退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第10話 勉強会

数日後

夏休みに入って、しばらく経ってから約束の勉強日が来た。

消去法で俺の家はまず母親があんな感じの人だから、紗夜に危険が及ぶ可能性があるかも知れない。

あこは巴に勉強を手伝ってもらい、あの短い期間で終わらせたと連絡が来た。

と、いう事で

 

「どうぞ、入ってください」

 

「…お邪魔します」

 

そう言って中に入り、2階に繋がる階段を登って、廊下の左を曲がった突き当たりに2つの扉があった。

右の部屋に紗夜がドアを開けて入って行き、左の扉をチラ見した後、俺は「お邪魔します」と小さな声と共に入った。

 

(女子の部屋なんて……全然見た事ない…むしろ初めてか。

咲織は「女子の部屋?あたしの部屋に入ったらどうなるか…わかるよね?」とか言ってくるし…。

まぁ…興味持つ方が不思議なんだよな)

 

そう思いながら、紗夜の部屋に飾ってあった白色のふわふわが付いている時計で時間を確認していた。

すると

 

「如月さん。

その…私にも羞恥心というものがありますので…」

 

部屋を見られて紗夜が恥じらっている事を悟り

 

「!わ、悪い」

 

急いで勉強道具を出した。

 

「どこが解らないか、先に教えてもらえるでしょうか?」

 

「日本史は全般、科学は…基礎が良くわからない」

 

「…わかりました。

ではまず、日本史の方から片付けましょう」

 

「わかった」

 

そうして紗夜先生の授業が始まった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

彩 side

 

「ふにゃあ……」

 

静かな待機室でそんな声が聞こえた。

写真をたくさん撮ったから、その疲れで思わず自分の口から出てしまったのかと思った。

けど、机の上で、手を伸ばしながらうつ伏せになってる日菜ちゃんを見ると自分ではない事がわかった。

 

「日菜ちゃん…大丈夫?」

 

「う〜…早く帰りたいよぉ…」

 

「!ど、どうしたの?

日菜ちゃんがそんな事言うなんて…。

もしかして、何か大事な用でもあったの?」

 

体調でも悪いのかな、と心配して聞くと日菜ちゃんは、いつものように元気な顔をして

 

「ううん、違うよ?

実は今、家に陽菜くんが来てるんだっ」

 

「えっ!?

な、なんで陽菜くんが日菜ちゃんの家に?」

 

「えっとね、おねーちゃんが陽菜くんに勉強を教えてあげてるんだ。

多分、今頃はおねーちゃんの部屋で勉強してるんだろなぁ…」

 

「へぇ…いいなぁ…。

それで、日菜ちゃんは早く帰りたいんだね。

でも、後は雑誌のインタビューだけだから、それまで一緒に頑張ろう?」

 

「インタビューなんて後で受けるのに…。

なんで今じゃないとダメなの?」

 

(これは…日菜ちゃんが駄々をこねる予感…)

 

そう思った瞬間に日菜ちゃんは目を光らせて

 

「あっ!

いい事思いついた!」

 

そう言って日菜ちゃんはスマホで何かしていた。

そして

 

「よしっ♪これでオッケー☆」

 

「?何をしたの日菜ちゃん?」

 

「?何って、あたしも勉強会に参加するんだよっ!」

 

日菜ちゃんから凄い言葉が聞こえた。

 

「で、でも日菜ちゃんってこの前の中間と期末テストで、学年1位じゃなかったっけ…?」

 

「うん、そうだよ?」

 

「だ、だったら日菜ちゃんは教える側に回るの?」

 

「?ううん。

あたしはおねーちゃん達の勉強会に参加したいだけだよ?」

 

実に日菜ちゃんらしい解答が返ってきた。

すると扉が開いてマネージャーさんが来たので雑誌のインタビューに応じる時間になった。

 

「日菜ちゃん。

終わるまで一緒に頑張ろっ!」

 

「うんっ!

彩ちゃんも質問に答える時、噛まないようにね!」

 

日菜ちゃんはイタズラ顔を浮かべて言った。

 

「うっ……だ、大丈夫だよっ!」

 

「あはは☆

それじゃあ行こっか!」

 

 

 

彩 side out

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「終わったぁ……」

 

アレから時間が経って日本史と科学が終わり、その間に日菜から『終わったら行くね』なんていう意味のわからんメールが届いたりもした。

そして今終わったモノを紗夜は見てくれている。

 

「問題は無さそうですね。

ただ、少しだけ心配なのは他の」

 

紗夜が何か言いかけると家のインターホンが鳴った。

 

「?誰かしら」

 

そう言って紗夜は下へ見に行った。

 

(…荷物が届いたか、誰か来たか…。

日菜だったら鍵持ってるだろうし…)

 

そう思ってから、静かな空間で目を閉じてうつ伏せになっていると階段を登る足音が聞こえ、その次に廊下を歩く音が聞こえた。

そして

 

「やっほー☆

遊びに来たよー♪」

 

リサが来た。

うつ伏せになっていても声でわかった。

そして起き上がり

 

「何を呑気に……」

 

「あっ、紗夜なら、下でお茶を淹れてきてくれてるよ。

どう?宿題終わった?」

 

そう言いながら、リサは隣に座った。

 

「これで全部終わった。

そう言うリサは?」

 

「アタシはみんなとの夏休み楽しみだから、もう終わらせたよ〜☆」

 

「そんなに楽しみか…」

 

「当たり前じゃんっ♪

あっ、それと2人とも勉強して疲れてるだろうと思ったから、クッキー焼いてきたんだっ♪」

 

するとガチャと音がして振り返ると紗夜が小さな円状のトレーにお茶を3つ乗せて持ってきた。

 

「今井さんのクッキーですか。

脳を働かせた分の糖分は必要ですね」

 

そう言いながら紗夜は机にトレーを置いた。

そして3人ともお茶を取り飲むとリサが

 

「あっ、2人とも明後日って空いてる?」

 

「はい、空いています」

 

「いつでも空いてる」

 

「良かった☆

その日にみんなでトコナッツパークに行くから、準備しておいてね♪」

 

「わかりました。

では、入場料などはこちらで調べておきますね」

 

「あっ!それなら大丈夫だよっ!」

 

そう言うとリサは自分のバックの中から封筒を開けてチケットを取り出した。

 

「?何これ?」

 

「トコナッツパーク招待券!

バイト先の店長が行けそうにないからあげるって、言ってたから、もらったんだ〜」

 

「へぇ…いい店長さんだな。

ん?」

 

リサが持っていた封筒をよく見ると『トコナッツパーク招待券5枚入り』と書かれていた。

 

(……なんとなく読めた)

 

「リサ」

 

「ん?どうしたの?」

 

「この券って、何枚入ってたんだ?」

 

「えっ!?

いやぁ、えっとぉ……ろ、6枚かな?」

 

「嘘つくの下手か。

…とりあえずこれはリサが使え」

 

そう言ってリサにチケットを返した。

そしてリサに何か言われそうだったので

 

「そもそも、俺は最初行かない予定だったんだ。

自分の分は自分で払えるから、別に気を使わんでいい。

俺は使われない方が楽だ」

 

(なんせ使う方だからな)

 

「あ、ありがと」

 

リサがそう言うとほぼ同時に、何か階段を駆け上がる音が聞こえてきた。

すると

 

「ここだー!」

 

そう言って扉を開けたのは

 

「日菜!

ドアを開ける時はノックをしなさい」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

今、俺の目には実に不思議な光景が映っていた。

なぜなら、日菜がドアの前で立ち止まり、紗夜の部屋に入って来ないからだ。

そして

 

「な、なぁ、日菜がさっきからドアの前で立ち止まってるけど、どうしたんだ?」

 

なぜか怖くなって、紗夜に聞いた。

 

「おそらく、ドアの前に線があるのでしょう」

 

「「?線?」」

 

リサと被さって聞くと

 

「言わば、国境線みたいなものですね。

妹がいつも私の部屋に勝手に入って来ますので注意はしてあります」

 

「じゃあ、もし国境侵犯したら…」

 

紗夜が怒るのか、とは言わなかった。

そう言って紗夜が怒ると怖そうだから。

しかし、次に返ってきたのは、予想外の答えだった。

 

「?特に何もありませんよ?」

 

「えっ…」

 

何も無い。

それはつまり

 

「はーるーなーくーん♪」

 

ガシッと捕まった。

そしてこの後、日菜に散々振り回されるのか、と諦めた瞬間。

 

「……?」

 

「もうヘトヘトだよ〜…」

 

そんな声が聞こえると共に背後から、白い素肌の腕が俺の首に回された。

 

「ちょっおい。

何サラッと抱きついてんだ」

 

「つーかーれーたーのー!

あたしの部屋まで連れてってよ〜」

 

「隣だろ…。

1人でどうぞ」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「あっ、ヒナ寝たよ?」

 

(マジかよ…)

 

すると紗夜がため息をついてから

 

「すみません如月さん。

私が運びますので、ゆっくりしてください」

 

ほんの一瞬紗夜に任せようかと迷ったのだが

 

「……いや、いい。

日菜に頼まれたからな、っと」

 

そう言って立ち上がると共に日菜を背負った。

 

「……腰にきそう」

 

「あはは☆

お爺ちゃんじゃないんだから!」

 

「いや、ぎっくり腰は年齢問わない、ってなんかの本で読んだ気がする」

 

「陽菜、人背負うの久しぶりだからじゃない?」

 

「ああ、それでか。

…とりあえず、運んでくる」

 

そう言って開きっぱなしになっているドアを通り、隣にある日菜の部屋をなんとか手を伸ばして開けた。

 

「……」

 

「むにゃあ…」

 

(寝言か?寝言なのか?)

 

猫の夢でも見てるんじゃないかと思いながらも日菜を水玉模様のベッドに寝かせた。

すると

 

「はーるな……く…ん……もーちょっとだけ…」

 

寝ぼけながらも手を伸ばす日菜。

それを見て

 

(この子一応アイドルなんだよな…)

 

と思っている。

そして日菜に毛布をかけた後

 

「……ゆっくり休め」

 

なんとなく言ったが、そう呟いてから部屋を出て隣の部屋のドアを開けると

 

「ねぇ陽菜。

ちょっと聞きたい事があるんだけど…」

 

「ん?」

 

「陽菜って、アタシ達をフェスで優勝させて笑顔にしたいんだよね?」

 

「…そうだな」

 

リサに面と向かって言われたので、少し返答にタイムラグがあった。

すると

 

「それって、陽菜が得する事…あるの?」

 

「うむ……ほら、アレだ。

友達が何か全力で頑張ってたら、応援したくなるだろ?」

 

「うん」

 

「つまりそういう事さ」

 

ちょっと薫を思い出し、言ってそうだな、なんて思っていると紗夜が

 

「…では如月さんは、ただ笑顔にしたいだけ、という事ですか?」

 

その質問に少し考えてから

 

「…えっとなぁ…。

ただ笑顔に、じゃなくて、心の底から喜んでる笑顔だな。

それが1番合ってるし、良い」

 

「….なるほど…。

うんっ♪陽菜らしいね☆

良かった〜…陽菜が何か隠してるんじゃないかとヒヤヒヤしちゃった…」

 

「そんな疑わなくても…」

 

するとリサは俺の頬をギュウッと抓りながら

 

「陽菜がアタシ達に重要な事話さないからでしょっ!」

 

「いらい……。

いやぁ……大体話してるんだけど…。

おっかしいな…」

 

そう言うと今度は紗夜が

 

「?大体、という事は、まだ話してない事もあるという事ですか?」

 

「…抜け目ないな。

それに関しては、語る時が来たら語ろう、という奴だ。

ていうか、俺はそんな事よりも、心配事が…」

 

「?どんな心配事?」

 

「明後日が俺の命日になる、なんて事は絶対に避けたい」

 

「それは祈っておこうね♪」

「それは祈るしかないでしょう」

 

同時に言われ、やはり俺は行くべきでは無いんじゃないかと改めて思った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

紗夜 side

 

しばらく部屋で如月さん達と話し合い、夕方になり、如月さん達は帰る様子だったので、玄関まで見送ろうとした。

すると今井さんが出た後に、外に出ようとした如月さんが

 

「あっ、そうだ。

忘れる所だった」

 

「?」

 

そう言って如月さんはカバンの中から小さな袋を取り出した。

 

「これ、手伝ってくれたお礼だ」

 

渡された小包には、何が入っているのかわからない。

 

「?これは…なんでしょうか?」

 

そう聞くと如月さんは何か考えた後

 

「あー…それは…まぁ、開けるまでのお楽しみって事で。

それに紗夜はそろそろ変える頃だと思ったからな」

 

そう言われて、何が入っているのか更に気になり始めた。

すると今井さんが扉を開けて

 

「2人とも、どうしたの?」

 

「いや、なんでもない…帰るか。

お邪魔しました」

 

「気をつけて」

 

そう言って見送った。

 

「……」

 

(これは…自室で開ける事にしましょうか)

 

そう思い、2階に上がって自室に入ろうとすると

 

「あれ…?おねーちゃん…。

陽菜くんとリサちーは?」

 

日菜は寝起きの声で聞いてきた。

 

「2人ならさっき帰ったわ。

あなたも仕事で疲れてるなら、休みなさい」

 

そう言って自室に入ると日菜が付いてきた。

 

「ええー!?もう帰っちゃったの〜?

?おねーちゃん、それ何持ってるの?」

 

そう言われて、小包を一瞬見た後

 

「これは如月さんから貰ったものよ」

 

「陽菜くんから!?

いーないーな!あたしにも見せてー!」

 

すると日菜は目をキラキラさせながら、私の腕を掴んでねだってきた。

 

「…わかったわよ。

あなたにも見せてあげるから」

 

「やったあ!」

 

(如月さんはいつもこんな苦労をしているんですね…)

 

そして一緒に座り、小包を開けるとその中は

 

「あっ…」

 

思わずそんな声が出ていた。

すると日菜が

 

「これって、ギターのピック?」

 

「ええ。

でも、これは…」

 

Roseliaのイニシャルが刻まれた黒いピックを見ると、ある事を思い出した。

この間の練習で、私はギターのピックを変えたけれど、ギターの音が思うようにならない事があった。

そしてこの期間に如月さんは、この新しいピックを買ってくれた。

それはつまり、私の事をちゃんと見てくれていた事がわかった。

 

「ふふ…さすがです」

 

「?おねーちゃん何か言った?」

 

「…なんでも無いわ。

それより、日菜は休みなさい」

 

「は〜い」

 

返事をして日菜は自分の部屋に戻って行った。

そしてギターを手に取り、黒いピックでいつもより調子の良い音色を奏でた。




これは…久しぶりに言うと思います。
良ければ、今回の感想、今までの分の感想など、よろしくお願いします♪( ´▽`)



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