退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ...... 作:haru亜
まりな side 〜〜〜イベント開始5分前〜〜〜
SPACEの荷物を運ぼうとすると
「そこのあんた、待ちなさい」
呼び止められ、振り返ってみると
「オーナー?
どうかしましたか?」
するとSPACEのオーナーはこちらに近づいてきて
「アンタの所のアイツはどうしたんだい?」
そう聞かれて、昨日オーナーが遊びに行くので今日は休む、みたいな事を言っていたのを思い出し
「…えっと…。
うちのオーナーは昨日『ちょっと出かけてくるから、明日よろしく』と言ってました。
それで、うちのオーナーは明日は来るそうです」
「なんだって!?」
「す、すみません!」
「なんでアンタが謝ってんだい。
悪いのは完全にアイツだろう」
「あっ…!」
するとオーナーはため息を吐いてから
「まぁ、機材の少し足りなかった部分を埋めてもらったからね。
今回はあの子達の演奏が聴けるからいいとしようじゃないか」
「!」
「それじゃ、ライブを観に行くよ」
「はい!」
そして観客席の1番後ろに紛れて始まるのを待った。
まりな side out
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リサ side 楽屋
「う〜、緊張する!」
「落ち着いて、私達の出番はまだよ」
落ち着きのある友希那に言われて
「う、うん…。
でも、やっぱりどうしても緊張しちゃって…」
(やっぱり、ここでライブした時失敗しちゃったからかなぁ…)
SPACEでやったグリグリとのライブで失敗した事を思い出していると
「私達が目指してるのはもっと上よ。
ここで緊張してどうするの。
それに、今のリサならきっと大丈夫よ」
「!うん♪」
(なんだろう、友希那って結構昔と変わった感じする。
やっぱり、Roseliaがあったからかな♪
それに、いつも学校とかで友希那が日菜達に話しかけられてよく学校で話したりしてるし、前より話をするようになったなぁ)
今までの事を考えていると扉が開き、スタッフさんが来てポピパのみんなに次の準備のお願いをして去って行った。
すると先程まで外に出ていた日菜が戻ってきて突然
「ねぇねぇリサちー。
陽菜くんに連絡取れない?」
「えっ陽菜に?
日菜、陽菜の連絡先持ってなかったっけ?」
「ううん持ってるよ。
でも、さっき見かけなかったから、電話しよー、って思ったんだけどなんか出ないんだよねー」
(?何か用事かな…)
「うん、わかった♪
アタシもかけてみるね」
そしてかけてみると
プ、ブツ
(そ、速攻で切られた…!)
「う〜ん…もしかして、何か用事でもあるのかな?」
「電話が無理ならメールしてみよっか☆」
「そうだね♪」
少し不安になりながら、メールを送ろうとした。
するとメールが届いた。
見てみるとメールの内容は
『心配事無し、ライブに集中、電源落とすぞ』
とただそれだけがメールには書かれていた。
「陽菜くんなんか素っ気ない?」
すると紗夜と友希那が
「それもそうだけど、如月さんが今何をしているのか少し気になります」
「心配事が無いなら、私達は今日の協力ライブに集中するだけよ」
「…それもそうですね」
(そういえば、陽菜が心配しなくて良いって言ってたのは何回かあったけど、一度も心配しなかった事無かったなぁ…。
もしかしたら陽菜は、自分の事を本当に心配させたくなくて、ああいうメールを送ったのかも…。
っていうのは、考え過ぎかな?)
そう考えていると日菜と紗夜がこちらを見て
「?どうしたの?リサちー」
「何かおかしいところでもありましたか?」
2人にそう聞かれ
「ううん、何でもない♪」
そう言った。
リサ side out
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マンダリンオリエンタルホテル東京 『シグネチャー』
このフレンチダイニングに1人、テーブルに並べられている高級食材を口にせず、ただ隣に見える無色透明の壁の向こうにある街の光景を静かに眺めている客がいた。
一度、店の方が来て『お口に会いませんでしたか?』と聞かれ、その客人は『人を待っているので、気にせず』とだけ言い、店の方はその後も丁寧な口調で引き下がった。
するとしばらくしてコツコツと音が聞こえてきた。
「…随分と遅かったな」
俺はこちらを見ずに目の前の席に座る男へそう言った。
「仕事だ」
簡潔に言うとその場は静けさに満ちた。
そして少し間が空いてから男は
「5日後、お前を私の後継者として海外で発表する」
「…こんな良いホテルを貸し切りにして、話す内容がそれか…」
「それ以外に何がある。
話した所で理想しか話さない口に用はない」
「…確かに俺の言葉は理想かも知れない。
…でも、人の誰しもが1度は理想を見る。
だからこそ、理想を語って、理想を求める。
それは誰もがやっている当たり前では無いけど、人の理想に間違えは無い」
「だからお前は、間違っていない…か」
「…ああ」
男はジロリとこちらを睨み。
それと同時に氷のような張り詰める感じが肌に伝わってきた。
「なら、その理想は誰に与えられた。
誰かに影響された理想など、ただ叶わず朽ち果てるだけだ。
叶わぬまま、理想で他人を焚き付け不要な理想を植え付ける。
それが連鎖していき、人は理想などという目に見えないモノに追われ、断ち切れぬまま引きずる事になる」
「っ…言っただろ…。
人の理想に間違いは無いって…」
「確かに、人の理想には間違いは無い。
だが、人が自己満足の理想論を抱くのは間違いだ」
「!」
「お前の理想は所詮、お前の父親と同じ『誰か』の為にやっている事に過ぎない」
男が言うセリフはきっと正しい。
この男の仕事をこの先継ぐと一生を楽にとはいかないが、安定して過ごせるだろう。
ただ、継いでしまったら最後。
きっともう、あの子達に会う事は絶対に無い。
(これだけは絶対に揺るがない事実だ…)
「……結論を出す前に1つ、教えて欲しい」
「なんだ?」
「父さんから貰った…俺の名前の由来を教えてくれ」
「…それを教えるのは、お前が覚悟を決めた時だ」
「覚悟…?」
そう聞くと男は珍しく何か考えた後
「今のお前は、ただ理想だけを持っている。
どれだけ鮮明な理想でも、それが空っぽであるなら何も出来ない。
お前が言う『あの子達』に対し、お前が最後まで付き添っていく覚悟が出来れば教えてやろう」
「っ!!」
最後まで付き添っていく覚悟。
『そんなモノはとっくに出来ている』
そうは思っていても、この男に言われて少し不安になった。
そして不安になるという事は、結局はその程度だったという事を思い知らされた。
もちろん、この男はそこまで計算しての発言であろう。
すると男は『明日の夕方までに決めておけ』と言って立ち去った。
「……はぁぁ…」
ため息と共に体全体の力が抜ける感覚があった。
「……はぁ」
もう一度ため息をついてから料理を下げてもらい、そのままホテルの部屋へ戻った。
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千聖 side 一方その頃 ステージ裏
(彩ちゃんと麻弥ちゃんが日菜ちゃんを探しに行ったけど…大丈夫かしら…)
そう思いながらも、Roseliaの曲を聴いているとふと思い出した。
(そういえば昨日、イブちゃんに言われて曲を切り替えたけど…)
「ねぇイブちゃん」
「?はい、なんでしょうか?」
「昨日はどうして曲を変えたい、なんて言い出したの?」
「はいっ!
それは、ハルナさんに私たちの新曲を聴いて欲しかったからです!」
(またあの人ね…)
「…イブちゃんらしいと思うわ」
「ありがとうございます!
私たちの成長した姿をハルナさんに見てもらいましょうっ!」
(…陽菜が私たちに影響を与えた。
それは別に良い事なのだけれど…)
「ええ。
でも、その演奏は誰の為にやるのか、それは忘れてないわよね?」
「もちろんですっ!
ファンの皆さんの為にも頑張りますっ!」
「良かったわ。
それとイブちゃん?」
「?はい?」
「ステージ裏だから、声は少し抑えましょうか…」
そして先程日菜ちゃんを探しに行っていた彩ちゃんと麻弥ちゃんが日菜ちゃんを連れて帰ってきた。
それと同時にRoseliaの曲は終え、私達の出番になった。
千聖 side out
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自室で静かに1人、考え事をしている。
(そういえば…なんで俺、バンドの手伝い、始めたんだっけな…)
「…今思い返したら、いろいろとおかしいな…」
中学でバンドをして、嫌な思い出しか無かったバンド。
そのバンドに対する感情を変えてくれたのはみんなのお陰と言えるだろう。
(…あの子達と出会ってから、俺の見る世界は確実に変わった。
変えようとせず、自然に変えてくれたのは…一体何が原因だろうな…)
「……原因…か…」
そう呟き、そのまま朝まで考える事になった。
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友希那 side 翌日
「…」
目が覚めるとそこは自分の部屋だった。
そして起き上がり部屋に飾ってある時計を見て、ちょうど8時を差しているのを確認した。
(結局…昨日如月は来なかったわね)
そう思っていると携帯が震え、手に取るとリサからの電話だった。
「もしもし…?」
『あっ、おはよう友希那。
今、大丈夫だった?』
「問題ないわよ。
それで、どうかしたの?
『うん…陽菜の事なんだけど…。
陽菜はなんで昨日のライブに来れなかったのか知ってる?』
「いいえ、知らないわ。
何か用事がある、って事は知っているけれど」
『そっか…。
あのね友希那、コレはヒナから聞いたんだけどさ。
陽菜の言った用事って、もしかしたら、かなり前に陽菜が言ってた『親父さん』の所に行ってると思うんだ』
「!それは…どういう事かしら?」
『ヒナが陽菜のお母さんから葉一っていう人が陽菜の事を海外に連れて行って、陽菜を次の後継者にするつもりなんだって』
「?後継者?」
『ごめん…そこはヒナにもよくわからなかったらしいけど…。
でも、ヒナが言うには、陽菜が海外に行ったらもう二度と日本に帰ってこれないんだって』
「っ!!!」
『それに陽菜と連絡取れないから今日のイベントで会えるのかな〜って、ちょっと心配しちゃってさ…』
「………大丈夫よ…。
きっとまた、ちょっと謝ってすぐに帰ってくるわよ」
『うん…じゃあまた夜にね、友希那♪』
「……ええ」
そして通話を切った。
「……」
(また…独りでいるのね…)
友希那 side out
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目を覚ました。
部屋が真っ暗な事に気づいて急いで飛び起き、スマホの電源を入れて時間を見ると18時27分と表示されていた。
「っ…しまった……寝落ちしたか…」
するとスマホに何通ものメールが届いていた。
「うへぇ……」
気の抜けた声を漏らしながら、メールを見てみるとそこには『今どこにいるの?』などのメールがたくさんあった。
「……」
そして見た後に親父さんへ『話がある、時間が出来たら昨日の所に来てくれ』とだけ送り、その場所に向かった。
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来る途中で『後30分で終わらせる』と返ってきたので待っていると
「……」
目の下にクマで出来ている男は昨日と同じように、目の前の椅子に座ってから
「覚悟は決まったか?」
「…覚悟は決まった」
「それはなんだ。
何に対して何を賭ける」
「俺は、Roseliaに全てを賭ける」
「…全て、と言ったな。
なら、お前はその授かった命すら投げうって、そのRoseliaとやらに全てを賭けるのか?」
「授かった命…。
確かに、命は大事にしないといけない。
でも、俺はあの子達と約束した」
「約束?」
「ああ。
『FUTURE WORLD FES,で優勝させて笑顔にする』と。
コレは俺が自分自身に、みんなに成し遂げると誓った事だ。
だから、コレだけは絶対に裏切れない」
「……いいだろう」
ホッとした次の瞬間
「なら、そのバンドがあのフェスに立てず、過去最高の記録が出せなかったら、お前はお前の言う『あの子達』と全ての縁を切り、海外へ来い」
「!!」
「それが出来ないのなら、そんな理想は捨てろ」
「……」
「決断は今だけだ。
どっちを選ぶ?」
(…きっと前の俺だったら、この選択に戸惑っただろう。
でも、今は…)
「Roseliaを選ぶよ」
(迷いは無い、Roseliaに全てを賭ける。
それが出来るのはRoseliaを、みんなの事を信頼しているから、絶対に大丈夫という自信がある)
そして、それを聞いた男はため息を吐いた後に
「…約束だ。
お前の名前の由来、教えてやる」
「!」
その言葉を聞いてほんの少し、今までの苦労が報われた気がした。
そしてその男から出た言葉は
「それは『空白』だ」
「!!!」
その言葉を聞いた瞬間、戸惑いと焦りが出てきた。
それがどういう意味で付けられたのかわからなかったから。
「お前には『何も無い』そういう事だ。
だが、私の弟がこの名を付けたのはそれなりの理由がある」
「理由…?」
「ああ。
お前には自由に生きて欲しかった、だから名前『陽菜』は形だけにし、その中身を空にしたのだろう。
ポジティブな奴の考える事だ。
きっと、あの女の意見を押し切ってでも、それを伝えたはずだ」
「…それが…俺の名前『陽菜』の由来か…」
「不服か?」
「いや、納得した。
ありがとう」
「……そうか」
「それじゃあ、ちょっと行ってくる」
「…ああ」
その言葉を後ろから受け取り、SPACEに向かって行った。
ちょっと人物紹介させていただきます♪( ´▽`)
如月 葉一
彼もまた才能溢れる人間。
頭の回転が速く、少しの情報でその人が何をし、何を成したかが一瞬で理解する事が出来る。
一度見たものは忘れず、世界のほとんどの情報を把握しているであろう。
その記憶力などを双子の弟の一馬と揃って国に買われ、今や世界の情報系統のトップに立っている。
ただ、如月 陽菜の母親にはどうも敵わない。
まぁザッとこんなもんですね(`・ω・)b
では、今回短かったかも知れませんがまた次回!
(*>_<*)ノ