退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第5話 3日目? 「お願いしますね」

「…あれ…?何だコレ…」

 

自室の棚を漁っていたらこんな物を見つけた。

 

「?『いつか俺の黒歴史になるだろう日記』?」

 

母さんが、そろそろあの人と会う事もあるでしょうから、気をつけてね。

と言われたけど

 

(コレが一番気になる…)

 

開いてみると1ページ目

 

○月△日

[今日からこの日記を始めることにした。

意味はない]

 

(なんか1ページ目から変な気がする…)

 

○○月△△日

[中学2年になったがまた筆箱を隠された。

今度はゴミ箱の中だ。

転校しても変わらないなら意味ないだろう。

次やられたらとりあえず先生に報告だな]

 

「!」

 

驚きながらも次のページをめくった。

 

○月△△日

[またやられた。

先生に報告したが、話を濁される。

やっぱり…という思いがきた]

 

△月○○日

[今日はすれ違いざまに殴られた。

殴られたのは何年ぶりだろうか。

退屈過ぎて覚えてないな…。

毎日のようにイジメをしていて飽きないのか…]

 

○月○日

[友達になろうと言われてなったが、まさか1日で裏切られるとは…。

イジメとか、最初の頃は嫌と思っていたけど、今となっては日常茶飯事だな。

同じ景色、同じ会話、同じ感情。

実に退屈だ…]

 

○○月○○日

[話を濁していた先生がイジメを止めた。

しかし先生、明後日は卒業式だ…]

 

4月15日

[入学式だが、灰色の日々の開会式でどうせ高校も退屈なんだろう。

イジメは耐えられるから問題ないが、友達など自分からは作りにいかないでおこう]

 

するといきなり空白のページが続いて、少し間が空いてから何か書かれていた。

 

4月15日

[なんか…知らん女子に話しかけられた…。

最初新手のイジメかと思ったが、どうやらバンドをするようだ。

はっきり言って気が進まない。

そして、名前を聞くの忘れた…]

 

ズキッと頭に痛みが走った。

 

(っ…これ…僕の記憶が無くなる前かな…?)

 

尚も続く頭の痛みに耐え読み続けた。

すると

 

「っ!!コレは…」

 

日記に写真が挟まっていた。

僕とみんなが写ってる。

 

(……笑ってる…?)

 

すると

 

「っ!?」

 

ぐにゃぐにゃと視界が揺らぎ出した。

それは少しして収まった。

 

「…っ……?」

 

収まると共に痛みも引いていった。

しかし、かなりの眠気が襲ってきている。

 

(昨日ちゃんと寝たんだけどなぁ…)

 

幸いベッドの上で棚を漁っていたのですぐに横になって寝ようとした。

その時にある事を思い出した。

 

(氷川さん、お姉さんと上手くいくといいなぁ……)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

紗夜 side

 

「おねーちゃーーんっ!!」

 

「日菜…5分遅刻よ」

 

「ご、ごめん!」

 

「あなたの遅刻癖はわかっているけれど…もう少し」

 

「さっきそこで、ふわふわしてる犬がいたんだけど、なんていう種類かわかんないんだよねー」

 

(ふわふわ……)

 

周りを見ると向こうにマシュマロのように真っ白な毛で身を覆われた犬がいた。

 

「あれは……ビジョン・フリーゼね。

恐らく、今から犬の散髪に行くのでしょう」

 

「さすがおねーちゃん!」

 

「……早く入るわよ」

 

そう言って店の中に入って行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ショッピングモール

 

(別に、ここに用は無かったのだけれど…)

 

「おねーちゃんおねーちゃん!見て見て!!

この犬、彩ちゃんそっくり!」

 

日菜はガラスの向こうに見えるチワワを指していた。

 

(……確かに、少しばかりビクビクしているところは、何処と無く丸山さんに似ているわね…)

 

「…そうね。

でも、それを言ったら、こっちの猫は日菜ね」

 

そう言って隣のガラスにいる猫を指差した。

先程から視界の横で、はしゃぎ回った後に寝たりとしていた。

そこだけならまだ普通の猫と変わらない気もする。

しかし、目がキラキラと輝いているところを見ると日菜に似ていた。

 

「えー!?そうかなぁ…。

それじゃあ…あっ!アレとか友希那ちゃんにそっくり!」

 

「…日菜。

それは色で判断してるの?」

 

そう言った理由は猫がたくさんいる中、一匹だけ灰色の猫がいてそれを指していたから。

すると

 

「違うよー!

この猫は友希那ちゃんみたいにるるるんっ♪じゃん?」

 

(るるるんっ…るが多いわね…)

 

「やっぱり、それなのね」

 

「えー?わかんないかなー?」

 

「わからないわよ」

 

「ええー!?なんでー?」

 

「それより、早く次の場所に行きましょう。

今日はRoseliaの練習が」

 

「あっ!そうだ☆

せっかくだから、一緒に映画観ようよっ♪」

 

日菜はそう言って映画館に走って行った。

 

「!…全く…あの子は…!」

 

(自分がアイドルという事を理解しているのかしら…)

 

追いかけると日菜はしゃがみ込み、映画のポスターとにらめ合っていた。

 

「?どうしたの日」

 

「コレるんっ♪て来た!」

 

声をかけようとすると急に立ち上がり、手を掴まれそのまま受付まで引っ張られて行った。

 

「日菜!?」

 

しかし止める間も無く日菜は、2人分のチケットを買ってしまった。

 

「はい、おねーちゃんの分!」

 

日菜は爽やかな笑顔で渡してきた。

 

「あ、ありがとう…」

 

(!…コレは…)

 

思わず受け取ったチケットを見ていると日菜に表情を見られて、勘付かれた。

 

「もしかしておねーちゃん。

この映画の内容ってどうなのか知ってる?」

 

「…ええ…一応。

沢山の犬が一度、主人と離れ離れになり、犬達はまた主人の元へ帰ろうとする。

その間に色々な妨害があるけれど、それをどうやって乗り切っていくのか…」

 

(ありふれた設定だけど…。

今井さん達は、この良さをわかってくれそうね)

 

そう思っていると口が止まっていることに気づき

 

「わ、私個人としてはそれが…」

 

話し始めようとしたら日菜は、不思議そうにこちらを見ていた。

 

「?どうしたの?」

 

そう聞くと日菜はパァっと明るくなり、楽しそうに笑いながら

 

「ううん♪

なんでもなーい!

それより、早くポップコーン買って観に行こっ!

おねーちゃん♪」

 

「ちょっと日菜!急に走らないで」

 

「いいから早く早くっ!」

 

そう言って日菜は私の手を取って走った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

映画を観終わり、ショッピングモールを歩いていた。

 

(1人で観ようと思っていたけれど…)

 

「あの映画、面白かったね♪」

 

「そうね…」

 

(……たまには…こういうのも悪くないわね…)

 

「?おねーちゃん?」

 

「何でもないわ。

…そういえば…あなたの服、この前汚れたから捨ててたわね」

 

「うん。

あれ?おねーちゃんなんで知ってるの?」

 

「いつも私がゴミを出しているでしょう。

さすがに気づくわよ…」

 

「あっ!そっか!」

 

「だから、今日はあなたの服を買いに行くわよ。

Roseliaの練習が始まるのは夕方からだから、すぐに買い物を済ませましょう」

 

「ええー!?夕方ってもうすぐじゃんっ!」

 

「仕方ないでしょう。

私達はあのゲームで時間を無駄に…」

 

無駄にしてしまった、とは言えなかった。

それを言ってしまえば、あの中で起きた事全てを否定しているように思えたから。

あの時、日菜に…沢山の人から貰ったかけがえのない大切なモノ。

大切な事に気付かせてくれた人。

 

(コレを否定してしまえば、私は…あの時の私は"いない存在"として扱ってしまうのかもしれない…)

 

「…とにかく。

私達は少しでも早く上を目指さないといけないの。

だから今日はそれで納得してちょうだい」

 

「はーい…。

…じゃあまた今度、一緒に出かけてくれる?」

 

すると日菜は上目遣いで見てきた。

 

(っ……この子は天然でやっているところが怖いわ…)

 

「…予定が空いていたらね」

 

「やったぁ!

それじゃあ早く決めよー!」

 

「だから走らないでっ!」

 

そして、しばらくしてから2人は楽しそうにショッピングを終えた。

 

 

 

 

紗夜 side out

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お兄ちゃーーん!起きろー!」

 

「はいっ!?」

 

目を覚ますと妹がいた。

 

「?どうし」

 

「早く早く!Roseliaの湊さんが来てるよっ!!」

 

「…湊さん?…なんで…?」

 

「ほら外出の準備!!」

 

「はい!」

 

そう言われてすぐに用意を済ませて外に向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

外に出ると私服姿の湊さんがいた。

外はまだ春と夏の間の季節で少し肌寒い。

 

「どうしたんですか湊さん?」

 

「練習があるから、あなたも誘っておこうと思って」

 

「わかりました。

それじゃあ……?」

 

すると黒い車の後ろから背の高いスーツ姿の男が近寄って来た。

 

「っ!?」

 

その男を見た瞬間、視界がぐにゃぐにゃと揺らぎ出した。

 

(また…!)

 

「!如月!?」

 

マズイ、その理解同時に何故か湊さんの前に進んでいた。

すると

 

「久しいな。

とは言え、今のお前は記憶が無いんだったな」

 

「あなたは……?」

 

「…今のお前に話す事はない。

今日は少し見に来ただけだ」

 

その声を聞くたびに頭の痛みが酷くなっていく。

 

「はぁ…はぁ…。

っ……」

 

「そこまで脆くなったか。

そんな壊れ物では、私の後は」

 

(思い出せない…。

この人が誰なのか…)

 

不安と何処から来る恐怖、そして激しい痛み。

そしてそれをかき消したのは

 

「失礼だけれど。

それ以上は聞かないでもらえるかしら」

 

「!…湊さん…?」

 

「誰だ?」

 

「湊 友希那」

 

彼女はそう簡潔に答えた。

 

「…なるほど…。

君が、希望を与えてしまったか…。

それも、湊、ときた」

 

知っているような口ぶりで語る男は一切表情を変える事はなかった。

すると

 

「…コイツが人殺しだという事を知っての関わりか?」

 

「…あれは正当防衛よ」

 

「…君はRoseliaというバンドをしているな」

 

「!それが、どうしたの」

 

「コイツをバンドという戯れに引き入れるな。

一度失敗すれば、それで終わりだ。

人生に引き返しはつかない」

 

「戯れ…?」

 

湊さんの握られている手が震えていた。

 

「私達は戯れなんかでバンドをしていないわ!

私達は自分達の音を極める為にも、FUTURE WORLD FES,のメインステージに必ず立ってみせる」

 

その言葉を聞いて初めて男の顔がピクリと反応した。

 

「FUTURE WORLD FES,…か。

フンッ。

君達はコイツに要らない理想の希望を与えられたか?

それとも、コイツの事を本気で信じているのか?」

 

「さっきからコイツ呼ばわりしているけれど、彼にはちゃんと如月 陽菜という名前が」

 

「一つ聞くが、その名前の由来を知ってるのか?」

 

「!…それは…」

 

「コイツの名前の由来は私の弟がつけた名前だが、私と一馬しかコイツの由来は知らない。

『陽菜』という名前は形だけだ。

奴がそう言っていた」

 

「形…だけ……?」

 

「…無駄話が過ぎたな。

くれぐれも、コイツに希望など与えてくれるなよ」

 

「…どうしてそこまで認めないのかしら」

 

「ソイツは理想に生きようとするが、現実はそんな簡単なものじゃない。

…それに、私は認めるわけにはいかない」

 

「?それはどういう」

 

「時間だ」

 

男は言葉を遮りそう言った後、車の中に戻っていきどこかへ去っていった。

 

「…すみません湊さん…」

 

「いいわよ」

 

「僕は…一体誰なんでしょうね…」

 

「……それは、あなた自身が見つける事よ。

早く練習に行きましょう」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

CiRCLE スタジオ

 

「湊さん、如月さん。

1分ほど遅れましたが、何かありましたか?」

 

「…いえ何も。

それより、遅れてしまってごめんなさい。

早く練習を始めましょう」

 

「そうですね」

 

湊さんはさっきの事を話さなかった。

不安になりながらも端っこにある椅子に座り、演奏を聴いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

リサ side

 

長時間の練習が終わって帰る準備をしていた。

すると陽菜の様子がおかしかった。

そう思っていると

 

「ねえねえ陽兄ぃ。

練習中ずーっと何か考えてたけど、どうしたの?」

 

あこに先に言われたので

 

「アタシも気になった。

陽菜、休憩の時にも難しい顔してたよね?

どうしたの?」

 

「ええと…」

 

陽菜は口ごもっていたけどすぐに

 

「…あの…皆さんにとって、如月 陽菜とはどういう存在ですか?」

 

何か質問されると思っていたけど、予想外の質問がきた。

 

「どういう存在……ですか…?」

 

(それって、陽菜が自分の記憶を無くす前の事なのかな?)

 

そう思っているとあこがキョトンとした顔で

 

「?陽兄ぃは陽兄ぃだよ?」

 

そう言ったので

 

「そういう事じゃないと思うよ、あこ♪

ねぇ陽菜、それって記憶が無くなる前の陽菜の事だよね?」

 

陽菜に聞いてみると頷きながら

 

「はい…今井さんの言った通りです。

…僕は日記を見て、記憶が無くなる前の僕がどういう気持ちで今までを過ごしてきたのかわかりました。

皆さんはどうしてこんな僕に寄り添ってくれたんですか?

どうしてこんな僕を見捨てなかったんですか?」

 

「っ!」

 

この言葉は正直で純粋な思いが疑問となって、なんの善悪も無い質問だという事がすぐにわかった。

そしてそれを聞いて紗夜が

 

「…如月さん。

今のあなたに話すのは初めてですが…前まで私は妹を自分から遠ざけていました。

それは、きっとあの子が怖かったからです。

あの子の温もりに一度でも触れてしまったら私は、私がどうなるのかわからなかったから…」

 

「そう…ですか…」

 

「ですが妹は、日菜は、いくら私が突き離そうと拒絶しようと、いつも近くに来ようとしてました。

…あなたが寄り添われるのは、きっと私のコレに似た事なんでしょう。

ですから、あなたに寄り添う為の理由なんていらないんです」

 

紗夜に続けて何か言おうとした。

しかし、言葉が出てこない。

陽菜はきっと、飾りの言葉なんて望んでいないから。

こんな時に何を言えば良いのか、浮かんでこなかった。

すると

 

「私達は誰であろうと『見捨てる』なんて事はしないわ。

…私はあの時、如月をバンドの手伝いとして誘った事は後悔していない、あなたのおかげで今のRoseliaがあるのよ。

だって…如月は私達にとって…」

 

「?友希那?」

 

すると友希那はこっちに来て耳元である言葉を囁いた。

 

「えっ!?それアタシが言うの?」

 

「お願いリサ」

 

耳まで真っ赤にして他には見えないようにしている友希那を見て

 

(し、仕方ない…)

 

「えーっと陽菜?

アタシ達にとって、陽菜はかけがえのない存在だから、これからもRoseliaの手伝いとしても、如月 陽菜としても生きて欲しい。

だって♪」

 

それを聞いて陽菜は少しの間驚いた表情でいた。

すると少し笑いながら

 

「あはは…。

すみません…み、湊さんがそこまで照れるなんて思いませんでしたから…」

 

「っ…照れてないわよ!」

 

「す、すみません。

…でも……」

 

「?陽菜?」

 

よろよろとしながら、CiRCLEの椅子に座り少し眠そうにしていた。

すると

 

「その言葉。

…今度は湊さんが…直接聞かせてあげてください。

きっと……喜びますから…。

お願いしますね」

 

「…えっ?」

 

そう言って陽菜は椅子で寝てしまった。

 

「えっ!?ちょ陽菜!?

こんな所で寝たら風邪引くよ!」

 

そう言って体を揺すると

 

「うっ……。

……あれ?ここ…は…

いっ!?うわぁ…なんか頭痛い…!」

 

「あ、あれ?陽菜?」

 

「ん?なんでみんなが…。

てか、俺確か学校にいたよな…?

なんでCiRCLEの前に…。

でも、そんな事より頭痛い…」

 

「えっ…えっ…!?」

 

「何?どうした…」

 

「は、陽兄ぃが…!」

 

「も、戻ってきた…!?」

 

『ええっ!?』

 

「あぁ…頭痛い…」

 

リサ side out




唐突ですが
大切な事を伝えるのはやっぱり大切ですね。

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