構えろ!!!」

 

『っ!!』

 

「…イレギュラース…っ!」

 

影が見えた瞬間、急いで後ろに下がった。

 

ゴォォォォン!!

 

あこのハルバードが先程まで俺がいた場所に突き刺さった。

 

「あこ、陽兄ぃが戻ってくるまで、本気で戦う!!」

 

なるほど…俺がスキルを発動しなかったら勝てると踏んだか……

 

「…普通、そうするか」

 

「…えいっ……!」

 

背後からきた燐子によるレイピアでの突きを避け、刀身を掴んだ。

 

「だが……動きが単調だ…」

 

「っ!」

 

2人から5メートル程距離を取った。

そして、次々と繰り出される複数人によるソードスキルや通常攻撃を捌いていくと

 

「せぁ!!!」

 

白い軌跡が振り下ろされ、それに反応して、受け流した。

しかし、俺の剣が白い長剣とぶつかると同時に、左から黒い水平斬りがきた。

 

「っ!…」

 

それを体術スキル『空輪』で掴み取り、投げてからソードスキル『レイジスパイク』をキリトに放った。

 

「くぉ…!!」

 

「っ!!」

 

しかし、恐るべき反応速度で左手に持った白い刀身で受け止め後ろに飛んで行った。

そして、背後から

 

「ヤァ!!!」「オリャア!!!」

 

2つの鋭い刃を青紫の刀身で受け止めた。

 

「……エクストラスキルか…」

 

「へっ!あんまレアなもんじゃねぇけどな!」

 

「それでも、私はハルナさんを止めてみせます!!」

 

「……イヴには……戦い方を教えたな…でも」

 

「「っ!!」」

 

刀を振り払ってからクラインの手首を掴み、体制を崩した後、クラインを蹴り飛ばし、イヴの足元を崩した次の瞬間

 

「っ!?」

 

風を切る音と共に飛んできた1つの突きを受け止めたが、衝撃で後ろに吹き飛ばされた。

 

今のは…

 

それを考える前に空中で一回転し、着地した。

すると目の前には友希那が立っていた。

 

「…悪いけど、止めさせてもらうわ」

 

「…悪いけど、押し通るぞ」

 

ギャリィィィィィィン!!!

 

青紫の剣と純白のレイピアが交差し、激しい撃ち合い。

火花が飛び散る中

 

……ここまで…強くなったんだな、友希那は

なのに…どうして俺は…

 

そんな考えを剣と同時に振り払い、一瞬だけ激しい火花が散った後、友希那はレイピアを青色に発光させ、俺は剣を紫に発光させた。

すると

 

「…ごめんなさい…」

 

「っ!?」

 

友希那はレイピアを手から落とした。

それを見た瞬間にソードスキルの発動を停止し、剣を思わず手放した。

すると同時に、友希那が懐に飛び込んで来た。

 

「……友希…那…?」

 

「…あなたが辛い思いをしている事に気付いてあげられなくて…ごめんなさい……」

 

「!」

 

「…私は歌う事しか考えられないから…」

 

ポツリと囁くような言葉を聞いて

 

「っ……イレギュラースキル『敗者』発動…」

 

「!如月…」

 

「……」

 

友希那の頭をポンッと優しく叩いた後

 

ドヒュッ!

 

地を駆ける音と共にコッソリと回復をしているアルベリヒの元へ向かった。

すると全員に囲まれ、全員が俺を止めようとしていた。

 

「…ソードスキル修正開始…」

 

ソードスキル『スターバースト・ストリーム』修正対象

全モーション圧縮

一振り全方位拡散

 

「…修正完了」

 

ブーツから火花を散らして止まった後、一線を引いた。

すると、風圧となって周りにいた数人を吹き飛ばすと同時に、アルベリヒがこちらに気づいた。

そして、何を焦ったのかアルベリヒは自分を守ろうと近くにいる蘭をレイピアで突き刺そうとした。

 

「蘭!しゃがめ!!」

 

「えっ!?」

 

驚きながらも蘭はしゃがんでくれたので、レイピアを弾く事が出来た。

 

「ぐっ!調子に乗りやがって!!」

 

そう言ってレイピアを赤に発光させ、少し溜めるモーション。

 

突進系か

 

そう判断すると予想通りに心臓めがけて穿ってきた。

 

「…っ!」

 

次の瞬間、2つの緑の曲線が描かれると共に赤黒い刀身が空に舞い、背後の地面に根元から折れたレイピアが突き立った。

そしてそれは、結晶となって弾けた。

 

「ち、近寄るな!!

その穢れた手で僕に近づくな!!」

 

「……!」

 

その言葉を黙って聞いているとクラインとエギルが

 

「近寄るなだぁ!?

オメェが散々してきた事、監獄で反省してろ!」

 

「とりあえず、署までご同行、願おうか」

 

そう言ってアルベリヒを連行していった。

 

「……」

 

穢れた手……か…

 

「…とりあえず、次の階層に行ってみるか」

 

そう言って先に進もうとすると

 

「そうね!次の階層はどんな景色なのかしら!

気になるわね陽菜!」

 

「ちょっ!?こころ、手を引っ張るな!」

 

「早く行ってみましょう!

誰が1番早く着くか競争よ!」

 

こころはそう言うと同時に、このゲームでのダッシュモーションを取り、扉に向かって一気に駆けていった。

 

「速い速い!普通にダッシュしてこれとか、どうなってんだよ!」

 

「風が気持ちいいわね陽菜!」

 

「…そうだな!そうだけども!

みんな置いて行く気か!?」

 

「大丈夫よ!だって、みんなはあなたについてきてくれるもの!

だから、大丈夫よ!」

 

「…っ!」

 

ああ、そうだな…。

そういえば、こうやって手を取ってくれるのが、この子達だったな…

 

「さぁ!次の階層はどんな場所かしら!」

 

そう言ってこころは99層に続く扉を開けた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第47層 家

 

ボス戦から99層を覗いてから、すぐに家に帰った。

何故なら『敗者』の効果が切れて倒れたからだ。

それから、30秒程でその効果も切れて数時間経ち、ご飯を食べてから俺はしばらく自室でアイテム欄を見た。

 

「やっぱ、お金は全部エギルの所か……はぁ…」

 

ため息をつきながら窓を見るともう月が上にあった。

すると

 

「陽菜っ!」

 

扉が勢いよく開いたと思うとそこには、香澄とおたえがいた。

 

「!2人ともどうした?」

 

「お邪魔します、おやすみなさい」

 

そう言って、おたえはベッドにダイブした。

 

「おたえは寝に来たのか!?

寝るなよ、俺の寝る場所なくなるから」

 

「私の部屋空いてるから使っていいよ?」

 

「使わないから起きろよ?」

 

「そんな事より、香澄が話あるんだって」

 

珍しい…

 

そう思って香澄に聞こうとすると

 

「陽菜って何か悩み事あるの?」

 

「…唐突だな」

 

「だって、陽菜ご飯中も何か考えてた、ってさーやが言ってたから…。

だから、私も頑張って友希那先輩に聞いて見たんだけど…やっぱりわからなくて……」

 

なんでそこちょっと頑張った

 

「でも、自分で考えたけど…やっぱり思いつかなくて、だからすぐにやめて…」

 

そこは頑張ろ?

 

「……まぁ、隠すような事じゃないから別にいいけど。

…とりあえず、ほれ、握ってみ?」

 

「うんっ!いいよっ!」

 

そう返事すると香澄は笑顔ですぐに差し出した手を握った。

 

「……俺が、人を殺した事は知ってるよな?」

 

「うん……でも、それは陽菜が友達に頼まれてやったんだって、陽菜から聞いたもんっ!」

 

「…なんで、そう簡単に信じられる。

俺が嘘ついてるかも知れないぞ」

 

「ううん!それは絶対にないよ!

だって陽菜は、優しいし、悪い嘘は絶対につかないもんっ!」

 

俺の穢れた手を握りながら、香澄は真っ直ぐな眼差しで俺を見た。

 

「……全く……」

 

この子達の将来が心配だ…

なんの根拠も無いのに簡単に人を信じて…

でも…その純粋な心があるからこそ、誰かを救えるのだろう…

……俺はこの子達の『物語』をただ進めるだけじゃなく、側で見守っていればいい

そして、それをする為には…俺は同時に、自分の『物語』を進めなければならない…な…

 

「……簡単な事だ…」

 

「?何が?」

 

不思議そうにこちらを見る香澄に

 

「まぁ、俺の悩みは吹き飛んだよ。

ありがとう香澄」

 

「ほんとっ!?やったあ!!

もう悩まないで済むの?」

 

「今はな」

 

「じゃあ次も助けるから!」

 

「つ、次は無くていいかな…」

 

「あっ!そうだね!」

 

「ていうか、こんな時間に俺の部屋来たら、誰かしらに怒られるぞ。

早く部屋に戻って寝とけ」

 

「はーい!

あっ!でも、おたえはもう寝てるからいいよね!

じゃあね!おやすみ陽菜!」

 

「えっ!?ちょ、おい!」

 

香澄は出て行った。

そして、ベッドの方を見ると

 

「……すー……すー……」

 

「おーい、おたえ……寝たフリはやめろー」

 

「……すー……すー……」

 

「起きろ」

 

「……すー……すー……」

 

「……あっ!こんな所にラグーラビットが!」

 

「どこっ!?」

 

飛び起きた。

 

「よし、自室に戻れ」

 

「ウサギさんは?」

 

「ウサギさんは森へ帰ったよ」

 

「じゃあ仕方ないね」

 

「いや待て、戻るな戻るな」

 

「すー……すー……」

 

「寝るの早っ!?

ていうか、そろそろ本当に起きてくれないと、俺寝れないんですけど…」

 

「……私の部屋……使っていいよ…」

 

「起きる気は?」

 

「…ない…」

 

「……えぇ…」

 

仕方なく出て行き、リビングのソファーで毛布をかけて寝た。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌日

 

目を覚まし、時間を見ると6時だった。

 

「珍しい…」

 

二度寝は……やめておこう

誰か来た時に座るかもしれないからな…

だったら部屋に戻って…おたえが寝てるか…

そもそも……階段上がる音が聞こえないとは思うけど、もし万が一聞こえたら申し訳ないから……

 

「……レベリングするか…」

 

6時なら、朝ご飯は適当にNPCの店で買って…昼頃に帰ってくればいいか

 

その考えに至って、攻略装備に着替え、迷宮区に向かっていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第99層 迷宮区

 

数時間後

 

「…やっぱり、75層よりかはレベルもアルゴリズムも上がってるか…」

 

そう呟きながら、人型に翼が生え、全体的に黒い身体をしており、目が赤い、いわゆるガーゴイルというモンスターを3体相手していた。

 

「えっと……今のレベルは…」

 

127か…

 

「まぁ、そこに安全地帯あるし、ここなら使ってもいいや」

 

独り言を言いながら、ガーゴイルの尻尾攻撃を繰り出して来た尻尾を根本から斬り落とし、バックステップで距離を取った。

 

「ふぅ……『敗者』発動」

 

そう呟くように言うと、瞬時に青い光りが身に纏った。

そして、『すぅ…』と息を吸ってから

 

「っ!!」

 

一気に地を駆け、手前から上段斬り、次に水平斬り、最後の一匹に斜め斬りを放ち、そのままの速度で安全地帯に入って、報酬ウィンドウを眺めた。

 

「……」

 

とりあえず、後4分くらいここら辺でレベリングして、同じ事繰り返して、130になったら帰るか…

 

そして後1時間程でレベルが130になったが、まだ昼にはなっていなかったので、135を目指して奥に進んでいくと

 

「!…ボス部屋あったな…」

 

そこには、75層の大扉程で、『重い』彫刻が施されていた。

 

とりあえず、みんなに報告して…

 

そう思って報告しようとするとメッセージが届き、内容を確認しようとすると

 

「げっ…!」

 

思わずそんな声が出てしまった。

なぜなら、メッセージを送ってきたのが友希那だったからだ。

恐る恐る見てみると

 

「えーっと……『昼までに集合』…。

あれ、意外と普通なメッセージ…」

 

133という中途半端なレベルで終わりたくないので、少し遅れると送ってから帰った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

家に帰ってくると

 

「あっ!おかえり陽菜☆こっちこっち♪」

 

「?ただいま」

 

そして、リサに着いて行くとリビングには、友希那、蘭、モカ、彩、千聖、香澄、沙綾、こころ、美咲がいた。

 

「……なるほど。

保護者達がいるって事は、なんか面倒な事でもするのか…」

 

そう言うと友希那が

 

「そんな事より、戸山さん。

これで全員揃ったわよ、会議するのでしょう?」

 

「えっ?」

 

「はいっ!今から次のボス戦に向けての……えっと……そう!チーム分けを決めたいと思います!」

 

「ちょ、俺聞いてないけど」

 

「香澄、それを言うならフォーメーション。

チーム分けじゃ、バラバラになっちゃうから」

 

「あの」

 

「そっか!さすがさーや!

では、今からフォーメーションを決めたいと思います!」

 

「だから…」

 

「じゃあ、次のボス戦で前に出て戦うか、後ろで演奏するか。

こっちがいい!って言う人は手を挙げてください!」

 

「はい!」

 

「はい陽菜!どっちがいい?」

 

「会議があるなんて聞いてません!」

 

『はい!?』

 

「聞いてない…って、友希那メッセージ送ったんだよね?」

 

「送ったわ。

でも、会議なんて言葉を使って送ったら、如月は絶対に面倒くさがって来ないもの」

 

『…確かに』

 

「そこ一致しちゃダメだろ…」

 

まぁ…確かに会議なんて怖い単語がメッセージで飛ばされて来たら、行かないけど……

 

そう思ってから、来てしまったものは仕方ないと自己解決して、気になることを聞いた。

 

「それで、なんで俺が呼び出された?

俺はもう遊撃隊みたいな物だから、必要ないんじゃ…」

 

そう言うとリサが

 

「まぁまぁ♪陽菜はその場にいて、アタシ達が収集出来なくなったら、収集してくれたらいいよ♪」

 

「……それぞれ保護者いるのにか…」

 

そう返すと香澄が

 

「それじゃあ!始めます!」

 

そして、会議が始まった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

言い争いになりかけた事が何度かあったが、どうにかして回避した。

そして、その数分後

 

「じゃあ、演奏隊はアフロとハロハピの二つでいいかな?」

 

『異議なし』

 

よし…なんとか終わったな…

 

そう思っていると彩が

 

「それじゃあ、みんなで手分けしてボス部屋探しに行こうっ!」

 

「それならもう見つけた」

 

『えっ!?』

 

「朝、迷宮区に潜ってたらボス部屋見つけた。

マッピングデータ渡すから探しに行かなくてもいいぞ」

 

そう言いながらウィンドウを操作してマップデータを渡した。

すると友希那が

 

「…次の攻略は明後日ね。

レベリングする時間も充分あるでしょうから、今すぐ攻略組全員にコレを提供しましょう」

 

「そうだな。

じゃあ、みんなは明後日に向けてちゃんと休憩も取るんだぞ」

 

「?如月はレベル上げに行かないの?」

 

「俺はもうレベル上げまくってレベル135だから。

それに、もうそんな気力残ってない…」

 

「そう。

なら、明後日のボス戦に備えて、ゆっくり休みなさい」

 

「…わ、わかった…」

 

珍しい…

友希那があんなはっきりと『休みなさい』って言うの…

珍しい…?

 

そう思って攻略組にボス部屋の事を通達すると、次の日には、攻略組がレベリングをダンジョンなどでやっていた。

そして、ボス戦当日の明後日を迎えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第99層 ボス部屋前

 

「……」

 

…俺の『物語』…側にいるだけじゃダメだ、ってリサに言った…

それは、その時リサを助けようとして言った事だ

でも、人を助ける前に自分を助けられないと意味ないだろ…

それを理解してても俺はそれが出来ない

それじゃ、ただの

 

「如月、始まるわよ」

 

そんな思考をその声で中断された

 

「!あ、ああ…。

わかった……」

 

はぁ……やっぱり、俺の『物語』はまだ不安定だなぁ…

 

そう思っていると

 

「………如月。

私は歌う事しか考えられないけど…」

 

「?」

 

「それでも、みんながしてくれている事にはちゃんと気がついているわ。

もちろん…あなたのしてくれている事も」

 

「!…そうか…。

…友希那って俺が思ってたより周りの事見えてるんだな」

 

「それは、どういう意味かしら?」

 

「い、いや…別に悪い意味じゃないから。

…友希那はなんというか……一途だから、周りが見えなくなる、っていう感じがあったんだけど…」

 

「けど?」

 

「俺の勘違いだな。

友希那はちゃんと周りも見えてるし、サラッと人を救う」

 

「?救ったかしら?」

 

「救っただろ、俺の目の前で。

まぁ、例え…友希那が迷ったとしても、その時は必ず助ける。

…そんな日は来なくていいが」

 

「………」

 

返事が返って来なかったので、気になり見てみると

 

「っ!?」

 

何故に…顔を赤くしてるんだ…

 

赤く染め上げた顔を腕で隠そうとしているが、隠しきれていなかった。

すると

 

「っ……早く入るわよ…!」

 

「!は、はい…」

 

そしてボス部屋の中に入った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

中に入ると、2メートル程の大きな天使の白い石像が4つ並んでいた。

それぞれ少し違った形だったが、それぞれ四つの翼を持ち、手には異なる剣を持っていた。

 

『……』

 

黙って見つめていると誰かが息を切らして『なぁ』と言うと同時に、石像が揺らぎ出し、どんどん激しくなっていき、砕け散った。

すると視界の上で何か光るのが見えた。

 

「!全員上からの攻撃に備えろ!!」

 

勘だけで察しそう叫ぶと共に上から雨のように黒い光線が音も無く降ってきた。

 

「っ!」

 

避けていると1人のプレイヤーがその黒い光線を受けて体を貫かれたと共に、身体が黒く包まれたと思うと、結晶のかけらが見えたが、黒いブラックホールのような物に吸い込まれた。

 

「っ!!」

 

おそらく死んだのだ。

それも、一撃で

するとキリトが

 

「全員あの黒い光線には当たるな!

HPごと消し飛ぶぞ!!」

 

そして、光線が降ってきた上を見ると、そこには天使の姿があった。

しかし、先ほどの石像の1つも当てはまらなかった。

なぜなら、機械的な黒い翼を8つ持ち、両手には2つの大剣が装備されており、目には一切の白は無く、闇のように黒く、体長が4メートル程あったからだ。

ボスは翼をはためかせながら、下降してきた。

それと同時にボスの名前とHPバーが表示された。

 

「…《ザ・フォーリンエンジェル》…」

 

HPバー9本か…

 

「じゃあ手筈通り、アフロとハロハピ、演奏頼んだぞ!!」

 

『了解!』

 

そして、剣を抜きボスの方へ駆けていった。

ボスはそれに反応して、翼から先と同じ黒い光線を4つ放ってきた。

 

「よっ…!!」

 

それをソードスキル『バーチカルスクエア』で斬り消した。

 

「……まぁ、昔を思い出してやればいいか」

 

そう呟くとボスは威嚇する様に、8つの翼を大きく広げて雄叫びを上げた。

 

[グオオオオオオオオオオオオ!!!]

 

「……まずはHPバーを2本にまで減らすか…」

 

すると背後から

 

「?どうしてですか?」

 

イブが不思議そうに聞いてきた。

 

「あと2本に減らしてくれたら、後は俺1人でも出来るんだ。

……とりあえず、イブ達は出来る限りボスの攻撃を見切ってくれ」

 

「わかりました!

ハルナさんはどうするんですか?」

 

「惹きつける」

 

そう言い残して巨大なボスの懐へ疾駆で向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

長い激闘が続き、経った時間も忘れた頃に

 

「っ!?」

 

ボスのフェイントからの大剣攻撃を剣で防いだが、勢いが強く後方に吹き飛ばされ、壁に激突した。

 

「…いてて……HPバーまだ4本もあるのか…」

 

いや…5本も減らせたならいい

………試すなら今か…

 

そう思ってから立ち上がり

 

「友希那来てくれ!」

 

「!どうしたの?」

 

そう返事すると共に友希那はこちらに来てくれた。

 

「一度安全地帯に戻って、ボスのHPバーが3本になったらユニークスキルを使ってくれ」

 

「!?どうして?」

 

「アフロとハロハピも!

その演奏が終わったら、HPバーが3つになるまで、一緒に前線で戦ってくれ!

理由はこのボス戦が終わったら話す!!」

 

「……わかったわ。

ちゃんと話してもらうわよ!」

 

そう言って友希那はレイピアをしまった。

 

「それとHPバーが3本になったら全員一度後ろに下がれ!!

いいか!全員だぞ!!」

 

そう叫ぶとやはり批判の声がいくつか聞こえたが、仕方ないと振り切った。

そして

 

「友希那は俺が合図したら、ユニークスキルを発動してくれ」

 

すると誰かわからない男の声で

 

「『歌姫』を使うなら、全員で攻撃した方が効率的だろ!!

なんでそんな事を!!」

 

「ここにいる全員を今から誰一人として死なせない為だ!」

 

「っ!わかったよ!アンタの言う事!

アンタ実力もかなり高いみたいだからな!!」

 

「!…ありがとう」

 

「良かったわね。

周りに理解してもらえて」

 

「今まで理解されなかったみたいな言い方ヤメロ」

 

「でも、それはあなたが諦めなかったから今覆されたわ。

如月は周りを変える事が得意ね」

 

「?そうか?」

 

「ええ、いつもそうよ。

周りの事を心配して、困っていたら手を差し伸べ、言葉で助ける。

それが、私達を救ってくれた如月陽菜よ」

 

「っ!!」

 

「あなたは…自分で気づいてないだけよ」

 

「そうか……そうかもな。

…じゃあ尚更、俺の『物語』を進めないとな」

 

「如月の…『物語』?」

 

「ああ。

俺がRoseliaを手伝う、そのままの『手伝いの物語』を始めるよ」

 

「『手伝いの物語』…。

…そうやって裏方に徹する所、あなたらしいわね」

 

「あはは…それは褒め言葉として受け取っておこう」

 

「それに…如月らしくて素敵だと思うわ」

 

「!…そうか。

行ってくるよ」

 

「ええ、行って来なさい」

 

ダッシュで地を駆け、ボスの所へ向かった。




お気に入りが……4人も増えた…だと……!?

怪盗N様 カナヘビ様
エロ本様 ダイキ・リハヴァイン提督様
十六夜ユウスケ様

お気に入りありがとうございます!( ͡° ͜ʖ ͡°)
…今回も長くなってしまいましたね_:(´ཀ`」 ∠):
次は小説投稿している方を紹介されていただきます!
前回出来てなかった部分もあるので

九澄大牙様
エロ本様


では、今回のオマケをどうぞ!!♪( ´▽`)





オマケ
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第98層 ボス部屋
リサ side

こころが陽菜の手を引っ張って行ったのを、友希那が見ているのを見て

「友ー希那っ☆どうしたの?」

「!…別にどうもしてないわ。
ただ、如月はもうちょっと自分をコントロールしてもらわないと…」

「?」

友希那が聞いてない事話すなんて珍しい…
…あっ!もしかして…

「友希那、もしかして陽菜の手を見てたの?」

「っ!!…そんな所見てないわよ」

「さっき陽菜が傷ついたの気づいたの?」

「……そんな事は…ないわ」

「手、握ってあげたかった?」

「!そ、そんな事ある訳ないでしょう!」

ゆ、友希那が照れすぎて怒った…!

「ご、ごめんごめん☆」

すると紗夜が来て

「?どうかしましたか?湊さん」

「いえ…なんでもないわ。
早くあの2人を追いましょう」

「そうですね。
如月さんのスキル効果も途中で切れたら大変ですから」

「ええ、早く行きましょう」

その会話をしてから友希那と紗夜は上に続く階段に向かって行った。

「あっ!待ってよー、2人ともー!」

リサ side out

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